つむり)” の例文
大學者だいがくしやさまがつむりうへから大聲おほごゑ異見いけんをしてくださるとはちがふて、しんからそこからすほどのなみだがこぼれて、いかに強情がうじやうまんのわたしでも
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「どこから。」といって勇美子は嬉しそうな、そしてつむりを下げていたせいであろう、耳朶みみもとに少し汗がにじんで、まぶちの染まった顔を上げた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、むこうの方でも顔をあげてこっちを見たが、私であることが判ったのか、ちょとつむりをさげて見せた。たしかに彼女はお八重であった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
葉子はわれにもなくつむりを上げて、しばらく聞き耳を立ててから、そっと戸口に歩み寄ったが、あとはそれなりまた静かになった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「いやいや、そのようなことがあるはずがない——馬鹿らしい妄想だ。雪之丞、何でもないのだ。わしは少しつむりが疲れていると見えるぞ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ほしなほり、ほしひめつむり宿やどったら、なんとあらう! ひめほゝうつくしさにはほし羞耻はにかまうぞ、日光にっくわうまへランプのやうに。
そこらの軒並びを覗き歩いて、うろついていた又八坊は、蒼惶そうこうとして、油蝉のような顔した雲水さんの前へ来て、つむりを下げた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と熊のつむりを撫でて暫く有難涙ありがたなみだにくれて居りますると、熊も聞分けてか、悄然しょうぜんしおれ返って居りまする。お町は涙を払いながら
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
筒井は謙遜けんそんらしくつむりをさげて見せた。彼はこの妻の仕儀にほとほと感銘したが、舟中のこと故、それはよい思いつきだといったきりであった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
 わしは御事に、つむりを下げながらも願った「最後の勝利」を得た事を喜ぶ。新らしい考え深い試みに会うた事も喜ぶのじゃ。
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おどろいてつむりげると、いましも一個いつこ端艇たんてい前方ぜんぽう十四五ヤードの距離へだゝりうかんでる、これ先刻せんこく多人數たにんずうつたために、轉覆てんぷくしたうち一艘いつさうであらう。
虱が湧いたとかで、つむりをくり/\とバリガンで刈つて終うた、頭つきがいたづらさうに見えて一層親の目に可愛ゆい。妻も臺所から顏を出して
奈々子 (旧字旧仮名) / 伊藤左千夫(著)
文造はこの二人ふたりつむりをさすって、ねえさんの病気は少しはくなったかと問い、いま会うことができようかと聞いて見た。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
松はいつもの仕立屋へ、仕立を急きにといふたのを、もう忘れての冗談か。竹は私が頭痛の薬、今もつむりが破れさうなに、お医師者様で貰ふて来や。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「さあ、繁ちゃん、お蜜柑もって、おねんねなさい」と節子は子供に添寝する母親のようにして、愚図々々言う繁のつむりを撫でてやりながらなだめた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そう云うと夫人は、厠の床に惜しげもなく両手をついて、ゆたかな黒髪におゝわれた高貴なつむりを心から青年の前に下げた。
そして、初めて恰好のいいつむりかしげて、じっと暖炉の火をみつめていられたが、書きかけの紙を火の中へ投じられた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あなたがお若くて自由でいらした頃にあなたのお胸にもたれた最愛のかたのおつむりを思い出させるものが何でもございましたなら、どうかお泣き下さいまし
「人がましくも、殿方がつむりを下げての御依頼おんたのみとあるからは、そりや随分火の中へも這入はひりませう、してお名前は」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかも劇場は、かの頻りに艷種つやだねの主人公たりしアウレリアが出づる劇場なりしならずや。されどおん身もかゝる路傍の花の爲めにつむりを痛めしにはあらじ。
「先生、あなたも少々おつむりひねってごらんなさい、すぐにそれとおわかりになることじゃございませんか」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中には薄暗い街燈あんどんの蔭に、派手な夜の物を深々とかぶつた娘のつむりが、平次の方からも手に取るやうです。
かやの木にかやの実のり、榧の実はれてこぼれぬ。こぼれたる拾ひて見れば、露じもに凍てし榧の実、とがり実のかな銃弾つつだま、みどり児がつむりにも似つ、わが抱ける子の。
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それでおつむりが混乱してしまったのでしょう、思いも寄らぬことになりまして心身ともに失っておしまいになったので、あの乳母のようなむちゃな叫びもされるのですよ
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
仏道仏心弥陀みだの極意はこのひとまくらのうちにありといわぬばかりで名人は、求道弘法ぐどうぐほうの経巻をつむりの下にしながら、おりから聞こゆるお山の鐘を夢の国への道案内に
お師匠さんは、私の言葉に、小さな声で左様なら、と、お答えになりましたが、よほど、おつむりめていましたものか、そのまま、お稽古台の上に、俯伏うつぶせになられました
わたしはこうして手を引いていながら、あなたの方へ向いて、その禿かぶろになったおつむりを見ることが出来ません。姉えさん。あなたはわたしに隠して、何か考えていますね。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
天から降ったように、静かに立っていた糸子は、ゆるやかにつむりを下げた。鷹揚おうようふくらました廂髪ひさしがみもとに帰ると、糸子は机のそばまで歩を移して来る。白足袋が両方そろった時
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「御覧なさい、おつむりがちょうど杉戸のしきいの上にあるでしょう。——この杉戸を閉めるのです」
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けむりかと思ひなしに思ふべきものもなきに失望致し申しさふらふ。帰りてまたとこの中にり申しさふらひしが、うつらうつらと致しりて給仕が運び参りし時、悩ましきつむりを上げ申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
独逸兵は吠えつくやうな独逸語で何か訊いたが、農夫ひやくしやうは黙つてつむりつた。
……あのおつむりが悪いそうで、大変お悪いのでございますか? あのお痛みになりますので? チクチク針で刺されるように? そういうご病人にはこの裾野はかえってよろしいかも知れませぬ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鏡子が枕からつむりを上げようとするのを、お照はおさへるやうな手附をして
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「好いおつむりね。豊子さんに愛想を尽かされるだけのことがありますわ」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
つむりの火の用心をせい。」と言つたといふやうな昔話もある。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お冬 ゆうべからどうもつむりが痛んでなりません。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、声は沈んで、つむりはだんだん下ッて来た。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
龍子は不興気につむりを振った。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
なんですかつむりがその……
ていねいにつむりを下げた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
つむりが4570
まあ、顔が真蒼まっさお、と思うと、小雪さんはじっと沖を凝視みつめました、——其処に——貴方のおつむりと、真白な肩のあたりが視えましたよ。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そろばん手にしてにこにこと遊ばさるる顔つきは我親ながら浅ましくして、何故そのつむりをまろめ給ひしぞと恨めしくもなりぬ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見ると、十八公麿のつむりは、もう、あのふさふさしている若木の黒髪をり落して、うりのように、愛らしい青さになっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少女だちはしとやかにつむりをさげた。それでも広巳はじぶんへ云っているとはおもわれないので、そこをはなれようとした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やがて酔いつぶれた人のようにつむりをもたげた時は、とうに日がかげって部屋の中にははなやかに電燈がともっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
祖母さんはもう好い年齢としで、つむりの上あたりは禿げ、髪もあらかた抜け落ちてしまったが、未だそれでも後の方には房々ふさふさとした毛の残りを見せている人だ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『おゝ、左樣さうでせうとも/\。』とわたくしあまりの可愛かあいさに少年せうねん頭上づじやうたかげて、大日本帝國だいにつぽんていこく萬歳ばんざいさけぶと、少年せうねんわたくしつむりうへ萬歳々々ばんざい/″\小躍こをどりをする。
また一方でお頭髪つむりをおかきになれば一方でもお櫛でおつむりをおかきなさる、そのさまが実に不思議でげす。
そうと事が決らば早いがよいゆえ、今すぐ可愛いつむりとなって見しょうわい。誰ぞある! 誰ぞある!