びと)” の例文
ところがさらに意外な事には、祥光院の檀家たる恩地小左衛門のかかりびとが、月に二度の命日には必ず回向えこうに来ると云う答があった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あゝいかなる王者の姿ぞやいまなほ彼に殘れるは、彼はヤーソンとて智と勇とによりてコルコびとより牡羊を奪へる者なり 八五—八七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この老人は応対おうたいのうまいというのが評判ひょうばんの人であったから、ふたりの使つかいがこの人にむかってのびと口上こうじょうはすこぶる大役たいやくであった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「ははは。火放ひつびとが、火に追われて、を失うているような。……そのような老師を、正季もまた、何でお訪ねして行ったのか」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渉ってしまうと、私があの置去りびとのベン・ガンに出会った処の近くへ来た。それで眼を四方へ配りながら、一層用心して歩いた。
千九百餘年前の猶太人が耶蘇基督の名を白地あからさまに言ふを避けて唯「ナザレびと」と言つた樣に、恰度それと同じ樣に、彼の三人の紳士をして
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
船乗ふなのびとには、しまとしてられています。しまにはうつくしいむすめたちがいて、つきのいいばんには、みどり木蔭こかげおどるということでした。
船の破片に残る話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
赤心まごゝろばかりはびとにまれおとることかは、御心おこゝろやすく思召おぼしめせよにもすぐれし聟君むこぎみむかまゐらせて花々はな/″\しきおんにもいまなりたまはん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「私です」と丹三郎が云った、「大事な預けびとをかどわかされたのです。向うへゆく駕籠がそれです、どうか御助勢を願います」
『さすらいびと』(コロムビアJ七三三四)、『影法師』(J七三三五)などは、なんと言っても、優れたものであるに相違ない。
ランゲナウびとはそれをぬすみ見てゐた。彼はすこしも眠れないでゐたから。彼は心におもつた。「私にはひとつも薔薇がない、ひとつも……」
ある円満うまびとが、どうしてこんな顔つきになるだらうと思はれる表情をすることがある。其面もちそつくりだ、と尤らしい言ひ分なのである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
妻は勝手口から逃出して、二、三軒先のびとの家へ身を隠した。知り人は小学校の先生で、女の再縁する折には仲人役をつとめたものである。
噂ばなし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
またゲエテはナポリびとが馬車を赤くし、馬首に旗を飾り、色斑らな帽子を被るのは趣味の野蠻なのではなくて、明るい周圍の爲めだと云つてゐる。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
天使のはろばろ下りたまへりける、あやしきしはぶるひびとどもあつまりゐる中にうちまじりつつ御けしきをがみ見まつる
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
すなわちかれびとかれは、一定の居所を定めずして、次へ次へと浮かれあるいて行く人々であったのであります。
……な、昨今だが、満更知らねえ中じゃねえから、こんなものでも触るなと頼めば、頼まれねえものでもねえが、……誰だと思う、ただびとと違うぜ。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然れども俗化するは人をして正常の位地に立たしむる所以ゆゑんにして、上帝に対する義務も、人間に対する義務も、いにしびとが爛熳たる花にたとへたる徳義も
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
これらの伝説を綜合して考へると、臨月の旅の女がぬすびとに殺されて、松の下に倒れてゐた。そこには大きい石があつた。女は死ぬと同時に出産した。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
手車てぐるま荷馬車にばしゃに負傷者をつんでとおるのもあり、たずねびとだれだれと名前をかいた旗を立てて、ゆくえの分らない人をさがしまわる人たちもあります。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
人間の罪をひとりに引受けた孤獨の老僧と見立てるにれよ、祈念きねんつとめるにれの木、潮風はゴモラびとの涙よりからい。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
小門、外より押されて数名の黒影は庭内にあらはれぬ、きなるは母のお加女なり、中にようされたるは姉の梅子なり、他は大洞よりのびとにやあらん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
弟は兄を剃髪染衣ていはつぜんえの身ならむとは思ひもかけず、兄は弟を薪売りびとになりをらむとは思ひもかけず、かつ諸共もろともやつとし老いたればそれとも心づかざれど
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
われ、サントニアに来りてより、昔ゴーティアびとの残せし暗き古荘に棲む。実に、その荘は特種の性質を有せり。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
おおユダヤの血を受けぬ、カナーンびとの子孫よ、美色がおまえをあざむき、欲情がおまえの心を堕落させた。
テマンびとユリパズは、ヨブの短慮を責める。シュヒびとビルダデは、ヨブの不幸はその罪の罰であると主張する。ナアマびとゾパルは、ヨブを僭越せんえつであるとする。
それに僕の調べたところによると、あの名画を写させてくれといった画家は、ドバルの知りびとだったということです。それでいよいよ僕はドバルが怪しいと思いました。
彼等かれらは自分でロマびとだとかコラびとだとかいつてゐますが、フランスではボヘミアンと呼ばれ、イタリヤではツンガリーと呼ばれ、イギリスではジプシーと呼ばれてゐます。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
大洋にかじを失いしふなびとが、遥かなる山を望むごときは、相沢が余に示したる前途の方鍼ほうしんなり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こういう目をしている男は、ひどく疑い深いペリシテびと(実利主義の俗物)にありがちで、幽霊や心霊に対して浅薄だが心からの軽蔑を大声で叫び出す男かもしれなかつた。
このうち、時局的任務は、時局そのものが、あらゆる機会に、あらゆる機関を通じて、声高く国民にそれを説いてくれるので、なにびともそれに無関心であることができない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ここにおいてユダヤびと言いけるは、見よ、いかばかりか彼を愛するものぞ。その中なるもの言いけるは、盲者めしいの目をひらきたるこの人にして、彼を死なざらしむるあたわざりしや?
伊予の飯岡村の王至森寺おうじもりじにあるものに至っては、なんびとの箸であったかということも不明になりましたが、それでも杉の木の名は真名橋杉、まなばしとは御箸のことであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
昨年英吉利イギリスびとひとり山賊に撃ち殺されしは、此巖の上にての事なりき。賊はサビノの山のものなりといへど、羅馬のテルニイとの間に出沒して、人その踪蹤そうしようつばらにすること能はず。
かつら公爵の人格もしくは政見等については人々の考えは種々に分かれているようであるが、公のただびとならざりしことは、何人なんぴとも同意であろう。して辛抱しんぼうづよい点は公の長所であった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
女御にょごきさきがねとよばれるきわの女性が、つくしびとにさらわれて、遠いあなたの空から、都をしのび、いまは哲学めいたよみものを好むとあれば、わたしのはかなんだロマンスは上々のもので
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
弥陀如来の本願で念仏するものは悪道に落されず迎えとられるのだ。念仏をすることは一騎当千の強者になるよりもえらいことだぞ。お前もいくびとなんぞは早く止めて念仏をしろ念仏をしろ
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何處か紺碧の波の間から、甘美なサイレンの歌が賢いイタカびとの王を誘惑しようとしてゐる。……いけない! 又しても亡靈だ。文學、それも歐羅巴文學とやらいふものの蒼ざめた幽靈だ。
おお如何に、我等羅馬のかの傭兵、ニュミイドびと等をわらひしことぞ!
エベソびとに贈れるふみは汝を自由と呼び、ベーラク書は汝を無限と呼び、詩篇しへんは汝を知恵および真理と呼び、ヨハネは汝を光と呼び、列王記は汝を主と呼び、出埃及記しゅつエジプトきは汝を天と呼び、レヴィ記は聖と
みやこびとしうのしをりとつみつれどふさひふさふやかへでのわか葉
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
なんびとかの悪意ある所業しわざであることは明かである。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
これまでのようでないかかりびとにおなりになるのだから、お狭いところにおおぜいがお付きしていることはできません。幾人かの人だけはお供してあとは自分たちの家へ下がることにして、とにかくお落ち着きになるのを
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
夕座ゆふざまゐりのびとまかりしはを
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
すなどりびとらがつよき肩たゆまず
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
をそびと、我父。4415
テーベびと等バッコの助けを求むることあれば、イスメーノとアーソポがそのかみ夜その岸邊きしべに見しごとき狂熱と雜沓とを 九一—九三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「二十五歳で、聖光院の門跡とは、破格なことだ。……やはりびとがよいか、門閥もんばつがなくては、出世がおそい」などと羨望せんぼうしあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ランゲナウびとは、夢中になつて、一通の手紙を認める。彼はゆつくりと、大きな、まじめな、まつすぐな字を綴つてゆく。
あの円満うまびとが、どうしてこんな顔つきになるだろう、と思われる表情をすることがある。其おももちそっくりだ、ともっともらしい言い分なのである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)