たず)” の例文
また『春色梅暦』では、丹次郎たんじろうたずねて来る米八よねはち衣裳いしょうについて「上田太織うえだふとりの鼠の棒縞、黒の小柳に紫の山まゆ縞の縮緬を鯨帯くじらおびとし」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
しばらく内縁を結ぶの約をなしたるなり、御意見如何いかがあるべきやとたずねけるに、両親ともにあたかも妾の虚名に酔える時なりしかば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ミハイル、アウエリヤヌイチは一人ひとりして元気げんきよく、あさからばんまでまちあそあるき、旧友きゅうゆうたずまわり、宿やどには数度すうどかえらぬがあったくらい
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのとき、突然、「Q町四丁目は何処でしょうか?」とひとりの娘がたずねた。風呂敷包を持っていた。老人は咄嗟に口が言えなかった。
老人と孤独な娘 (新字新仮名) / 小山清(著)
広子はそんなことをたずねたために辰子をおこらせたのを思い出した。もっとも妹に怒られることは必ずしも珍らしい出来事ではなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いやに逃げるじゃないか」と執念深い刑事はかえってからみついてきた。「ところで一つたずねるが、赤ブイ仙太を見懸みかけなかったか」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は、「入の波」と書いて「シオノハ」と読むこと、「三の公」は「サンノコ」であることなどを、この家へたずねて始めて知った。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その予備知識よびちしきがあつて、ことさらにたずねてみたのだから、自然しぜんにこちらも、注意ちゅういぶかくこの重役じゅうやく態度たいど観察かんさつしていたわけである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
たずねた場合は、「絵の先生をしています」とでもにごしておこうと、私は私の家と同然な御出入口と書いてあるその硝子戸を引いた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
(はい、なあに、変ったことでもござりませぬ、わしも嬢様のことは別におたずね申しませんから、貴女あなたも何にも問うては下さりますな。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「主君のお身が大事。善助どの、太兵衛どのは、ここにかかわらず先へ行ってくれ。——於菊どのの身は、わしがたずねて後から出る」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時分は大学の学生であったが、まだ見知らぬ人をいきなりたずねて行ってよいかどうかを思いまどいながら数箇月を過ごしてしまった。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
主人は笑いながら自分の女房に対し「お前はこのお方を知って居るか」とたずねましたが、私を見て「存じません」と答えたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「エレキのやなぎの木?」と私がたずね返そうとしましたとき、慶次郎はあんまり短くて書けなくなった鉛筆えんぴつを、一番前の源吉に投げつけました。
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
以後全く師を取らず俵屋宗理の流風を慕いかたわら光琳の骨法をたずね、さらに雪舟、土佐にさかのぼり、明人みんじんの画法を極むるに至れり
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小林少年は、恩田さんにたずねられるままに、二十面相の秘密を、つぎつぎとあばいていきました。そして、透明人間なんているはずはない。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何だか知らないのであるがそうたずねられると、自分が食べてさえ見せればよいような気になって、答えもせずに口のほとりへ持って行った。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし一晩寝て起きると、またすっかり家の子にもどってしまって、翌朝兄さんの祐助ゆうすけ君にいろいろとたずねられた時、覚えず弱音をふいた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
気になるから、宿のお婆さんに、東京から手紙は来ませんかと時々たずねてみるが、聞くたんびに何にも参りませんと気の毒そうな顔をする。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでそのくにひとかって金峰仙きんぷせんというやまはどこにあるかといってたずねましたけれど、だれひとりとしてっているものがなかったのです。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
甚兵衛はびっくりして、なおいろいろたずねましたが、白髯しろひげのおじいさんはをつぶったきり、もうなんともこたえませんでした。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
六番の美男の東海さんは「螽蟖きりぎりすみたいな、あんな女のどこが好いのだ。おい」と、ぼくの面をしげしげとのぞいてたずねます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
勝つとはなにかとたずぬると、おそらく世人せじんは奇怪なる質問と思うであろう。勝負ほど明瞭めいりょうなものはないと思う人が世に多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
たずねると、家康は、アア今それを考えているところだ、左様ですか、お考え中なら別に申上げることもありますまい、と引下ってきたという。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
渡しを渡った向岸むこうぎし茶店ちゃみせそばにはこの頃毎日のように街の中心から私をたずねて来る途中、画架がかを立てて少時しばらく河岸かしの写生をしている画学生がいる。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これで先ずほっとして、金右衛門の一行は千駄ヶ谷谷町の下総屋へたずねて行って、今の話などをしていると、やがてこんな噂が耳にはいりました。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老婆はうしろの小さい客間へわたしたちを案内して、今後もやはり自分を置いてもらえるかということをたずねるのです。
健康をたずねられると清逸はいつでも不思議にいらだった。それに答える代りに、何んとなくいい渋っていた肝心の用事を切りだすほかはなくなった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そうだ! この奴こそ、いま江戸中の御用の者を煙にまいている、神尾喬之助というおたずねものに相違はねえのだ!
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この人達を宿の二階に迎えた時のお種の心地こころもちは、丁度吾子を乗せた救い舟にでも遭遇であったようで、破船同様の母には何からたずねて可いか解らなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一束の白い菜をかかえた夫は、の子のうえに白い菜を置いたが、筒井つついはそれがどうして手にはいったかをたずねるには、あまりに解り切ったことだった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼女は、ゆっくり句切りながら頭を振って、——「あなたは家庭教師がついているの?」と、だし抜けにたずねた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「お前の趣味は、一体なんだ」と、ルピック氏はたずねる——「もうそろそろ食って行く道をめにゃならん年だ、お前も……。なにをやるつもりだい?」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
その心配しんぱいらぬ。今日きょう神界しんかいからのお指図さしずけてたずねるのであるから、立派りっぱなお客様扱きゃくさまあつかいをけるであろう。
彼女は旅行中であったが、何よりもバーグレーヴ夫人に逢いたくてたまらなかったのでたずねて来たと言った。
遍路が村にはいってきて、この村に善根の宿をする家はないか、とたずねると、村人はすぐに君子の家を教えた。だから種々様々な人体にんていの遍路が泊まっていった。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
「それはそうと」と、これまでいやな奴だと思われた天神さまが、この時いいことをたずねてくれた。「君がそういうことをするようになった動機を聴きたい、ね」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
祖父はクリストフのそばにすわってページをめくってやっていたが、やがて、それは何の音楽おんがくかとたずねた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
おのれも手伝い申さんというにまかせてはたらかせて置きしに、午飯時ひるめしどきめしを食わせんとてたずねたれど見えず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
基康 (黙ってしばらく考える。やがて信ずるところあるがごとく)では念のため、も一度だけおたずねする。ご両人俊寛殿を残してはみやこへ帰る気はありませぬな。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
何故なぜそんなにその老医師が村の者から憎まれるようになったかは爺やの話だけではよく分からなかったけれど、私もまたそれを執拗しつようたずねようとはしなかった。)
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「……突然ですが、すこし、おたずねしたいことがあって、それでおうかがいしたのですけど……」
これ余が広重ひろしげ北斎ほくさいとの江戸名所絵によりて都会とその近郊の風景を見ん事をこいねがひ、鳥居奥村派とりいおくむらはの制作によりて衣服の模様器具の意匠いしょうたずね、天明てんめい以後の美人画によりては
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
確かに見憶みおぼえのある道具だが、どうしてもその名前が思出せぬし、その用途ようとも思い当らない。老人はその家の主人にたずねた。それは何と呼ぶ品物で、また何に用いるのかと。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
冗談じょうだんいわっし。当節とうせつぜにおとやつなんざ、江戸中えどじゅうたずねたってあるもんじゃねえ。かせえだんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
夕方倫敦ロンドンのV停車場で、グヰンを見かけて、こんなところまであとを追ってきたが、女は果してたずねるグヰンに違いなかったろうか、と彼はいま幾分か不確な心持になっていた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
今日きょう人をたずぬ可く午前中に釧路を去らねばならぬので、見物は匇々そこそこにして宿に帰る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私が帰りました当座とをざは………毎日/\わたしたずねて泣いて居たそうで御座います……
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
わたくしは銃猟や魚釣りをするために、ここへモルガンをたずねて来たのです。もっとも、そればかりでなく、わたくしは彼について、その寂しい山村生活を研究しようと思ったのです。
もし人がたずねましたならば、ハア、あれは先頃なくなりました。それでよいです