あけ)” の例文
さう致すと磯貝さんが、お話をしますからこちらへお出なさいと仰やつて、診察所でない方の戸をおあけになつたのでございます。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
通る人も通る人も皆歩調あしどりをゆるめて、日当りを選んで、秋蠅の力無く歩んで居る。下宿屋は二階中をあけひろげて蚊帳かや蒲団ふとんを乾して居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
私は、その絵が大好きで、開けちゃ、見い見いしたもんだから、百人一首を持出して、さっとあけると、またいつでもそこが出る。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よびつかはしたり必らず/\心配しんぱいするに及ばず早々此所ここあふべきかぎを持參して此錠前このぢやうまへあけよと申されしかば漸々やう/\吉五郎はホツと太息といき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
門の戸はあけっ放しだ。三人はかまわず門内にはって、玄関の格子戸を引いて見ると、何の手答えもなく、ガラガラと開いた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
博物館の門はたちばうの指先で押したベルつてあけられ、僕は中庭へはひつたが、番人の妻は縦覧時間が過ぎたと云つて謝絶した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もんれいとほあけぱなしだからたゝ世話せわいらず、二人ふたりはずん/\とうちはひつてたが草木くさき縱横じゆうわうしげつてるのでラクダルの居所ゐどころ一寸ちよつとれなかつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
混沌忽ち拆けて、天地遽に開け、魑魅遁竄して、翔走皆欣ぶの勢が現はれるところの、所謂『水門みなとあけ』の有樣を示す。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
母の手から貰つて横に糸でゆはへ附けてある鍵で箱の中をあけやうとするのであつたが、金具は通つて来た海路かいろの風の塩分で腐蝕して鍵が何方どつちへも廻らない。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
うこそ」とつて、叮嚀ていねい會釋ゑしやくしたなり、さきつて宗助そうすけみちびいた。二人ふたり庫裡くり下駄げたいで、障子しやうじあけうち這入はいつた。其所そこにはおほきな圍爐裏ゐろりつてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
甚「いゝやうせあけぱなしのうちだアから、是は何処どこの者だ、なんだいおめえは」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時広間の客は騒飽さわぎあきて帰る所で、送出す芸妓の一人が、小歌がこちらへ這入ろうとしてあけた障子の隙から、通りがゝりに振向いていったのを、貞之進はすでに見られてからなお顔を隠したが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
道をおあけなさい。
手品師はね、密閉した箱の蓋をあけないで、中の品物を取出す術を心得ている。ね、分るだろう。だが、それには種があるんだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つきヤレ/\有難き仰せ畏まり奉つると蘇生よみがへりたる心地こゝちにて直樣すぐさま馳歸はせかへり多くのかぎを持參なし種々いろ/\あはせ見て具足櫃ぐそくびつ錠前ぢやうまへあけけるとなり此事錠前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お縫は出窓の処に立っている弥吉には目もくれず、くびすを返すと何かせわしらしく入ろうとしたが、格子も障子も突抜けにあけッ放し。思わず猶予ためらって振返った。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浴槽ゆぶねの一たん後腦こうなうのせて一たん爪先つまさきかけて、ふわりとうかべてつぶる。とき薄目うすめあけ天井際てんじやうぎは光線窓あかりまどる。みどりきらめくきり半分はんぶんと、蒼々さう/\無際限むさいげん大空おほぞらえる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
飯はようやくおわる。膳を引くとき、小女郎が入口のふすまあけたら、中庭の栽込うえこみをへだてて、向う二階の欄干らんかん銀杏返いちょうがえしが頬杖ほおづえを突いて、開化した楊柳観音ようりゅうかんのんのように下を見詰めていた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜は針箱の底深くおさめてまくら近くおきながら幾度いくたびか又あけて見てようやねむる事、何の為とはわたくしも知らず、殊更其日叔父おじ非道ひどう勿体もったいなき悪口ばかり、是もわたくしゆえ思わぬ不快を耳に入れ玉うと一一いちいち胸先むなさきに痛く
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と障子をあけると母親は座蒲団の上に行儀正しく坐っているのを見て
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あけよ/\と制しけるゆゑ人々動搖どよめき合て片寄かたよらんとする時彼の文右衞門が女房お政は具足櫃ぐそくびつ脊負せおひ差替さしがへの大小等を引抱ひきかゝへし事なれば女の力にては人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
中から錠が卸してあって、どうしてもあけることが出来なかったからである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此男このをとこちゝしんあと市街外まちはづれにちひさな莊園しやうゑん承嗣うけついだので、この莊園しやうゑんこそ怠惰屋なまけやみせともいひつべく、そのしろかべ年古としふりくづち、つたかづらおもふがまゝに這纏はひまとふたもん年中ねんぢゆうあけぱなしでとぢたことなく
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
と表をあける。永禪が這入るを見るとお繼は驚きまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あけッ放しておくからさ。」
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
チャチな青塗り木造の西洋館の玄関をあけっ放しにして、そこの石段に四五人の腕白わんぱく小僧が腰をかけ、一段高いドアの敷居しきいの所に深山木幸吉があぐらをかき、みんなが同じ様に首を左右に振りながら
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人は鍵のかかっているドアをあけて、ソッと寝室に忍び込む。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)