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ただ
ふりがな文庫
“
爛
(
ただ
)” の例文
この
創痍
(
きず
)
多き胸は、それを想うてだに堪えられない。この焼け
爛
(
ただ
)
れた感情は、微かに指先を触れただけでも飛び上るように痛ましい。
雪の日
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
酒で
頭脳
(
あたま
)
の
爛
(
ただ
)
れたようになっている芳太郎は、汽車のなかでも、始終いらいらしていた。そして時々独り
語
(
ごと
)
のような棄て鉢を言った。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
むしろ凄惨な男性の性慾、暴力、所有慾、
茲
(
ここ
)
にしてまた引っ裂かれる女性の犠牲死体が、じりじりと日光と砂熱とに焼け
爛
(
ただ
)
れるのだ。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
振り返ると、油で煮締めたような四十五六の古女房が、取乱し切った姿で、赤黒く焼け
爛
(
ただ
)
れた、小僧の死体を抱き上げているのでした。
銭形平次捕物控:059 酒屋火事
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
またその
身體
(
からだ
)
には
蘿
(
こけ
)
だの
檜
(
ひのき
)
・杉の類が生え、その長さは
谷
(
たに
)
八
(
や
)
つ
峰
(
みね
)
八
(
や
)
つをわたつて、その腹を見ればいつも
血
(
ち
)
が垂れて
爛
(
ただ
)
れております
古事記:03 現代語訳 古事記
(旧字新仮名)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
▼ もっと見る
国境の山、赤く、黄に、
峰岳
(
みねたけ
)
を重ねて
爛
(
ただ
)
れた奥に、白蓮の花、玉の
掌
(
たなそこ
)
ほどに白く
聳
(
そび
)
えたのは、
四時
(
しじ
)
に雪を頂いて幾万年の
白山
(
はくさん
)
じゃ。
伯爵の釵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それだから
風呂
(
ふろ
)
に入つた時などに、
秘
(
ひそ
)
かにその
痂
(
かさぶた
)
を除いてみると、その下は依然として
爛
(
ただ
)
れて居つて深い
溝
(
みぞ
)
のやうになつてゐる。
念珠集
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
猿が綱を
外
(
はず
)
し児を
鼎
(
てい
)
中に投じ
爛
(
ただ
)
れ死なしめたので、母が薪を村外に積ましめ、その婢と猿を焚殺したとある(『類函』四三一)。
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
けれどもそれはつい二三週間前までのやうな
灼
(
や
)
け
爛
(
ただ
)
れた真赤な空ではなかつた。底には快く快活な黄色を
匿
(
かく
)
してうはべだけが
紅
(
くれなゐ
)
であつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
乳色に
澱
(
よど
)
んだ空と、その下に不思議な大波の様に起伏する丘陵の肌が、一面に春の百花によって、
爛
(
ただ
)
れているに過ぎないのです。
パノラマ島綺譚
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
そうしてその左右に十六むさしに似たる形が四個ずつ行儀よく並んでいる。その十六むさしが赤く
爛
(
ただ
)
れて
周囲
(
まわり
)
に
膿
(
うみ
)
をもっているのもある。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
躍
(
をど
)
り狂ふ烟の下に自若として、
面
(
おもて
)
も
爛
(
ただ
)
れんとすばかりに照されたる姿は、この災を司る鬼女などの現れ出でにけるかと疑はしむ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
併し冬籠りの小屋に漂う煙と、過激な労働の疲労で、すっかり視力の衰えた、赤く
爛
(
ただ
)
れた彼の眼は、判然とそれを見ることが出来なかった。
土竜
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
これが暗い暗い謎である。肉
爛
(
ただ
)
れては腐り、腐りして、露出した骨の荒くれ男の足に蹈まるるとき、ああ私の影はどこに存在してるだろう。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
言っておかなかったが、かの女の口のはたの
爛
(
ただ
)
れが直ったり、出来たりするのは、僕の初めから気にしていたところであった。
耽溺
(新字新仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
けれどもそれはつい二、三週間前までのような
灼
(
や
)
け
爛
(
ただ
)
れた真赤な空ではなかった。底には深く快活な黄色を
匿
(
かく
)
してうわべだけが紅であった。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
片眼が少し
爛
(
ただ
)
れているが、愛くるしい女の子だ。朝子は、ふと思い出して言った。「この女の子、この間言ったあんたのお嫁さんじゃないの」
酋長
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
何が腐り
爛
(
ただ
)
れたかと薄気味悪くなって、二階の
部屋
(
へや
)
から
床板
(
ゆかいた
)
を引きへがして見ると、
鼠
(
ねずみ
)
の
死骸
(
しがい
)
が二つまでそこから出て来て
嵐
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
この死骸も
炎
(
ほのほ
)
に焼かれた顔は目鼻もわからぬほどまつ黒だつた。が、
湯帷子
(
ゆかた
)
を着た体や
痩
(
や
)
せ細つた手足などには少しも焼け
爛
(
ただ
)
れた
痕
(
あと
)
はなかつた。
大正十二年九月一日の大震に際して
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それから、京極の宿所の
釣殿
(
つりどの
)
や、鹿ヶ谷の山荘の
泉石
(
せんせき
)
のたたずまいなどが、
髣髴
(
ほうふつ
)
として思い出される。都会生活に対するあこがれが心を
爛
(
ただ
)
らせる。
俊寛
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
それに比べると、夏の富士は、
焙烙
(
ほうろく
)
色に
赭
(
あか
)
ッちゃけた焼け
爛
(
ただ
)
れを
剥
(
む
)
き出しにした石山であるのに、この水々しさと若さは、どうしたものであろう。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
王はその言うがままに、眉間尺の首を煮ることにしたが、三日を過ぎても少しも
爛
(
ただ
)
れず、生けるが如くに眼を
瞋
(
いか
)
らしているので、男はまた言った。
中国怪奇小説集:03 捜神記(六朝)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
汽船は救助の
汽笛
(
ふえ
)
を鳴らし、汽缶に熱湯を煮え
爛
(
ただ
)
らせ、怒濤を
衝
(
つ
)
いて無二無三に先へ先へと進みはしたが嵐と波に遮られて同じ所ばかりを漂った。
死の航海
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
燐寸の自然発火と、外函の両側に膠着された硝子粉のため、焼き
爛
(
ただ
)
らした指頭には、黒い垢じみた繃帯を巻いていた。
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
硫黄島に死んだ夫の記憶は腕から、近所に預けて勤労奉仕に出てきた幼児の姿は眼の中からくずれ落ちて、
爛
(
ただ
)
れた肉体からはずれてゆく本能の
悶
(
もだ
)
え。
原爆詩集
(新字新仮名)
/
峠三吉
(著)
その
槲
(
かしわ
)
の木は、片側の根際まで剥ぎ取られていて、露出した肌が、なんとなく不気味な生々しい赤色で、それが腐り
爛
(
ただ
)
れた四肢の肉のように見えた。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
彼は日夜巻煙草を楽んだ——彼の手の指の内側は、黄褐色の脂で
爛
(
ただ
)
れてしまった——指の爪は、宝石ででもあるかのようにセピア色に輝きはじめた。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
「生きてなさった時は、妹さんに負けず劣らずの美しさで評判でしたが、死体は
爛
(
ただ
)
れてフヤケテ、皮膚が
剥
(
む
)
けて、もう
滅茶滅茶
(
めちゃめちゃ
)
だという話でやした」
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
車輪を空へ向けてすっかり腹を見せているのや、なぎ倒されたまま顛覆しているのや、焼け
爛
(
ただ
)
れてとけた鉄骨だけのこった貨車、客車が散乱していた。
播州平野
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
おけいが湯呑を取ろうとし、登は「きれいな
晒木綿
(
さらし
)
を」と云った。毒物を吐くときに
喉
(
のど
)
を
爛
(
ただ
)
れさせているし、もうごくりと飲む力はないと思ったのだ。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
おまけに肩から背中にかけて一面に赤く
爛
(
ただ
)
れた
腫物
(
はれもの
)
が崩れている有様に、悟浄は思わず足を
停
(
と
)
めて
溜息
(
ためいき
)
を
洩
(
も
)
らした。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
いきなり、抱きあまるほど豊満なふところへ、男の体をひきよせると、お稲は
爛
(
ただ
)
れたように朱い唇を、自分の腕に仰向いた賛之丞の顔へ激しく
強
(
し
)
いて
八寒道中
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
翌朝に至って正気付いたが焼け
爛
(
ただ
)
れた
皮膚
(
ひふ
)
が
乾
(
かわ
)
き切るまでに
二箇月
(
にかげつ
)
以上を要したなかなかの重傷だったのである。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
うつ伏せに
溝
(
みぞ
)
に墜ちたものや、横むきにあおのけに、焼け
爛
(
ただ
)
れた
奈落
(
ならく
)
の底に、墜ちて来た奈落の深みに、それらは悲しげにみんな天を眺めているのだった。
鎮魂歌
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
赤く
爛
(
ただ
)
れた眼をした、年はすくなくとも七十と見えるが、その実五十にはなっていまいと思われる、小さな老婆が、肩に天秤棒をかけて、往来をやって来た。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
闇太郎は、もう、一刻も早く、この痴情に心魂を
爛
(
ただ
)
らしてしまった年増おんなの前が、逃げ出したくなった。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
それが六十二議会で、議会は
爛
(
ただ
)
れきったものになって民心に
嫌厭
(
けんお
)
をさえ感じさせるようになろうなどとは思いもかけず、彼は赤黒くなるほど飲んで祝したのだ。
旧聞日本橋:21 議事堂炎上
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
すこし遅目に
這入
(
はい
)
って来た郵便配達手君を、何気なく振返って目礼を交した時に、その瞼がヒドク
爛
(
ただ
)
れて、左右の白眼が真赤に充血しているのを発見したので
眼を開く
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
駈け出したためか昂奮した息をふうふう吐きながら、黄色く
爛
(
ただ
)
れた眼でじろじろと尾田を見るのであった。
いのちの初夜
(新字新仮名)
/
北条民雄
(著)
それほど階級制度の妥協や虚偽が赤く
爛
(
ただ
)
れた形を持つて来た……。赤く爛れた場合には、何うしても荒い手術をしなければならなくなつて来ると同じやうに——。
小説への二つの道
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
飢鷹に髓を
啄
(
つつ
)
かすのだ、それで、肉が腐り
爛
(
ただ
)
れてなくなると、神水をかけて
業風
(
ごうふう
)
に吹かすと、また本の形になる、こんな奴は、億万
劫
(
ごう
)
を経ても世には出られないよ
令狐生冥夢録
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
嵐は思い思いに叫んでその
周囲
(
まわり
)
を廻った。頭の上を
駆
(
か
)
けた。蹴った。突き当った。怪物の赤い
眼
(
まなこ
)
は一つ、一つ失せて、ただ一つ残ったのが赤く
爛
(
ただ
)
れて活きている。
扉
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
と言い切って、
面
(
かお
)
を上げた大谷刑部少輔の崩れたその顔面。深い覚悟の程も、思い切った表情の程も、その崩れ
爛
(
ただ
)
れた面には、更に現われてこないことが悲惨である。
大菩薩峠:33 不破の関の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
真紅に咲き
爛
(
ただ
)
れた椿の花がぼったりと崩れ落ちる様に、咲き遅れたダリヤががっくり前につんのめる様に、むれた風通しの悪い文学はしっかりと根を張った意地の悪い
第四階級の文学
(新字新仮名)
/
中野秀人
(著)
鵬
(
ぼう
)
となる大願発起痴話
熱燗
(
あつかん
)
に骨も肉も
爛
(
ただ
)
れたる俊雄は相手待つ間歌川の二階からふと
瞰下
(
みおろ
)
した隣の
桟橋
(
さんばし
)
に歳十八ばかりの
細
(
ほっ
)
そりとしたるが
矢飛白
(
やがすり
)
の袖夕風に吹き
靡
(
なび
)
かすを
かくれんぼ
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
手に手をとりくみて日を
経
(
へ
)
給ふが、
終
(
つひ
)
に
心神
(
こころ
)
みだれ、生きてありし日に
違
(
たが
)
はず
戯
(
たはぶ
)
れつつも、其の肉の腐り
爛
(
ただ
)
るるを
吝
(
をし
)
みて、肉を吸ひ骨を
嘗
(
な
)
めて、
四七
はた
喫
(
くら
)
ひつくしぬ。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
「男です! しかも裸体です。どうも由蔵らしいと思われますが、足裏が白く
爛
(
ただ
)
れていました」
電気風呂の怪死事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
と
僅
(
わずか
)
の療治代を貰って帰りました。すると奥方は鍼を致した鳩尾の所が段々痛み出し、遂には
爛
(
ただ
)
れて鍼を打った口からジク/\と水が出るようで、
猶更
(
なおさら
)
苦しみが増します。
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
その眼にも様々あったが、
爛
(
ただ
)
れ目が殊に多かった。冬籠りに
囲炉裡
(
いろり
)
の煙で痛めたらしかった。
壁の眼の怪
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
舌が
爛
(
ただ
)
れてものを言うことも出来ませんし、無筆だから字で書くことも出来ないから、ほかの人間では手におえないが、手前だけはそいつにものを言わせる方法を知っている。
顎十郎捕物帳:21 かごやの客
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
爛
漢検1級
部首:⽕
21画
“爛”を含む語句
燦爛
爛熟
腐爛
金色燦爛
爛々
絢爛
爛酔
燎爛
糜爛
天真爛漫
爛壊
赤爛
煮爛
焦爛
爛漫
霉爛
爛熳
不爛
爛然
爛醉
...