扮装いでたち)” の例文
旧字:扮裝
燦爛きらびやかなる扮装いでたちと見事なるひげとは、帳場より亭主を飛び出さして、うやうやしき辞儀の下より最も眺望ちょうぼうに富みたるこの離座敷はなれに通されぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
白地に星模様のたてネクタイ、金剛石ダイアモンド針留ピンどめの光っただけでも、天窓あたまから爪先つまさきまで、その日の扮装いでたち想うべしで、髪から油がとろけそう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例年始めに法王が来られるそうですが、その時には法王がお臨みにならんで駐蔵大臣ちゅうぞうだいじんが来られた。その扮装いでたちは余程綺麗きれいな飾りです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その退屈がだんだんにこうじて来た第三日のゆう方に、倉沢は袴羽織という扮装いでたちでわたしの座敷へ顔を出した。かれは気の毒そうに言った。
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今は二十世紀、ここは日本国だけにいかめしい金ピカで無いから、何れも黒のモーニングに中折帽で、扮装いでたち丈では長官も属官も区別はつかぬ。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
今宵は彼もくろがね天狗と同じ黒装束に黒頭巾の扮装いでたちに身を固めていた。どうやら今宵は、半之丞自らが手を下すつもりらしい。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
源内が先に立って、楽屋口から頭取座の方へ行くと、瀬川菊之丞せがわきくのじょうが、傾城けいせい揚巻あげまき扮装いでたちで、頭取の横に腰を掛けて出を待っている。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まる淑女レディ扮装いでたちだ。就中なかんづく今日はめかしてをつたが、何処どこうまい口でもあると見える。那奴あいつしぼられちやかなはん、あれが本当の真綿で首だらう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
思わず、今入って来た入口の方へ眼を移すと、暖簾の間から、鉢巻、たすきといった扮装いでたちの人間が、押し重なって覗いているではありませんか。
その人物は、黒いソフト帽、黒マント、大型の色眼鏡に、マスクをつけた、例の唇のない怪賊と、そっくりそのままの扮装いでたちであったからだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
定めて、よく見れば、これぞ、上杉方名代の勇将、柿崎和泉守政景が、大大根おおだいこんの打掛纏い、一手の軍勢一千と八百。政景その日の扮装いでたちは——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
揃いの盲縞めくらじまの着物、飛白かすり前掛まえかけこん脚絆手甲きゃはんてっこうすげかさという一様な扮装いでたちで、ただ前掛の紐とか、襦袢じゅばんえりというところに、めいめいの好み
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
我が一行の扮装いでたちは猿股一つの裸体はだかもあれば白洋服もあり、月の光に遠望すれば巡査の一行かとも見えるので、彼等は皆周章あわてて盆踊りを
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
びっくりして振り顧って見ると、一文字の笠に道中合羽、わらじ脚絆という扮装いでたちの見馴れぬ男が二人立っていた。新九郎は小首を傾げながら
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
令嬢風な扮装いでたちをした背の高い若い女で、束ね目も見せず一面に縮らした髪の下から、その耳朶がぽっかり覗き出していた。
人の国 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
一瞬間の後、でつぷりと肥満ふとつた、背丈の堂々たる人物が、哥薩克大総帥の制服に黄色い長靴といふ扮装いでたちで、大勢の随員をしたがへて現はれた。
自慢の自動車がけもののやうな声を立てて、関係会社の前へ来て止まると、増田氏はドアのなかから、山高やまだかにモーニングといふ扮装いでたちですつと出て来る。
いや、それよりもこの弥生が、突然小野塚伊織なる若侍の扮装いでたちで今日この子恋の森へ現れるにいたるまでに、そもどのような経路が伏在しているのか?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
生れ故郷をその扮装いでたちで、いい心持で通過する。ところの者からえらい御馳走を受ける。この時になってみると、もう若年寄も何もあったものじゃない。
話に聞いた近藤勇 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
のみならず、筒袖つつそで、だんぶくろ、それに帯刀の扮装いでたちで、周囲をいましがおな官吏が駕籠のそばに付き添うているからで。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
銀柄の舶来洋傘(筆者の父茂丸が香港から買って来たもので当時として稀有のハイカラの贅沢品)という扮装いでたち
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
群青そのものの長襦袢また瑰麗かいれいを極め、これも夕風に煽られるたび、チラとなまめかしく覗かるる。とんと花川戸の助六か大口屋暁雨さながらの扮装いでたちだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
服装ふくそうまでもむかしながらのこのみで、鼠色ねずみいろ衣裳いしょう大紋だいもんったくろ羽織はおり、これにはかまをつけて、こしにはおさだまりの大小だいしょうほんたいへんにきちんとあらたまった扮装いでたちなのでした。
いずれも目立たぬ扮装いでたちをして、いずれも編笠を真深にかぶって、そうして袴を裾短かにはいて、意気込んでいるということだけは十分に看取かんしゅすることができた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
垢染みた浴衣の扮装いでたちも、斯うすると光輝を放って見えるので有った。してや舞台好みの文金高島田、化粧をした顔の美艶びえん、竜次郎は恍惚こうこつたらざるを得なかった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
ぶらり/\とした身の中に、もだ/\する心を抱きながら、毛繻子けじゆす大洋傘おほかうもりに色の褪せた制服、丈夫一点張りのボックスの靴といふ扮装いでたちで、五里七里歩く日もあれば
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
政子も多喜子も身軽な扮装いでたちで、母親の乗つてゐる籃輿の前後に附き添ふやうにしてのぼつて行つた。
父親 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
二人は、一心に、こみちを下った。ゴルフ扮装いでたちの準之助氏は、何のことはなかったが、新子のフェルトの草履は、ビショぬれになり、白足袋たびに雨がしみ入る気味のわるさ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あれ、彼処あしこに我が兄子せこの、狩の扮装いでたちをして野原にせて行きやる。あれ、馬から落ちられた。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
流行のハイカラ扮装いでたちで、ポマードをしこたまつけ、櫛目くしめをきちんと立てた髪はうしろ頭まで分け目を見せ、刷毛はけでみがき上げた白い指にはさまざまな指輪をでこでこにはめ
「……まあ、さう云ふ風に、扮装いでたちをそろへて——酒飲みの会でも催ほしたら何うだい。」
夜の奇蹟 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
わっちさ、扮装なりこしらえるね此様こん扮装いでたちじゃアいけないが結城紬ゆうきつむぎの茶の万筋まんすじの着物に上へ唐桟とうざんらんたつの通し襟の半※はんてん引掛ひっかけて白木しろきの三尺でもない、それよりの子は温和おとなしい方が好きですかねえ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
町は歳暮の売出しでにぎわい、笹竹ささたけ空風からかぜにざわめいていたが、銀子はいつか栗栖に買ってもらった肩掛けにじみな縞縮緬しまちりめんの道行風の半ゴオトという扮装いでたちで、のぞき加減の鼻が少しとがり気味に
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
M君よりは、はるかに要慎ようじん深い扮装いでたちながら、私はいつもの心で答えた。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
小川の家では折角下男に送らせようと言つて呉れたのを断つて、教へられた儘の線路伝ひ、手には洋杖ステツキの外に何も持たぬ背広扮装いでたち軽々かろがろしさ、画家の吉野は今しも唯一人好摩停車場ていしやぢやう辿たどり着いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから当夜の各自の扮装いでたち、討入の諸道具についても話しがあった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
謙一は、すっかりインド人になりきったような扮装いでたちをしていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
西の内二枚半に筆太に、書附けたる広告の見ゆる四辻よつつじへ、いなせ扮装いでたちの車夫一人、左へ曲りて鮫ヶ橋谷町の表通おもてどおり、軒並の門札かどふだを軒別にのぞきて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菅笠すげがさを被って道中差どうちゅうざしを差して、足ごしらえをしてキリリとした扮装いでたちで、向う岸の茅屋の後ろを飛ぶが如くに歩いて行きます。
人ちがいなどするかといったていである。背にはおいを負い、軽捷けいしょうを欠いた扮装いでたちに見えるが、踏んまえている足は木が生えているようにたしかである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度は前と違って、吉原の花魁おいらん裲襠しかけを見るような派手なけばけばしい扮装いでたちで、真っ紅な友禅模様の長い裾が暑苦しそうに彼女の白いはぎにからみついた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
平次が引っかけているのは、下っ引の若松に借りた、七つ下りの浴衣で、頬冠りをして七三に尻を端折ると、あつらえたような自棄な扮装いでたちになるのです。
ほどもなく入り来る洋服扮装いでたちの七分は髯黒の客人まろうど、座敷に入りてしばらくは打ち潜めきたる密議に移りしが、やがて開きて二側ふたかわに居流れたるを合図として
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「それが一人は警官の帽子を着た老人です。もう一人は白い手術着のような上に剣をつった男で、何だか見たような人間だと云ってます。異様いよう扮装いでたちです」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
増田氏は朝早く自宅うちを出る時には、いつも背広に中折帽なかをれぼうといふ身軽な扮装いでたちで、すつと自動車のなかに乗込む。
その扮装いでたちは古手拭で禿頭に頬冠りをした上から古い小さい竹の子笠を冠り、紺のツギハギ着の尻をからげて古足袋を穿いた跣足で、腰に魚籠びくくくり付けていた。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
さてその藤兵衛だがその日の扮装いでたち、黒の紋付に麻上下、おとなしやかに作ったが、懐中ふところに呑んだは九寸五分、それとなく妻子に別れを告げ、柳営大奥へ伺候した。
二人町奴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
通禧みちとみ烏帽子えぼし狩衣かりぎぬを着け、剣を帯び、紫の組掛緒くみかけおという公卿くげ扮装いでたちであったが、そのそばには伊藤俊介が羽織袴はおりはかまでついていて、いろいろと公使らの間を周旋した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぶらりぶらりとした身の中に、もだもだする心を抱きながら、毛繻子けじゅす大洋傘おおこうもりに色のせた制服、丈夫一点張いってんばりのボックスの靴という扮装いでたちで、五里七里歩く日もあれば
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それが人に化けたような乱髪、髯面ひげづら、毛むくじゃらの手、扮装いでたちは黒紋付の垢染あかじみたのに裁付袴たっつけばかま
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)