おさ)” の例文
旧字:
もう申し上げる必要はございませんでしょうが、あの酸化鉛のびんの中には、容器におさめた二グラムのラジウムが隠されてあったのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
もとよりその論者中には、多年の苦学勉強をもって、内に知識をおさめ、広く世上の形勢を察して、大いに奮発する者なきに非ず。
経世の学、また講究すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
即座にこの家のどこにその金をおさめ隠しあるを占い知って娘に告げくれるは必定と、十年後のことを見通して父が娘に遺金したのだという。
いずこにおさめてあるかそのかずに不足を生ぜざるか改めて見んともせず、ひたすらにまた日暮を待ちたり、日はやがて暮れたり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
趙家の親子はうちに入ってともしごろまで相談した。趙白眼もいえに帰るとすぐに腰のまわりの搭連をほどいて女房に渡し、箱の中におさめた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
仲平はこの発明を胸におさめて、誰にも話さなかったが、その後はいて兄と離れ離れに田畑へ往反おうへんしようとはしなかった。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ゆえに日ごろよき考えと、しからざる考えとをおさめ入るるによって、潜在識の性質に異同をしょうずることはいうまでもない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
元和げんな偃武えんぶ以来、おさめてさやにありし宝刀も、今はその心胆と共にびて、用に立つべきもあらず。和といい、戦という、共にこれ俳優的所作に過ぎず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
なにしろそのままにしてはおかれないというので、男と女の死骸をおさめたままで、その柩を寺の西門の外にうずめると、その後にまた一つの怪異を生じた。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
お辰素性すじょうのあらましふるう筆のにじむ墨に覚束おぼつかなくしたためて守り袋に父が書きすて短冊たんざくトひらと共におさめやりて、明日をもしれぬがなき後頼りなき此子このこ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鶴原家ではそれからその鼓をソックリ箱におさめて、土蔵の奥に秘めて虫干しの時にも出さないようにした。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのついでに友人の来書一切いっさいおさめた柳行李やなぎごおりを取出しその中から彩牋堂主人の書柬しょかんえらみ分けて見た。雨の夜のひとりみこんな事でもするよりほかに用はない。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
信一郎は、『瑠璃子』と云ふ三字を頼りにして、自分の物でない時計を、ポケット深く、おさめようとした。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ほど経て白糸は目覚めざましぬ。この空小屋あきごやのうちに仮寝うたたねせし渠のふところには、欣弥が半年の学資をおさめたるなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉦、炬火、提灯、旗、それから兵隊帰りの喪主もしゅが羽織袴で位牌をささげ、其後から棺をおさめた輿こしは八人でかれた。七さんは着流きながしに新しい駒下駄で肩を入れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
旅櫬というのは、旅先で死んだ人を棺におさめたままで、どこかの寺中にあずけて置いて、ある時機を待って故郷へ持ち帰って、初めて本当の葬式をするのでございます。
そしていつもよりは活気づいて艇庫に船をおさめた。夕飯には褒賞ほうしょうの意味で窪田が特別に一人約二合ほどの酒を許した。合宿で公然と酒を飲ませるのは真に異例であった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
そもそも武張ぶばった歴史を持ったもので、日本武尊やまとたけるのみことが秩父の山に武具をおさめたのがその起源と古くより伝えられていますが、御岳山の人に言わせると、それは秩父ではない
我が国では屍体を鄭重に扱って、これを墓におさめるの風習のあった事は言うまでもない。
ついした談話はなしの、いとぐちに、身柄を人に悟られまい、無益むだな金を使用つかふまいと、その用心に、なにもかも、一心一手におさめて置き。天晴れの男に添はせむその時に、拭えぬ曇りは是非もなし。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ヒマラヤ山中の霊跡 ムクテナートというのは首のおさめ所という意味
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大なる花片一つおさめおかんと思ひしに子供来りて早く取去おわんぬ
牡丹句録:子規病中記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
われ等キプリスの車をおさたり。8365
腹はおさめて貯え
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
俗に言う触らぬ神にたたりなしの趣意に従い、一通りの会釈挨拶を奇麗にして、思う所の真面目しんめんぼくをば胸の中におさめ置くより外にせんすべもなし。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところで、それが済むと、その二葉を金庫の抽斗ひきだしの中におさめて、当夜は室の内外に厳重な張番を立て、その発表を翌日行うことになりました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その時までも妃が付け置いた親臣のみ太子に附き添い、一日あるひ太子浴するとて脱ぎ捨てた腰巻を拾うて帰国を急ぎ、妃に奉ると、妃これをおさめた。
商賈しょうこみな王の市におさめんと欲し、行旅みな王のに出でんと欲し、たちまちにして太平洋中の一埠頭ふとうとなり、東洋の大都となり、万国商業の問屋となり
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
旅棺というのは、旅さきで死んだ人を棺におさめたままで、どこかの寺中じちゅうにあずけておいて、ある時期を待って故郷へ持ち帰って、初めて葬を営むのである。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
三尊さんぞん四天王十二童子十六羅漢らかんさては五百羅漢、までを胸中におさめてなた小刀こがたなに彫り浮かべる腕前に、運慶うんけいらぬひと讃歎さんだんすれども鳥仏師とりぶっし知る身の心はずかしく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
信一郎は、『瑠璃子』と云う三字を頼りにして、自分の物でない時計を、ポケット深く、おさめようとした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
竹渓は家にとどまり、座右の手函てばこおさめた詩草を取出してこれを改刪かいさんしやや意に満ちたものおよそ一百首をえらみ、書斎の床の間に壇を設けて陶淵明とうえんめいの集と、自選の詩とを祭った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
毛はかなりに太いもので、それは人間の手で丁度ひと掴みになるくらいのたばをなしている。油紙に包んで革文庫かわぶんこおさめられて、文庫の上書うわがきには「妖馬の毛」としるされてある。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御身おんみが家の下人の詮議せんぎか。当山は勅願の寺院で、三門には勅額をかけ、七重の塔には宸翰金字しんかんこんじの経文がおさめてある。ここで狼藉ろうぜきを働かれると、国守くにのかみ検校けんぎょうの責めを問われるのじゃ。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おさめ置く甲斐あり。
蘆茎をやがらとし、猟骨を鏃とし、その尖にくだんの毒をけて簳中に逆さまに挿し入れおさめ置き、用いるに臨み抜き出して尋常に簳の前端にめ着く。
かもその大の方は長い脇差を刀にしたので、小の方は鰹節小刀かつおぶしこがたなさやおさめておかざりに挟して居るのだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この寺ではかねて供養に用いる諸道具を別室におさめてあったので、賊はそのへやの戸を打ちこわして踏み込むと、忽ちに法衣ころもを入れてある革籠かわごのなかから幾万匹の蜜蜂が飛び出した。
夜は針箱の底深くおさめてまくら近くおきながら幾度いくたびか又あけて見てようやねむる事、何の為とはわたくしも知らず、殊更其日叔父おじ非道ひどう勿体もったいなき悪口ばかり、是もわたくしゆえ思わぬ不快を耳に入れ玉うと一一いちいち胸先むなさきに痛く
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
支那の古塚に、猥褻わいせつの像をおさめありたり。本邦で書箱鎧櫃よろいびつ等に、春画まくらえを一冊ずつ入れて、災難除けとしたなども、とどの詰まりはこの意に基づくであろう。
れは亡父ぼうふが存命中大阪で買取かいとっことほか珍重したものと見え、蔵書目録に父の筆をもって、この東涯先生書入の易経十三冊は天下稀有けうの書なり、子孫つつしんで福澤の家におさむべしと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なにしろそのままにしては置かれないというので、男と女の死骸をおさめたままで、その柩を寺の西門の外に埋めました。ところが、その後にまた一つの怪異が生じたのでございます。
これを持つ者百事望みのままに叶いこれを失いまたぬすまるるも角自ずと還る、宝玉と一所におさむればどんな盗賊も掠め得ず、またこの角を持つ者公事くじに負けずとあって
金がれば金をもっくと云うごく簡単な話で、何万ドルラルだか知れない弗を、袋などに入れて艦長の部屋におさめておいたその金が、嵐のめにあふれ出たと云うような奇談を生じたのである。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
無数の宝をおさめた四大倉庫自然に現出すると、守蔵人、王にもうす。