ふくろふ)” の例文
まだ日の暮れる筈のないのに、不思議だとは思ひましたが、空にはお星さまさへチラチラ出て、遠くの森でふくろふの啼く声さへ聞えました。
子供に化けた狐 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
でぶ/\に肥つた四十あまりの主婦かみさんと、その妹だといふふくろふの様な眼をした中年の女とが、代る/″\店に出て始終客を呼んで居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
が、あたまへ、棕櫚しゆろをずぼりとかぶる、とふくろふけたやうなかたちつて、のまゝ、べた/\とくさつて、えんした這込はひこんだ。——
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
拜殿の横から、ぐるりと神殿の後に廻ると、こんもりとした神域の木立は、紫の雲が垂れ下がつたやうで、ふくろふが一聲けたゝましく啼いた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
にはかに西の方から一ぴきの大きな褐色かっしょくふくろふが飛んで来ました。そしてみんなの入口の低い木にとまって声をひそめて云ひました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そへてふくろふさけ一段いちだんものすごしおたか決心けつしん眼光まなざしたじろがずおこゝろおくれかさりとては御未練ごみれんなりたかこゝろさきほどもまをとほきはめし覺悟かくごみちひと二人ふたり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、そのうしろから一羽のふくろふが——いや、これは婆さんの飼ひ猫が何時いつにか翼を生やしたのかも知れない。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はふくろふの如き鋭きまなこを放つて会衆を一睨いちげいせり、満場の視線は期せずして彼の赤黒き面上に集まりぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「ふむ。それや自家うちの者が頭陀袋を取り外す為めのことだ。もう今頃行つたつてちやんと本式に釘づけにしちまつてあらアな。見ろ。ふくろふめがホウ/\と笑つてけつから。」
その次ぎの一葉を、木下も杉野も、爛々らん/\と眼を、ふくろふのやうに光らせて、見詰めてゐた。荘田は、無造作に壱万円也と書き入れると、その次ぎの一葉にも、同じ丈の金額を書き入れた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「その話を……蝙蝠がふくろふに話して、梟が河獺かはうそに話して、河獺がねこに話して、猫がさるに話して、猿が……そしてしまひに、わたしの耳にはいりましたから、わたしがその蝙蝠をつかまへたんです」
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
神経にひゞく、「ふくろふき出したよ」と、宅の者はいふ、ほんとうに梟であるか、どうか、私は知らないが、世にも頼りのなさゝうな、陰惨たる肉声が、黒くなつた森から濃厚な水蒸気に伝はつて
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
虫の声が遠くなつて此処ではふくろふしきりにいて居ます。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
森のくらやみに住むふくろふの黒き毒に染みたるこゑ
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
フラフラ歩いてゐたさうです。あの人は陽のあるうちは決して戸外そとへ出やしません。人立ちがして叶はないつて言ひますよ。だから、ふくろふみたいに夜遲くなつてから、フラフラと外へ出る癖があります。——あの身體ですものねえ
ふくろふ シャルル・ボドレエル
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ふくろふなきて夕まぐれ
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
……うでないと、あのふくろふとなへる呪文じゆもんけ、寢鎭ねしづまつたうしたまちは、ふは/\ときてうごく、鮮麗あざやか銀河ぎんが吸取すひとられようもはかられぬ。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黄金きんかま」が西のそらにかゝつて、風もないしづかな晩に、一ぴきのとしよりのふくろふが、林の中の低い松の枝から、う私に話しかけました。
林の底 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし森の鳥はことごとく、疑深さうな眼つきを改めなかつた。のみならず一羽のふくろふが、「あいつも詐偽師の仲間だぜ。」と云ふと、一斉いつせいにむらむらおそひかかつて、この孔雀をも亦突き殺してしまつた。
翻訳小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
トワルのいづれかに黄金きんの目の光る一羽いちはふくろふを添へたまへ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
木兎づくふくろふ椋鳥むくどり
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ふくろふが啼くから
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
林の中はうすいうすい霧のやうなものでいっぱいになり、西の方からあのふくろふのお父さんがしょんぼり飛んで帰って来ました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おもへば臆病おくびやうの、ふさいでや歩行あるきけん、ふりしきるおとこみちさしはさこずゑにざツとかぶさるなかに、つてはうとふくろふきぬ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふくろふ
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふくろふはもう足を一寸ちょっと枝からはづして、あげてお月さまにすかして見たり、大へんこまったやうでしたが、おしまひ仕方なしにあらん限り変な顔をしながら
林の底 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
かたへに一ぽんえのきゆ、年經としふ大樹たいじゆ鬱蒼うつさう繁茂しげりて、ひるふくろふたすけてからすねぐらさず、夜陰やいんひとしづまりて一陣いちぢんかぜえだはらへば、愁然しうぜんたるこゑありておうおうとうめくがごとし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その声はさいはひに少しつんぼのふくろふの坊さんには聞えませんでしたが、ほかの梟たちはみんなこっちを振り向きました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
其處そこへ、たましひ吹込ふきこんだか、じつるうち、老槐らうゑんじゆふくろふは、はたとわすれたやうに鳴止なきやんだのである。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふくろふは少しあわてましたが、ちょっとうしろの林の奥の、くらいところをすかして見てから言ひました。
林の底 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おもはず、かたからみづびたやうに慄然ぞつとしたが、こゑつゞけて鳴出なきだしたのはふくろふであつた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「されば、」ふくろふの大将はみんなの方に向いてまるで黒砂糖のやうな甘つたるい声でうたひました。
かしはばやしの夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
とき山彦やまびこ口笛くちぶえくかと、ふくろふこゑが、つきそらをホツオーホとはしる。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
坊主ばうずが、たがひ一声ひとこゑうぐひすふくろふと、同時どうじこゑ懸合かけあはせた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いや、知己ちかづきでもないをんなまへで、獨笑ひとりわらひふくろふわざであらう。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)