おほやけ)” の例文
ことしは芳之助よしのすけもはや廿歳はたちいま一兩年いちりやうねんたるうへおほやけつまとよびつまばるゝぞとおもへばうれしさにむねをどりて友達ともだちなぶりごともはづかしく
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此書の末に「南品川猟師町三十九番地池田全安」と低書ていしよしてあつた。わたくしは此に書を裁した知人の名をおほやけにする必要を認めない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼等がもし享楽や、宴会や、社交などを欲するならば、いつでもおほやけに芸者を呼び、別の種類の婦人に対して、別の種目の奉仕を求めた。
家庭の痛恨 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
かくてわが詩にギリシアびとを導きてテーべの流れに到らざるさきにわれ洗禮バッテスモをうけしかど、おほやけ基督教徒クリスティアーンとなるをおそれて 八八—九〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのうちに御馳走ごちそうがすむと、彼れの妻は立ちあがつて、彼女のかうむつた屈辱をおほやけにした。のみならず、熱烈に、夫にかう云つた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
紳士たちは、フェアファックス夫人が私にらせてくれたやうに、ミルコオトに於ける或るおほやけの會合に出席する爲めに早めに歸つてしまつた。
アントニオは古の名家の少時の作を世におほやけにせしものあるを見て、或はおのれのをも梓行しかうせんとすることあらんか。そは世のあざけりを招くに過ぎず。
當時とうじ東京帝國大學とうきようていこくだいがく理學部りがくぶける機械工學きかいこうがくおよ物理學ぶつりがく教授きようじゆであつたユーイング博士はかせ現今げんこんエヂンバラ大學だいがく總長そうちよう)は水平振子地震計すいへいしんしぢしんけい發明はつめいおほやけにし
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
この村では何事も太政官の指圖なしにはおほやけのことの出來なかつたしきたりを破らうとする蔭口が、今更らしく聞えた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
マタン紙上で今年ことしの流行服の予想を各女優から聞いておほやけにして居る。日本の「キモノ」から影響せられて細くなつたジユツプかただ当分広くなるまい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
マンチュアにちっしてゐやるあひだに、わしがをり二人ふたり内祝言ないしうげん顛末もとすゑおほやけにし、兩家りゃうけ確執かくしつ調停てうていし、御領主ごりゃうしゅゆるしひ、やがてそなた呼返よびかへすことにせう
しかるに将門はおほやけの手の廻るのを待たずに、良兼に復讐戦ふくしゆうせんを試みたのか、或は良兼は常陸国から正式に解文を出して弁解したため追捕の事がんだのを見て
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
少くともおほやけには、自分の気持を素直すなほに云へないといふ妙な世間のならはしのやうなものがあり、おほやけに云へないことは、おほやけの行為に現はしがたいのが常である。
『美しい話』まへがき (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
然しそれとても其の土地に住古すみふるしたものゝ間にのみ通用されべき名前であつて、東京市の市政が認めて以ておほやけの町名となしたものは恐らくは一つもあるまい。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
既に其前から其新聞紙上で俳話をおほやけにして元祿の俳句の復興を唱道してゐたのであるが新聞記者となつてからは愈〻其旗幟を明かにして盛んに論陣を張つた。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
これ山田やまだ前年ぜんねんすでに一二の新躰詩集しんたいししうおほやけにして、同会社どうくわいしやつてえんからこゝ持込もちこんだので、この社はさき稗史出版会社はいししゆつぱんくわいしや予約よやく八犬伝はつけんでん印刷いんさつした事があるのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さていよいよ二冊目の本を御覧に入れる、いや二冊目といふよりは寧ろ最後の本といつた方がよい! ありやうは、これもおほやけにするのは全く不本意なことなんで。
まだおほやけの供養もすまないのに、人の口はうるさいほど、頻繁に流説をふり蒔いてゐた。あの多聞天と広目天との顔つきに思ひ当るものがないかと言ふのであつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
すなはち、“これはおほやけにすべき性質のものでない”とされ、幾たびとなく発表を阻まれたこの書き溜めに、“復た奈何かいふ機会”が、しかも間もなく来たのであります。
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
含春がんしゆんまた明敏めいびんにして、こゝろり、おほい當代たうだい淑女振しゆくぢよぶり發揮はつきして、いけすかないとてちゝぐ。ちゝや、今古こんこ野暮的やぼてんむすめれたりとてこれおほやけうつたへたり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
友は未だ世におほやけにせざる新しき詩を吟してわれに聞かせ、われはわが旅のさま/″\の興を語りて以て友を羨ましめぬ。友はいふ、君來らんとはまことに思ひ懸けざりき。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
即ち明治十八ママ年になりますかな、其年の末に初めて所謂いはゆるエスペラントが世におほやけにせられた。
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
西洋人がさういふ翻訳をするのを助けて、それを完成さすなら結構な事であるが、自から進んでそれをやり、却つて西洋人の助をかりてそれをおほやけにするなんていふのは、少し馬鹿気た事と思ふ。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
今度こたび一部いちぶふみとしておづさにのぼせ、おほやけひやうをもこひ
うもれ木:01 序 (旧字旧仮名) / 田辺竜子(著)
或は又既におほやけにしたのは僅々三合の俳諧に過ぎぬ、残りの七合の俳諧は芭蕉自身の胸中に横はつてゐると云ふ意味であらう。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かれ黄の百合をおほやけの旗にさからはしむればこれ一黨派の爲にこれを己がものとなす、いづれか最も非なるを知らず 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのおほやけまうして養嗣子とせられたのは、此より十五年の後、文化十三年三月である。瑞仙の死にさきだつこと六箇月である。霧渓は既に三十三歳になつてゐた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おほやけに於て取押へて糺問きうもんさるべき者であるにかゝはらず、其者に取つて理屈の好い将門追捕の符を下さるゝとはしからぬ矯飾けうしよくであると突撥つつぱねてゐるのである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
こればかりは余りおほやけに御自慢は出来ん事で御座いますもの、秘密に遊ばしますのは実に御尤ごもつともで御座います。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただ、われわれの仲間の常識として、かういふ事件のあつた直後、あなたとの婚約をおほやけにするといふことは慎みたいんです。勿論、式を急ぐわけには行きません。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
又いつまでも斯んなにぐづ/\して日を暮らしてゐるわけにも行かぬから早く一篇をおほやけにし度い。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
著者ちよしやはこれに氣附きづいたので、此數年間このすうねんかん其編纂そのへんさん腐心ふしんしてゐたが、東京帝國大學とうきようていこくだいがく地震學教室ぢしんがくきようしつける同人どうにん助言じよげんによつて、大正十五年たいしようじゆうごねんいたつてやうやこれおほやけにする程度ていどたつした。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
これが多数の予想である。いづれ四月の各雑誌に流行服の写真が幾種もおほやけにせられ、其れを見て米国の贅沢ぜいたく女が電報で註文し、仮縫を身に合せかた/″\巴里パリイ見物に続続ぞくぞく遣つて来ると云ふ段取だんどりである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
支那しな人身賣買じんしんばいばいおほやけおこなはれたときことである。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あゝ兄弟よ、我今かのおほやけ證人あかしびととグイットネと我とをわが聞く麗はしき新しき調しらべのこなたにつなぐふしをみる 五五—五七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
僕の恬然てんぜんと本名を署して文章をおほやけにせる最初なり。細君の名は雅子まさこ君子くんし好逑かうきうと称するはかかる細君のことなるべし。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それを公の帳簿に四郎とばかり書かれたのは、池田家に左衛門と云ふ人があつたので、遠慮したのださうである。祖父の市郎左衛門も、おほやけには矢張やはり市郎で通つてゐた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
だから、過去の行為よりも、将来、妻の同胞きやうだいとして、家庭的に厄介な問題を惹き起しやしないか、それが引いて自分のおほやけの地位に累を及ぼしてはと、その点を一番心配してる様子ですね。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
氏は近年、ヹルアレン氏が戯曲に筆を着け出した如くしきりに小説をおほやけにして居る。氏は最近の著述を揃へて僕に贈る事を約し、僕達が仏蘭西フランスに滞在する間出来るだけの便宜を計らうと云はれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
最初の作は千八百七十九年、即三十歳の時おほやけにした Aziyadé である。後ち一年、千八百八十年に Rarahu を出して一躍流行児になつた。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
春は明治六年に其子いはほおほやけに呈した書類に、「文政八年六月十九日生、東京府平民狩谷三右衛門叔母」と記してある。当時の三右衛門は矩之くしであるが、其親族関係のつまびらかなるを知らない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
執つておほやけにものを云ふとなると、あれぢや困るな
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
勿論予はこの遺書をおほやけにするに当つて、幾多の改竄かいざんを施した。たとへば当時まだ授爵の制がなかつたにも関らず、後年の称に従つて本多子爵及夫人等の名を用ひた如きものである。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
誰でも著述に従事してゐるものは思ふことであるが、著述がどれだけ人に読まれるかは問題である。著述が世におほやけにせられると、そこには人がそれを読み得ると云ふポツシビリテエが生ずる。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
政府指定のおほやけの機関です
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
かの「お菊さん」は千八百八十七年に、「日本の秋」は八十九年におほやけにされた。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども、彼の妻は凌辱りようじよくかうむつたことはおほやけにしても、誰が凌辱を加へたかといふことは、公にしなかつた。そのために、凌辱を加へた貴族は、夫や客の騒いでゐるあひだにそつと露台の階段をくだつた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)