造作ぞうさ)” の例文
私共の村から夏の夕食後に一寸九段下あたりまで縁日をやかしに往って帰る位何の造作ぞうさもなくなったのは、もう余程以前の事です。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あんなにも探し廻って、発見出来なかった賊が、あかつきの光の中では、たった一目で、馬鹿馬鹿しい程造作ぞうさなく、見つかってしまったのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こうしてって見れば造作ぞうさもないようなものだがね、三年の子守こもりはなかなかえらかった。これまでにするのが容易じゃなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兵馬にはここ幾日かを休養させ、ふたたびの御指揮あらば、義貞のせいをけちらして、洛中をとりかえすことも、なんの造作ぞうさではございません
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多寡が胡粉ごふんを塗った張子の面ですから、力まかせに引きめくれば造作ぞうさもなしに取れそうなものですが、それがわたくしには出来ませんでした。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このぶとのちいさなあたまなかに、その世間せけんというものがみんなはいっているはずだ。それをすっかり、おれのものにしてしまうことは造作ぞうさもないことだ。
太陽とかわず (新字新仮名) / 小川未明(著)
少し馴れれば造作ぞうさもありませんのにただ面倒だろうと思って拵えない人がありますが、そういう人は料理を研究しようという心がないのですね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「使えますとも。誰にでも造作ぞうさなく使えます。ただ——」と言いかけてミスラ君はじっと私の顔を眺めながら、いつになく真面目まじめな口調になって
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「大きな声じゃ言えんがね、それは造作ぞうさなくやれるんだよ」とその女は、いろりそばで小さな声で母に話し始めたのだった。
書いてあることは何の造作ぞうさもないように見えてかえって印象が鮮やかだ。寛永十九年七月二十一日のことである。
婆「そんな事ならなん造作ぞうさも有りませんが、少し道具が入りますから、一寸宅へ帰って持ってまいりましょう、奉公先はお大名ですか、お旗下ですかえ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は「猿が手を持つ」を反覆するよりも「あばたの顔面に及ぼす影響」と云う大問題を造作ぞうさもなく解釈して、不言ふげんかんにその答案を生徒に与えつつある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小金吾が取れずといふに「なあに、造作ぞうさはございません、そつちへよつておつもりを気を付けてお出なさい」と華道はなみちのすつぽん辺まで来て、右の偏袒かたはだぬぎとなり
春から夏へかけて生れた猫の子は、造作ぞうさなく育つようだけれども、秋口になってからのは、次第に冷気が加わるためであろう、どうも育ちにくいようである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
糧食係の男は造作ぞうさもなく目的の箱を見いだして、表面の凝霜をかきのけてからふたを開き中味を取り出す。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「なに造作ぞうさもないことです」と悪魔の子は言いました。「あなたの馬は実に立派で、まっ黒な毛並みがつやつやしてるから、私は一目ひとめで好きになってしまいました。 ...
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
大法寺の経蔵に向った二人の手先は、何の造作ぞうさもなく、その中で馬鹿囃子をやっている、押上の笛辰と、その弟子で太鼓の上手と言われた、三吉さんきちを縛って来ました。
今日は為事をした、「裸婦」四回分書いた、未だ書けるが自重して寝る、鏡花の「婦系図」読んで泣いた、そして泣かせる小説なら造作ぞうさなく書けることに気付いた。
およそ半時間ばかりも無言で考えた所で、チャント分った。一体れはう云う意味であるが如何どうだ、物事はわかって見ると造作ぞうさのないものだと云て、主客しゅかく共に喜びました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
考えると美醜というのは人間の造作ぞうさに過ぎない。分別がこの対辞を作ったのである。分別する限り美と醜とは向い合ってしまう。そうして美は醜でないと論理は教える。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
われわれは、手のつけようのない無知のために、この造作ぞうさのない礼儀を尽くすことをいとう。こうして、眼前に広げられた美の饗応きょうおうにもあずからないことがしばしばある。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
彼はこの数日の間に葡萄酒を飲む習慣をなくしてしまったのだが、あんまり造作ぞうさがないので、親同胞おやきょうだいも、出入りの人たちも、これは意外に思った。そもそもの話はこうである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「いや、どうも近ごろにないけっこうな修行をいたしました。事のついでにと申しては無心がましゅうて恐れ入るが、ちょうどおときのころじゃ。夕食ご造作ぞうさにはあずかれまいかな」
クリストフがなし得たすべては、記者としてではなく、友人としてなしたある打ち明け話を、決して濫用しないという言質を求めることだった。記者は造作ぞうさなくその言質を与えた。
「さてはご主人でござりまするか、それがしこそは旅の者、はからず道を踏み迷いまして、意外のご迷惑をかけますばかりか、このようなご造作ぞうさに相成りまして、誠にもって恐縮の至り」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
訳も造作ぞうさもないことさ。……いったい、おれはとんちきでの、検死などに立合わされるとひどく気がうわついて、おれの眼玉はとかくとんでもねえところへ行きたがる、悪いくせさの。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あのとびらのところにいるわたしの影にだって、つい造作ぞうさなくできましょうよ。」
(うちの庭の垣根かきねは、とても低かったから、乗りえるにはなんの造作ぞうさもなかった)
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
たたいて、開けておくれと言えば、何の造作ぞうさはないのだけれども、せ、とめるのをかないで、墓原はかはらを夜中に徘徊はいかいするのはいい心持こころもちのものだと、二ツ三ツ言争いいあらそってた、いまのさき
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あすこには熔岩ようがんの層が二つしかない。あとは柔らかな火山灰と火山礫かざんれきの層だ。それにあすこまでは牧場の道も立派にあるから、材料を運ぶことも造作ぞうさない。ぼくは工作隊を申請しよう。」
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
山籠の暮しは却々なか/\つらい。断食をしたり、祈祷をしたりするのがつらいのではない。そんなことはセルギウスの為めには造作ぞうさはない。つらいのは、思も掛けぬ精神上の煩悶があるからである。
いいな? 造作ぞうさにあつかって腹ごしらえもできた。田沼の兵を斬りながら行くのだ。来いよ、仙太郎! さらばだ。……(戸口の方へ)一剣、天下を行く……(ドシドシ歩いて戸外へ消える)
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
月謝のとどこおりが原因だったから、復籍するに造作ぞうさはなかったが、私は考えた
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これは矢張やはりおじいさんのわれるとおり、このさいおおいに奮発ふんぱつして霊界れいかいとの交通こうつうさかんにする必要ひっようがございましょう。それさえできればんなことは造作ぞうさもなくわかることなのでございますから……。
くものじゃない。この世の中にわしに出来ないものなどは、一つもないわ。不沈軍艦なぞ造ろうと思えばわけはない。十ヶ月の猶予ゆうよ期間さえあれば、不沈軍艦一隻、なんの造作ぞうさもなく造って見せるわ
「きょうはお延さんにお造作ぞうさをかけますな。はっはっはっ。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
草ばくち打ちの一人や二人、何の造作ぞうさもないことだ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
という挨拶で、あとは造作ぞうさもない。
オヽおもしろし覺悟かくごとはなん覺悟かくご許嫁いひなづけ約束やくそくいてしゝとのおのぞみかそれは此方このはうよりもねがことなりなんまはりくどい申上まをしあぐることのさふらふ一通ひととほりも二通ふたとほりもることならずのちとはいはずまへにてれてるべしれてらん他人たにんになるは造作ぞうさもなしと嘲笑あざわらむねうちくは何物なにもの
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は戸口へ来ると同時に、犬の子よりも造作ぞうさなく、月の光をいた簾の内へ、まっさかさまに投げこまれたのであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
歌は残って、関の址と云う程の址はなく、松風まつかぜばかり颯々さっさつぎんじて居る。人の世の千年は実に造作ぞうさもなく過ぎて了う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ウン、そうよ、そうよ。この小っちゃい仲間は、まことに気持のいいやつでね。貴様たち二人くらいの命を取るのはなんの造作ぞうさもありやしないのさ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これを直ぐに抜出そうとすれば薄い膜を破って筋をるばかりで造作ぞうさもないけれども上の方の睾を先へ抜くと下の方のが奥へ釣上つりあがってとても抜けなくなる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「思いますに、上がり場の板を、踏めば落ちるような造作ぞうさにしておき、主上臨幸りんこうのせつ、おとしいれたてまつらんとの、恐ろしいたくらみではないかと私には見られまする」
そして、造作ぞうさなく一つをピンセットでつまげると、眼鏡めがねあなにはめて、ねじまわしで、くるくるとまわしました。それから、つるのろし具合ぐあいをよくしらべてから
小さなねじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
イヤれは造作ぞうさもない話だ、お前さえ今から決断して隠れる気になればぐに私が隠してる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「先生ちっと活溌かっぱつに散歩でもしなさらんと、からだをこわしてしまいますばい。——そうして実業家になんなさい。金なんかもうけるのは、ほんに造作ぞうさもない事でござります」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聴衆にたいする率直な信頼の念と、当然のこととして造作ぞうさなく得られるものと思っていた成功にたいする信頼の念とは、今や崩壊してしまった。敵をもつのはもとよりであると思ってはいた。
御用の声でおどかせば云わせるすべもありますが、なにかの邪魔になるといけねえと思って、今度は猫をかぶって帰って来ました。なに、近いところだから造作ぞうさはねえ、用があったら又出掛けますよ
志「それじゃア一寸ちょっとて上げて、あとで又いろ/\昔の話をしながらゆるりと一杯やろうじゃアないか、知らない土地へ来て馴染の人に逢うと何だか懐かしいものだ、病人は熱なら造作ぞうさもないからねえ」