うずら)” の例文
眺めていると雨竜が頭を出しそうでもあるし、この空にうずらで卵を一つぽんと落したら支那料理の燕巣湯にも思い取られそうです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうして、三日がかりでマニラ中の店を見てまわったが、うずら斑文ふもんをつけた、あどけない葉茶壺にめぐりあうことができなかった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
質問してしまえばもはや用の無いはずだが、何かモジモジして交野かたのうずらを極めている。やがて差俯向いたままで鉛筆を玩弄おもちゃにしながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
われらがこの家をいでたる時、日はいまだ昇らざりき。われらはうずらあさらんがために、手に手に散弾銃をたずさえて、ただ一頭の犬をひけり。
明日あしたね、行くんだからね、うずらの三を取っておいておくれ、いいかえ——分ったかい——なに分らない? おやいやだ。鶉の三を取るんだよ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或る時は、草の根を這ううずらのように——或る時は野鼠のようなはやさで——彼はようやく有海あるみはらまで敵の眼をかすめて来た。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土間、引船、桟敷さじきなどいうべきを、うずら出鶉でうずら、坪、追込などとなえたり。舞台も、花道も芝居のごとくに出来たり。人数一千はるるを得たらむ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鴫をつのはこれが初めてだ。彼は以前に、父の猟銃で、うずらを一羽殺し、鷓鴣しゃこの羽根をふっとばし、兎を一匹そこなった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
声と一緒に、そのときどやどやと立ち上がって、花道向うのうずらから飛び出して来たのは、六人ばかりのいかつい大小腰にした木綿袴のひと組です。
鶏でも家鴨あひるでもうずらでもつばめでも何の卵でも好き自由に孵化かえります。玉子五十個入で三十円も出せば軽便なのがあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
獣の王たる獅子と鳥の王たるわしが、青草茂れる広野に会合し、獅子より兎に至る諸獣と、鷲よりうずらに至る諸禽とことごとく随従して命を聴かざるなし
ここには又、野の鳥も住み隠れました。笹の葉蔭に巣をつくる雲雀ひばりは、老いて春先ほどの勢も無い。うずらは人の通る物音に驚いて、時々草の中から飛立つ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一歩一歩あるくたびごとに、霜でふくれあがった土がうずらふくろうつぶやきのようなおかしい低音をたててくだけるのだ。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
震災後、小鳥道楽は下火になりました。うずらはもとよりの事、鶯なぞも古くから研究している方がないでもありませんが、次第にすたれて行くようです。一番小鳥を
その勢に驚いて、時々うずらむれが慌しくそこここから飛び立ったが、馬は元よりそんな事には頓着とんじゃくしない。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども小さいもの、鳥でいえば、つぐみとかうずらとかすずめとか、魚でなら、いわしとかあじとかいいますものは、りたて、または締めたてでなくては美味うまくありません。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
木瓜ぼけの花が咲いている。しどみの花が咲いている。※花こごめの花が咲いている。そうして畑には麦が延びて、巣ごもりをしているうずら達が、いうところのヒヒ鳴きを立てている。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ほんとにあがるんですか」とおつまはにやにやした、「今日はうずらの串焼きのうまいのがあるのよ」
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうして、これまで注文した分には、たか雉子きじ鴛鴦おしどり、鶴、うずらなど……もう、それぞれ諸家の手で取り掛かったものもあり、また出来掛かっている物もあるのだという。
「近頃は漁猟と銃猟とをし、ゼネバの原にてたくさんのうずらをとり、ローン河にてはますを漁った。」
平輿へいよの南、凾頭村かんとうそん張老ちょうろうというのはうずらを捕るのを業としていたので、世間から鶉と呼ばれていた。
小川が滑るように流れそのせせらぎは人を眠りにいざない、ときたまうずらが鳴いたり、啄木鳥きつつきの木をたたく音が聞えるが、あたりにみなぎる静寂を破る響はそれくらいのものだ。
籠に飼われたうずら一際ひときわ声を張って鳴く時に、足に力を入れる、というだけのことである。「張声」といい「力足」といい、言葉の上にもいささか前後照応するものがある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
うずら蒸焼むしやきを二皿」とか「腸詰を二皿」とか、ゼラール中尉はいつも他人の分までも注文した。が、時々ガスコアン大尉がキュラソーの方を、より多く望んでいる時などに
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いわんや金蓮の怪たんなる、明器めいきを仮りて以て矯誣きょうぶし、世をまどわしたみい、条にたがい法を犯す。きつね綏綏すいすいとしてとうたることあり。うずら奔奔ほんぽんとして良なし、悪貫あくかんすでつ。罪名ゆるさず。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
土産みやげといえば、浪さん、あれは……うんこれだ、これだ」と浪子がさし出す盆を取り次ぎて、母の前に差し置く。盆には雉子きじひとつがい、しぎうずらなどうずたかく積み上げたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
呼吸いきをするのも苦しく、胸に手を当ててみると、籠に入れたうずらのように心臓が躍っていた。
南天なんてんあか眼球めだまにしたうさぎと、竜髭りゅうのひげあお眼球めだまうずらや、眉を竜髭の葉にし眼を其実にした小さな雪達磨ゆきだるまとが、一盤ひとばんの上に同居して居る。鶴子の為に妻が作ったのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かごうずらもまだ昼飯をもらわないのでひもじいと見えて頻りにがさがさと籠をいて居る。
飯待つ間 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
オーケストラが夜啼鶯ロシニョール郭公かっこううずらの啼き声を聴かせることは人の知る通りであり、確かにこの交響曲のほとんど全部が自然のいろいろな歌声とささやきで編み上げられているともいえる。
ある日外出してうずらを闘わしてかけをしている者を見た。その賭には一賭に数千金をかける者があった。鶉の価をいてみると一羽が百文以上であった。王成はたちまちその鶉の売買を思いついた。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
なき玉菊たまぎくが燈籠の頃、つづいて秋の新仁和賀しんにわかには十分間に車の飛ぶことこの通りのみにて七十五りょうと数へしも、二の替りさへいつしか過ぎて、赤蜻蛉あかとんぼう田圃に乱るれば、横堀にうずらなく頃もちかづきぬ。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
別の台には蟹とうずらの焼鳥を盛り、あつものは鯉の切身に、はた子を添えた。
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そのあとには百姓や女房や子供やの群集が土埃を立ててついて来る。役僧の妻君と自分の妻君が頭布をかぶって群集にまじっている。合唱隊が歌う、子供達が喚く、うずらが啼く、雲雀が声を張りあげる。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
うずら鳴く真野の入江の浜風に尾花なみよる秋の夕暮れ (〃)
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
何んでもとれるぜ——うずらだの、椋鳥むくどりだの、藍背あおせだの……
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
うずらのように頭巾ひれを懸けて
うずら雲雀ひばりもふけでエ来る
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
うずらはらかかえたなり、ホテルへ帰って勘定かんじょうを済まして、停車場ステーションかけつけると、プラットフォームに大きな網籠あみかごがあった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「昼間、仲間ちゅうげんどもが、網を打って、うずらを十羽も捕ったという。芋田楽いもでんがくに、鶉でも焼かせて、一献いっこんもうではないか」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし春の夕闇にうずらの下蒸しの匂いが廚房キュイジイスから匂って出なかったら通りがかりの人はおそらくこの辺にあり勝ちの住宅附事務所とも思って過ぎてしまうだろう。
食魔に贈る (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うずらと鹿とししは焼け過ぎてもならず、焼け過ぎないでもならず、ちょうどよく火が通らなければいけません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ちょいと水をつけておいて、柔かにぐいぐいとこうりさえすりゃ、あい、たか化してはととなり、からかさ変わって助六となり、田鼠でんそ化してうずらとなり、真鍮変じて銀となるッ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田鼠化してうずらとなり、雀海中に入ってはまぐりとなり、鳩変じてわしとなるという事あるが、愚僧がさいにすわりたるあえもの変じてヌタナマスと眼前になりたる、この奇特を御覧ぜよ
一羽のうずらが、苜蓿うまごやし畑をすれすれにかすめながら、墨縄を張ったような直線を描いて飛んで行く。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
チョッピリ叔母さんも、お弟子を五人連れて、うずら頑張がんばっているそうだ。兄さんからそれを聞いて、僕は泣きべそをかいた。肉親って、いいものだなあ、とつくづく思った。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うずらを飼うことに夢中になり花をつくることに夢中になっているというある人の噂が義雄兄と祖母さんの間に出て、「あの男もつまらないものに凝る男だ」と義雄兄が言出す
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「た、たわけ申すなッ。うずらひとます小判で買って参ったのじゃ。うぬのさし図うけんわい!」
綏々すいすいとして蕩たることあり、うずら奔々ほんほんとして良なし、悪貫已につ。罪名宥さず。陥人の坑、今よりち満ち、迷魂の陣、此より打開す。双明の燈を焼毀しょうきし、九幽の獄に押赴おうふす。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かもは列をつくって空高く飛びはじめ、栗鼠りすの鳴く声が山毛欅ぶな胡桃くるみの林から聞えてくるし、うずらの笛を吹くようなさびしい声もときおり近くの麦の刈株の残った畑から聞えてきた。