つらな)” の例文
その日彼女はフランシスに懺悔ざんげの席につらなる事を申しこんだ。懺悔するものはクララのほかにも沢山いたが、クララはわざと最後を選んだ。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
左大臣の愛嬢として、源氏の夫人として葬送の式につらなる人、念仏のために集められた寺々の僧、そんな人たちで鳥辺野がうずめられた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なぜか、葬礼とむらいの式につらなったようで、二人とも多く口数も利かなかったが、やがて煙草たばこまないで、小松原はつくばった正吉を顧みて
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて比良野貞固、小野富穀ふこく二人ふたりを呼んで、いかにこれに処すべきかを議した。幼い成善も、戸主だというので、その席につらなった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれども、よしんばさぬ仲にせよ、男親がすでに故人である以上、誰よりもまずこの席につらなっていなければならぬこのひとだ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
が、弔われている人とは、可なり強い因縁が、まつわっているように思った。彼は、心からそのとむらいの席に、つらなりたいと思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
昔のままの恰好かっこうをして、型にしたがってつらなっている彼らには、この静かな境地ににわかな変化が起ろうとは思われなかった。起したくなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そこから、いぬいの方へ、光りを照り返す平面が、幾つもつらなって見えるのは、日下江くさかえ永瀬江ながせえ難波江なにわえなどの水面であろう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「主よ、主が吾が一家の上に垂れ給うた恵みを感謝いたします。ここにつらなりました家族の中に一にん心に叶はざるものがありますけれど……」
その恐ろしい山々のつらなりのむこうは武蔵むさしの国で、こっちの甲斐かいの国とは、まるで往来ゆきかいさえ絶えているほどである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その席に加わったことは申すまでもなく、数ならぬ私も、夫人の詩友として、国府家の親しい一人として、特にその席につらなったのは有難ありがたいことでした。
その晩は、駐屯軍司令官の招待で、晩餐会がもよほされました。地方の名士も幾組か夫人令嬢同伴でその席につらなりました。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
港内の左右には幾十の荷揚つらなり、ことに陸に沿うた左の方には天井を硝子ガラス張にした堅牢な倉庫が無数に並んで居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いはんや彼人は物におそるゝこと鹿子かのこの如く、同じ席につらなるものもたやすく近づくこと能はざるを奈何せん。われは必ずしもかの人心より此の如しと説かず。
臨終の席につらなった縁者の人々は、見るに見兼みかねて力一杯に押えようとするけれど、なかなか手にえなかった。そして鐘のしずむと共に病人の脈も絶えた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
「兄なる人につきまして、その手ほどきを受け、それより江戸にまかでて直心陰の門末につらなりました」
抑〻そもそも婚姻の事たる太古たいこひといまだ罪を犯さざりし時より神の制定し給えるものにて、主エスはガリラヤのカナに催されし婚筵こんえんつらなり、最初の奇蹟を以て之を祝し給い
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは会葬者の一人として麹町こうじまち見附内みつけうちにある教会堂に行われた弔いの儀式につらなった時のことだ。黒い布をかけ、二つの花輪を飾った寝棺が説教台の下に置いてあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
時々席につらなったものが、一度に声を出して笑う種になったのはただ芳江ばかりであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくし春枝夫人はるえふじんこのせきつらなつたときには丁度ちやうどある年増としま獨逸ドイツ婦人ふじんがピアノの彈奏中だんそうちゆうであつたが、この婦人ふじんきはめて驕慢けうまんなる性質せいしつえて、彈奏だんそうあひだ始終しゞうピアノだいうへから聽集きゝてかほ流盻ながしめ
いぬが尾を振っている。柳があって青楼せいろうつらなり、その先は即ち河口の港で、遠洋から帰った軍艦商船がいかりおろしているという趣向である。絵巻物のない国の人には解し得られない興味である。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
真底からなげき悲しんでいる弟の格二郎、偽りの涙に顔をよごしたおせい、係官に混ってその席につらなったこの二人が、局外者からは、少しの甲乙もなく、どの様に愁傷らしく見えたことであろう。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やがて、僕は身體の向きを變へて北方を眺めた。青い。何もかも青い。神津かうづ島、式根しきね島、にひ島が間を置いてつらなつてゐる。その彼方には伊豆半島あたりなんだらうが、紫紺色に煙つてゐて何も見えない。
南方 (旧字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
壁に添うてズッと奥まで緋羅紗で張った腰掛台がつらなって居て、其の前に確かに棺だろうと思われる大きな箱が、布の蔽に隠されて並んで居る、此の箱に何が収って居るかは余の問う所でない、余は唯
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
われも亦せいなるうたげつらなりて、わが歡樂は飮みほしぬ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
僕は結婚式につらなった時、心の中に復讐を誓った。
勝敗 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
と言うのは、このごろ忙しさに、不沙汰ぶさたはしているが、知己ちかづきも知己、しかもその婚礼の席につらなった、従弟いとこの細君にそっくりで。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たいそうに人目を引くことはわざとしなかったのである。七日の夜は中宮からのお産養であったから、席につらなる人が多かった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ダンテはその婚姻の席につらなって激情のあまり卒倒した。ダンテはその時以後彼の心の奥の愛人を見ることがなかった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
殊勝のえんつらなれる月卿雲客、貴嬪采女きひんさいじょ、僧徒等をして、身おののき色失い、慙汗憤涙ざんかんふんるい、身をおくところ無からしめたのも、うそでは無かったろうと思われる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
明治元年に徳川家があらたにこの地にほうぜられたので、正直は翌年上総国市原郡いちはらごおり鶴舞つるまいうつった。城内の家屋は皆井上家時代の重臣の第宅ていたくで、大手の左右につらなっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
時経てから、源氏が出た或酒宴で、柏木も席につらなっていたが、内心の苛責かしゃくから、源氏に対して緊張した態度をとっている。其がかえって源氏の心の底の怒りに触れて来る。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そのさま譬へば帆を揚げたる無數の舟の横につらなれるが如し。左のかたにはロムバルヂアの岸の平遠なる景を畫けるあり。遙に地平線に接してはアルピイの山脈の蒼靄さうあいに似たるあり。
が、結婚の式場につらなるまで、彼は瑠璃子を高価たかねあがなった装飾品のようにしか思っていなかった。五万円に近い大金を投じて、落藉ひかした愛妓あいぎに対するほどの感情をも持っていなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それはせき末座まつざつらなつてつた一個ひとり年老としをいたる伊太利イタリー婦人ふじんで、このをんな日出雄少年ひでをせうねん保姆うばにと、ひさしき以前いぜんに、とほ田舍ゐなかから雇入やとひいれたをんなさうで、ひくい、白髮しらがあたまの、正直しやうじきさう老女らうぢよであるが
法然が特に召されてこの席につらなるということは非常なる特例である。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
罪を鳴らす鼓か、と男はあわただしく其方そなたを見た。あらず、人車鉄道の、車輪隠れて、窓さえ陰、ただ、橙色だいだいいろつらなった勾配のない屋根ばかり、ずるずるといて通る。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皇子がたも相伴の客として宴におつらなりになり、高級の官吏なども招きに応じて来たのが多数にあって、新任大臣の大饗宴だいきょうえんにも劣らない盛大な、少し騒がし過ぎるほどのものになった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
我目前には猶突兀とつこつたる山骨の立てるあり。物寂しく獨り聳えたる塔のさきに水鳥の群立むらたち來らんをうかゞひて網を張りたるあり。脚底の波打際を見おろせばサレルノのまちの人家碁子きしの如くつらなれり。
大学のかたにては、穉き心に思ひ計りしが如く、政治家になるべき特科のあるべうもあらず、此か彼かと心迷ひながらも、二三の法家の講筵かうえんつらなることにおもひ定めて、謝金を収め、往きて聴きつ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
つれは、毛利一樹いちじゅ、という画工えかきさんで、多分、挿画家そうがか協会会員の中に、芳名がつらなっていようと思う。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細雨こさめにじむだのをると——猶予ためらはず其方そちらいて、一度いちどはすつて折曲をれまがつてつらなく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)