無頼ぶらい)” の例文
礼儀を知らない無頼ぶらいの徒でないかぎりは、すべての家庭は諸君のために門戸をひらいて、非常に親切に面倒を見てくれるのである。
卑しい傀儡くぐつの顔を写しましたり、不動明王を描く時は、無頼ぶらい放免はうめんの姿をかたどりましたり、いろ/\の勿体もつたいない真似を致しましたが
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その荘院には、つねに百姓らしからぬ無頼ぶらいのみを寄せ集め、ただ武勇を誇っては、遠近に喧嘩の相手と機会を求めてばかりいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ他なし我邦わがくに固有の旧文化破壊せられて新文化の基礎遂に成らず一代の人心甚だ軽躁けいそうとなりかつ驕傲きょうごう無頼ぶらいに走りしがためのみ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
無頼ぶらいの生活もして居りません。ひそかに読書もしている筈であります。けれども、努力と共に、いよいよ自信がなくなります。
自信の無さ (新字新仮名) / 太宰治(著)
一道の達人、諸国の脱藩者、それから無頼ぶらいな放浪者なぞから成る二百四十人からの群れの腕が馬籠の問屋場の前で鳴った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかるに私は、小さい頃から、無頼ぶらいの性質でございまして、あばれ者などのかしらとなって、仁侠にんきょう真似まねなど致しますのが、何より好きでございました。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
以前、この氏の虚無思想は、氏の無頼ぶらい遊蕩ゆうとう的生活となって表われ、それに伴って氏はかなり利己的でもありました。
そこで当然、落込んでいったのは、市井しせい無頼ぶらいの徒のむらがっている、自由で放縦な場処だった。そんな仲間なかまにはいるのに、なんの手間暇がいるであろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
女が酒の醸造をつかさどったことは、近昔の文学では狂言の「うばが酒」に実例がある。無頼ぶらいおいが鬼の面をかぶり、伯母おばの老女をおどして貯えの酒を飲むのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これは彼が自分の無頼ぶらいの一生を叙述して子孫のイマシメにするために残した「夢酔独言」という奇怪にして捧腹絶倒すべき自叙伝の書き出しの文章である。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
悪遊びと乱行が、骨の髄まで染み込んでいる出羽守は、市井しせい無頼ぶらいの徒のようになっていて、この側近の臣に対しては、あまり主従の別を置かないのである。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
無頼ぶらいの徒が共産党の仮面を冠って潜入した。秘密結社が活動した。街路の壁や、辻々の電柱や、露路の奥にまで日本人に反抗すべしという宣単せんたんが貼られ始めた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
典獄は沈思ちんししてそうあろうそうあろう、察し申す、ただこの上は獄則を謹守し、なお無頼ぶらいの女囚を改化遷善の道におもむかしむるよう導き教え、同胞の暗愚を訓誨し
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
無頼ぶらいの徒、無職者は激増し、街道筋に存在する木賃宿は各地より集まる各種の行商人遊芸人等の巣窟となり、附近一帯の住民の生活に甚だしい悪影響を与へつつある。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
華美を極めた晴着の上に定紋じょうもんをうった蝦茶えびちゃのマントを着て、飲み仲間の主権者たる事を現わすしゃくを右手に握った様子は、ほかの青年たちにまさった無頼ぶらいの風俗だったが
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
村の人の幾らか好くなつたらうと望をしよくして居たのにもかゝはらず、相変らず無頼ぶらいで、放蕩はうたうで後悔を為るどころか一層大胆に悪事を行つて、殆ど傍若無人といふ有様であつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
亞尼アンニー一人ひとり息子むすこがあつて、放蕩ほうたう無頼ぶらいをとこで、十幾年いくねんまへ家出いへでをして、行衞不明ゆくゑふめいになつたといふことかねいてりましたが、亞尼アンニーは、それをばつね口僻くちぐせのやうに
渠等かれら無頼ぶらいなる幾度いくたびこの擧動きよどう繰返くりかへすにはゞかものならねど、ひとそのふが隨意まゝ若干じやくかん物品ものとうじて、その惡戲あくぎえんぜざらむことをしやするをて、蛇食へびくひげい暫時ざんじ休憩きうけいつぶやきぬ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何か立ち上って答えるらしい様子であったが、それも聞き取れない。二人で笑い合う気配であった。海軍の兵は一旦崩れかかると、陸軍の兵よりも無頼ぶらいの感じが濃くなるのだ。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「——さきほどの申渡しをいまいちど聞かせるが、無頼ぶらい、無宿の者は、ほんらい佐渡ヶ島へ送るべきところ、お上の格別なる御仁恵ごじんけいをもって、加役かやく人夫に仰せつけられたものである」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
無頼ぶらいにして身と持物とを失へるため、わが母我を一人ひとりの主に事へしむ 四九—五一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この人たちはただに酒家妓楼ぎろう出入いでいりするのみではなく、常に無頼ぶらいの徒と会して袁耽えんたんの技を闘わした。良三の如きは頭を一つべっついにしてどてらを街上かいじょう闊歩かっぽしたことがあるそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼女は、屋根の下で育てられた子供の中で、私が一番たちが惡く、無頼ぶらいだと云つた。
是は長庵近來ちかごろ再び無頼ぶらいの行ひになりし事を知ざればなりさて又長庵は追々おのれが心がらにて困窮こんきうに及び何哉なにかによき仕事しごとあれかしと思ひ居ける所故是を見るより先々まづ/\かねつるに取付たりとひそかに悦び直に返事へんじ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
われやなほ無頼ぶらいなりしよ「赤光」のおひろの歌を愛でたるころは
斎藤茂吉の死を悲しむ (旧字旧仮名) / 吉井勇(著)
無頼ぶらいの眠りたる墓は立てり。
氷島 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
巷間こうかん無頼ぶらいの徒さ」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
伝吉はたちまち枡屋ますやわれ、唐丸とうまるまつと称された博徒松五郎まつごろう乾児こぶんになった。爾来じらいほとんど二十年ばかりは無頼ぶらいの生活を送っていたらしい。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
同時にあれほどの大酒おおざけも、喫煙もすっかりやめて、氏の遊蕩ゆうとう無頼ぶらいな生活は、日夜祈祷きとうの生活と激変してしまいました。
師直の破倫はりん、淫欲ときては、なかなかこんな程度のものではなかった。彼がいかに乱淫無頼ぶらいな男であるかは、次の一例でも分ろうと、書いているのだ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『私は無頼ぶらいの徒ではない。』(一行あき。)具体的に言って呉れ。私は、どんな迷惑をおかけしたか。(一行あき。)私は借銭をかえさなかったことはない。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
諸処方々無沙汰ぶさたの不義理重なり中には二度と顔向けさへならぬ処も有之これあり候ほどなれば何とぞ礼節をわきまへぬは文人無頼ぶらいの常と御寛容のほど幾重いくえにも奉願上ねがいあげたてまつり候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幕府廃止以来、世態の急激な変化は兵庫奉行の逃亡となり、代官手代、奉行付き別隊組兵士なぞは位置の不安と給料の不渡りから多く無頼ぶらいの徒と化したことを告げた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蓬生の良人おっと、この家の長男、戸野大弥太が父にも叔父にも、いや一族の誰にも似ないで、放蕩ほうとうであり無頼ぶらいであることが、父、兵衛の苦労の種、乱心の原因になっており
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくてしょうは世の人より大罪人大悪人と呼ばるる無頼ぶらいの婦女子と室を同じうし、起臥きが飲食を共にして、ある時はその親ともなり、ある時はその友ともなりて互いにむつみ合うほどに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しかしこの女は今になつても、ああ云ふ無頼ぶらいな混血児を耶蘇基督だと思つてゐる。おれは一体この女の為に、蒙をひらいてやるべきであらうか。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども無頼ぶらいの私にとっては、それだけでも勇猛の、大事業のつもりでいたのだ。私は、いまこの二少年の憫笑に遭い、自分の無力弱小を、いやになるほど知らされた。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
平常ひごろ、彼女が思っていた通り、やはり伏原半蔵は優し気のある人だった。年は四十を越え、無頼ぶらいな浪人仲間に身過みすぎはしているが、今の言葉でも、友誼ゆうぎに厚い事はわかる……。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世には淫猥いんわい無頼ぶらいの婦人多かるに、ひとり彼女の境遇のいと悲惨なるをあわれむの余り、妾の同情も自然彼女に集中して、宛然さながら親の子に対するが如き有様なりしかど、あたかも同じ年頃の
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
全く無頼ぶらいの徒が幼稚の公達きんだちを欺いて誘い出した所業と察せられると言ってある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「剣道名誉の武士にしては、少しく態度が無頼ぶらいに過ぎる。といって市井しせいの無頼漢にしては、余りに腕がいている。……たんの据え方、機のつかみ方、とてもとても常人ではない。……そうしてあれは? あの巻軸は?」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかもこの無頼ぶらいの夫にして、つとに温良貞淑の称ある夫人明子を遇するや、奴婢どひと一般なりと云ふに至つては、誰か善く彼を目して、人間の疫癘えきれいさざるを得んや。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
獅子をもたおす白光鋭利のきばを持ちながら、懶惰らんだ無頼ぶらいの腐りはてたいやしい根性をはばからず発揮し、一片の矜持きょうじなく、てもなく人間界に屈服し、隷属れいぞくし、同族互いに敵視して
柾木孫平治まごへいじといい、その前身は野武士で、血なまぐさい悪業の数々をし尽し、戦乱の世の暗闇に生きて暗闇へ死んでゆく、多くの無頼ぶらいの徒と同じような運命を辿たどっていたが、ある年
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜂須賀村をつ時の二千の野武士は、ここへ来ると五、六千になっていた。野武士が友の無頼ぶらいを呼びあつめ、無頼の者がまた、遊んでいる人間を、どこからともなく引っ張って来て
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、雑人の着物を着、山袴やまばかま穿いたが、余りに、立派な太刀が目立つので、さやは布で巻き、柄頭つかがしらの金具は取り捨て、野武士か何ぞのように、わざと無頼ぶらいな恰好に、それを腰へ横たえた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやいや。決してまだ天下は平定していません。漢中に張魯ちょうろあり、荊州に玄徳あり、江南に孫権の存在あり。加うるに、緑林山野、なお無頼ぶらい巣窟そうくつに適する地方は、どれほどあるかわからない」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)