うまや)” の例文
夜になるとよくこの辺の売笑婦たちが集まってくる茶めし屋の葭簀よしず囲い。おうまや河岸にはこれが多い。——市十郎はそこへ連れこまれ
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑木山のすそや、柿の樹の傍やうまやの横手や、藪の下や、桐畑きりばたけや片隅にぽつかり大きな百合ゆりあふひを咲かせた農家の庭の前などを通つて。
そのうちに、競馬のはじまる時刻が近づいて、国内からりすぐってうまやにつないである馬は、勇んでいななきながら引き出されました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
建久けんきう元年十二月の午後、晴れたる日。中央より下のかたにかけて、大いなるうまやあり。但し舞臺に面せる方はその裏手と知るべし。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
洗い場の池をまわって、柿畑の脇から、いまは使っていないうまやのうしろへ出、一段ほど高い台地を登って、かこい小屋の戸口へ近よった。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私の父は歓迎の意志表示でせうか、口汚く山羊やぎや豚を追ひ立てて、そのかはりうまやから自慢の仔馬こうまを引き出して先生に見せました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
或る朝庭先へ出て、うまやの所で馬勒ばろくを直していると、いきなり彼女が耳門くぐりから駈け込んで来ました。跣足はだしで、下袴一枚の姿です。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
今は右も見ず左も見ずに真直まっすぐにうまやへ歩いてゆき、思う存分力をこめて馬をなぐったり蹴ったりして、乱暴にたたきおこした。
市ヶ谷いちがや士官しかん学校のそばとかに住んでいたのだが、うまやなどがあって、やしきが広過ぎるので、そこを売り払って、ここへ引っ越して来たけれども
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちゝなるものは蚊柱かばしらたつてるうまやそばでぶる/\とたてがみゆるがしながら、ぱさり/\としりあたりたゝいてうままぐさあたへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
バキチはすっかり悄気切しょげきってぶらぶら町を歩きまわってとうとう夜中の十二時にタスケのうまやにもぐりんだって云うんです。
バキチの仕事 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
御仮屋おかりやは新しい平張ひらばりで、正面に紫の幕、緑の机掛、うしろは白い幕を引廻し、特別席につづいて北向にうまや、南が馬場でした。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ウイリイはうまやへかえって、自分の、灰色の小さい馬に、王さまがこんな無理なことをお言いになるが、どうしたらいいだろうと相談しました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「何んとも申上げられません。おうまやを拜見して、次第に依つては、若黨を案内に、雜司ヶ谷まで行つて見るといたしませう」
神馬は白馬で、堂に向って左の角にうまやがあった。氏子のものは何か願い事があると、信者はその神馬をき出し、境内の諸堂をおまいりさせ、豆を
手本をもとにして生意気にも実物の写生を試み、幸い自分の宅から一丁ばかり離れた桑園くわばたけの中に借馬屋しゃくばやがあるので、幾度いくたびとなく其処そこうまやかよった。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それは白墨でいたずら画きしたものでしたが、私はうまや番の少年がかいたのだろうと思いました、その若者は、全く知らないと云いはるのでした。
いっそ一億金と定めるがよいと決議し王にもうし、王それだけの金を遣わして馬を得、うまやに入れて麦と草を与えると食わず。
ちょうど主人の決心を母と妻とが言わずに知っていたように、家来も女中も知っていたので、勝手からもうまやの方からも笑い声なぞは聞こえない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ときに、ひょろ松、お前、あの前の晩の四ツごろ、金座の川むこうの松平越前のうまや小火ぼやがあったことを知っていたか」
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
仕丁 おことばなかでありますがな、橋があぶなくば、下の谿河は、いわを伝うて渡られますでな、おうまやの馬はいつも流を越します。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というふみである。宮へは長い手紙を書いた。そして夕霧はうまやの中の駿足しゅんそくの馬にくらを置かせて、一昨夜の五位の男を小野へ使いに出すことにした。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
が、浜路にはそれどころではない、うまやへ駈け込むと馬を引き出し、ヒラリと乗ると一鞭あてた。サーッと街道を走らせる。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うまやに馬が二とういまして、キシさんはその一頭を引き出しては、いろんなことを教えてくれました。何でも知っていました。えらい人のようでした。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「内藤はからだが大きくても弱虫だ。昨日きのううまやへいって僕が馬の腹をくぐって見せても、こわがって続いてこないんです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まず第一に彼等はうまやを見に行った。そこには二頭の牝馬がいて、一方はぶちのある灰色あおで、一方のは鹿毛であった。それから栗毛の種馬が一頭いた。
そのとしれ、大雪おおゆきってさむばんに、からすは一つのうまやつけて、その戸口とぐちにきて、うすぐらうちをうかがい、一宿やどもとめようとはいりました。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
されば三月の末にいたれば我さきにと此垣を作る事なり。さて又雪中は馬足ばそくもたゝず耕作かうさくもせざれば、馬はむなしうまやにあそばせおく事およそ百日あまり也。
うまやには未だ二日分許りまぐさがあつたので、隣家の松太郎の姉に誘はれたけれども、父爺おやぢが行かなくてもいと言つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
建物のうしろへまわってみると、裏手がうまやになっていて、大将の乗馬らしい五六頭の馬がつないであり、今はそれらの馬さえも安らかに眠っているのである。
うまやの処へ行って、亜鉛トタンの壁を飛び越して中に這入って、馬の顔を撫でながら錠剤にした薬をお遣りになりました。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
中でも目ぼしいのは、裏のうまやにいる陸奥出みちのくでの馬だがね。これは、太郎さん、あなたに頼んでおくわ。よくって。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ眼の大きな一疋いっぴきの蠅だけは、薄暗いうまやすみ蜘蛛くもの巣にひっかかると、後肢あとあしで網を跳ねつつしばらくぶらぶらと揺れていた。と、豆のようにぼたりと落ちた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
芸術の信念を涵養かんようするに先立ちてまづ猛烈なる精力を作り、暁明ぎょうめい駿馬しゅんめに鞭打つて山野を跋渉ばっしょうするの意気なくんばあらずと思ひ、続いてうまやに駿馬を養ふ資力と
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのうちに、向うのうまやの中から、さいぜんの若い馭者が馬の口をとりながら、一台の雪橇ゆきぞりを曳き出して来るのが見えた。僕は雪橇ゆきぞりというものをはじめて見た。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
テーブルも椅子も、バカツ高く、湿つた床は板張りで、四間に五間のその部屋は、うまやのやうな感じがした。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
その晩、太郎右衛門夫婦は、大きなかまに湯をわかして、うまやの前で赤児に湯をつかわせてやることにしました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
もし不潔とすべての罪とを避けようと思うならば熱心に働け、それがうまや掃除であろうとも。自然は克服するに困難なものではあるが、克服されなければならぬ。
「それは屹度、うまやのかへりに馬を撫でたその掌面てのひらで、夫人おくさん頬桁ほゝげたを思ひきりどやしつける癖なんだらう。」
博士は庭をよこぎって、むかしのうまやのくずれた小屋跡から、野草におおわれたほそい小道のうねうねとした石垣にそってすすみ、茶畑のなかへはいっていきました。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
まるでうまやの様に小さな狭くるしい部屋がずらりと続いて、その入口には一々値段が書き出してあるのだ。息のつまる様な闇の中には、女の裸体が白く見えて居た。……
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「考えて見ろ。ブレツといや、キャラ侯のうまやのうちばかりでねえ、北満洲きたまんしう蒙古もうこきつての名馬だぞ」
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
紳士達の幾人かはうまやへ行つてしまつて若い紳士達は令孃達と一緒に撞球室で球を突いてゐた。イングラムとリンの二人の未亡人は靜かに骨牌かるたで退屈をまぎらしてゐた。
それから馬賊の大将は、裏手のうまやの中から大将の愛馬をひきだしてきて、それにまたがりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
相生河岸あいおいがし安宅河岸あたかがし、両国河岸、うまや河岸と、やがて吾妻あづま河岸にさしかかってもなお右岸ばかりを見捜しつづけていたものでしたから、しきりに伝六が首をひねっていると
ある日ふちへ馬をひやしに行き、馬曳うまひきの子はほかへ遊びに行きし間に、川童出でてその馬を引き込まんとし、かえりて馬に引きずられてうまやの前に来たり、馬槽うまふねおおわれてありき。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いろいろそんなことをした上に、彼は或るうまやの掃除をしたことを大変手柄のように言いました。
一夜は一里あまり闇の中を歩いて他に宿を求め、一夜は辛うじて同じ村内に木賃風の宿を探し出し、屋内に設けられたうまやの二疋の馬を相手に村酒を酌んで冷たい夢を結んだ。
黄色い粟飯あわめしが続いた。私は飯を食べるごとに、うまや聯想れんそうしなければならなかった。私は学校では、弁当を食べなかった。弁当の時間は唱歌室にはいってオルガンを鳴らした。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
外へ逃げ出そうとして縁側から転がり落ちて、慌てゝうまやの方へ逃げると、五八は鋤をひっさげて
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)