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たむ
ふりがな文庫
“
手向
(
たむ
)” の例文
このいたいけな少年の手を合され質朴な老爺や婦人たちの
生
(
き
)
一本な涙の
回向
(
えこう
)
を
手向
(
たむ
)
けられて、これに感動せぬ墓があったであろうか。
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
お
品
(
しな
)
の
塔婆
(
たふば
)
の
前
(
まへ
)
にそれから
其處
(
そこ
)
ら一
杯
(
ぱい
)
の
卵塔
(
らんたふ
)
の
前
(
まへ
)
に
線香
(
せんかう
)
を
少
(
すこ
)
しづゝ
手向
(
たむ
)
けて、
火
(
ひ
)
を
點
(
つ
)
けてほつかりと
赤
(
あか
)
く
成
(
な
)
つた
提灯
(
ちやうちん
)
を
提
(
さ
)
げて
戻
(
もど
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
叔父御よりも甥の殿の方がまだしもの果報があると思いながら、香を
手向
(
たむ
)
けて去ろうとすると、
入違
(
いれちが
)
いに来て
磬
(
けい
)
を打つ参詣者があった。
秋の修善寺
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
導かれて行くにいまだ一周忌にも到らざれば、
冢土
(
ちょうど
)
新にしていまだ
碑碣
(
ひけつ
)
を建てず。
傍
(
かたわら
)
なる
妣
(
はは
)
某氏の墓前に香華を
手向
(
たむ
)
けて蓮久寺を出づ。
礫川徜徉記
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
夜に
入
(
い
)
ってから青山の墓へかわりのその新しいのを
手向
(
たむ
)
けたんです——(釈玉香信女。)——施主は
小玉
(
こだま
)
氏です、——忘れもしません。
露萩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
弟は病身じゃ、せめてわしだけでも、養父上の長いご苦労に
酬
(
むく
)
わねばならぬ。それが、亡き母君への唯一のお
手向
(
たむ
)
けではあるまいか
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私はこの短い手記が計らずも老人への
手向
(
たむ
)
けとなったことを残念に思うが、今にして考えれば書き記しておいてよかったと思う。
思い出す職人
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
その晩は近親と同志とホンの少数の友人だけが祭壇の前に
団居
(
まどい
)
して、生前を追懐しつつ香を
手向
(
たむ
)
けて形ばかりの告別式を営んだ。
最後の大杉
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
新「少々
伺
(
うかゞ
)
いとう存じます、あすこの
御堂
(
おどう
)
の
後
(
うしろ
)
に新らしい牡丹の花の灯籠を
手向
(
たむ
)
けてあるのは、あれは
何方
(
どちら
)
のお墓でありますか」
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
その前には、竹の花立があったけれど、誰も
香花
(
こうげ
)
を
手向
(
たむ
)
けた様子は見えず、腐りかけた雨水がいっぱいに溜っているだけです。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
まず、彼らの策動を空に終らせることが、この際クルトへのなによりの
手向
(
たむ
)
けだろう。と、いよいよ「冥路の国」探検ということになった。
人外魔境:08 遊魂境
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
お住は仁太郎の棺の前へ一本線香を
手向
(
たむ
)
けた時には、
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
朝比奈の切通しか何かをやつと通り抜けたやうな気がしてゐた。
一塊の土
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
日向
西臼杵
(
にしうすき
)
郡の山中では狩の始めに鉄砲を一発放ちて山の神に
手向
(
たむ
)
くるを
矢立
(
やたて
)
という。思うに鉄砲使用以前には矢を放ちて祝したものだろう。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
塵を払い花を
手向
(
たむ
)
け、
最高
(
いとたか
)
きものに祈らんとするや、細き声あり——天よりの声か彼の声か余は知らず——余に
語
(
かたっ
)
ていわく
基督信徒のなぐさめ
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
応と一言云うてくだされたらそれが何よりの
手向
(
たむ
)
けでござんす。否か応かただ一言、どうぞ頼みます、云うてくだされ!
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
私はその人から
鄭寧
(
ていねい
)
に先生の出先を教えられた。先生は例月その日になると
雑司ヶ谷
(
ぞうしがや
)
の墓地にある
或
(
あ
)
る仏へ花を
手向
(
たむ
)
けに行く習慣なのだそうである。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
あなた様が
憐
(
あわ
)
れみて五十銭を恵み給いし小供は、悪性の
疱瘡
(
ほうそう
)
にかかり、一週間前に世を去りぬ、
今日
(
こんにち
)
はその
一七日
(
ひとなのか
)
なれば線香なりと
手向
(
たむ
)
けやらんと
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
そして重右衛門とその少女との墓が今は寺に建てられて、村の者がをり/\
香花
(
かうげ
)
を
手向
(
たむ
)
けるといふ事を自分に話した。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
一
挺
(
ちょう
)
の
鍬
(
くわ
)
を盗み、
唯
(
と
)
ある森蔭の墓所に忍び寄ると、意外にも一人の女性が新月の光りに照らされた一基の土饅頭の前に、花を
手向
(
たむ
)
けているのが見える。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
その墓の
左脇
(
ひだりわき
)
にある別な墓を指し示しながらきっとそのあとでこのお墓へも
香華
(
こうげ
)
を
手向
(
たむ
)
けて行かれますお経料などもそのお方がお上げになりますという。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
不覚の名を
穢
(
けが
)
し、今に落着
相極
(
あいきわま
)
らず死せん事こそ口惜しけれ、依て残す一言あり、我れ
果
(
はて
)
ても仏事追善の営み無用たるべし、川合又五郎が首を
手向
(
たむ
)
けよ
鍵屋の辻
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
両親
(
りょうしん
)
は
怠
(
おこた
)
らず、
私
(
わたくし
)
の
墓
(
はか
)
へ
詣
(
もう
)
でて
花
(
はな
)
や
水
(
みず
)
を
手向
(
たむ
)
け、
又
(
また
)
十
日
(
か
)
祭
(
さい
)
とか、五十
日
(
にち
)
祭
(
さい
)
とか
申
(
もう
)
す
日
(
ひ
)
には、その
都度
(
つど
)
神職
(
しんしょく
)
を
招
(
まね
)
いて
鄭重
(
ていちょう
)
なお
祭祀
(
まつり
)
をしてくださるのでした。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
御墓の石にまだ
蒸
(
む
)
す苔とてもなき今の日に、早や退沒の悲しみに遇はんとは申すも中々に愚なり。御靈前に
香華
(
かうげ
)
を
手向
(
たむ
)
くるもの明日よりは有りや無しや。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
あるいは七夕に
手向
(
たむ
)
けたる
犢鼻褌
(
とくびこん
)
の銀漢をかざしてひらひらと
翻
(
ひるがえ
)
る処、
見様
(
みよう
)
によればただ一筋の天の川は幾様にも変り得べき者なりしを
合点
(
がてん
)
するなるべし。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
仏教の方では人が亡くなった時に香を
手向
(
たむ
)
けますが、これは「
中有
(
ちゅうう
)
(中陰)の衆生は、香をもって
食
(
じき
)
とする」
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
その
亡
(
な
)
き
児
(
こ
)
の三十五日に墓参りをして、その赤い花を
手向
(
たむ
)
けた、この花はその亡き児が生前にむしり取って遊んでいたそのむしり残りの花だというのである。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
マリユスは額を両手の中に伏せて、一つの墓の
叢
(
くさむら
)
の中にひざまずいていた。花はそこに
手向
(
たむ
)
けられていた。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
草が
生
(
は
)
えていた。しかし近ごろ
手向
(
たむ
)
けられた花があった。それと相並んで父と祖父とが眠っていた。彼は彼らの足下にすわった。墓は囲いの壁を背にしていた。
ジャン・クリストフ:10 第八巻 女友達
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
花を
手向
(
たむ
)
けたい様な気もした。けれど
其
(
その
)
廻りを取巻いた人達は何も皆悄然として居るのではない。未来に燃える様な希望を持つ人らしい
面持
(
おももち
)
が多いのであつた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
流言は一編の偽作の諫書にまでなって、漢文で世に行なわれた。堀織部の自殺を
憐
(
あわれ
)
むものが続々と出て来て、
手向
(
たむ
)
けの花や線香がその墓に絶えないというほどの時だ。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
わたくしは自己の敬愛している抽斎と、その尊卑二属とに、
香華
(
こうげ
)
を
手向
(
たむ
)
けて置いて感応寺を出た。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
しかもわれわれは、自己の歴史的同情心が、審美的眼識を無視するままに許している。美術家が無事に墳墓におさめられると、われわれは称賛の花を
手向
(
たむ
)
けるのである。
茶の本:04 茶の本
(新字新仮名)
/
岡倉天心
、
岡倉覚三
(著)
お熊は泣く泣く
箕輪
(
みのわ
)
の無縁寺に葬むり、小万はお梅をやっては、七日七日の
香華
(
こうげ
)
を
手向
(
たむ
)
けさせた。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
譲吉と、夫人との間には多くの僧侶が介在し、多くの縁者親戚が介在し、譲吉は単なる会葬者の一人として、遠くから、夫人の遺骸に
訣別
(
けつべつ
)
の涙を
手向
(
たむ
)
けたに過ぎなかった。
大島が出来る話
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
この老妓の談話は
賤
(
いや
)
しかった。香華を
手向
(
たむ
)
けないゆえ不貞だというようにもきこえたが、あれほど立派に川上の意志をついでいれば、それをこそ川上は悦んでよいのである。
マダム貞奴
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
おれはこの世の思い出に、可哀相な兄への
手向
(
たむ
)
けに、この復讐を、出来るだけはでやかに、しかも出来るだけ巧妙な方法によって、なしとげようと心魂を砕いたからだ。……
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
知音
(
ちいん
)
諸氏によって、君を追悼した登山会が催されたとすれば、君にはいい
手向
(
たむ
)
けである。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
菊次郎のファンは吉原にもだいぶいたようだが、小ふじさんもその一人で、その墓のある池端七軒町の大正寺にまで出向いて、墓前に
香華
(
こうげ
)
を
手向
(
たむ
)
けてくるほどの熱心な贔屓であった。
桜林
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
松林
(
まつばやし
)
の
中
(
なか
)
に、
万
(
まん
)
は、
母親
(
ははおや
)
と
並
(
なら
)
べて
葬
(
ほうむ
)
られました。その
土色
(
つちいろ
)
のまだ
新
(
あたら
)
しい
墓
(
はか
)
の
前
(
まえ
)
には、
日
(
ひ
)
ごとに、だれがあげるものか、いつもいきいきとした
野草
(
のぐさ
)
の
花
(
はな
)
や、
山草
(
やまぐさ
)
が
手向
(
たむ
)
けられていました。
万の死
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
一七日の法事を営み
了
(
おわ
)
り墓に詣りて
香花
(
こうげ
)
を
手向
(
たむ
)
けたること、勇蔵が遺物と逸事をもって阿園の喜びに入りしこと、再度徳利と菜籠を提げて阿園を訪いたること、ついに阿園と寝たること
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
浪子は
手匣
(
てばこ
)
より母の写真取り
出
(
い
)
でて床にかけ、千鶴子が
持
(
も
)
て来し白菊のやや狂わんとするをその前に
手向
(
たむ
)
け、午後には茶など
点
(
い
)
れて、幾の昔語りに耳傾けしが、今は幾も看護婦も
罷
(
まか
)
りて
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
阪神電車で大阪に通つてゐる私は、初めての不通の折は読み古しの夕刊を、二度目には使ひさしの汽車の切符を水神様に
手向
(
たむ
)
けたが、
供物
(
くもつ
)
が気に入らなかつた
故
(
せゐ
)
か、水は少しも減らなかつた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
「よく勤めた娘だから、別れにわしも線香の一本も
手向
(
たむ
)
けねばなるまい」
面
(新字新仮名)
/
富田常雄
(著)
「今となって、源様を助けようとも思わなければ、また、もう手遅れにきまっているけれど、せめては、水につかった死骸なりと引きあげて、
回向
(
えこう
)
を
手向
(
たむ
)
け、
菩提
(
ぼだい
)
をとむらうことにしたら……」
丹下左膳:03 日光の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
宮、貴様に
手向
(
たむ
)
けるのは、俺のこの胸の
中
(
うち
)
だ。これで成仏してくれ、よ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
青々とした
剃
(
そ
)
り立ての頭、目鼻立ちも醜くはなく、念珠を
爪繰
(
つまぐ
)
って仏の御名を口から絶やさないのと、竪川べりを通る時は、贅沢な素人釣の後ろに立って、一くさりの
経文
(
きょうもん
)
を
手向
(
たむ
)
ける癖があるので
銭形平次捕物控:069 金の鯉
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
三人も香花を
手向
(
たむ
)
け水を注いだ。お祖母さんがまた
野菊の墓
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
そして其花と黒玉を
手向
(
たむ
)
けたんです。
雲は天才である
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
叔父御よりも
甥
(
おい
)
の殿の方がまだしもの果報があると思いながら、香を
手向
(
たむ
)
けて去ろうとすると、入れ違いに来て
磬
(
けい
)
を打つ参詣者があった。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
稼ぐようなもんだ。——そして、きっとその間に、脇坂佐内の土蔵の中へ、千両だけは
返
(
けえ
)
してやるぜ。
父
(
とっ
)
さんへの
手向
(
たむ
)
けだ。——じゃあ、あばよ
治郎吉格子
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
手
常用漢字
小1
部首:⼿
4画
向
常用漢字
小3
部首:⼝
6画
“手向”で始まる語句
手向山
手向草