飛退とびの)” の例文
引掻ひつかきさうな権幕けんまくをするから、吃驚びつくりして飛退とびのかうとすると、前足まへあしでつかまへた、はなさないからちかられて引張ひつぱつたはづみであつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
千種十次郎と早坂勇は、五六間飛退とびのきました。炎の中には忿怒の塑像そぞうのような博士が、全身焼けただれ乍ら、カッと此方こっちを睨んで居るのです。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
巡査は慌てて飛退とびのくと、石はかたえの岩角にあたって、更に跳ね返っての𤢖の上に落ちた。𤢖のきずつける顔は更に微塵みじんに砕けて、怪しい唸声うなりごえは止んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
灰神楽はいかぐらがドッと渦巻き起って部屋中が真白になった。思わず飛退とびのいた巡査たちが、気が付いた次の瞬間にはモウ銀次と小女の姿が部長室から消え失せていた。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
脛押すねおしか。』と轟大尉とゞろきたいゐかほしかめたが、けぬ大尉たいゐ何程なにほどことやあらんとおなじく毛脛けずねあらはして、一押ひとおししたが、『あた、たゝゝゝ。』とうしろ飛退とびのいて
はっと思うなり飛退とびのいてしまって、自身はそこに気絶して倒れた。石塔はすなわちその記念の為であった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すると、ポチは驚いて飛退とびのいて、不思議そうに小首をかしげて、其ガツガツと食うのを黙って見ている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「えゝ、こんな奴を相手に手間取るは無益だ」と一人の罪人ははげしく打合う其の中を掻潜かいくゞって通り抜けようと致しますから、文治は飛退とびのきながら、その一人を引留め
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
風早學士は、覺えず首をちぢめて、我に返ツた。慌てて後へ引返さうとして、勢込むできびすかへす……かと思ふと、何物かにおどかされたやうに、ちよツと飛上ツて、慌てて傍へ飛退とびのき、そして振返ツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
開き「谷間田、何うしたぼ見当がついたかえ」とて入来るは此事件を監督する荻沢おぎさわ警部なり谷間田は悪事でも見附られしが如く忽ち椅子より飛退とびのきて「ヘイヘイ凡そ見当は附きました是からすぐに探りを ...
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
大原思わず「ヒャー」といってうしろへ飛退とびのきたり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私に追われて、あれとげる時、——ただたよりだったのですから、その扱帯しごき引手繰ひきたぐって、飛退とびのこうとしたはずみに、腰が宙に浮きました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秀子が驚いて飛退とびのきました。勇がズボンのかくしから掴み出して、茶卓の上へ置いたのは、黒いラベルを貼った青酸のビンと、銀色の光に西洋鍵が一つ。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
娘は怖いと思いましたから、思わず知らず飛退とびのはずみで、新吉の手へすがりましたが、蛇が居なくなりましたから手を放せばよいのだが、其の手が何時迄いつまでも放れません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
花嫁の方を振返る間もなく、唖女の両手を払いけて飛退とびのこうとしたが、間に合わなかった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其時小さなまりのような物がと軒下を飛退とびのいたようだったが、やが雪洞ぼんぼり火先ひさきが立直って、一道の光がサッと戸外おもて暗黒やみを破り、雨水の処々に溜った地面じづらを一筋細長く照出した所を見ると
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
慌てて飛退とびのいて更によくると、人違いでない、たしかに父の安行である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かはれば現在げんざいをつとまへ婦人ふじん身震みぶるひして飛退とびのかうとするのであつたが、かる撓柔しなやかにかかつたが、千曳ちびきいはごとく、千筋ちすぢいとて、そでえりうごかばこそ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
左右を見廻すと近くに居た連中はみんな、八方へ飛退とびのいた姿勢のまま真青な顔を引釣らして福太郎の顔を見上げていたが、中には二三人、顔や手足に血飛沫ちしぶきを浴びている者も居た。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
葉子は飛退とびのきました。海蔵寺三郎の眼の中に恐ろしい——気狂い染みた光を見たのです。
片手には鞄を提げて居るを見て治平は驚きましたから、にわかに飛退とびのき両手を突き
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
官人の、真前まっさき飛退とびのいたのは、あえおびえたのであるまい……衣帯いたいれるのをつつしんだためであらう。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
万平は材木の隙間から飛退とびのいた。その隙間をジイッと睨んで腕を組んだ。芝居の事も何も忘れたらしく真青になって考え込んでいたが、そのまま鉢巻を解いて眉深まぶか頬冠ほおかむりをした。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人は危うく飛退とびのきました。白刃はサッと間を断って、真弓の振袖の先をつんざきます。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
なお且つ飜々はらはらとふるいながら、飛退とびのくように、滝の下行く桟道の橋に退いた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
権次は飛退とびのこうとしました。お駒の見幕があまりに凄まじかったのです。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
呉羽は本能的に飛退とびのいて、そばの椅子を小楯に取り冷やかに笑う。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
石垣の草蒸くさいきれに、棄ててある瓜の皮が、化けて脚が生えて、むくむくと動出しそうなのに、「あれ。」と飛退とびのいたり。取留めのないすさびも、この女の人気なれば、話せば逸話に伝えられよう。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛退とびのく官兵の一人は、足を苅られて屏風びょうぶの如く倒れたのです。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
石垣の草蒸くさいきれに、ててある瓜の皮が、けてあしが生えて、むく/\と動出うごきだしさうなのに、「あれ。」と飛退とびのいたり。取留とりとめのないすさびも、此の女の人気なれば、話せば逸話に伝へられよう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なますになれと斬りかかります。平次はいたちのように飛退とびのきました。
みよしともへ、二人はアッと飛退とびのいた。紫玉は欄干にすがって身をわす。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう一度切っさきが触れると、二人は又サッと飛退とびのきました。
暑さの取着とッつきの晩方頃で、いつものように遊びに行って、人が天窓あたまでてやったものを、業畜ごうちく悪巫山戯わるふざけをして、キッキッと歯をいて、引掻ひっかきそうな剣幕をするから、吃驚びっくりして飛退とびのこうとすると
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悲鳴をあげて飛退とびのきました。
身代りの花嫁 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
みよしともへ、二人はアツと飛退とびのいた。紫玉は欄干らんかんすがつて身をはす。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
飛退とびのひまに雀の子は、荒鷲あらわしつばさくぐりて土間へ飛下り素足のまま、一散に遁出にげいだすを、のがさじと追縋おいすがり、裏手の空地の中央なかばにて、暗夜やみにもしるき玉のかんばせ目的めあてに三吉と寄りて曳戻ひきもどすを振切らんと
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛退とびのくやうに、滝の下行く桟道さんどうの橋に退いた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「わい、」と叫んで、饂飩屋は舞台を飛退とびのく。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あッというて飛退とびのいたが、それも隠れた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あツといふて飛退とびのいたが、それかくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
美少年びせうねんが、なん飛退とびのきもしようことか。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は吃驚びっくりして飛退とびのいた。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)