うかゞ)” の例文
然れどもわづかに現在の「生」をうかゞひ知ることを得るなり、現在の「生」は夢にして「生」の後がなるべきや否や、吾人は之をも知る能はず。
遥か上の方で難かしい顔をしてるらしいのが仰向くとやつとうかゞはれます。奥さんが怪物の大きなお腹に向つて言ひました。
怪物と飯を食ふ話 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
横山に額を切られた鹿島も、上田も、すきうかゞつて逃げた。同志のうちで其場に残つたのは深痍ふかでを負つた柳田一人であつた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「平河さんへはお寄りにならなかつたんでございますか。」とおくみは、さうした青木さんのお顔元をうかゞひながら聞いた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
敵打かたきうちなどといふことが多くそれにからんでゐる。これにも『世相』から動かされて、そこから出発して行つたかれの芸術の傾向をうかゞふことが出来る。
西鶴小論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
主人は暖い飯で満腹にもなつて、上機嫌じやうきげんだつた。Aさんと弟との関係の、妙にすつきりとうかゞはれるその話で、胸に何か生き/\と動くものを受けた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ある真夜なかの事、ジヤンは敵の偵察を言ひつかつて、独逸軍の塹壕から、やつと十米突メートルばかりの近間ちかままでうかゞひ寄つた。
けて遅く帰るようで有ったらば隙をうかゞって打果してしまうか、あるいは旨く此方こちらへ引入れて、家老ぐるみ抱込んでしまうかと申す目論見もくろみでございます。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
西行かすかにまなこを転じて、声する方の闇をうかゞへば、ぬば玉の黒きが中を朽木のやうなる光り有てる霧とも雲とも分かざるものの仄白く立ちまよへる上に
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と女は一寸の間、気配けはいうかゞつた後で云つた。「お上から廻はされてこんな処に迄化けて這入りこんでゐるのよ。」
車外しやぐわい猛獸まうじうは、る/\うち氣色けしきかわつてた。すきうかゞつたる水兵すいへいは、サツと出口でぐちとびらひらくと、途端とたん稻妻いなづまは、猛然まうぜんをどらして、彼方かなたきし跳上をどりあがる。
我が車の隙をうかゞひて走りぬけんとしたる時「ボン、ジヨオルノオ、アントニオ」(吉日よきひをこそ、アントニオ)と呼ぶは、むかし聞き慣れたるいまはしき聲なり。
こしらへることが大嫌ひで、何處にも女房や召仕をうかゞふやうな相手は無し、少しも心當りは無いのだが——
こゝろ變化へんくわするものなり、雪三せつざう徃昔そのかみ心裏しんりうかゞはゞ、糸子いとこたいする觀念くわんねん潔白けつぱくなること、其名そのなゆきはものかは、主人しゆじん大事だいじ筋道すぢみちふりむくかたもかりしもの
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
妻は其の返しとして良人の為めに茶をつぎ菓子を切る、其の有様を見るだけでも、私は非常な愉快を感じ、強いて其の裏面をうかゞつて、折角の美しい感想を破るに忍びない。
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼が私の先の言葉を聞いてからずつと默つてゐるので、私は眼を上げて彼の樣子をうかゞつてみた。彼の眼は私に注がれてゐたが、激しい驚きと鋭い穿鑿せんさくの色を同時に浮べた。
又自分は仏蘭西フランスの中流以上の家庭をうかゞふ機会のすくない為に、自分の知りたいと思ふ仏蘭西フランス婦人の最も優れた性格とその最近の生活状態とについて何等の資料を得てりません。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
客二 お秋ちやん、もう何時だい?(言ひながら阪井の方をうかゞふ様に注意してゐる)
疵だらけのお秋 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
程經てから、『折角の日曜だツたのに……』と口の中でつぶやいて、忠志ただし君は時計を出して見た。『兎に角僕はお先に失敬します。』と楠野くすの君の顏色をうかゞひ乍ら、インバネスの砂を拂つて立つ。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
うかゞふに彼の三人は有頂天うちやうてんに成りて遊び戯ふれ居しが其中の一人はかねて知りたる源八なり是は歌浦が客と聞きもとより心立こゝろだてあしき源八にて兩親のうき苦勞くらうし給ふもかれゆゑとは思へども敵にも有らぬ者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かへつたくちびるのやうにふくれたにくほこりまみれてくろへんじてた。棺臺くわんだいかしてひとこれうかゞへば恐怖おそれいだいてすこしづゝのたくるのであつた。女房にようばうたのだといつて村落むらものらずぐちたゝいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
うかゞひしれない
万古の大戯曲家シヱーキスピーアが「世には哲学を以ても科学を以てもうかゞひ見るべからざるものあり」と言ひたりしも
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
颶風ぐふうの勢少しくくじけたるとき、こゝに坐したる女子をみなごの、彼恢復せられたるエルザレム中の歌を歌ひ、耳を傾けて夫の聲のこれに應ずるや否やをうかゞひしこと幾度ぞ。
そしてわたしの顔色をうかゞひながら、「青木さんからお人が見えた」といふ。わたしは「青木」といふ発音だけでも、一種いとふべきものに対するいやな心持をあぢはつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
障子越しに長物ながもので突殺せば、大野惣兵衞から五十両褒美をくれるというので、慾張った奴で、剣術は少し心得ておりますが、至って臆病者でございます、怖々こわ/″\様子をうかゞいますと
此裂これでおすげなされとよびかくることもせず、これも立盡たちつくして降雨ふるあめそでわびしきを、いとひもあへず小隱こかくれてうかゞひしが、さりともらぬはゝおやはるかにこゑけて、のしのおこりましたぞえ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
上田立夫と四郎左衛門とは、時機をうかゞつて横井を斬らうと決心した。しかし当時の横井はもう六年前の一藩士では無い。朝廷の大官で、駕籠かごに乗つて出入する。身辺には門人や従者がゐる。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
お霜の寢息をうかゞつて、夜半に半次の中間部屋に忍び込み、しなれかゝるやうな恰好で、後ろから手を前へ廻し、デレデレして居る半次の胸、心の臟を突いた——奧方をやつた時と同じ手口だ
同作家の「婦人に寄語す」と題する一篇を読まば、英国の如き両性の間柄厳格なる国に於てすら、斯の如き放言を吐きし詩家の胸奥をうかゞふに足る可けむ。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
翁は暫く身を屈して、少女のさまをうかゞひ居たるが、やをら岸に登りて、きと眼を我姿に注ぎ、空中に十字を書し、彼大銅鉢だいどうはつを抱いて舟中に移し、己も續いて乘りうつれり。
父はしや預言者たる素質を有してゐなかつたにしても、つひに consacrés の群に加はることが出来ずに時勢の秘密をうかゞひ得なかつたのは、単に身分が低かつたためではあるまいか。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
うかゞう傳助の素頭すこうべを、すぽんと抜打ぬきうちにしましたが、傳助はい面の皮。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
下手人は恐ろしくへない奴だ。毎晩主人の樣子をうかゞつて、殺す折を
イザヤは其慷慨凛凄りんせいなる舌を其「時」によりて得たり、而して其義奮猛烈なる精神をもて、次ぎの「時」の民を率ゐたり、カアライルの批評的眼光を以てうかゞへば
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
いつは退いてくれるかと、老人夫婦は客の様子をうかゞつてゐるが、平八郎は落ち着き払つてゐる。心安こゝろやすい人が来ては奥の間へ通ることもあるので、襖一重ふすまひとへの先にお尋者たづねものを置くのが心配に堪へない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
余は此書の価直かちを論ずるよりも寧ろ此著の精神をうかゞふを主とするなり。即ち紅葉が粋と侠とを集めて一美人を作り、其一代記をものしたる中に、如何なる美があるを探らんとするなり。
芭蕉の葉色、秋風を笑ひてまがきおほへる微かなる住家すみかより、ゆかしきの洩れきこゆるに、仇心浮きてなかうかゞひ見れば、年老いたる盲女の琵琶を弾ずる面影凛乎りんことして、俗世の物ならず。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
想世界の敗将気はゞみ心疲れて、何物をか得て満足を求めんとす、労力義務等は実世界の遊軍にして常に想世界をうかゞふ者、其他百般の事物彼に迫つて剣鎗相接爾せつじす、彼を援くる者、彼を満足せしむる者
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
我は今無言なり、膝を折りて柱にもたれ、歯をみ、眼をめいしつゝあり。知覚我を離れんとす、死のはりは我がうしろに来りてをりうかゞへり。「死」は近づけり、然れどもこの時の死は、生よりもたのしきなり。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)