千鳥ちどり)” の例文
僕は以前久米正雄くめまさをと、この俊寛しゆんくわんの芝居を見た。俊寛は故人段四郎だんしらう千鳥ちどり歌右衛門うたゑもん基康もとやす羽左衛門うざゑもん、——他は記憶に残つてゐない。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
カラカラに乾いた咽喉と血走った眼に、フト、——一寸一ぱい、千鳥ちどり食堂——と禿ちょろの看板をぶら下げた居酒屋が写った。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「海」から「竜角りゅうかく」「四分六」のあたりには無数の千鳥ちどりが飛んでいて、「荻布おぎぬの」のある方、「柏葉かしわば」の下に五色の雲と天人の姿がいて見える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一軒々々貰つて歩くか、千鳥ちどりがけに歩くのが當り前で、一町内に一、二軒と、選り出して歩く巡禮なんて、そんなものはあるわけは無い、それに——
義貞以下、江田、里見、烏山、羽川、山名などの旗本、諸部隊、多くは騎馬で、むら千鳥ちどりのように駈けみだれた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
障子をあけると、宇治の早瀬はやせに九日位の月がきら/\くだけて居る。ピッ/\ピッ/\千鳥ちどりいて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かど千鳥ちどりしばきよきよ一夜ひとよづまひとに知らゆな 〔巻十六・三八七三〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まるで精神を失ったかのように足を千鳥ちどりに運びつつとぼとぼと倒れそうに出かけて来るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
またろうされて千鳥ちどりむれいはよりいはへとびかうてましたが、かるさいにも絶望ぜつばうそこしづんだひとこゝろ益々ます/\やみもとめてまよふものとえ、一人ひとり若者わかものありて、あをざめたかほえりうづ
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
よるがだん/\けてると、ひるておいたあのきさゝげののたくさんえてゐる、そして、景色けしきのさっぱりしてゐたあの川原かはらに、いまこの深夜しんやに、千鳥ちどりがしっきりなくいてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
かすみ千鳥ちどりなどゝ奇麗事きれいごとではひませぬほどに、手短てみぢかにまうさうなら提燈てうちん釣鐘つりがね大分だいぶ其處そこへだてが御座ござりまするけれど、こひ上下じやうげものなれば、まあ出來できたとおぼしめしますか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
底抜そこぬけにひツけた證據しやうこ千鳥ちどりあし、それをやつとみしめていへしきゐまたぎながら
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
丘には橄欖かんらんが深緑りの葉を暖かき日に洗われて、その葉裏にはもも千鳥ちどりをかくす。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが解読できるのは、帆村自身の外には、彼の助手の八雲千鳥ちどりだけだった。
地獄の使者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むらかゝると、降積ふりつもつた大竹藪おほたけやぶ弓形ゆみなりあつしたので、眞白まつしろ隧道トンネルくゞときすゞめが、ばら/\と千鳥ちどり兩方りやうはう飛交とびかはして小蓑こみのみだつばさに、あゐ萌黄もえぎくれなゐの、おぼろ蝋燭らふそくみだれたのは、ひわ山雀やまがらうそ
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黙々もくもく千鳥ちどりのように川幅かわはばっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
千鳥ちどり』級の水雷艇は海の猟犬だ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
六 帰らぬ浪路なみじに ともよぶ千鳥ちどり
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
どこかで寒い千鳥ちどりの声がした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
めんない千鳥ちどりの日もくれて
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
千鳥ちどりあそべるいさごぢの
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
白いのは千鳥ちどり
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
おやなし千鳥ちどり
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すむ千鳥ちどり
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
千鳥ちどりふち
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
僕等はMのこう言った時、いつのまにかもう風の落ちた、人気ひとけのないなぎさを歩いていた。あたりは広い砂の上にまだ千鳥ちどり足跡あしあとさえかすかに見えるほど明るかった。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
両陣数千の兵も馬もまた刀槍とうそうの光も——まるで飛沫しぶき翻弄ほんろうされる千鳥ちどりの大群か何ぞのように見えもした。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぬばたまのけぬれば久木ひさきふるきよ河原かはら千鳥ちどりしばく 〔巻六・九二五〕 山部赤人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
処々なら白樺しらかばにからんだ山葡萄やまぶどうの葉が、火の様に燃えて居る。空気は澄み切って、水は鏡の様だ。夫婦島めおとじまの方に帆舟が一つはしって居る。櫓声静に我舟の行くまゝに、かもが飛び、千鳥ちどりが飛ぶ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから段々あの橿原かしわばらうちを向い合いに、飛び飛びに、千鳥ちどりにかけて一軒一軒、何処どこでもおなじことを同一おなじところまで言って、おあしをねだりますんでございますがね、あたたかい、ねんばりした雨も
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぬばたまの のふけけば、楸生ひさぎおふるきよ川原かははらに、千鳥ちどり頻鳴しばな
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
千鳥ちどりのあしあと
(新字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
朝の千鳥ちどりに目をさまされた瞼も晴れておいでだった。久しく陽に会わない幽居なので龍顔の青白いのはぜひもない。髯も漆黒しっこくな若さをほこり、お唇は紅を塗ったようである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
淡海あふみうみ夕浪ゆふなみ千鳥ちどりけばこころもしぬにいにしへおもほゆ 〔巻三・二六六〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
丹左衛門尉基康たんのさゑもんのじやうもとやすは、俊寛成経なりつね康頼等やすよりら三人の赦免状しやめんじやうを携へてゐる。が、成経なりつねの妻になつた、島の女千鳥ちどりだけは、舟に乗る事を許されない。正使せいし基康もとやすには許す気があつても、副使の妹尾せのをが許さぬのである。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
千鳥ちどり、千鳥。……」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、千鳥ちどりを追いたつ大浪おおなみのように、逃げるに乗って、とうとう、裾野すそのたいらまでくりだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つの小石が、かれの手からはなれるとともに、なめらかな水面を、ツイッ、ツイッ、ツイッと水を切ってはび、切ってはぶ、まるで、小石が千鳥ちどりとなって波をっていくよう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)