血眼ちまなこ)” の例文
それっきり行方ゆくえ不明になって、警察にも訴え、実家の方でも血眼ちまなこになって探しているのだが、いまだに消息がわからないというのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その周囲に居流れた雪の下の粂公くめこう、里芋のトン勝、さっさもさの房兄い、といったようなところが、血眼ちまなこになって花を合わせている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どんな血眼ちまなこになった人たちが馬籠峠の上を往復しようと、日々の雲が変わるか、あるいは陰陽の移りかわるかぐらいにながめ暮らして
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いざいくさ——という日でも、集まる雑兵はいくらでも集まるが、求めても容易たやすく来ないような人物を、今は各藩で血眼ちまなこに探しているのだ。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまから血眼ちまなこで部屋を探しとる……こいつのサービスで、あそこにケチンをこしらえとけば、階下と二階を、月五万円ずつで貸せますよ。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
嘲笑ちょうしょう罵声ばせいを聞くたびに千三は頭に血が逆上ぎゃくじょうして目がくらみそうになってきた。かれが血眼ちまなこになればなるほど、安場のノックが猛烈になる。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この沖の只中で船を止めておくのは、エムデンの目標をさらしておくようなものだというので、乗客が血眼ちまなこになって騒ぎ出した。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
手燭に照して見廻みまわせば、地に帰しけん天に朝しけん、よもやよもやと思いたる下枝は消えてあらざりけり。得三は顛倒てんどうして血眼ちまなこになりぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが、それからしばらくの間、前方の画中を血眼ちまなこになって探し求めていたけれども、三人の眼には、眩耀ハレーション以外の何ものも映らなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
寺尾は何時もの様に、血眼ちまなこになって、何か探していた。代助はその様子を見て、例の如く皮肉で持ち切る気にもなれなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みんな慾の深そうな顔をした婆さんや爺さんが血眼ちまなこになって古着の山から目ぼしいのをつかみ出しては蚤取眼のみとりまなこで検査している。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
老人「それはさもありそうですね。新年の大市もじきですから。——町にいる商人も一人ひとり残らず血眼ちまなこになっているでしょう。」
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……小判、大判、太鼓判と来ては、どいつもこいつも、血眼ちまなこになってもうけよう、儲けようとするんだからな。儲けると今度はひし隠しにする。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その父は血眼ちまなこになって君らの行衛を尋ねているのだ、一刻も早く帰り給えと、シャツなど取りかえさせ、着がえや罐詰などを持たせて送り出す。
震災日誌 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
三輪の萬七は血眼ちまなこでした。小さい路地の内外を鐵とうの如く堅めて、さて路地の一番奧の家、八五郎の宿へ向つたのです。
一眼を血眼ちまなこにきらめかし、追われて行ったチョビ安の姿をさがしもとめて、駒形も出はずれようとするここまで来ると。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
我が作れる狭き獄室に惰眠だみんむさぼ徒輩とはいは、ここにおいて狼狽ろうばいし、奮激ふんげきし、あらん限りの手段をもって、血眼ちまなこになって、我が勇敢なる侵略者を迫害する。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
みな必死の血眼ちまなこであったらしいが、何分にもその資金が思うにまかせず、興行の都度つどに高利の金を借りたり、四方八方から無理な工面くめんをして来たりして
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
町筋の倒れた家のあたりでは、一たん逃げたのが又戻って来て、男も女も家財を取出すのに血眼ちまなこになっていた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
何々を指すか名目を聞かせくだされたいとの文言に大いに周章し、種々血眼ちまなこで探ったが見えず、『沙石集』等に茶の徳を数えた所はあれど十の数に足らず
人足たちは、桟橋から轟音ごうおんと共に落ちて来る石炭の雪崩なだれの下で、その賃銀のためにではなく、その雪崩から自分を救うために一心に、血眼ちまなこになって働いた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
どこへ往ったろうと思って、血眼ちまなこになって捜していると、突然その鍬や縁の下からひょこりと頭を出した。
唖の妖女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
日本人が血眼ちまなこになって騒いで来たヨーロッパの文化があれだったのかと思うと、それまで妙に卑屈になっていた自分が優しく哀れに曇って見えて来るのだった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
各新聞社は、隠れの捜索に血眼ちまなこだったが、絶縁状が『朝日新聞』だけへ出ると物議はやかましくなった。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
無論、運転手は何も知らずに警視庁へ届けたさ。それで、君達が血眼ちまなこになって探している秘密書類は、今は警視庁の遺失物係りの所に、ちゃんと保管されているんだ。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
お互いが隙を狙って相手の物をくすねようと血眼ちまなこになっているんだ、ばかばかしい、けだものならけだものらしくするがいい、おてえさいを作ったって見え透いてるよ
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こんなわけで、早いところ餌をもって押掛けたチーア卿の早業はやわざは、街頭を血眼ちまなこになって金博士の姿を探し求めているルーズベルトの男女特使を、今もなお失望させている。
開場あける前に捜さなきゃ、きっとなくなって仕舞うわ——、今まで皆んなで血眼ちまなこになっていたのよ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
何のために血眼ちまなこになって働いて来たか解らないような、孤独の寂しさが、心に沁拡しみひろがって来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
血眼ちまなこになりながら金の箒を探してをりますと、ふいにあつちこつちの海草のなかから、星のかたちをした赤い色の魚とも虫ともつかないものがたくさん現れてまゐりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
といふので、仲間の美術通や画家ゑかきなどは、血眼ちまなこになつて得意先を駈けづり廻つてゐる。言ふ迄もなく美術通や画家ゑかきなどいふものは、閑暇ひまがある代りに金銭かねが無い連中れんぢゆうである。
魚たちは血眼ちまなこになって走りまわりました。そして、やっとしまいにのこぎりうおが鍵のたばを口にくわえて出て来ました。鍵は海の底の岩と岩との間へ落ちこんでいたのでした。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
さま蹌踉ひよろ/\しながら一二丁程行し頃彼の老人血眼ちまなこになりて豐島屋の店へ立歸り最前わが腰掛こしかけたる邊を胡亂々々うろ/\と何やら尋ねる樣子なりしがそばなる者にむかひ私しは最前此所にて酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
俺が山野の作品が出ることに血眼ちまなこになるのも、あるいは当然のことであるかも知れない。
無名作家の日記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何しろ自分の身上に降り懸った災難でもあり、また私のためにも大難が起ったというような考えでありますから、夫婦は血眼ちまなこになってラサの町を捜し廻ったけれども見つからない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
地方ちほうちいさなまちといっても、工場こうじょうでは、機械きかい運転うんてんをして、人々ひとびとはせっせとはたらいていたし、またほかの商店しょうてんでは、一せんせんあらそって、生活せいかつのためには、血眼ちまなこになっていたからでした。
生きている看板 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これを全く知らないでいたのは迂濶うかつだと言われるのがいやさに、まずもって僕の父に内通し、その上、血眼ちまなこになってかけずりまわっていたかして、電車道を歩いていた時、子を抱いたまま
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
級友という級友が皆然うで、平生へいぜいの勉強家は勿論、金箔附きんぱくつきの不勉強家も、試験の時だけは、言合せたように、一しき血眼ちまなこになって……鵜の真似をやる、丸呑まるのみに呑込めるだけ無暗むやみに呑込む。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
次に棚の上のものも同様の熱心をもって検べ、箱らしいものはみな蓋を取って中を検べました。まるで白金が工場のどこかに隠されてでもあるかのように、いわば血眼ちまなこになって捜しました。
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しや事業熱はめても、失敗を取返へさう、損害をつくのはうといふ妄念まうねんさかんで、頭はほてる、血眼ちまなこになる。それでも逆上氣味のぼせぎみになツて、危い橋でも何んでもやたらと渡ツて見る………矢張やはり失敗だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
所轄の特高は、雲隠れした「要視察人」の俺を血眼ちまなこで探していることだろう。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
風雨をにらんであれほどの大揉おおもめの中にじっと構えていたというが、その一念でも破壊こわるまい、風の神も大方血眼ちまなこで睨まれては遠慮が出たであろうか、甚五郎じんごろうこのかたの名人じゃ真の棟梁じゃ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
縮毛の大男と、若い水夫とが、野獣のようなうめきを立てて、たちまち、肉弾にくだんあいすさまじい格闘をはじめた。よくの深い水夫たちは、二人の勝敗如何いかにと、血眼ちまなこになってこの格闘を見守っている。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
晩食後の片づけに小皿一つ粗匇そそうをしまいと血眼ちまなこになっている時、奥では一家の人たちが何んの苦労もなく寄り合って、ばか騒ぎと思われるほどに笑い興じているのを聞かなければならぬねたましさ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
先程さきほどまでの、享楽をおもっての興奮はどこへやら、ただ血眼ちまなこになってしまった、ぼくは、それでも、ひょッとしたら落ちてはいないかなアと、浅ましい恰好かっこうで、自動車のみちすじを、どこからどこまで
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
われらは血眼ちまなこになって傍目も振らず、まっしぐらに突入したのだ。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
……みんな血眼ちまなこになってるもんだから話がすっかりのびちまって。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
彼等は皆過去の十一箇月をあだに送りて、一秒のちりの積める弐千余円の大金を何処いづくにか振落し、後悔のしりに立ちて今更に血眼ちまなこみひらき、草を分け、瓦をおこしても、その行方ゆくへを尋ねんと為るにあらざるなし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一等運轉手チーフメート船長せんちやうとは血眼ちまなこになつて一度いちどさけんだ
分隊長は血眼ちまなこになりて甲板を踏み鳴らし
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)