こしら)” の例文
この型を以て未来にのぞむのは、天の展開する未来の内容を、人の頭でこしらえたうつわ盛終もりおおせようと、あらかじめ待ちもうけると一般である。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
医者と云ふものは、病状の診断を、患者の顔色かほいろからも、こしらへるものだからね。それは、君のモラアルも、僕にはよくわかつてゐるさ。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まもなく、二人の若い女中が、新たに酒とさかなをはこんで来、孝之助の膳をもこしらえて、(これらのことはすべて無言のうちに行われた)
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
所詮は喜右衛門の臆病から、こんなこしらえものにおびやかされたのである。しかし臆病がかえってかれの仕合わせであったかも知れない。
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なんだ、またこれをつてかへるほどなら、たれいのちがけにつて、這麼こんなものをこしらへやう。……たぶらかしやあがつたな! 山猫やまねこめ、きつねめ、野狸のだぬきめ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
パラシが阿弗利加樫アフリカがしで沢山まるでヘルキュレス神でも使いそうな厚いスケッチ板はこしらえてくれたしこれだけにはなんの不自由もない。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ものが大きいし、こしらえが見事なので、その少年のそばへ寄った者は、すぐ少年の肩ごしにつかそびえているその刀に目がつくのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草木の花は種子をこしらえるに在る。種子を拵えるは子孫を継ぐに在る。子孫を継ぐのは系統を絶さないに在る。これは人間も同じ事だ。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
私たちが少年の頃には、酒屋の職人たちが酒の仕込みの日に、蒸した白米をかまからつかみ出して、ヒネリ餅というものをこしらえていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何か世間にない書物の名をこしらえてうそでも書いてやろうかと思うたが、いずれ先方も十分支度して掛かったはずと惟えばそうもならず。
透きとおるような鼻でしょう! 余程の名工がこしらえた人形か何かでない限り、赤ん坊の鼻だってよもやこんなに繊細ではありますまい。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鳥屋では沢山の鳥をこしらえるので一々親切に肉の味を保存させる事が出来ないのです。第一に鳥屋では毛を引く時熱湯の中へ入れます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
我他彼此がたびしするのが薄々分るので、弥以いよいよもってたまらず、無い用をこしらえて、この時二階を降りてお勢の部屋の前を通りかけたが、ふと耳を聳て
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
をしまずなげきしが偖ては前夜の夢は此前兆ぜんてうにて有りけるか然し憑司殿か案内こそ心得ぬ豫て役人をこしらへての惡巧わるだくみか如何せんとひとり氣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下手と云つて悪ければ、前のよりは解らなくするのである。かういふ風にしてこしらへて行けば、翻訳なんてものはいくらでも出来る。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
しな天秤てんびんおろした。おしなたけみじか天秤てんびんさきえだこしらへたちひさなかぎをぶらさげてそれで手桶てをけけてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おくみは坊ちやんが寝たりしてゐられる閑なぞに、来たての人たちに交つて、編物や、子供のエイパンや帽子のこしらへかたなぞを習つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「奥から出て来て、番台へ坐ったところへ、ちょうど竹の野郎が弥造やぞうかなんかこしらえて、あごをしゃくりながら入って来たんですって」
どうしても指導者がこれを教育し指導して立憲的国民をこしらえなければ、真の立憲政治は行われないのである。これは諸君の責任である。
〔憲政本党〕総理退任の辞 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その晩エミリアンは、宿屋の主人に頼んで、黒い大きなマントをこしらへてもらひ、なほ、よくれた子豚を一匹かりてきてもらひました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
この郡山の金魚は寛永かんえい年間にすでに新種をこしらえかけていて、以後しばしば秀逸しゅういつの魚を出しかけた気配が記録によってうかがえることである。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お菜は何にしましょうと云って来ると、何でも好いから、お前の内でこしらえるような物を拵えろと云う。そんな風で二週間程立った。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
弓に関する知識は皆無に近いから、頗るおぼつかないけれども、新木でこしらえた弓は狂いやすいというようなことがあるのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
予は『縮小人間』をこしらえたことを今や後悔している。出来るなら、今宵のうちにも、この『縮小人間』を殺してしまいたいと思う。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蜜蜂は箱から取り出されて、美しい香気にほひを嗅ぐと狂気きちがひのやうに花の中を転げ廻つたが、何時いつまで待つても蜜をこしらへようとはしなかつた。
「この店さえ出来あがれば、少し資本をこしらえて、夏の末には己が新趣向の広告をまいて、あらゆる中学の制服を取ろうと思っている」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
で、昼御膳を其家そこで済まし布施ふせには金と法衣を一枚貰いました。其衣それは羊毛でこしらえた赤い立派な物で、買うと三十五円位するそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
二階は全部何時いつも借手がなく、雨戸はとざされがちであった。時たま、造花屋で大物の造花をこしらえる時に雨戸が開くくらいだった。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
母堂の手によって、松山鮓まつやまずしとよばれているところの五目鮓がこしらえられてその大学生と居士と私との三人はそれを食いつつあった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
私は暇さえあると、ボール紙や黒いクロースなどを買って来て、色々な恰好かっこうの箱をこしらえました。レンズや鏡も段々すうを増して行きました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ボウトの中で日向ひなたぼっこでもしながら、チャアリイのためにこの玩具おもちゃの舟をこしらえて、「こら、チャア公! こわすんじゃあねえぞ」
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
主婦おかみの奴が玉子酒をこしらへてくれたもんですから、それ飲んで寝たら少し汗が出ましたねす。まだ底の方がちよつと痛みますどもねす。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それを自分にうちあけられてみると、どうしてもお松として、兵馬が望むだけの金をこしらえてやらねば済まない心持になりました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
華美はで若粧わかづくり、何うしても葉茶屋のお内儀かみさんにいたしては少し華美なこしらえ、それに垢抜けて居るから一寸表へ出ても目立ちます。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
軍艦を船渠ドックに入れて修覆して呉れたのみならず、乗組員の手元に入用にゅうような箱をこしらえて呉れるとか云うことまでも親切にして呉れた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
不正なる行為こういは富の外にも行われる。不正なる行為をもって名誉を得る者もある。その代りには律義りちぎしょくで金をこしらえる者もある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
およそ人は天地の正しき気を得て形をこしらえ、天地の正しき理を得てこしらえたるものなれば、正しきは習わず教えずして自然持得る道具なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「塩山つていふ村は、昔からえらく変り者を出す所でナア、それが為めに身代しんだいこしらへる者はえではねいだが、困つた人間も随分出るだア」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
もし法律が足らなければいくらでもこしらえる。こしらえると言ったって法律や組合は金がかからないからどんどん産業的に多量製産している。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「舟に乗る時って、一体こんな処にかってに乗れる舟がありますか、舟に乗るなら、宿へでもそう云ってこしらえて貰わなくちゃ」
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その他弁護士に関する諺は随分沢山あるが、おおむね皆な素人しろうとこしらえた悪口であって、ちょうど我邦の川柳に医者の悪口が多いのと同様である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
いずれも素人眼にはうまく見えるようだが、実はみなこしらえものであって、そこには生命が含まれてない生きた屍といえよう。
歌人仲間が短册會を起して金をこしらへ、細君の藥代として送つてよこして呉れたもその時であつた。が、此處でもまた一人貧しい友達が出來た。
武井 今日は初て診察したんだから、もうしばらく様子を見ましょう。薬は直ぐこしらえて置きます。いつでも取りにおいでなさい。
「お話をこしらえるんですって?」とあえぐようにいいました。「そんなこと、あなたに出来るの?——フランス語みたいに? ほんとに出来て?」
毎朝味噌しるをこしらえるとき、柳吉がたすきがけで鰹節かつおぶしをけずっているのを見て、亭主にそんなことをさせて良いもんかとほとんど口に出かかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
と橋本夫人は弼君たすくくんを通して知っていた。安達君は夏休みに帰省した時アイヌのこしらえた弓の矢を買って来て、弼君へのお土産にしたことがある。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これで物入やかご鉈鞘なたざやなど、山や野で用いる色々の品をこしらえます。他国にないもので、いずれも形が立派でどこにもやまいのない仕事であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
始終子供にばかかかっていれば生活が出来ないから、拠無よんどころなくこのかしつけ、ないたらこれを与えてくれと、おもゆをこしらえて隣家の女房に頼み
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
文金ぶんきんの高島田に、にっこりとした御殿女中のこしらえであるが、夏の名残りの化粧の美しさは、わが娘ながら、まぶしいばかりにつややかであった。