きょく)” の例文
「こん夜は、上総の身寄りの娘が来たので、見物につれて来た。……が、しらふで帰るのもきょくがない、何かで、一杯もらいたいな」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
障子のうちの作者は、影法師の動きだけで十分に鶯たることを鑑定し得るのであろうが、それだけではいささかきょくがない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
さて、ご主君しゅくんは、そのほうのびわの名声めいせいをおききになり、今夜こんやはぜひ、そのほうの、とくいのだんうらの一きょくをきいて、むかしをしのぼうとされている。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
どうもだれかあの家に人がいて、どうやってもひきこなせないひとつのきょくを、始終しじゅういじくりまわしているのですね、——それはいつもおなじ曲なのです。
きょくわると、すすりおんなこえがしました。翌日よくじつこのみせをやめて、故郷こきょうかえったおんながあります。彼女かのじょ故郷こきょうが、かれうたが、彼女かのじょたましいびもどしたのです。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
そういう気持きもちをおしきって、全く誠実せいじつでないとわかっているきょくを書くような時には、をつけてかくしておいた。どう思われるだろうかとびくびくしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
ふりかえって見ると、甲州街道の木立に見え隠れして、旗影と少年音楽隊のきょくが次第に東へ進んで行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いま、抜刀を下目につけて、喪家の痩せ犬のように、きょくもなく直立している左膳の姿を眼の前にして。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おれがききとれていたら、じいさんはにこにこしながら、三つながきょくをきかしてくれました。おれは、おれいに、とんぼがえりを七へん、つづけざまにやってせました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
なにか流行歌の一節らしいが、文句はそれだけ、きょくもでたらめで、そのときによって違っていた。
ばちあたり (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしておもからだ器用きよう調子ちょうしをとりながら、綱渡つなわたりの一きょく首尾しゅびよくやってのけましたから、見物けんぶつはいよいよ感心かんしんして、小屋こやもわれるほどのかっさいをあびせかけました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
林のはずれを右へまがって、大通りへつづく横町よこちょうまできたとき、陽気ようき楽隊がくたいきょくが流れてきた。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
表題ひょうだいの心の独立と体の独立ということもその一つである。僕が友人に対しておれめしを食いながら反対するのはけしからんという一かつは、たしかに僕の根性こんじょうきょく曝露ばくろする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
妖怪変化ようかいへんげというものは、「」いといってしまってはきょくのないものにはちがいない。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
前に悪いむこを取って騙された時なんぞは、近所の人に面目めんぼくないとは思っても、親子共胸の底にはきょくかれに在りと云う心持があったので、互に話をし合うには、少しも遠慮はしなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
もし人情なるせまき立脚地に立って、芸術の定義を下し得るとすれば、芸術は、われら教育ある士人の胸裏きょうりひそんで、じゃせいき、きょくしりぞちょくにくみし、じゃくたすきょうくじかねば
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俺らの芸をお名ざしで御贔屓ごひいきだ、籠抜け一枚でもきょくがねえと思うから、誰かこの仲間にお相伴しょうばんをさせてやりてえと思うんだが、いずれを見ても道楽寺育ちだ、荒熊でいけず、阿房陀羅でいけず
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
単純に井戸の中では、あんまりきょくがなさ過ぎる。あの用意周到な人物が、そんなたやすい場所へ隠して置く筈がない。君は呪文の最後の文句を覚えているでしょう。ホラ、六道の辻に迷うなよ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
余はちょくは全く余に存してきょくはことごとく余を捨てし教会にありとは断じて信ぜざるなり、余に欠点の多きは爾のしろしめすごとくにして余の言行の不完全なるは余の充分爾の前に白状する所なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
さて、ふたりは、かがみに出て行きました。そこで夕飯ゆうはん食卓しょくたくについて、王女づきの女官じょかんたちがお給仕きゅうじに立ちました。そのあいだ、バイオリンだの、木笛きぶえだのが、百年まえの古いきょくをかなでました。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
「女が玉簫ぎょくしょうを吹いて聞かせた。きょく落梅風らくばいふうだったと思うが、——」
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
同行二 でもあまりきょくがなさ過ぎます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あえ霓裳げいしょうきょくを数えんやいな
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この新年号第一回は、一ノ谷合戦から、次の屋島合戦へかかる半年の中間期を、義経の周囲から書き出してゆく“じょきょく”となっている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いさむちゃんは、ハーモニカをくちびるにあてて、ねえさんのきだったきょくを、北風きたかぜかってらしていたのです。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
さて、多くのびわうたの中で、この法師がいちばんとくいだったのは、だんうら合戦かっせんの一きょくでありました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
老人はそのきょくいた。——クリストフは祖父そふと一しょに作曲さっきょくしたことが、ひどく得意とくいだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
むこうをむいてうんさえ発せざる以上は、そのきょくは夫にあって、妻にあらずと論定したる細君は、遅くなっても知りませんよと云う姿勢でほうきとはたきをかついで書斎の方へ行ってしまった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
借金返えしも渋面じゅうめんつくって、さっさと返えしてはきょくが無い。『人生は厳粛也、芸術は快活也。』真面目まじめに計算しましょう。笑顔えがおで払いましょう。其為にこそ私共は生れて来、生きて来たのです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「だって、罪じゃあないか」とがめるような美しい眼、「据物斬りを見せるといったくせに、自由のかない人間をバッサリなんぞはきょくがない」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らないよ。」とクリストフはかなしい声でいった。「ただうつくしいきょくを作りたかったんだよ。」
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
法師はなんともいえない気持にうたれながら、しずかに一きょくをひきおわりました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
手をひざに眼をじて聴く八十一のおきなをはじめ、皆我を忘れて、「戎衣よろいそでをぬらしうらん」と結びの一句ひくむせんで、四絃一ばつ蕭然しょうぜんとしてきょく終るまで、息もつかなかった。讃辞さんじ謝辞しゃじ口をいて出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「もし汝の武勇が秦朗に勝るものならば、司馬懿は讒者ざんしゃの言にあやまられたものできょくは彼にありといってよい。同時に、汝の言も信ずるに足りよう」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さ、火焔独楽かえんごまきょくまわし、いよいよかかりますがそのまえに、ちょっと、おうかがいしたいことがございます。どうか、話してくださいまし」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくども口上こうじょうをやりなおして、独楽こまを空に投げあげたが、水を降らせるどころか、まわりもしないで、石のようにきょくもなくボカーンと自分の頭の上へ落ちてくるばかりだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鈴慕れいぼきょくつまを恋う女鹿めじかの想いを憐々れんれん竹枝ちくしのほそい孔から聞くような鈴慕の哀譜であった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、秀吉はふいに、つかつかと彼方かなたの壁へ向って歩いて行った。そこには日本的な六きょく屏風びょうぶが二面だけ現わして立ててあった。彼は手をかけてその六曲全面を部屋へひらいた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、何も別段なことじゃないんですけれど、ちょうど、お隣で断わられた虚無僧ぼろんじさんに一きょく吹いて貰いたいと思いますの。ご苦労だけどここへ呼び入れて下さいませんか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれの考えでは、いつも、同じ所で、色気もなく、飲んでいても、きょくがない。ひとつ、純友の帰国を送りながら、一しょに、淀川を舟で下り、江口えぐちの遊女をあいてに、盛んな送別会を
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
サ、はやくまわしてみせい、はやく火焔独楽かえんごまきょくまわしをやってみせい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鈴慕れいぼきょく
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)