きょう)” の例文
うのは全く此方こっちが悪い。人の勉強するのを面白くないとはしからぬ事だけれども、何分きょうがないからそっと両三人に相談して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わけても最近の『文芸倶楽部ぶんげいクラブ』(大正四年十一月号)に出でし江見水蔭えみすいいんが『水さび』と題せし一篇の如き我身には取分けてきょう深し。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夜もすがら二人してきょうに乗じて吹き明かしたが後で聞けばそれは鬼の化身けしんであったという、名笛の伝説を思い出さずにいられなかった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今ごろは、かの女狐めぎつね男狐おぎつね、知る人もなしと額をあつめて、はかりごとの真最中でござろう。そこへ乗りこんで、驚く顔を見てやるのも一きょう……
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これを取り彼をひろげてしばらくは見くらべ読みこころみなどするに贈りし人の趣味はおのずからこの取り合せの中にあらはれてきょう尽くる事を知らず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いまだ昼前だのに、——時々牛の鳴くのが入交いりまじって——時に笑いきょうずるような人声も、動かない、静かに風に伝わるのであった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庄造はきょうあることに思って、うちの中から食物を持って来て投げてやった。と、狸はうまそうにそれを食ってからってしまった。
狸と俳人 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
井戸ばたの流し場に手水ちょうずをすました自分も、鶏にきょうがる子どもたちの声に引かされて、覚えず彼らの後ろに立った。先に父を見つけたお児は
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
とにかく博士せんせいと来たら、きょうが乗れば、敵と味方との区別なんかもう滅茶苦茶めちゃくちゃで、科学の力を残酷ざんこくに発揮せられますからなあ。
鳥はみんなきょうをさまして、一人り二人り今はふくろうだけになりました。ふくろうはじろじろへやの中を見まわしながら
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
聞いてさえきょうもよおしければ妹は如何いかなる人物ならんと好奇心より早く見たくなり窓の格子戸こうしどへ顔を当てて「兄さん、きっとそうでございますよ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼はただ笑ったばかりで別になんの説明も加えなかったが、場合が場合であるから、その笑い声は一座のきょうをさました。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
余はきょうじょうじた。運転手台に前途を睥睨へいげいして傲然ごうぜんとして腰かけた。道があろうと、無かろうと、斯速力で世界の果まで驀地まっしぐらに駈けて見たくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しきりに帽子ぼうしのひさしを上げたり、さげたり、目をいからしてみたり、口をまげてみたりして、ひとりきょうがっていた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
みんながすっかりきょうに入ったころを見はからって、そっとふところからつるぎをお取り出しになったと思いますと、いきなり片手で兄のたけるのえり首をつかんで
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
きょうおおいに起こって来たというふうである。小畑の胸にもかれの胸にも中学校時代のことがむらむらと思い出された。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
人々は皆、その独特な乾杯の辞を喝采かっさいきょうがった。ハスレルも皆といっしょに笑い出して、上機嫌きげんな様子に返った。しかしクリストフは当惑していた。
やがて、かれらのれつがあるたか広場ひろばたっしたときに、かつて天上てんじょう神々かみがみたちよりほかにはられていなかった芸当げいとうをして、きょうじたことでありましょう。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
始めはきょうを添えた彼の座談もだんだんみんなに飽きられて来た。あによめ団扇うちわを顔へ当ててあくびを隠した。自分はとうとう彼を外へ連出さなければならなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてしかたなしに監督に向きなおって、その父に当たる人の在世当時の思い出話などをして一人きょうがった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこで今まで臆面おくめんも無く力競べをしていた若者たちはいずれもきょうのさめた顔を見合せながら、周囲にたたずんでいる見物仲間へいやでも加わらずにはいられなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雨はやみ、風は起らず、鳥も歌わない、虫も鳴かねば、水音も聞えぬ、一行のきょうじ声が絶えると、しんとして無声、かくも幽寂さびしき処が世にもあろうかと思われた。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
「おれが案内して来たわけじゃない。ふらふらとこっちへやって来たら、和服の陸軍中将もきょうに乗って、ふらふらとついて来たから、一緒にここへ這入ったまでさ」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
商売人だとか、それに類似の者でないことだけは、ここで断言して置きます。兎も角、皆さんをアッと云わせる趣向ですから、そいつを明かしてしまってはきょうがない。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
息子や娘が母を時代おくれだと思い、父を俗物ぞくぶつだと考えるようになり、友だちとは楽しそうにきょうありげに熱心に話をする息子が、両親にはむっつりして、いうことがない。
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
大いにきょうもよおし、さっそくたくさんな花をんで、その紫汁しじゅうでハンケチをめ、また白シャツにけてみたら、たちまち美麗びれいまって、大いに喜んだことがあった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
*王様はとりわけ、アーサー王と円卓えんたくの騎士の話を書いた、イフヴェンとゴーディアンの物語を好いていられます。それでご家来の人達とあの話をしてきょうがっていられます。
そうしてそのころのいわゆる「きょうの湧いた時」には書けなくって、かえって自分で自分を軽蔑けいべつするような心持の時か、雑誌の締切という実際上の事情に迫られた時でなければ
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
しかし正月頃に登った人のカット・ステップの跡が残っているのには少々きょうをそがれた。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
「でも、御前ごぜんがおでが無いのに、我々で参詣しても一向きょうが御座いませんから……」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
なべものは一般に冬のものと決まっているところへ、こればかりは夏のものであることも、大方おおかたきょうを呼ぼう。東京では、どじょうなべというより「柳川やながわ」というほうが通りがいい。
一癖あるどじょう (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ずいぶん長いあいだをおいて、たまさか、わたしたちはちょいとした森を通りぬけることがあったが、その森はふつうの森のように、とちゅうのきょうをそえるようなものではなかった。
ただ、赤飯をいて、軒提灯を吊して、祭らしい一日を送るのが楽しみだった様である。元園町時代には、神輿舁みこしかつぎに祝儀を打って、宅の前で神輿を揉むのをきょうがられたと云う話もあった。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
わずかなきょうを覚えた時にも、彼はそれを確めるために大声を発して笑ってみた。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
市中ならんには警察官の中止解散を受くるきわならんに、水上これ無政府の心やすさは何人なんびとの妨害もなくて、きょうに乗ずる演説の続々として試みられ、悲壮激越の感、今や朝日川を領せるこの時
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
うちきょうじていると、「しこらん」という土地の名菓が出る。豊太閤が賞美してこの名を与えたそうである。形はかぶとしころのごとく、かおりはらんのごとしというのだそうな。略して「しこらん」。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
筋肉しまり、背高く、江戸っ児らしい浅黒い顔、性質はむしろ憂鬱であるが、悪寒を与えるほどではない。きょうに乗ずると大いにはしゃぐ、時によっては毒舌も振るう、それでいて人に愛される。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この日課を始めた時、僕はまず「破戒はかい」を読んできかせました。次に「多情仏心たじょうぶっしん」を。父はいずれもきょうがって聴きました。しかし父は自分から求めることはしません。いつも僕が押しつけるのです。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
空に高く、かすかに聞えてくるのである、夜もけて十時過ぎた頃だった、今まできょうに乗じて夢中にはなしていた老爺おやじが、突然誰も訪れた声もせぬのに、一人で返事をしながら、はなし半ばに、ついとって
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
ところが、少佐の声は、きょうもなさそうに乾いたものだった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
泡立つ神のきょう
また宴席、酒たけなわなるときなどにも、上士がけんを打ち歌舞かぶするは極てまれなれども、下士はおのおの隠し芸なるものを奏してきょうたすくる者多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すっかりきょうにひたって心もくつろぎ、また彼自身の感傷を彼自身の詩情で霧のような酔心につつんで思わず出たことばでもあろう。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又、此の屑屋がきょうがつた男で、鉄砲笊てっぽうざるかついだまゝ、落ちたところ俯向うつむいて、篦鷺へらさぎのやうに、竹のはし其処等そこらつっつきながら、胡乱々々うろうろする。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
君江はまるで落語家はなしかか芸人などと遊んだような気がして、俄にきょうが覚め、折角きょう一日夢を見ていたような心持はもう消え失せてしまった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そういいながらも、博士は肥満した腰のあたりを、みょうにふりながら、ロロー殿下の一挙一動を、じろりじろりときょうふかげににらむのであった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どの人の色紙にも短尺にも筆のあとは見えなかったので、彼はたまらないほどにきょうあるもののようにそり返って笑った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると天皇もいっしょに出てご覧になり、たいそうおきょう深くおぼしめして、そのお心持をお歌にお歌いになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
矢野は格子の前に立った時から見るとよほど血色がよくなった。ふたりでザボンを切ってしばらく笑いきょうずる。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
天幕の外もさゞめいた。きょう未だ尽きぬので、今一つ「墨絵すみえ」の曲を所望する。終って此興趣きょうしゅ多い一日の記念に、手帳を出して関翁以下諸君の署名を求める。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)