はく)” の例文
小菊がとこに挿してある。掛けたあの人の銀短冊のはくの黒くなつたのが自身の上に来た凋落と同じ悲しいものと思つて鏡子は眺めて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
各〻から渡せといっても、かえって小次郎の武技にはくを付けるようなもので、そういう勇者なればなおさら、渡せぬと出るに違いない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に、初てのお通夜の晩に、菩提寺ぼだいじの住職がお説教をしたが、その坊主は自分の説教にはくを附ける為か、英語を交じえたりした。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
水ははくのように光っていた。夜光虫の燐の火が、燃え立つばかりに輝いていた。水は微動さえしなかった。それが広茫と湛えられていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、この一廓ひとくるわの、徽章きしょうともいっつべく、峰のかざしにも似て、あたかも紅玉をちりばめて陽炎かげろうはくを置いたさまに真紅に咲静まったのは、一株の桃であった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ願わくは上人のわが愚かしきをあわれみて我に命令たまわんことをと、九尺二枚の唐襖からかみ金鳳銀凰きんほうぎんおうかけり舞うそのはく模様の美しきも眼に止めずして
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ねえ、親分、なおりしだい引っくくって恐れながらと突ん出すおつもりでがしょう。そうすれゃまた一つ、いろは屋の親分にはくが附こうというものさ
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
背を平らにって、深きくれないに金髪を一面にわせたような模様がある。堅き真鍮版しんちゅうばんに、どっかとクロースの目をつぶして、重たきはく楯形たてがたに置いたのがある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、そのがついたり、金銀のはくがついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、たきぎしろに売っていたと云う事である。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二十年前に、上野の何とか博覧会を見て、広小路のぎゅうのすき焼きを食べたと言うだけでも、田舎に帰れば、その身に相当のはくがついているものである。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それはこのアルファ線をごく薄い金属はくに当てて、アルファ線が四方に散乱する有様を研究したことなのでした。
ロード・ラザフォード (新字新仮名) / 石原純(著)
冤鬼えんきも訴えに来たのだろうということになると、彼の技芸にもはくが付くわけで、万事が好都合、李香にとっては幽霊さまさまと拝み奉ってもよいくらいだ。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
売れっ子の作者ともなれば、そうする必要がなくともたまには留守を食わせたり付きっきりで書かせられたりするのがはくである。——迎えに来ちゃあいけねえ。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
翌年ハイドンは栄誉と名声とをになってウィーンの新居に帰ったが、イギリスでつけたはくがウィーンにまで重大な影響を及ぼし、ウィーンの人達はこの時あわてて
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
床と云わず、四方の壁と云わず、あらゆる反物の布地の上に、染めと織りといとはく絵羽えばとの模様が、揺れ漂い、なみのように飛沫ひまつを散らして逆巻きわたっている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
誰某たれそれはいが、行詰ゆきづまつたてに、はくをつけにくのと、おなじだとおもはれると、大変たいへん間違まちがひなんだ。」
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
彼がはっきりと見たものは、暗い所ほど尚よく光る裲襠の金絲の縫い模様と小袖のはくの色とであった。
今更スカラ座に出てはくをつける必要はなく、従ってスカラ座を問題にしていなかったのに、日本に帰って来たら猫も杓子もスカラ座、スカラ座と神様扱いにしている
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
あるいは黒びろうどに白銀で縫いはくしたような生きたギリシア人形模様を壁面にながめたりする。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
中学生の豹一は自分には許嫁いいなずけがあるのだと言い触らした。哀れな弱小感にはくをつけたのだった。周囲を見わたしてみて誰も彼も頭の悪い少年だとわかると、ほっとした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
 (金銀泥及はく)泥は大変美しい装飾的効果を現わすものです、私はよく金泥で署名をします。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それにやることも当世とはだいぶ趣が違っていたし、それを渡世とせいにしていた人の数も、いまに比べるとぐっと少なかったようだから、なにやらはくがつくというものである。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「この籠は金のはくで塗った籠でございますね、松もほんとうのものらしくできた枝ですわ」
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もともと尾張中村のいやしい土民生れでございますから、一族郷党に優れた取立てがあるというわけではございませんし、自分の身に何のはくがついているわけではございません
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日こんちは、葬儀社でござい」等と言えば叩きのめされる危険がある。そこで土屋君も露骨には答え兼ねて旁〻かたがた多少のはくをつけるために、日頃取引関係のある陸軍を担ぎ出したのだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
西欧民族たる諸君は、イサベラ女王のきたない下着からフランス皇太子の厠椅子かわやいすに至るまで、威厳のはくをつけたあらゆる汚物を、流行と上品とのうちに混入せしめたではないか。
この青年のほうは鉱山の視察しさつをとげて、国にたんとみやげ話を持って帰って、かれがいまツルイエールの鉱山でしめている重い位置いちにいっそうのはくをつけようというのであったし
それを当り前のこととして仲人は何度も足を運び、嫁の方ではむりに望まれて、とはくをつけてとつがされるのである。そういうしきたりから考えればいねはたしかにふずくり嫁であった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
幾年もの引きつづいた成功によってはくをつけられたものか、あるいは少なくとも、何か官僚的権威の公然の印をおされたものかでなければ、何一つ思い切って加えることもできなかった。
若狭は狭い国でありますが、「若狭塗わかさぬり」で名を広げました。小浜町おばままちがその中心地であります。赤や青や黄や黒などの色漆いろうるしと、金、銀のはくを塗り込んで、これをぎ出したものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
清「いえ、見苦しゅうございまして、此の通り粗木そぼくを以てこしらえましたので、中々大夫さまなどがお入来いでと申すことは容易ならんことで、此のいえはくが付きます事ゆえ、誠に有難いことで」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは幸野楳嶺かうのばいれいふくを持合せて居る男が、一度手隙てすきにその画を鑑定して貰ひ度いと言つて来たから起きた事なので、はくをつけるといふ事は、滅多に人に会はない事だと思つてゐる栖鳳氏も
三十圓どりの會社員の妻が此形粧きやうさうにて繰廻しゆく家の中おもへば此女が小利口の才覺ひとつにて、良人がはくの光つて見ゆるやら知らねども、失敬なは野澤桂次といふ見事立派の名前ある男を
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
中には沼南が顔に泥を塗られた見にくさをはくでゴマカそうとするためのお化粧的偽善だというものもあるが、偽善でも何でも忘恩の非行者に対してこういう寛容な襟度を示したものは滅多にない。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ちりばめ言語ごんごぜつせし結構けつこうの座敷にてまづ唐紙からかみは金銀のはく張付はりつけにて中央には雲間縁うんげんべりの二でふだいまうけ其上に紺純子こんどんすの布團を二ツかさかたはらに同じ夜具が一ツ唐紗羅紗たうざらさ掻卷かいまきひとツありでふの左右には朱塗しゆぬり燭臺しよくだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これがほんとうにはくのはげるというやつさ。
きぬ/″\はよいの踊のはくを着て 芭蕉
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
はくおきもせてはここに
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
金のはくでも撒いたようである。家々を越して束のような焔と、髪の毛のような黒煙とが、うねりにうねって上がっている。走る走るその境地を走る。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
舊記によると、佛像や佛具を打砕うちくだいて、そのがついたり、金銀のはくがついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、たきぎしろに賣つてゐたと云ふ事である。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その癖、女はこの書物を、はく美しと見つけた時、今たずさえたる男の手からぎ取るようにして、読み始めたのである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、同役はじめ上下の評判は、この婚礼についても、藤吉郎にはくをつけたものにこそなれ、悪い声は生まなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんたのやりかたははくげちゃったんだもの、教えられたことは知ってても、そのとおりに繰り返すだけじゃないのさ、だから初めにはびっくらしたけれど
フランスへ行くのも、将来その身にはくをつけたいためです。だから、あの抜け目の無い、ポローニヤスだって、ゆるしたのです。君には、そんな必要がありません。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
桜の春、また雪の時なんぞは、その緋牡丹の燃えた事、冴えた事、葉にもこけにも、パッパッと惜気おしげなく金銀のはくを使うのが、御殿の廊下へ日のしたように輝いた。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あごの大きいきばの間にははくを置いた珠を挾んでありましたが、龍の身體はどうせ一本の木へきざんだのではなく、板を集めて寄木よせぎにしたもので、口から腕を入れると、狹い乍ら
「時代のはくをつけた古代の婦人よ、近くに寄りたまえ、汝の顔をわれにながめしめよ!」
郷党が寄ってたかって人間以上にはくをつける、あの一致する気風は薩摩の長所だ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうしてせっかく接待のために出してある茶や菓子の上にはくの雪を降らせる。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三十ゑんどりの會社員くわいしやゐんつま此形粧このげうそうにて繰廻くりまわしゆくいゑうちおもへば此女このをんな小利口こりこう才覺さいかくひとつにて、良人おつとはくひかつてゆるやららねども、失敬しつけいなは野澤桂次のざわけいじといふ見事みごと立派りつぱ名前なまへあるをとこ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)