“裏屋(うらや)” の例文
江戸に下り余が家の(京橋南街第一衖)対(むか)ひの裏屋(うらや)に住しに、一日(あるひ)事の序(ついで)によりて余が家に来りしより常に出入(でいり)して家僕(かぼく)のやうに使(つかひ)などさせけるに
卑賤(ひせん)にそだちたる我身(わがみ)なれば初(はじ)めより此上(このうへ)を見(み)も知(し)らで、世間(せけん)は裏屋(うらや)に限(かぎ)れるものと定(さだ)め、我家(わがや)のほかに天地(てんち)のなしと思(おも)はゞ、はかなき思(おも)ひに胸(むね)も燃(も)えじを
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まことは藤井屋なり。主人驚きて簷端(のきは)傾きたる家の一間払いて居らす。家のつくり、中庭を囲(かこ)みて四方に低き楼あり。中庭より直に楼に上るべき梯(はしご)かけたるなど西洋の裏屋(うらや)の如し。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……ずゐぶん露地(ろぢ)を入組(いりく)んだ裏屋(うらや)だから、恐(おそ)る/\、それでも、崩(くづ)れ瓦(がはら)の上(うへ)を踏(ふ)んで行(ゆ)きつくと、戸(と)は開(あ)いたけれども、中(なか)に人氣(ひとけ)は更(さら)にない。おなじく難(なん)を避(さ)けて居(ゐ)るのであつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
探索(たんさく)せんと三河町二丁目の家主方(いへぬしかた)へ罷越其方店子山口惣右衞門と云へるは嘉川主税之助の浪人(らうにん)にて裏屋(うらや)に住居(ぢうきよ)と聞御用是ある間只今自身番屋(じしんばんや)まで召連れ來るべしと申し渡しければ家主(いへぬし)は畏(かしこ)まり候と惣右衞門へ其段申達しけるに惣右衞門は豫て覺悟の事もあれば年は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
江戸に下り余が家の(京橋南街第一衖)対(むか)ひの裏屋(うらや)に住しに、一日(あるひ)事の序(ついで)によりて余が家に来りしより常に出入(でいり)して家僕(かぼく)のやうに使(つかひ)などさせけるに
親類(しんるい)の顏(かほ)に美(うつ)くしきも無(な)ければ見(み)たしと思(おも)ふ念(ねん)もなく、裏屋(うらや)の友達(ともだち)がもとに今宵(こよひ)約束(やくそく)も御座(ござ)れば、一先(まつ)お暇(いとま)として何(いづ)れ春永(はるなが)に頂戴(ちやうだい)の數々(かず/\)は願(ねが)ひまする、折(をり)からお目出度(めでたき)矢先(やさき)
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
段々(だん/\)に喰(た)べへらして天秤(てんびん)まで賣(う)る仕義(しぎ)になれば、表店(おもてだな)の活計(くらし)たちがたく、月(つき)五十錢(せん)の裏屋(うらや)に人目(ひとめ)の恥(はぢ)を厭(いと)ふべき身(み)ならず、又(また)時節(じせつ)が有(あ)らばとて引越(ひきこ)しも無慘(むざん)や車(くるま)に乘(の)するは病人(びやうほん)ばかり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
秋(あき)より只(たゞ)一人の伯父(おぢ)が煩(わづら)ひて、商賣(しやうばい)の八百(やを)や店(みせ)もいつとなく閉(と)ぢて、同(おな)じ町(まち)ながら裏屋(うらや)住居(ずまゐ)に成(なり)しよしは聞(き)けど、六づかしき主(しゆう)を持(も)つ身(み)の給金(きうきん)を先(さ)きに貰(もら)へえば此身(このみ)は賣(う)りたるも同(おな)じ事(こと)
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
楊家(やうか)の娘(むすめ)君寵(くんちよう)をうけてと長恨歌(ちようごんか)を引出(ひきいだ)すまでもなく、娘(むすめ)の子(こ)は何處(いづこ)にも貴重(きちよう)がらるゝ頃(ころ)なれど、此(この)あたりの裏屋(うらや)より赫奕姫(かくやひめ)の生(うま)るゝ事(こと)その例(れい)多(おほ)し、築地(つきぢ)の某屋(それや)に今(いま)は根(ね)を移(うつ)して御前(ごぜん)さま方(がた)の御相手(をんあいて)
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
物(もの)いはねば狹(せま)き家(いゑ)の内(うち)も何(なん)となくうら淋(さび)しく、くれゆく空(そら)のたど/\しきに裏屋(うらや)はまして薄暗(うすくら)く、燈火(あかり)をつけて蚊遣(かや)りふすべて、お初(はつ)は心細(こゝろぼそ)く戸(と)の外(そと)をながむれば、いそ/\と歸(かへ)り來(く)る太吉郎(たきちらう)の姿(すがた)
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
といひかけて笑(わら)ひ消(け)す詞(ことば)何(なに)としらねどお施(ほどこ)しとはお情深(なさけぶか)い事(こと)さぞかし可哀(かあい)さうのも御座(ござ)いませうと思(おも)ふことあれば察(さつ)しも深(ふか)し花子(はなこ)煙草(たばこ)は嫌(きら)ひと聞(きゝ)しが傍(かたはら)の煙管(きせる)とりあげて一服(いつぷく)あわたゞしく押(おし)やりつそれはもうさま/″\ツイ二日計前(ふつかばかりまへ)のこと極貧(ごくひん)の裏屋(うらや)の者(もの)が難産(なんざん)に苦(くるし)みまして兄(あに)の手術(しゆじゆつ)に母子(ふたり)とも安全(あんぜん)では
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
寧(いつそ)お目(め)にかゝりしうへにて兎(と)も角(かく)もせんと心(こゝろ)に答(こた)へて妻戀下(つまこひした)とばかり當所(あてど)なしにこゝの裏屋(うらや)かしこの裏屋(うらや)さりとては雲(くも)掴(つか)むやうな尋(たづ)ねものも思(おも)ふ心(こゝろ)がしるべにや松澤(まつざは)といふか何(なに)か知(し)らねど老人(としより)の病人(びやうにん)二人(ふたり)ありて年若(としわか)き車夫(しやふ)の家(いへ)ならば此裏(このうら)の突當(つきあた)りから三軒目(さんげんめ)溝板(どぶいた)の外(はづ)れし所(ところ)がそれなりとまで教(をし)へられぬ時(とき)は
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)