理窟りくつ)” の例文
資生堂の暖かそうな飲料のみものは、理窟りくつなしに捨ててしまって「違っているぞ」と承知しながら、その方へむかって歩みを運ぶのであった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「いずれ、その内持ってくつもりだがね。——意気地がなくって、理窟りくつがわからなくって、個人としちゃあ三文の価値もないもんだ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそれなら尚更なおさらわたくし申上もうしあげることがよくおわかりのはずで、神社じんじゃ装置そうちもラジオとやらの装置そうちも、理窟りくつ大体だいたいたものかもれぬ……。
さうしてきまつた理窟りくつ反覆はんぷくしてかせてるうちにはころりとちてしまふといふ呼吸こきふ内儀かみさんはつてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その言い分にも理窟りくつがないわけでもなく、あの病気のひどい絶頂に、夜昼をわかず使った氷代だけでも、生やさしい金ではなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それはもう幾歳いくつになつたから親に別れて可いと理窟りくつはありませんけれど、いささか慰むるに足ると、まあ、思召おぼしめさなければなりません
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
相手は、意のままである。下手に、自然を装い、理窟りくつを言って相手に理解させ安心させようなどと努力すれば、かえっていけない。
座興に非ず (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは丁度ちやうど日本にほん國號こくがう外人ぐわいじんなんなんかうとも、吾人ごじんかならつね日本にほん日本にほんかねばならぬのとおな理窟りくつである。(完)
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
愛の冷却した夫婦の結合は不自然であるとか虚偽であるとかいう勝手な理窟りくつを附けて不条理極まる破縁を不人情とも没義道もぎどうとも思わず
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「お母さん、もう戦争なんて、ありませんよ。理窟りくつから云ったって、日本は戦争をしない方が勝ちです。それが世界の動きなんだから」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たといその二品が桐田の家にあろうとも、こっちの知ったことではないと、理窟りくつには合わんけれど、やつはまずそう言い張るのだ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
理窟りくつを申していると際限もありません、が、私が此処ここ申上もうしあいのは、夢は従来の心理学者が発表したような、簡単な睡眠中の刺戟しげき
なるほど、あなたのおっしゃることはただそれだけ伺っていれば理窟りくつが通っています。何処どこにも切り込むすきがないように聞えます。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この先生の言としては怪むにらない、もし理窟りくつを言って対抗する積りなら初めからこの家に出入でいりをしないのである。と彼は思い返した。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「興に依りて之を作る」と左注にあるが、興のままに、理窟りくつで運ばずに家持流の語気で運んだのはこの歌をして一層なつかしく感ぜしめる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もちろん樗牛全集の一巻、二巻、四巻などは、読みは読んでもむずかしくって、よく理窟りくつがのみこめなかったのにちがいない。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分が従来服従しきたったところのものに対して或る反抗を起さねばならぬような境地(と私は言いたい。理窟りくつすべて後から生れる者である)
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
体験しましたわれわれの悲しみは理窟りくつで説明も何もできません。院にもあなたの御様子をよく申し上げます。必ず御同情をあそばすでしょう
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼はいわゆる用心深い人で、笑うのはしっかりした理由があるときだけ、すなわち、理窟りくつと法則とにかなったときだけである。
芸人としての理窟りくつを言えば、それはたくさんあることはある。人を笑わせるには自分から笑っていては利き目がないということもその一つだ。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
ただあのようなおどけたことをしている人間がいつでもそれ相当に苦心をして造った理窟りくつに身を捧げているのが賛成出来なかっただけである。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
理窟りくつや議論はどうにもあれ、宇宙の或る何所かで、私がそれを「見た」ということほど、私にとって絶対不惑の事実はない。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
行商人はそうした取引にいちいち叮嚀ていねいに、何か理窟りくつをつけては、決して高くないとか、品が違うなどと言いくるめてしまう。
たいがい弱いほうに理窟りくつがあるに相場そうばがきまっているから、そこでこの夫婦喧嘩師の茨右近と知らずのお絃は、いつも大勢を向うにまわして
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
清盛は些細な罪で有能な官吏を流罪にするのは当をえた政治ではないなどと妙な理窟りくつをこね、基道を突っついてしつっこく法皇にせっつかせた。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
三之丞が云うだろう理窟りくつはもうおよそ察しているから、わざと念を入れて三左衛門をやったのだが、果して来るかどうかと思うと落着きがない。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
全く絵の仕事位割切れない、理窟りくつ通りに行かぬものはあるまい。正道もあてにならず邪道もまた必ずしも軽蔑けいべつに値しない。
と病中の無聊ぶりょうにかかる研究心を起せしと見ゆ。中川は何事にも一応の理窟りくつを組立つるくせあり「イヤ、食合せの禁忌きんきという事は必ずあるべき事だ。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし少し理窟りくつを追って考えてゆくならば、無生物からしてひょっくりと生物が生まれてくるはずのないことは、むしろ当然であると思われるのです。
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
疑心暗鬼ぎしんあんきから、ついそこへ参ったというのは、理窟りくつでは説明の出来ない、何かの感応があったのでございましょうか。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人類は、後を行く者が、前を行くものよりもすぐれているべきだと思った。理窟りくつはない、まさに親馬鹿の発露はつろである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
それは単に理窟りくつの上の話であり、葛巻の芸術に圧倒されたわけでもなければ、わが芸術に自信を失う、絶望した、ということと全然意味が違っている。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
片手にげてる継続問題ぢやありませんか、其様そんな乾燥無味な理窟りくつで、の多感多情の藤野を殺すことは出来ませんよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
世のいろいろの宗教はいろいろの道をたどりてこれを世人せじんいているが、それを私はあえて理窟りくつを言わずにただ感情にうったえて、これを草木でやしないたい
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
『どう理窟りくつをひねっても、泥棒をやっても仕方がないとする理由は見つからないね。何しろ自分が生きるために、果てなく人を犠牲にしてゆくんだからな』
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面白おもしろげなる顔色がんしよく千番せんばんに一番さがすにも兼合かねあひもうすやらの始末しまつなりしにそろ度々たび/″\実験じつけんなれば理窟りくつまうさず、今もしかなるべくと存候ぞんじそろ愈々いよ/\益々ます/\しかなるべくと存候ぞんじそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
だから、その結び付きを知らせてやりさえすれば、清川や青年団などの理窟りくつをみんなは本能で見破ってしまう。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「書生の理窟りくつじゃ。ま、理窟はよい、わしが負けておこう。今、兵頭が参ったなら、改めて話すことがある」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それはそうかもしれない。が、ようするに、理窟りくつは理窟だ。実際には、この警察の広告のために、とうとうあの思いがけない結果となってしまったではないか。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ここにこそおれの学ぶべきところがあるのかもしれないぞ、と、悟浄ごじょうはへんな理窟りくつをつけて考えた。俺の生活のどこに、ああした本能的な没我的な瞬間があるか。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
われわれは、そんな宇宙がどうの、不生不滅がどうの、空がどうの、般若がどうのというような、自分らの生活と、全く縁の遠い理窟りくつを、聞こうとは思わないのだ
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
仕様のない若旦那わかだんなだ。こんな晩に東京から、飛び出して来て、旦那をとっちめるなんて、理窟りくつのねえ事を
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こうして一つ一つをとってみると様々な考証や理窟りくつはつくが、しかし四つそろったところを眺めると、時代の相違を忘れるほど見事な調和を示しているのが不思議だ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
何事も理窟りくつっぽく、数学的に物を考える末造がめには、お常の言っている事が不思議でならない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
その娘は腹違いの妹の学校友達で、お新と言って、色の黒い理窟りくつ好な異母妹いもうととは大の仲好だった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何もあの小僧が居なけあ船が出ねえって理窟りくつもあるめえし……おめえんとこの船長おやじがいくら変者かわりものだってそんな無鉄砲な酔狂をして乗組員のりくみを腐らせるような馬鹿ばかでもあんめえ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
花岡の声 ……なんだか知らないが、そんな理窟りくつはどうでもいいじゃないか。理窟が多すぎる。
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
非合理な事実をそのままにしておいて、かえってそれを合理化する理窟りくつを考え出すこともある。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
それにまた理窟りくつで自分をやりこめるほどゴットフリートが利口りこうだなどとは、思いもよらないことだった。かれはやり返してやる議論ぎろん悪口あっこうを考えたが、思いあたらなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
かうふです。我々われ/\這麼格子こんなかうしうち監禁かんきんしていてくるしめて、さうしてこれ立派りつぱことだ、理窟りくつことだ、奈何いかんとなれば病室びやうしつと、あたゝかなる書齋しよさいとのあひだなん差別さべつもない。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)