“食(しょく)” の例文
かれは知りたいと思っていた遭難当時の模様がいま三千夫の口からもれてくるので、まるで飢(う)えた者が食(しょく)をもとめるようなさわぎであった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
バナナを食うときはだれでもまずその外皮(がいひ)を剥(は)ぎ取り、その内部の肉、それはクリーム色をした香(にお)いのよい肉、を食(しょく)する。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
わざわざ朝晩の二食(しょく)にしようときめた人でも、家の者をのこらずその流儀にさせることは、ちょっとできそうにもない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
數「併(しか)し私(わし)が顔を御覧があってから、大きにお力が附いて大分に宜しいと、殊(こと)の外(ほか)お悦びでお食(しょく)も余程進むような事で」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「その点は、わしも同様。けさからなにも食(しょく)しておらんので、空腹でやりきれん。なんとかならんものであろうかの」
ロミオ 氣(き)は狂(ちが)はぬが、狂人(きちがひ)よりも辛(つら)い境界(きゃうがい)……牢獄(らうごく)に鎖込(とぢこ)められ、食(しょく)を斷(た)たれ、笞(むちう)たれ、苛責(かしゃく)せられ……(下人の近づいたのを見て)や、機嫌(きげん)よう。
「毒死ではない、食(しょく)に中(あた)ったのだ」と甲斐は云った、「だがその話しはよそう、今宵はおまえたち二人の晩だ、陰気な話しはやめてたのしくやるがいい」
一日(にち)、町(まち)の裏(うら)や、圃(たんぼ)や、また河(かわ)の淵(ふち)や、海浜(かいひん)など、方々(ほうぼう)で食(しょく)を求(もと)めるのでした。一羽(わ)がなにかいいものを見(み)つけましたときは、これをみんなに知(し)らせました。
翼の破れたからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
いわゆる、負傭鶏犬(ふようけいけん)も食(しょく)に飽き、富戸(ふこ)は子孫に足(た)り、書庫には万巻の書を蔵す、といったような趣(おもむき)があった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その子細を尋ねると、これまで食(しょく)を得(う)ることに困っていたのに、遠島を言い渡された時、銅銭二百文(もん)をもらったが、銭(ぜに)を使わずに持っているのは始めだと答えた。
高瀬舟縁起 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
またむかし武田勝頼(たけだかつより)が三河(みかわ)の長篠城(ながしのじょう)を囲み、城中食(しょく)尽(つ)きもはや旬日(じゅんじつ)を支え得なかった時、鳥居強右衛門(とりいすねえもん)が万苦(ばんく)を冒(おか)して重囲を潜(くぐ)り、徳川家康(とくがわいえやす)に見(まみ)えて救いを乞い
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
この寒さはさらぬだに強からぬ浪子のかりそめの病を募らして、取り立ててはこれという異なれる病態もなけれど、ただ頭(かしら)重く食(しょく)うまからずして日また日を渡れるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其(そ)の幼儀(ようぎ)雑箴(ざっしん)二十首を読めば、坐(ざ)、立(りつ)、行(こう)、寝(しん)より、言(げん)、動(どう)、飲(いん)、食(しょく)等に至る、皆道に違(たが)わざらんことを欲して、而して実践躬行底(きゅうこうてい)より徳を成さんとするの意、看取すべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すなわち氏はかつて徳川家の食(しょく)を食(は)む者にして、不幸にして自分は徳川の事に死するの機会を失うたれども、他人のこれに死するものあるを見れば慷慨惆悵(こうがいちゅうちょう)自(おのず)から禁ずる能(あた)わず
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
寒(かん)に衣(い)し、餓(うえ)に食(しょく)するはこの人格を維持するの一便法に過ぎぬ。筆を呵(か)し硯(すずり)を磨(ま)するのもまたこの人格を他の面上に貫徹するの方策に過ぎぬ。——これが今の道也の信念である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あいつが人を犯し、人から咎(とが)められることのかぎりは食(しょく)と色(しき)との外に出ないのだ。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雨に追われて、馬を走らせたので、空腹に、思わず食(しょく)をすごしたようです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
食べものが喉(のど)をとおらぬ思いで、頬(ほお)の骨が目立って来て、赤ん坊にあげるおっぱいの出もほそくなり、夫も、食(しょく)がちっともすすまぬ様子で、眼が落ちくぼんで、ぎらぎらおそろしく光って、或(あ)る時
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
そしてこの区切りと最外(さいがい)の外皮(がいひ)のところまでの間が人の食(しょく)する部分であるが、この部分は実は本当の果実(中心部をなせる)へ癒合(ゆごう)した付属物で
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
手前が乱暴を働くのを見て居(お)るのが辛いから食(しょく)を止(とゞ)めて死ぬのじゃによって、仮令(たとえ)手を下さずとも其方(そなた)が親を乾(ほ)し殺すも同じじゃによって左様心得ろ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
てめえの食(しょく)を詰めても子供に食わせ、飲みてえ酒もかげんして、暑さ寒さにひっぱる物の心配もしなけりゃあならねえ、そうやって育てた子供なんだから
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
食(しょく)終りてつぎの間に出ずれば、ここはちいさき座敷めきたるところにて、やわらかき椅子(いす)、「ゾファ」などの脚きわめて短きをおおくすえたり。ここにて珈琲(カッフェエ)のもてなしあり。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やっと、草(くさ)や木(き)の芽(め)が出(で)はじめると、薬(くすり)になるのばかり百種(しゅ)ほどつんで、ねり合(あ)わせたのが、この薬(くすり)ですから、腹痛(ふくつう)や、食(しょく)あたりなどによくききます。これをおいてまいりましょう。
山に雪光る (新字新仮名) / 小川未明(著)
されば我輩(わがはい)を以(もっ)て氏の為(た)めに謀(はか)るに、人の食(しょく)を食(は)むの故(ゆえ)を以(もっ)て必ずしもその人の事に死すべしと勧告(かんこく)するにはあらざれども、人情の一点より他に対して常に遠慮(えんりょ)するところなきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私にも、幼子(おさなご)がありまする。どういうものか、生れつきの脾弱(ひよわ)で、この十日程まえからまた、寝ついたきりで、食(しょく)も細るばかりゆえ、さる所へ、祈願を籠めに詣(まい)った途中でございまする。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この地下茎(ちかけい)を蒸(む)せば食用にするに足(た)るとのこと、また地方によりこれから澱粉(でんぷん)を採(と)って食(しょく)しているところがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
客の鬮を引いた者は坐ってゝ少しも動かずに人の買って来る物を食(しょく)して楽しむという遊びがあるのです
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
事実、蜀軍の大なる欠陥は、大兵を養う「食(しょく)」にあることは万目一致していた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衛生とは人の命(いのち)延(の)ぶる学(がく)なり、人の命長(なが)ければ、人口(じんこう)殖(ふ)えて食(しょく)足(た)らず、社会(しゃかい)のためには利(り)あるべくもあらず。かつ衛生の業(ぎょう)盛(さかん)になれば、病人(びょうにん)あらずなるべきに、医(い)のこれを唱(とな)うるは過(あやま)てり云々。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夫婦に三人の子供あれば一日に少なくも白米一升五合より二升は入用なるゆえ、現に一月二、三斗の不足なれども、内職の所得(しょとく)を以て麦(むぎ)を買い粟(あわ)を買い、或(あるい)は粥(かゆ)或は団子(だんご)、様々(さまざま)の趣向(しゅこう)にて食(しょく)を足(た)す。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは至極御尤(ごもっと)もの話で、文治郎も気狂いでないから貴方に断らんでする訳はないが、此の程は御老母にとんと食(しょく)を与えぬので、御老母は餓死なさるより外(ほか)に仕方がない
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おれはきょうまで、こうして、少しも疲(つか)れずにいたのは、まったく、かれが苦心惨憺(くしんさんたん)して、朝ごとに食(しょく)を口にいれてくれたおかげだ。どこかそこらにいるにちがいないからさがしてくれ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此の程はお食(しょく)が頓(とん)とおすゝみにならぬそうで、文治郎も驚き入りました、三日も食(あが)らんと云うことはさっぱり存じませんでした、お加減が悪ければそれ/″\医者を呼びますものを
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たとい修行に疲れ、食(しょく)に渇(かわ)いて、露衣風身(ろいふうしん)の漂泊(さすら)いに行き暮れていても
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが食(しょく)は固(もと)より咽喉(のど)へ通りませんし、湯水も通らぬ様になりましたから、師匠は益々痩(やせ)るばかり、けれども顔の腫物(できもの)は段々に腫上って来まするが、新吉はもと師匠の世話になった事を思って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「また、おまえはいま、たいそうぜいたくをいっていたな、もったいないことを忘(わす)れてはいけない。この戦国、いまの修羅(しゅら)の世の中には、飢(う)えて食(しょく)をさけんでも、ひと握(にぎ)りの粟(あわ)さえ得(え)られぬ人がある」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と二人とも十箇(とお)ばかりの握飯(むすび)と菜(さい)まで残らず食(しょく)してしまいました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)