一月ひとつき)” の例文
しかし今年の正月にはどうあっても胡弓弾きにゆくと、一月ひとつきも前から木之助は気張きばっていた。味噌屋の御主人にすまんからといった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「なに、どの国の検閲よりもかえって進歩しているくらいですよ。たとえば××をごらんなさい。現につい一月ひとつきばかり前にも、……」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一月ひとつきばかりの間、雨は一粒も降らず、ぎらぎらした日が照って、川の水はかれ、畑の土はまっ白にかわき、水田みずたまで乾いてひわれました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かくて海辺かいへんにとどまること一月ひとつき、一月の間に言葉かわすほどの人りしは片手にて数うるにも足らず。そのおもなる一人は宿の主人あるじなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
たうとう一月ひとつき近くなつた或日、彼は漸く福島屋から送つて來た「日本橋」を受取つたが、それと同時に待焦れてゐた月給日も到來した。
貝殻追放:011 購書美談 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
南洲乃ち三十圓を與へて曰ふ、汝に一月ひとつきほう金を與へん、汝は宜しく汝の心にむかうて我が才力さいりき如何を問ふべしと。其人た來らず。
毎日一枚か二枚ほか書けませんので、書き始めてから、もう一月ひとつき位になりました。夏になりましたので、汗が流れて仕方がありません。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ロミオ あれは自分じぶん饒舌しゃべるのをくことのきなをとこ一月ひとつきかゝってもやりれぬやうなことを、一分間ぶんかん饒舌しゃべてようといふをとこぢゃ。
でも、さいわい、ストックホルムのスカンセンという公園こうえん番人ばんにんのおじいさんにもらわれて、一月ひとつきばかりその公園の中でくらしました。
いよ/\敷金切れ、滞納四ヵ月という処から家主との関係が断絶して、三百がやって来るようになってからも、もう一月ひとつき程も経っていた。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
その田舎いなかのお正月しょうがつは、なんでも東京とうきょうよりは一月ひとつきおくれて、これからそのまちひとたちは、お正月しょうがつ用意よういにとりかかるのでした。
東京の羽根 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一月ひとつきの後、百本の矢をもって速射を試みたところ、第一矢がまとあたれば、続いて飛来った第二矢は誤たず第一矢のやはずに中って突きさり
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
親類や知人などは一月ひとつきも前から、お別れだと言つては、饂飩うどんを打つたりさかなを買つたりして、老夫婦や主婦を呼んで御馳走をした。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「ひっこすといっても、船の諸道具しょどうぐや食料などを運ぶには、少なくとも一月ひとつきはかかるだろう。そのあいだ、みなはどこに宿るか」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
だから今のうちに東京へ帰って新聞配達をしろ。書生はとても一月ひとつきと辛抱は出来ないよ。悪い事は云わねえから帰れ。分ったろう
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次いでかれらの中にて一の光いと強く輝けり、げにもし巨蟹宮に一のかゝる水晶あらば、冬の一月ひとつきはたゞ一の晝とならむ 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今年ことしも来月一月ひとつきだもの。」と女は片手に髪を押え、片手に陶器の丸火鉢まるひばちを引寄せる。その上にはアルミの薬鑵やかんがかけてある。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何でも大人達の話で聞くと、友吉と安兵衛の仕事は一月ひとつきも続かなかつたのださうでした。損を余程沢山したとかも聞きました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それを送ってから一月ひとつきくらいして、上京のついでに武見さんの家を訪ねた。そしたらその絵がちゃんと表装されて、とこにかかっていた。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
普通彼はいつも同じ時間に同じようなことをしつつ生涯を過ごしていたのである。その一年の一月ひとつきもその一日の一時間と変わりはなかった。
彼は一月ひとつき前迄費用の掛らぬ市外の土地をえらんで六円五拾銭の家賃の家に住んで居た。彼は何等のきまつた収入も無い身の上だ。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
青年甲 それが一月ひとつきほども立ってから、その犯人がここらへ立廻たちまわったらしい形跡があるので、警察の方でも注意していると
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そんなことをいいいい、毎日まいにちらしているうちに、十日とおかたち、二十日はつかたち、もうかれこれ一月ひとつきあまりの月日つきひがたちました。
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
話はすこし昔にかえるが、この女は二十五の年紀としに、たった一月ひとつきのうちに、その父親と夫と、生れたばかりの赤ン坊を亡くしてしまったのだった。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
一月ひとつきもたつと、海の底がやっぱりどこよりも美しくて、うちにいるのがいちばんいいと、口々に言うようになりました。
ここじゃあ頼りになるなあおめえばかりよ。で、己だっていつもお前にゃよくしてやったろう。一月ひとつきでも四ペンス銀貨をやらなかった月はないしさ。
十二月一月ひとつきは、月の初めから、ほかの學課はなく、その習字の稽古と、お墨摺りで日をおくつて樂しんでをりました。
吾が愛誦句 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
女中も、それに釣り込まれたように、オド/\しながらいた。皆の頭に、まだ一月ひとつきにもならない十月一日の暴風雨の記憶がマザ/\と残っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
広間では、一月ひとつきのうち順ぐりに、映画研究会、劇研究会、作品研究会、評論研究会などが持たれる。そして、われわれはそこに見る。赤いプラカートを。
ソヴェト文壇の現状 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一月ひとつきばかりまえに、自分の蔵書ぞうしょの中から、それだけの本を選んで座右におき、ほかはみんなし入れにしまいこんでしまったのであるが、このごろでは
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
此家こヽにも學校がくかうにも腦病なうびやう療養れうやう歸國きこくといひて、たちいでしまヽ一月ひとつきばかりを何處いづくひそみしか、こひやつこのさても可笑をかしや、香山家かやまけ庭男にはをとこみしとは。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アーニャ (考えこんで)六年まえに、お父さまがくなって、それから一月ひとつきすると弟のグリーシャが、川でおぼれたんだわ。可愛い七つの子だったのに。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一月ひとつきたてば帰るつていふ約束なんですもの。こんなことを、あなたにまでお話するのは、よくよくのことなのよ。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
わたしとしては、出来できるだけのことはしました。——まをしてはおはづかしいやうですが、実際じつさい一月ひとつきばかりは、押通おつとほませんくらゐ看病かんびやうはしましたが。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それですもの。同じ木曾でも陽気は違いますね。南の方の花の便たよりを聞きましてから、この王滝辺のものが花を見るまでには、一月ひとつきもかかりますよ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と言って一月ひとつきや二月ぐらいの滞在中にそういう出来事が果して私の身辺に起りるものかどうか疑わしかった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
夏のことでなかの仕切りはかたばかりの小簾おす一重ひとえ、風も通せば話も通う。一月ひとつきばかりの間に大分だいぶ懇意になった。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あの新聞の切り抜きは必ずしも東京の新聞と限らず、また一月ひとつき前の新聞やら、二月ふたつき前のものやら分からぬから、捜しだすのは容易なことでないと思いました。
紅色ダイヤ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それから一月ひとつきが経った。会社も警察も、絶えず捜索を続行はしていたけれど、毛筋ほどの手掛りさえ見出すことが出来なかった。懸賞金が提出されたりした。
此のはおめいさんのたねちげいというと、男の方では月イ勘定すると一月ひとつき違うから己の児じゃアい、顔まで彼奴あいつに似ていると云うと、女は腹ア立って
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「フン、女のくせに二合もけりや豪儀がうぎだゼ。」とお房はひやゝかに謂ツて、些と傍を向き、「だツて、一月ひとつき儉約けんやくして御覧ごらんなさいな、チヤンと反物たんものが一たんへますとさ。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それで智恵子は、誰しも休暇前に一度やる様に、八月一月ひとつきに自分の為すべき事の予定を立てたものだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「……考えることもあるんだ、俺小樽から帰ってから毎日毎日、一月ひとつきも考えた。……考えたあげく、とうとう決めることにしたんだ……俺は、旭川さ出る積りだよ。」
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
一月ひとつきぶりに、シャッシャッとぎだすと、一本々々のオォルに水が青い油のように、ネットリからみついて、スプラッシュなどしようと思っても、出来ないあんばい。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
確かに一月ひとつきほど前に印度から来た不可解な文字の綴られた古代の書、——その書をスティヴンは持参していたのですが、その内容と何か関係があったに相違ありません。
墓場 (新字新仮名) / 西尾正(著)
「新太郎や、お母さんから種々いろいろ聞いたが、真正ほんとうに悪いのなら何も遠慮することはないよ。一月ひとつき遊んで来るさ。身体が一番大切だいじだ。充分健康を恢復して、ミッシリ働くさ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今のうちは箱を開けてから一月ひとつきも保存しなくてはならないのだから、工夫を要すると云っている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ござります——それは裾野すそのよりご帰参の上部かんべどのが、一月ひとつきあまりお屋敷にこもって、苦心のすえ作戦された、秀吉ひでよし袋攻ふくろぜめの奇陣きじん、必勝の布陣ふじん、軍旅の用意にいたるまで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この子はこれから少くとも一月ひとつき、これをいうだろうな。僕は、当分君と勝負は出来ないからね。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
斯無懐氏の女のほかに、テリアル種の小さなくろ牝犬めいぬが一匹。名をピンと云う。鶴子より一月ひとつきまえにもらって、最早もう五歳いつつあごのあたりの毛が白くなって、大分だいぶばあさんになった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)