)” の例文
その大男が、獅子ししえるような声でしゃべっているのですが、何を言っているのかサッパリわかりません。日本語ではないのです。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「わん。」と高くえて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、犬どもは吸ひ込まれるやうに飛んで行きました。
注文の多い料理店 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
委員A「えたって出て来るものか。一九四四年にはゴムの在庫が全部無くなるということは一年前から分っていたんだ。今更いまさら……」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何かに食ひあらされたらしい血みどろなねずみの胴体が、方々に散らばつてゐた……。夜なかに、犬がやたらにえてかけまはつた……。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
書記の家の門前に立って鉄の扉を押すと、例の飼犬が岸本を見つけて飛んで来たが、最早もうえかかりそうな姿勢は全く見せなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このとき、おばあさんは、いえうち仕事しごとをしていましたが、あまりいぬえますので、何事なにごとこったのであろうとうらてみました。
おばあさんと黒ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
西洋の犬は日本の犬のように人を見てもえたりおどしたりしない、その犬たちが秋から冬はよけいにおとなしく人なつこくなる。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今日は名にし金精こんせい峠である。ほとんど直立せる断崖絶壁を登ること一里八丁、樵夫きこりが連れて来た犬が莫迦ばかえ付いて始未におえぬ。
……怎麼いかかれ獅子しし(畑時能が飼ひし犬の名)の智勇ありとも、わが大王に牙向はむかはんこと蜀犬しょっけんの日をゆる、愚を極めしわざなれども。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
兵馬はその絵馬をかついで、舞鶴城ぶかくじょうほりの近辺を通ると、どうしたものか、一頭の犬が、兵馬の前路をふさいでさかんにえ立てます。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
外の杉木立は轟々と空にえ、落葉の声が、霧を捲く。風がこの家を馳けめぐる物音の中には、明らかに兵の跫音あしおとじっていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が蛇を恐れる如く、彼が郎党ろうとうの犬のデカも獰猛どうもうな武者振をしながら頗る蛇を恐れる。蛇を見ると無闇むやみえるが、中々傍へは寄らぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一犬いっけんきょえて万犬ばんけんじつを伝うといってナ、小梅こうめあたりの半鐘が本所ほんじょから川を越えてこの駒形へと、順にうつって来たものとみえやす」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
口と犬とを合わせてえるというようにできあがっていると言い、また歌舞伎かぶきについても分解的演技の原理という言葉を使って
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
むまつのなく鹿しかたてがみなくいぬにやんいてじやれずねこはワンとえてまもらず、しかれどもおのづかむまなり鹿しかなりいぬなりねこなるをさまたけず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
僕らのいわゆる弥次に、最初は盛んにえついている聴衆が、だんだん僕らの味方になる。そして最後にはほとんどみんな僕らの味方になる。
新秩序の創造:評論の評論 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
それでちょうど夕暮にそのテントの少し前に着きますと大変大きな恐ろしい犬が五、六疋もやって来てワイワイえ立てた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
えたてる犬どもの群れを率いてる新聞社長を、彼女は招待した。そしてたやすく気を乱さしてしまった。彼の自尊心を喜ばすことができた。
その癖前に恐しかつた犬や神鳴かみなりなんともない。僕はをととひ(七月十八日)も二三匹の犬がえ立てる中を歩いて行つた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
前生ぜんしょうあだが犬になって、あとをつけて追って来た、つらの長い白斑しろぶちで、やにわに胴を地にって、尻尾を巻いてえかかる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うれしさうにえずたはむれたりえたりして、呼吸苦いきぐるしい所爲せゐか、ゼイ/\ひながら、其口そのくちからはしたれ、またそのおほきななかぢてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今權六がかゞんで見て居りますと、犬がグック/\と苦しみ、ウーンワン/\といやな声でえる、暫くもがいて居りましたが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「惜しい事にならないね。——紺屋橋を渡り切って川添に東へのぼって行くと、按摩あんまに三人あった。そうして犬がしきりにえましたよ先生……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おどろいて振りむくと、ひとむれの尾の太い毛むくじゃらな猿が、丘のてっぺんに陣どって私たちへえかけているのである。私は立ちあがった。
猿ヶ島 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私が「メリー。」と呼ぶとメリーはすぐ私の正面にきて、私の顔を仰ぎ、尾を振りながら、「ワン、ワン。」とえる。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
その鬼は太郎どんのところの犬が月夜にえると同じやうな声で吠える、といふやうなたわいねえ話をなされば、みんなありがたがつてききます。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
がま蟋蟀こおろぎが鳴くもの憂いなかで、ときどき鬣狗ハイエナがとおい森でえている。その、森閑の夜がこの世の最後かと思うと、誰一人口をきくものもない。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
けふもけふとて、ぐでんぐでんに御亭主ごていしゆ醉拂よつぱらへてかへつてると、おかみさんが山狼やまいぬのやうなつらをしててました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
すると、え立てて、もがきだしたから、わしは十字架で三たびも十字を切ってやった。見ると、踏みつぶされた蜘蛛くものように息絶えてしもうた。
ところが、この袋の番人に、一ぴきの小犬がつけてあったので、そいつが、とたんに、きゃんきゃんえだしました。
ジャックと豆の木 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
どこかの犬がこれに応じてえる。やっこさん逃げたな、フィリップはつかまえそくなったな、わたしはこう見て取った。
天才は嘲笑ちょうしょうを受け、偉人は多少人からえらるるのが常である。しかしゾイルス輩とキケロとはまったく別者だ。キケロは思想による審判者である。
重いおけをになっているから自由もきかない。私が半分泣声になって叫ぶと、とたんに犬はきもをつぶすようなえ声をあげて、猛然と跳びかかってきた。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
ソーリン ほら、また犬がえている。(シャムラーエフに)お願いだが、なあシャムラーエフさん、あの犬を放してやるように言ってくださらんか。
銃声が轟然と真夜中の薄闇うすやみを揺り動かした。どこからか急に犬がえだして、そしてその一匹の犬が鳴きやむと、またどこからか別の犬が吠えだした。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
甚だしき怒声を発してそのすねや尾をき、またしりを咬むと相手またこれに返報し、姫御前ひめごぜに不似合の大立ち廻りを演ずるを酋長らえ飛ばして鎮静す。
家々はめりめりとうなりを立て、ゆがめられ、倒され、人々はその家の下に生き埋めにせられ、かろうじてのがれ出たものも狂犬のようにえまわり走りまわり
「オヤ変な娘ッ子だネ、そうしてその娘ッ子がおとなしくなびいたかい」。「イヤしくじったでがすヨ、尻尾をひッつかまえると驚いてえただからネ」
権助の恋 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
定はおかを怖れてゐたので街をうろつくことは無かつたものの、その様な夜更けには板子の上に突つつてはげしくしかし声もなく月に向つてえわめいた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
そして、高く「わん、わん。」とえながら女の子の足元へ突進した。女の子はわそうな顔をして灸の頭を強く叩いた。灸はくるりとひっくり返った。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
橋のたもとに眠りし犬くびをあげてその後影を見たれどえず。あわれこの人墓よりや脱けでし。たれに遇いれと語らんとてかくはさまよう。彼は紀州なり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
狛犬は後脚を折曲げて行儀ぎょうぎ好く居ずくまり、前の片足を上げて何やら人を招くような形をしていながら、えでもするように角張った口を開いてきばを現し
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私が感心して立ちどまっていると、文字どおりに悪狗あくいぬらしいのが、これもたそがれのかげを引いて長くえた。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
故にもし感情のみが高調して、これを観照する智慧が無かったならば、吾人は野蛮人や野獣のように、ただ狂号してえ、無意味な絶叫をするのみだろう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
犬がえついたんで、侍が怒ったらしい、癇持かんもちなんだろう、まっ赤になってね、自分は犬が好きで、迷子ののら犬にさえ自分の食物を分けてやっている
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この瑞西人は大分気むずかしい人だと見えて、今から一箇月ばかり前にも、犬がえて眠れないから何とかして貰えないかと申し込んで来たことがあった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また、他人の所へ行って犬にえつかれたときに、それを止めるマジナイがあります。すなわち、その犬に向かって唱え言をすると、犬が吠えるのをやめる。
妖怪学一斑 (新字新仮名) / 井上円了(著)
途中とちゅう帽子ぼうしを失いたれどあがなうべき余裕よゆうなければ、洋服には「うつり」あしけれど手拭てぬぐいにて頬冠ほおかぶりしけるに、犬のゆることはなはだしければ自ら無冠むかん太夫たゆうと洒落ぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ある雨の日、小学校より帰る子どもこの山を見るに、処々ところどころの岩の上に御犬うずくまりてあり。やがて首をしたよりしあぐるようにしてかわるがわるえたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それでもあすこには、人に逢うのが嫌いだという偏屈な執事のじいさんと、馬鹿に不景気な犬がいましてね。犬の奴め、時どきに裏の庭で月にえ付いていますよ。