たで)” の例文
柳、たであしなどのように、水辺の植物は水に配合して眺めなければその植物の美的特徴を完全に受け取ることは不可能と言っていい。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
畑の次手ついでに、目の覚めるような真紅まっかたでの花と、かやつりそうと、豆粒ほどな青い桔梗ききょうとを摘んで帰って、硝子杯コップを借りて卓子台ちゃぶだいに活けた。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せきの水は濁って大へんに増し、幾本ものたでやつゆくさは、すっかり水の中になりました、飛び込むのは一寸ちょっとこはいくらゐです。
蛙のゴム靴 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
半分は水にひたされている大きい石のおもてが秋の日影にきらきらと光って、石の裾にはたでの花が紅く濡れて流れかかっていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たでに似て非なるものを犬蓼いぬたでというように、神人に似て非なる故に犬神人と云ったとの古い説があるが、これは妥当であるとは思われない。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
そのうへ個人こじんには特殊とくしゆ性癖せいへきがあつて、所謂いはゆるきらひがあり、かふこのところおつきらところであり、所謂いはゆるたでむしきである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
河楊かはやなぎせて、あかかくした枸杞くこえだがぽつさりとれて、おほきなたで黄色きいろくなつてきしふねはがさりとへさきんだのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たでむし」以後の谷崎君の作品は、残りなく通読しているつもりでいたが、この「武州公秘話」だけにはまだ目を触れていないのであった。
武州公秘話:02 跋 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
たでむし」以後の谷崎君の作品は、残りなく通読しているつもりでいたが、この「武州公秘話」だけにはまだ目を触れていないのであった。
「さあ、たでじゃなし、——何と言いますかね。Hさんは知っているでしょう。わたしなぞとは違って土地っ子ですから。」
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
勝手口の小さな圃に、風にでも吹かれて飛んで来たらしい小さな種子が、芽を出し、幾つかの葉をひらいてたでとなつたのは、夏の日のことだつた。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
この景色は荒れた寺の門とそのへんの貧しい人家などに対照して、私は俳人其角きかく茅場町薬師堂かやばちょうやくしどうのほとりなる草庵の裏手、たで花穂はなほに出でたる閑地に
史邦の「帷子かたびら」の発句と芭蕉のわきもみ一升を稲のこぎ賃」との次に岱水が付けた「たでの穂にもろみのかびをかき分けて」
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
田の中の小道を行けば冬の溝川水少く草は大方に枯れ尽したる中にたでばかりのあこう残りたる、とある処に古池のはちす枯れてがんかも蘆間あしまがくれにさわぎたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その絵の中に一本のたでがある。蓮の中から高く空中に花を咲かせている。不思議な奥深い寂寞の感じは、動かぬその蓼の房花によって語られているかと思われる。
蓮花図 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから谷崎潤一郎たにざきじゅんいちろう氏の「たでう虫」だが、これは谷崎氏が私の家から近いのと、背景が主として阪神地方に限られている点から私は引受けても大丈夫だと考えた。
その地面には赤黒いいばらのような草が限りなく生えている。始めはたでの種類かと思って、橋本に聞いて見たら橋本はすぐかむりを横に振った。蓼じゃない海草かいそうだよと云う。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
繁つたたでのそろ/\枯れかけてゐる上へぬツと出てゐる竹の筒の栓を拔くと、後の世には自分が大人になつてからの名で呼ばるゝ五右衞門風呂の湯が、じやアと噴き出した。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
青い魚籠びくたでを添へる、笹を置く、よしを敷く、それで一幅の水墨画になる。夏になるとその生活の半分を魚釣りで暮す故か、私にとつて夏ほど魚を愛し、魚に親しむ時はない。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
……静三の眼は焼杭をめぐらした柵に添って走り廻った。向の荒地には大きなたでや帚木が伸び放題になっている。そしてここには静三が幼い時からの数えきれない記憶があった。
昔の店 (新字新仮名) / 原民喜(著)
学校からの帰途には、路傍の尾花おばなに夕日が力弱くさして、たでの花の白い小川に色ある雲がうつった。かれは独歩どっぽの「むさし野」の印象をさらに新しく胸に感ぜざるを得なかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼等は谷川のふちに毒流しをしてうおるために、朝早くからしもの村から登って来て山椒さんしょうの樹の皮を剥ぎ、しきみの実やたでなどといっしょに潰して毒流しの材料を作っているところであった。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
細かに見ればたでの花は白混りの薄紅であるが、受ける感じは白がちの時色ときいろである。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
これが矯正きょうせい策としては、顔がみにくいとても美顔びがん術をほどこす必要もなかろう。たでう虫もある世の中にはまったくてる物はない。いかに顔が醜いとても、またそれ相応の天職もあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
藍というのは一年生草本でたで科に属する植物であります。葉は濃い紫色を呈し花は紅で、阿波の平野にこれが一面に植えられている様も見ものでありました。その葉から染料を取ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
始めたが、芹は少い、たでばかりじゃ。赤蓼あかたでが、ほれ、そこにも彼方かしこにも
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それもたで食う虫が好いて、ひょんなまちがいからお前に惚れたとか言うのなら、まだしも、れいの美人投票で、あんたを一等にしてやるからというお前の甘言に、うかうか乗ってしまったのだ……と
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
たで喰う虫も何とやらさ」とフォン・コーレンが一言を加える。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
紫蘇しそたでのたぐひは黒き猫の子のひたひがほどのつちに植ゑたり
外庭そとにはのかの夕光にさくたでの紅きを見れば風出でぬらし
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たでの穂にひしおかびをかき分けて 岱水たいすい
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三径さんけい十歩じっぽに尽きてたでの花
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
たでの穂に咲く
野口雨情民謡叢書 第一篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
荒地野菊が地肌を掩い、姫昔蓬ひめむかしよもぎが麻畠のように暗い林になって立った。たでは細いちょろちょろの路をあけて、砂利の上にまで繁った。
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
せきの水は濁って大へんに増し、幾本いくほんものたでやつゆくさは、すっかり水の中になりました。飛びむのは一寸ちょっとこわいくらいです。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「おや、もう帰る。」信也氏が早急に席を出た時、つまのたで真青まっさおんで立ったのがその画伯であった。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが庭広からず然れども屋後おくごなほ数歩の菜圃さいほあまさしむ。款冬ふきせりたでねぎいちご薑荷しょうが独活うど、芋、百合、紫蘇しそ山椒さんしょ枸杞くこたぐい時に従つて皆厨房ちゅうぼうりょうとなすに足る。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
宮城野みやぎのの萩、末の松山まつやまの松、実方さねかた中将の墓にうる片葉のすすき野田のだ玉川たまがわよし名取なとりのたで、この五種を軸としたもので、今では一年の産額十万円に達していると云う。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千筋ちすじにぎらついて深きすみれを一面に浴せる肩を通り越して、向う側はとのぞき込むとき、まばゆき眼はしんと静まる。夕暮にそれかと思うたでの花の、白きを人は潜むと云った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから現在の谷崎潤一郎たにざきじゅんいちろう氏の「たでう虫」だが、これは谷崎氏が私の家から近いのと、背景が主として阪神地方に限られている点から私は引受けても大丈夫だと考えた。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それならば今日生徒に教えた、De gustibus non est Disputandum である。たでう虫も好ききである。実験したければして見るがい。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
せりんでいるのじゃがよ、この辺りにはたでばかりじゃい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこにて鳥兜とりかぶと野菊のきくと赤きたでとを摘まばや。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
水かれ/″\たでかあらぬか蕎麦そばか否か
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
たではなにもがついた。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
前の空家の庭のたでの花
かえって羽について来るか、くちばしから落すか、植えないすみれの紫が一本ひともと咲いたり、たでが穂をあからめる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水かれ/″\たでかあらぬか蕎麦か否か
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いよいよ赤むたでの茎
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たではアなんで
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)