口惜くやし)” の例文
もうとても……大慈大悲に、腹帯をお守り下さいます、観音様の前には、口惜くやしくって、もどかしくって居堪いたたまらなくなったんですもの。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
未練らしく此の間も来てひどい事を言って、私のたぶさって引摺り倒し、散々にちましたから、私も口惜くやしいから了簡しませんでしたが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
言懸いひかけられお菊は口惜くやしきこと限りなく屹度きつとひざを立直し是は思ひも依ぬ事をおほせらるゝものかな云掛いひかゝりされるも程がある勿體もつたいない母樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
キクッタは折角、自分が見付けたくまをチャラピタのために打取られ、おまけに生命いのちまでも救つてもらつたことになつたので、口惜くやしくてたまりません。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
口惜くやしいからなぐってろうと思ったけれども、対手あいてが大勢だから我慢していると、そこへお葉さん、お前が出て来たんだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何か気にわぬことを言われた口惜くやしまぎれに、十露盤そろばんで番頭の頭をブンなぐったのは、宗蔵が年季奉公の最後の日であった。流浪はそれから始まった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
陸軍の主計官とかで、その人が細君をめかけめに、非常に虐待したものから、細君は常に夫の無情を恨んで、口惜くやし口惜くやしいといってついに死んだ、その細君が
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
貞之進はたましいを赤の絞り放しのしょい揚にすがらせ、ぼんやり後影を目送みおくって口惜くやしいような気がする間に、あとから来た段通織の下着もまた起って行ったので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
こんな口惜くやしいことは御座いません、此儘このまゝ死にましては草葉の蔭の奥様に御合せ申す顔が無いので御座います
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
田熊社長は、電話で話は盗めても、その人肉じんにくの入った壜を盗視できないことをたいへん口惜くやしがった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
藤野さんは、豐吉に敗けたのが口惜くやしいと言つて泣いたと、富太郎が言囃いひはやして歩いた事をおぼえてゐる。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そしてうちには帰らず、直ぐ田甫たんぼへ出た。止めようと思うても涙が止まらない。口惜くやしいやら情けないやら、前後夢中で川の岸まで走って、川原かわらの草の中に打倒ぶったおれてしまった。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
自分は口惜くやしくなった。なぜこんな猿の真似をするように零落おちぶれたのかと思った。倒れそうになる身体からだを、できるだけ前の方にのめらして、梯子にもたれるだけ倚れて考えた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梵妻の態度がいつまでも心に残っていて、楽しい食事の間にも、おときは口惜くやしがっていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「まだ云ってやがる、なに云ってやがるのだ、こんなうまい鮒をおいてってたまるものけい、ふざけやがるな。たぬきか、きつねか、口惜くやしけりゃ、一本足の唐傘にでもなって出て来やがれ」
おいてけ堀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
如何いかに相馬小次郎が勇士でも心臓が筑波御影つくばみかげで出来てゐる訳でもあるまいから、落さうと思つた妻子を殺されては、涙をこぼして口惜くやしがり、拳を握りつめて怒つたことであらう。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
主人も王成のために口惜くやしがってくれたがどうすることもできない。王成はもう金がなくなってしまったので、故郷へ帰ろうにも帰れない。いっそ死んでしまおうと思いだした。主人は慰めて
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「ああだまされた。嘘の電話でおびき出されたのだ、口惜くやしい」
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたしや口惜くやし
極楽とんぼ (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
私もつい口惜くやし紛れに、(写真の儀はお見合せ下されたく、あまりあまり人につけても)ッさ。何があまりあまりだろう、可笑おかしいね。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口惜くやしくってたまらないからおあさの足へかじり付きますと、ポーンとられたから仰向あおむけ顛倒ひっくりかえると、頬片ほっぺたを二つちました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたし一人が罪をかぶせられて、根も葉もない讒言を構えたと云うことになる。それもあんまり口惜くやしいと彼女かれは思った。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その親の子だからしてに、源さも矢張やっぱりあの通りだ、と人に後指をさされるのが、私は何程どのくれえまあ口惜くやしいか知んねえ
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たゞもう父に死なれた口惜くやしまぎれに、今思へば無考むかんがへな話ですけれども、十五錢程買つたのですもの。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何故なぜ。私は口惜くやしいことよ、よく解りもしないことを左も見て来たように言いふらしてさ。」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
駕籠かごより出し手早くうしろかくしてたてになり嗚呼あゝ殘念ざんねんなるかな斯る惡人とも知らず己れ等如きにあざむかれ此所まで來しこと口惜くやしけれとは云ふものゝかたな手前てまへ假令たとへいのちすてるともおのれがまゝにすべきや覺悟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
無暗むやみけ出して甲府へ行ったっていけないということは、お前の母様おっかさんはなしでよくわかっているから、そんな事は思ってはいないけれど、あんまり家に居て食い潰し食い潰しって云われるのが口惜くやしいから
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたしや口惜くやし
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
いやしくも大東京市内においては、橋の上で煙草をむ時世ではないのである、と云うのも、年を取ると、口惜くやしいが愚痴に聞える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と亀の甲より年の功、流石さすが老巧ろうこうの親身の意見に孝助はかえす言葉もありませんで、口惜くやしがり、たゞ身を震わして泣伏しました。
たゞもう父に死なれた口惜くやしまぎれに、今思へば無考な話ですけれども、十五銭程買つたのですもの。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
愛犬の骨を敵に渡すのは、何だか口惜くやしようにも思われるので、市郎は到頭とうとうトムを抱えて帰った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
火の燃えつかざるを口惜くやしく思い、かの年かさなる童のみは、あと振りかえりつつ馳せゆきけるが、砂山のいただきに立ちて、まさにかなたに走り下らんとする時、今ひとたび振向きぬ。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「いえ——ナニ——」と稲垣は苦笑にがわらいして、正直な、気の短かそうな調子で、「少しばかり衝突してネ……彼女あいつ口惜くやしまぎれにこうがいを折ちまやがった……馬鹿な……何処の家にもよくあるやつだが……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
口惜くやしや口惜や
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
私は中に立つて、其の夫人と、先生とに接吻キッスをさせるために生れました。して、遙々はるばる東印度ひがしインドから渡つて来たのに……口惜くやしいわね。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
砂埃が眼に入って長二は物を見る事が出来ませんが、余りの口惜くやしさに手探りで幸兵衞の足を引捉ひっとらえて起上り
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
稚い時から極くおとなしい性質で、人にさからふといふ事が一度もなく、口惜くやしい時には物蔭に隠れて泣くぐらゐなもの、年頃になつてからは、村で一番老人達の気に入つてるのが此お定で
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お住は苦しいと口惜くやしいに心も乱れたと見えて、いつかその池のほとりへ這寄って、水底深く沈んでしまったとは、如何にも無惨極まる次第で、その時代の事であるから何事も内分に済せて
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分じぶん學校がくかうもんはした。そしてうちにはかへらず、田甫たんぼた。めやうとおもふてもなみだまらない。口惜くやしいやらなさけないやら、前後夢中ぜんごむちゆうかはきしまではしつて、川原かはらくさうち打倒ぶつたふれてしまつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「蛸とくあのくたら。」しかり、これだけに対しても、三百三もんがほどの価値ねうちをお認めになって、口惜くやしい事はあるまいと思う。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伊之助さんと若草の位牌いへえと婚礼して、若草に沙汰なしで持った嫁子よめっこを離縁してくんなせえまし、影も形もねえけんども、口惜くやしいと云う執念は残ってるだから
あたしあの騒動さわぎじゃアひどい目に逢ってしまった。」と、お葉が口惜くやしそうに云った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雲飛うんぴあしずりして口惜くやしがつたが如何どうすることも出來できない。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いかに、大の男が手玉に取られたのが口惜くやしいといって、親、兄、姉をこそ問わずもあれ、妙齢としごろの娘に向って、お商売? はちと思切った。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茂之助は三八郎のはからいで、手切金を出しお瀧を離縁しましたが、面当に近所へ世帯しょたいを持ったので口惜くやしくって、寝ても覚めても忘られず、残念に心得て居りました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とちょうど寄合わせた時、少し口惜くやしいようにも思って、突懸つっかかって言った、が、胸をおさえた。可厭いやなその臭気においったら無いもの。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初めて出来た子は堕胎おろされ、私も死に、親子諸共に死ぬような事になるも、内儀さんのお蔭じゃ、口惜くやしい残念と十一日の間云い続けて到頭死にました、その死ぬ時な
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くたびにだんだんお顔がねえ、小さくなって、えりン処が細くなってしまうんですもの、ひどいねえ、私ゃお医者様が、口惜くやしくッてなりません。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口惜くやしいと思って死んだから、其の念が来たのだ、死んで念の来る事は昔から幾らも聞いている
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)