入日いりひ)” の例文
印度洋の入日いりひはさぞ雄大だらうと思はれてよ。レツドシー、名前からしていゝわねえ。……あたし巴里へ行つたらダンスを習ひたいの。
新婚旅行 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ホテルの窓より眺むれば、展望幾重、紫嵐しらんこらすカルメル山脈の上、金を流せる入日いりひの空を点破して飛鳥遥にナザレの方を指す。
この水音だけでも夏とは思われない。まして入日いりひを背中から浴びて、正面は陰になった山の色と来たら、——ありゃ全体何と云う色だろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私達は諏訪神社の森蔭もりかげで休息した上、諏訪池から帰ったが、その夕べ今度は千々岩ちぢわ灘の入日いりひを見るべく絹笠山にのぼった。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
入日いりひ残光ざんこうが急にうすれて、夕闇ゆうやみ煙色けむりいろのつばさをひろげて、あたりの山々を包んでいった。と、東の空に、まん丸い月が浮きあがった。満月まんげつだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しゆ木瓜ぼけはちら/\とをともし、つゝむだ石楠花しやくなげは、入日いりひあはいろめつゝ、しかまさなのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
入日いりひの落るを見て北條が歌を詠じたと云う……えゝ何とか云った……オヽ……「敵は打つ心まゝなる鴻の台夕日ながめしかつ浦の里」とんだと申すて」
四方山よもやまの物語に時移り、入日いりひの影も何時いつしか消えて、冴え渡る空に星影寒く、階下のくさむらに蟲の鳴く聲露ほしげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
赤く入日いりひを受けた雲の水に映るのを眺めて高く突き出た桟橋の上に立つて居た時は何だか漂泊者らしい感がした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
同時に彼も何となく口がにくい気もちになって、しばらくは入日いりひの光に煙った河原蓬かわらよもぎの中へたたずみながら、艶々つやつやと水をかぶっている黒馬の毛並けなみを眺めていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
植木鉢うゑきばち草花くさばな花束はなたば植木棚うゑきだな、そのしづかに流れるは、艶消つやけしきんの光をうつしつつ、入日いりひうんを悲んで、西へともなふセエヌかは、紫色の波長く恨をひいてこの流
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
雜木ざふきをからりとおとしてこずゑよりもはるかひくれて西にしそらあかるい入日いりひすかしてせるやうにまばらるのに、確乎しつかとしがみついてはなれない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この外『新古今』の「入日いりひをあらふ沖つ白浪しらなみ」「葉広はびろかしはに霰ふるなり」など、または真淵まぶちわしあらし粟津あわづ夕立ゆうだちの歌などの如きは和歌の尤物ゆうぶつにして俳句にもなり得べき意匠なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
渡津海わたつみ豊旗雲とよはたぐも入日いりひさし今夜こよひ月夜つくよ清明あきらけくこそ 〔巻一・一五〕 天智天皇
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
次の附句つけくこれを例の俳諧はいかいに変化させて、晴れた或る日の入日いりひの頃に、月も出ていて空がまだ赤く、向こうから来るやりと鑓持ちとが、その空を背景にくっきりと浮き出したような場面を描いて
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わか入日いりひびてあかあかとはるわらひき。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
入日いりひれておもはゆにあからむゆふべ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
今日けふ入日いりひの悲しさよ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
山科やましなや、たけ入日いりひ
哀音 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
赤赤あかあか入日いりひうつれる
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
遠き岬に入日いりひする
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
秋も十一月に入って、お天気はようやくくずれはじめた。今日も入日いりひは姿を見せず、灰色の雲のまくの向う側をしのびやかに落ちてゆくのであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
皇后ジヨセフインに別れた奈破翁ナポレオン一世や、前の夫人にしに別れたモリエエルが常に此処ここへ来てたのしまぬ心を慰めたと云ふ話をしながら、少時しばらく柔かい春の初めの入日いりひてらされて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
風のあふり蒸暑むしあつく、呼吸いき出入でいりも苦しいと……ひとしほマノンの戀しさに、ほつと溜息ためいきついた……風のあふり蒸暑むしあつく、踏まれた花のが高い……見渡せば、入日いりひはなやぐポン・ヌウフ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
堂へかれて、はしら板敷いたじきへひらひらと大きくさす月の影、海のはてには入日いりひの雲が焼残やけのこって、ちらちら真紅しんくに、黄昏たそがれ過ぎの渾沌こんとんとした、水も山もただ一面の大池の中に、その軒端のきばる夕日の影と
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
全く世界一色いっしきの内につつまれてしまうに違ないと云う事を、それとはなく意識して、一二時間後に起る全体の色を、一二時間前に、入日いりひかたの局部の色として認めたから、局部から全体をそそのかされて
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なごの海のかすみのまよりながむれば入日いりひを洗ふ沖つ白波 (実定さねさだ
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
つづき居る椰子やし木立こだちのひまもりて入日いりひの雲のくれなゐ見えつ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
霧のうち入日いりひのあとのかはをただうちながむ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
爛眼ただらめ入日いりひざしひたひたと
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
真赤まつか入日いりひひとさかり。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
旗男はたお少年は、得意の立泳たちおよぎをつづけながら、夕日に向かって挙手の礼をささげた。こんな入日いりひを見るようになってから、もう三日目、いよいよお天気が定まって本当の真夏になったのだ。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ウンガルンの俘虜ふりよむらがりて長崎の街を歩くに赤く入日いりひ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
なごの海の霞のまよりながむれば入日いりひを洗ふ沖つ白波
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
高塔あららぎや、九輪くりんさび入日いりひかげ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
日暮ひくれどき、入日いりひに濁るもやうち
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
入日いりひの海へ流れゆく。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
百舌鳥もず鳴くや入日いりひさしこむ女松原めまつばら 同
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
晩夏おそなつ入日いりひむせゆふながめ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
けふの入日いりひもたんぽぽに
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
けふも入日いりひがあかあかと
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どうして入日いりひ
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
入日いりひに燃えて
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)