とこ)” の例文
「……それはご遠慮は申しませんの。母のとこへお参りをして下さいますのは分っていますけれどもね、そのさきに——誰かさん——」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何処どこへ行くの?」光子がいきなりきいた。森先生のとこへといえば、また何とか意地悪い事を言われるのがいやさに、それとなく
先生の顔 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「いゝえ、お祖父樣ぢいさん、私は螢をつかまへに行くのでは無いのです。つい其處そこまで…… あの、お隣家となりの太一さんのとこまで行くのです。」
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
英国の文豪キプリングが、ある時米国の雑誌が見たいから、五六種送つて欲しいと、紐育ニユーヨークにゐる友達のとこへ頼んでよこした事があつた。
『智恵子さんとこ被行いらしつたのか知ら!』といふ疑ひを起した。『だつて、夜だもの。』『然し。』『豈夫まさか。』といふ考へが霎時しばし胸に乱れた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それとも代言さんのとこに、二年ほども居た身躰、見ン事お前の腕一ツで、お父様のお帰りまで、私をどうにかしておくれかえ。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「それは難有ありがとう。私もお前さんのとこの子供を見に行かずと思っていた。それに、久し振でお雪さんにも御目に掛りたいし……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かねて自分とは普通一片いっぺんの師匠以上に親しんでおったので、ある時などは私のとこへ逃げてきて相談をした事もあった、私もすこぶる同情にえなかったが
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
何も恐わがる事はない、拙者はこの寺の近処に居るもので、お前のとこへ用を伝えるように言いつかって来たものだ。
耳無芳一の話 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
その日の午後魔子は来て「パパとママは鶴見つるみ叔父おじさんとこへ行ったの。今夜はお泊りかも知れないのよ」といった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「誰がツて……野郎、又威嚇おどし文句で、又兵衛(酒屋の主人)のとこへ行つて、酒の五合もくらつて来たんだ」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そりゃ同名異人であれば結構ですがね、しかそれがお前さんとこの息子さんだったら、桶屋おけやさんに入った泥坊も多分あの人じゃないかなんて、村では噂をしているのよ。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「そうかい、済まないねえ。私だって、あの前検事殿には、満更でもなかったんだから。それはそうと、お女将かみさんのとこから、稲野谷いなのやというあの情夫いろ、帰っただろうか」
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わしとこではお寺の建立があろうが、学校の修繕があろうが、堤防の修築があろうが、先祖代々から一文半りんも出した先例がないので、村のことでさえそういうわけだから
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其の時お内儀さんが此金これをと云って下すったから、ソックリお前のとこもって来てやったら、お前が気の毒がって、以来はモウ横山町の横と云う字にも足は踏かけめえと云って
乳母うばめに、じゃうえてゐたら、わかあたゝかいがあったら、テニスのたまのやうに、わし吩咐いひつくるやいな戀人こひゞととこんでき、また戀人こひゞと返辭へんじともわし手元てもと飛返とびかへってつらうもの。
それほどわたくしのことをおもってくれるのなら、そんな我侭わがままうかわりに、みっしり身相応みそうおう修行しゅぎょうをしてくれるがよい。そしておもしたらちょいちょいわたくしとこあそびにてたもれ……。
「俺らの尋ねて行くのもその道庵先生のとこなんだ」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
起返って、帯をお太鼓にきちんとめるのを——お稲や、何をおしだって、叔母さんがとがめた時、——私はおっかさんのとこへ行くの——
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしにはてんでらんわい。弟子のとこに持つてかつしやれ、那奴あいつは衲の字と来たら、本人の衲よりもよく読み居るからの。」
一枚だけ殘して雨戸を閉め、散亂ちらかつた物を丁寧に片寄せて、寢具も布き、蚊帳も吊つた。不※靜子は、「智惠子さんとこ被行いらしたのかしら!」
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
貴方あんた好事いいことを教えて上る」と娘は乗出して、「明日はゆっくりお勝さんのとこへ行って、一緒に小屋の内で本でも読みやれ」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「は、有ツたから、貴方が私ツとこへ來て下すツたんでせう。」と低い聲で、眞面目に謂ツて、クスリ/\笑い出した。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ちやんも塩梅が直つたら、お酒も飲まないで稼ぐといつてるから、おらのとこは、今に金持になつてみせらア。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
嫌いとなると根こそぎ嫌いだが、好きとなると直ぐのぼせ上る抱一は矢継早やつぎばやに三、四回も続けて紅葉を尋ねた後、十日ほどもってから私のとこへ頗る厄介な提議を持込んで来た。
アノおくのね、真卓先生しんたくせんせいとこからもらつたんだよ。亭「うむ、アノお医者いしやか、可笑をかしいな。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
お島はその日も、外へ出ていった鶴さんの行先ゆきさきを、てっきり植源のおゆうのとこと目星をつけて、やって来たのであった。そして気味を悪がって姉の止めるのもかずに、出ていった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「孫右衛門どんのかきねの処の阪で、寝反つたまゝ何うしても起きねえだ。おらあ何うかして起すべい思つて、孫右衛門さんとこへ頼みに行つただが、ちひせあまばかりで、何うする事も為得しえねえだ」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
カピ長 なにさ/\、乃公おれ馳驅奔走かけずりまはるわさ、さすれば、大丈夫だいぢゃうぶ、どうにかなるわさ。そなたは、ヂュリエットのとこて、もの手傳てつだうてやりゃ。乃公おれ今夜こんややすむまい。はて、まかせておきゃ。
もしも皆様のうちのだれかが「うさぎはあそこにかくれているよ」とでも仰言おっしゃろうものなら、わたしはまあどうなっていたのでしょう。お蔭様でわたしはこれから懐しい親や兄たちのとこへ帰ってまいります。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
加茂川亘かもがわわたるさんて——その、あの、根岸の歌の先生ね、青公家あおくげの宗匠ンとこへ、お嬢さんの意趣返しに、わっしが暴れ込んだ時、の紋附と
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芸人といふものは、罪のないもので、夫婦めをと喧嘩をしたり、批評家とか蜂とかにされたりすると、直ぐに師匠のとこに駈けつけようとする。
「あの時吾儕われわれの会見したことは、ちゃんと書面にこしらえて、一通は記念の為に正太へ送ったし、一通は俺のとこに保存してある」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『ああ、今日は重役の鈴木ンとこに𢌞つたもんだからな。(と言つてお定の顏を見てゐたが、)これか、今度の女中は?』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
誰にもだまツて、此處に引込むでゐて、何か出來た時分に、ポカリ現はれて呉れる………屹度きつと大向おほむかふやンやと來る。そこで大手を振ツて阿父のとこへ出掛けて、俺の腕を見ろいさ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
俺の忠告に従つて文学三昧も好い加減に止めにして政治運動をやつて見い。奈何ぢや、牛飼君のとこから大に我々有為の青年の士を養うと云ふてよこしたが、汝、行つて見る気は無いか。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
『君真実に顔色が悪いよ。いつそ僕のとこへ来ないか。僕は今国野の許に居るんだ』
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
川長かわちょうへでも行っておまんまを喰いに一緒にけと仰しゃるから、お供をしてお飯を戴き、あれから腕車くるまを雇ってガラ/\/\と仲へ行って、山口巴やまぐちどもえのおしおとこあがって、大層お浮れなすって
『おばアさんのとこ?』
路傍の小草 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
不断、そうやがるとよ、いか。手前ンとこ狂女きちがいがな、不断そう云やがる事を知ってるから、手前てめえだって尋常ただは通さないんだぜ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吾輩のとこに滝田樗陰といふ悪物喰の男がよく来る。来る時はいつも何か知ら風呂敷包を持込んで、吾輩にいろんな物を呉れる例になつてゐる。
「何か捨吉のとこへも持って来たいとは思ったが、土産みやげ一つ用意する暇もあらすか。ほんとに今度は何処へも内証の旅だで」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『ああ、今日は重役の鈴木ンとこに廻つたもんだからな。(と言つてお定の顔を見てゐたが)これか、今度の女中は?』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
父は火鉢のとこに坐ツて、煙草を喫しながらジロリ/″\由三の樣子を瞶めて、ちよツくら口をかうともしない。そして時々ゴホン/″\咳込むで、あをざめた顔を眞ツ紅にしてゐた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それでも博文館に入ってから一年ほど経った或時、近頃は忙がしくて紅葉さんのとこばかりへ行ってられないで諸方へ顔を出すので、紅葉さんの御機嫌が悪くて困ると愚痴ぐちこぼした事があった。
主人「ナニ、昨夜たしかに見たから、今朝貴様のとこへ人をやったんだ」
が、表のこの町内は、おれとこと、あと二三軒、しかも大々とした邸だ。一遍通り門札かどふだを見ても分る。いやさ、猫でも、犬でも分る。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
成程聞いてみると、結構な訳だが、唯それだけの事なら、いつそ英吉利の俳優やくしやと同じやうに、自分とこの雛児を盗み出したが、一番手つ取早い。
『マア好い事聞いた、信吾さんが智惠子さんのとこへ行くの。今度逢つたらうんと揶揄からかつて上げよう。ホホヽヽ。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「お婿さんに式の済むまでは叔父さんのとこへ訪ねて来ないやうにツて、今お父さんに頼んで置いた——およめさんがそこへ取次に出るなんて、可笑をかしなものだからね——」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)