よそお)” の例文
旧字:
わしはあの優雅ゆうがみやこの言葉がも一度聞きたい。あの殿上人てんじょうびと礼容れいようただしい衣冠いかんと、そして美しい上﨟じょうろうひんのよいよそおいがも一度見たい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
また、じりじりとあせってもならぬ。姿こそ、変生女性へんじょうにょしょうよそおっては居れ、胆は、あくまで猛々たけだけしいわたしでなければならぬ。眠ろう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「嫌ではあろうが、森啓之助の所へ帰って、しばらくすなおをよそおっていて貰いたい。いずれ近々ちかぢかには、拙者も阿波へ渡るつもりだが」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝氏は真実しんじつの攘夷論者に非ざるべしといえども、当時とうじいきおいむを得ずして攘夷論をよそおいたるものならん。その事情じじょうもって知るべし。
しかし、それが、所謂いわゆる恋愛らしい、形を採ればとるほど、ぼくは恋愛をよそおって、実は、損得を計算している自分に気づくのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ある小鳥のようなわざとらしい落ち着きのない態度と、愛嬌あいきょうよそおってはいるがしとやかさと親愛さとに富んだ話し方をそなえていた。
三十分ばかり、用もないのに机にもたれて、手紙をかくような風をよそおっていた私は、とうとう根負けがしてしまって声をかけました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とかく俳人などという形式のみ殊勝しゅしょうぶり、心にもない隠遁生活をよそおうたりするものが多いが、それは芭蕉のこの一句に愧死きしすべきである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そのうわさを聞き伝えた奴国の宮の娘を持った母親たちは、おのれの娘にはなやかなよそおいをこらさせ、髪を飾らせて戸の外に立たせ始めた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それをかぶっている人の無頓著をよそおう態度には不釣合なほど、鋭さと細心さと嫌悪とを強く集中させて、彼を横目にじっと見た。
しかし余り無造作むぞうさに解決出来る場合だけは、——保吉はいまだにはっきりと一思案ひとしあんよそおった粟野さんの偽善的ぎぜんてき態度を覚えている。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
黒衣覆面の男のよそおいして、両国のお角の宅を出し抜き、こうしてここまで辿たどって来たお銀様。ここでまたも方角を失いました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
酒はいくらでも飲むが、女には無関心なふうをよそおっていた。どんな生活をしているのか、住所は絶えず変って、一定していないようであった。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だが、しかし、その偵察機の上にも、同じ悲憤ひふんに、唇を噛みしめる軍人たちが、いて冷静をよそおって、方向舵ほうこうだあやつっていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あれども無きがごとくによそおえ。昂然こうぜんとして水準以下に取り扱え。——気がついた男は面目を失うに違ない。これが復讐ふくしゅうである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かぎの手になっている長い廊下を右の方へはいって行く。それは婚礼の行列であって花嫁姿によそおった芳江姫の美しい姿が列の先頭に立っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
世間或は人目をはばかりて態と妻を顧みず、又或は内実これを顧みても表面に疏外そがいの風をよそおう者あり。たわいもなき挙動なり。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼は頬をややこわばらせ、それでも何気ないふうよそおいながら、無意味な視線を隊長と高城伍長の上にかたみに移していた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
かれは、しかし、あくまでも眼を先生と恭一とのほうにそそぎ、熱心に二人の話に聞き入っているかのようによそおった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わかい、派手はでやかなよそおいをしたおんなたちが、なまめかしいはやしごえ山車だしくと、山車だしうえ自分じぶんのおじいさんは、ゆらゆらとあかかおをしてられました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お蓮様も丹波も在宅のようによそおって、屋敷を明けていることはひた隠しにかくしているのだが、なんの交渉もないとはいえ、またいかに広い屋敷内でも
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、急いで素知らぬ顔をよそおって、耳を傾けていた。宴は殿下を中心として七時半から始まって、十時に終った。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
いろいろによそおわせることが流行はやりましたが、お春は金沢町のピカ一だけに、今年は思い切って手古舞姿になり、町内の若い師匠や、容貌きりょう自慢の娘達三四人と
じゃ、偶像は、かね乃至ないし、土。それを金銀、珠玉しゅぎょくで飾り、色彩をよそおったものに過ぎないと言うんですか。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一月ばかりの間、彼は、運転を覚えたばかりの嬉しさに、用もないのに自動車を乗り廻している、というていよそおいつつ、無闇と彼の所謂自動車放浪を試みた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
同様に現在の今日只今も、何一つ知らぬかの如くよそおうて、私のてのひらに乗っかっている……が……しかし……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
豹一の眼が絶えず敏感に動いていることや、理由わけもなくぱッとあかくなることから押して、いくら傲慢をよそおっても、もともと内気な少年なんだと見抜いていたのだ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
かの岩間に咲く蓮馨花さくらそうは人に見えざるがゆえに彼女は紅衣こういを以てよそおわざるか、年々歳々人知れずしてこうを砂漠の風に加え、色を無覚の岩石に呈する花何ぞ多きや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その舞踏室のよそおいからまだなかばも夜の休みのために解いてなく、あまたのダイヤモンドのちりばめられている間に、若いヒヤシンスのそれのような捲毛となって
よそおいをこらした若い女の全身像である。修整もあまり上手でなく、いくらか固い表情ではあるが、キリヽとしたところのある豊かな顔だちが、まず彼の眼を惹いた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
彼は、お前に降伏したような様子を見せながら、お前を肉体的に、征服しようとしているのだ。かぶとを脱いだような風をよそおいながら、お前に飛び付こうとしているのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
同伴者は皆互いに見知らぬふうよそおえるなり、その退屈さと心配さとはなかなか筆紙に尽しがたし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
客観的な状況では、不慮の死だが、じつは、アクシダントをよそおった計画的自殺だったので、場所や条件を、実地について、相当、長い間研究したことが、手紙に書いてあった。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まだこの村にこんな私の知らない部分があることを心のうちではおどろきながら、しかし私はそのへんをいかにも知りいているようによそおいながら、さっさと彼女を導いて行った。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
自分が魚餌えさはりよそおいつけた時であった。偶然に少年は自分の方におもてを向けた。そして紅桃色こうとうしょくをしたイトメという虫を五匹や六匹ではなく沢山に鉤に装うところを看詰みつめていた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかしこの世には感謝すべき仕組みが用意されているのであります。込み入ったよそおいのものよりは、単純なものの方に、かえって美しさがゆたかに現れるようにしてあるのであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一枚々々熱心に自分への宛名を探す海獣たち——僕もこうしていまその一人をよそおってるんだが——この時は、彼らも完全に良人おっとであり、父であり、息子であるだろう! それだのに
夕方近くあかこを取ることをよそおって、復一はこそこそと崖の途中の汚水の溜りまで登って、そこでうずくまった。彼は三十前なのに大分老いさらした人のような身体つきや動作になっていた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
真白きよそおいをして、薄いからかさをさして、「しょんぼりとかあいらしく」たたずんだあの不思議にえんな姿は、いかなるロシア舞踊の傑作にも見られない特殊な美しさを印象しはしないか。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
あるいは平気をよそおうて居たのか実際呑気のんきであったのか分らんが、一体チベット人は何か大事に臨むとごく度量が据って居るかのように横柄おうへいくさく構えて居る風が誰にもあるようです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
主翁は女房に悟られまいと思って、平気をよそおうて行火あんかを出てもとの処へ坐った。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
初めて恐怖がマタ・アリを把握したが、さり気なくよそおうことには慣れている。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
お登和嬢は明白あらわにそれとも言い兼ね「イイエ、別にどうも致しませんが何だか気分が悪くって」中川「何で気分が悪い」お登和嬢「イエモー大概なおりました」といて元気をよそおいて兄の懸念を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
が、彼はこんどはいきなり冷水をぶっかけられたように、ゾッとしはしたが千二百十三、千二百十四と、数珠じゅずをつまぐるように数え続けた。そして身動き一つ、睫毛まつげ一本動かさないで眠りをよそおった。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
みちのかたわらなる草花はあるいは赤く或は白い。金剛石こんごうせきかた滑石かっせきやわらかである。牧場は緑に海は青い。その牧場にはうるわしき牛佇立ちょりつし羊群ける。その海には青くよそおえる鰯も泳ぎおおいなる鯨もうかぶ。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と思い違いをよそおったが、そんな頭の悪い僕ではない。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
時はお前のため花のよそおいをこらしているのに
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
よそおっているのではないのですか
君がよそお
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
典厩信繁、その日のよそおいは、の花おどしの鎧に、鍬形くわがたのかぶとを猪首いくびに着なし、長槍を小脇に、甲斐黒の逸足にまたがっていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)