つや)” の例文
旧字:
オリヴィエはただちに、その少女の姿を思い出した——大きな額、後ろに引きつめられたつやのない髪、とびだしてる濁った灰色の眼。
磨きあげたような小麦色の肌、切れ長の澄みとおった双眸そうぼうつやつやと余るような髪を武家風に結った、二十ばかりの美しい女である。
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二番目には寿美蔵延若に、谷崎潤一郎作の小説の「おつや殺し」をさせることになった。これは芸術座が新富座しんとみざで失敗した狂言である。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
小肥こぶとりで背たけは姉よりもはるかに低いが、ぴちぴちと締まった肉づきと、抜け上がるほど白いつやのある皮膚とはいい均整を保って
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
とこにも座敷ざしきにもかざりといつてはいが、柱立はしらだち見事みごとな、たゝみかたい、おほいなる、自在鍵じざいかぎこひうろこ黄金造こがねづくりであるかとおもはるるつやつた
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私が幾人も残してく子供を育てヽ下さるであらうと依頼心をあのかたおこすやうになつたのもおつやさんの言葉がいんになつて居るのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
色は浜風に少しは焼けているが、それでも生地は白いと見えて、浴衣の合せ目からチラと見える胸元は、磨ける白玉のつやあるに似たり。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
すなわちこの句は現在の平和な光景を表しておきながら同時に一つのつやっ気のある妖怪趣味を描き出しているところが生命であります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
むす子があとから連れて来た青年は、むす子より丈が三倍もありそうな、そして、髪もほおも眼もいろつやの好いラテン系の美丈夫だった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
実際、康子は下腹の方が出張って、顔はいつのまにか二十代のつやたたえていた。だが、週に一度位は五日市町の方から嫂が戻って来た。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ことに国語のうるわしいにおい・つや・うるおいなどは、かつて我々の親たちの感じたものを、今もまだ彼らだけは感じているように思う。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こう差し向かいで猫板の上を突ついているのだが、里好師がすっかり解脱げだつしているだけに、双方すこしもつやっぽい気は起こらない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何のつやもない濁った煙色にり、見る/\天穹てんきゅうい上り、大軍の散開する様に、東に、西に、天心に、ず、ずうと広がって来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたくしの方は素話すばなしで、浜町の太夫さんの粋な喉を聴かせるなんていうわけには行かないんですから、お話につやはありませんがね
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし毛のつやや、顔の表情から推して見て、大分老犬であるということは、犬のことを少しばかり知っている私には推察出来た。
顔からも四肢のつやからも、張りや脂肪の層がすでに薄らぎ消えていて、はや果敢はかない、朽ち葉のような匂いが立ちのぼっているのだった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
裏へ出る暗がりに、無雑作にかけてあるムシロのすそから、子供のように妙に小さくなった、黄黒く、つやのない両足だけが見えた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
荒っぽい原石から綺麗なつやを有った品になるまでの手間は大変なものでありましょう。「玉みがかざれば光なし」とはよい言葉であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
脇差といってもなかなか本格の渋いこしらえがしてあって、特につやを消して道中差にこしらえたもの、一見して相当の品ではあるらしい。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駕屋だまりの羽目板には何本もの、つやの出たき棒が、立てかけてあった。それを持つと、繁は、九紋龍のように、躍り出して
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とくさをかけてつやぶきんをかけて、根つけばかり作るのは、結構なことではないからなあ。……お松坊お松坊何を磨いているな?
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大柄ではあるが、ゆったり椅子にもたれてそう云っている慎一の眼差しのなかには、思慮のこまやかさと心の平らかさを語るつやが籠っていた。
杉垣 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
鬼灯色ほおずきいろの日傘をさし、亀甲かめのこうのようなつやをした薔薇ばら色の肌をひらいて、水すましのように辷っては、不思議なうすいあいばんだ影を落していた。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その当時「その面影おもかげ」は読んでいなかったけれども、あんなつやっぽい小説を書く人として自然が製作した人間とは、とても受取れなかった。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いまはこんなに、からだが汚れて、葉のつやも無くなっちゃったけれど、これでも先日までは、次々と続けて十輪以上も花が咲いたものだわ。
失敗園 (新字新仮名) / 太宰治(著)
地味な柄の光らぬ単衣ひとえ物。黒絽くろろの帯に、これだけは思いきって派手な縫い模様。上品でしかもつややかなえりの好み、くちにおい。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鈍重な感じのする大きな厚い葉に、夏中は日光が鋭く照返したが、今はその葉もつやと光を失って、黄色く乾いたのは力なく土に落ち始めた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
奥様があのつやった目を細くなすって葡萄酒を召上るさまも、歯医者が例の細い白い手を振って楽しそうに笑うさまも、よく見えました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つやっぽいところを隣から指を食わえて聞かされちゃたまらないよ」とじょうだんを言いながら、私は隣の室へ行きました。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
つやめかしくパッとくりあげられたままであり、下の抽斗ひきだしが半ば引き出されて、その前に黄楊櫛つげぐしが一本投げ出されているではございませんか。
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それでものあつて誘かすやうに、其の柔な肉付に、つやのある頭髪かみに、むつちりしたちゝに、形の好い手足に心をき付けられた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
飛んでもない、——あの人は大きいお孃さんに夢中ですよ、——尤もお孃さん達の母親の、越後屋のもとの内儀のおつやさんを
つやッぽい節廻ふしまわしの身にみ入るようなのに聞惚ききほれて、為永ためなが中本ちゅうほんに出て来そうなあだ中年増ちゅうどしまを想像しては能くうわさをしていたが、或る時尋ねると
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
新しい絹糸を巻いた赤いマリはランプの光りを受けてつややかな色をしていねの手にのせられている。そばで、フサエは小さくなって坐っている。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
しかし柔らかな、円い、つやっぽい唄であれば、自分はいきなりその濃い雰囲気のなかへ引き入れられて行くように感ずる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
加工が上手じょうずであるから、肌がなめらかでつや々とし、質に軽い脂肪を含んでいて、齒に絡まるほどのねばりを持っている。
蜻蛉返り (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
世話物、廓咄、つや物、道楽の咄には、紋付袴はいかにも野暮で、咄の邪魔になり、とりわけ袴は工合の悪い場合が多い。
噺家の着物 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
く来てくださいました。まつて居たんですよ。サアどうかあがつてくださいましな。』と低いつやのある声は昔のまゝである。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いずれも美しい虫を佩びる人の容がつや多くなり、根相の物を食えば勢を強くすてふ同感説に基づいて大いに行われたが
このあかりじゃはっきり見分みわけがつくめえが、よくねえ。お大名だいみょうのお姫様ひめさまつめだって、これほどつやはあるめえからの
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ちん大佐は洋風の机の前で書類を調べていた。孫軍曹を見ると、つやのある、右と左と大きさの違う眼をぐっと開いて
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
阿母かあさん阿母さん」、と雪江さんは私が眼へ入らぬように挨拶もせず、華やかな若いつやのあるい声で、「矢張やっぱり私の言ったとおりだわ。明日あしたらくだわ。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かの高きにいましてきはみなくかつ言ひ難きさいはひは、恰も光線のつやある物に臨むがごとく、馳せて愛にいたり 六七—六九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
生々なまなましくどぎつい感じのために、あまり見ばえがしないばかりでなく、一般にこの髪の色をした人間は、皮膚のつやもわるく、ソバカスが多くて、その上
としは二十六七にもなろうか。髪はさまでくしの歯も見えぬが、房々と大波を打ッてつやがあって真黒であるから、雪にも紛う顔の色が一層引ッ立ッて見える。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
帰りしな、林檎りんごはよくよくふきんでいてつやを出すこと、水密桃すいみつとうには手を触れぬこと、果物はほこりをきらうゆえ始終掃塵はたきをかけることなど念押して行った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
白髪交じりの赤茶けたきたない金髪を持っていたが、爪の平たいつやのある大きな手でそれを時々かき上げていた。
与平はコップを持っていた手を中途ちゅうとでとめて、じっと宙を見ていた。大きい耳がたれさがって老いを示していたが、まだ、狭い額には若々しいつやがあった。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その胴のぴかぴかとしたつやや、まわりの美しい顔や葉を彫った立派なふちなどを見て感心することも出来ました。
もっと石膚がつややかに、もっと純白雪のように磨き上げられた円柱が並列して、円形の屋根を支え、円柱の台石に飾り付けられた裸体女神の立像や、座像や
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)