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縺
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もつ
ふりがな文庫
“
縺
(
もつ
)” の例文
道也の進退をかく形容するの適否は作者といえども受合わぬ。
縺
(
もつ
)
れたる糸の
片端
(
かたはし
)
も眼を
着
(
ちゃく
)
すればただ一筋の末とあらわるるに過ぎぬ。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
毛といふ毛は
悉
(
こと/″\
)
く蛇で、其の蛇は悉く首を
擡
(
もた
)
げて舌を吐いて、
縺
(
もつ
)
るゝのも、
捻
(
ね
)
ぢ
合
(
あ
)
ふのも、
攀
(
よ
)
ぢあがるのも、にじり出るのも見らるゝ
毒と迷信
(新字旧仮名)
/
小酒井不木
(著)
見つめていると、代々木の娘、女学生、四谷の美しい姿などが、ごっちゃになって、
縺
(
もつ
)
れ合って、それが一人の姿のように思われる。
少女病
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
「おう、
帰
(
もど
)
って来たか、俺は、お前のことを、どんなに心配していたか判らないぞ、よう
帰
(
もど
)
って来た」と、漁師は嬉しさに声が
縺
(
もつ
)
れた。
月光の下
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
……雲を貫く、工場の太い煙は、丈に余る黒髪が、
縺
(
もつ
)
れて乱れるよう、そして、
倒
(
さかさま
)
に立ったのは、
長
(
とこしえ
)
に消えぬ人々の
怨恨
(
うらみ
)
と見えた。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
互に
縺
(
もつ
)
れ合い、絡まり合ってまるで手のつけられない混乱のうちに、彼女の活気や、無邪気さを、いつともなく毒して行ったのである。
地は饒なり
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
なぜだだらなどと呼ばれるかというに、少し
急
(
せ
)
いてくると
吃
(
ども
)
る癖がある、ことに自分の姓名を云う段になると、どうしても舌が
縺
(
もつ
)
れて
だだら団兵衛
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
彼は遠くで赤子の泣き声のしている夢を見て眼が
醒
(
さ
)
めた。すると、傍で姪が
縺
(
もつ
)
れた糸を
解
(
ほど
)
くように両手を動かしながら泣いていた。
御身
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
僅の袖の擦り合ひにも
縺
(
もつ
)
れだして、お互を
打擲
(
ちやうちやく
)
し合ふまで罵り交はさなければ止まないやうな日はこの二人の間には珍らしくなかつた。
木乃伊の口紅
(旧字旧仮名)
/
田村俊子
(著)
飲まんと舌が
縺
(
もつ
)
れるというアル中患者だから止むを得んだろう……取調べの
一手
(
ひとて
)
にソンナのが在りやせんか……アッハッハッ……。
爆弾太平記
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
そのまん中に撩乱として
白紗
(
はくしゃ
)
よりもより膜性の、幾十筋の皺がなよなよと
縺
(
もつ
)
れつ縺れつゆらめき出た。ゆらめき離れてはまた開く。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そしてわざと暗い所を
択
(
よ
)
って
縺
(
もつ
)
れ合ってゆく柔弱な
輩
(
やから
)
を見るといきなり横づっぽうの一つも張り飛ばしてやりたいほど
癇
(
かん
)
がたって
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
それと同時に、
宿酔
(
ふつかよい
)
に
縺
(
もつ
)
れた中田の頭も、今日一日の目茶目茶な行動から、
漸
(
ようや
)
く加わって来た寒気と共に、現実的な問題に近寄って来た。
自殺
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
計算をはみだしたところにこの男の全悲劇が錯雑を極めた
縺
(
もつ
)
れかたで尻尾をだしてゐるやうに見え、それを思ふと伊東伴作は悒鬱だつた。
雨宮紅庵
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
細君は、一寸、云いにくげに、舌の根を
縺
(
もつ
)
らした。「もう、あいつ、五日も前から毎晩立ってるんですよ。あんたの家、用心なさいね。」
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
そんな物を着ることをお島が拒んだので、着せる着せないで
談
(
はなし
)
がその日も
縺
(
もつ
)
れていたが、到頭
被
(
かぶ
)
せられることになってしまった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
それに
縺
(
もつ
)
れて、笛や太鼓の
前拍子
(
まえびょうし
)
がながれ、
舞台
(
まいゆか
)
には今、
神楽司
(
かぐらつかさ
)
の
人長
(
ひとおさ
)
が、
神代人
(
かみよびと
)
の
仮面
(
めん
)
つけて——頬や
顎
(
あご
)
の塗りの
剥
(
は
)
げているその
貌
(
かお
)
を
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「なるほど、
其方
(
そち
)
はまだ
年端
(
としは
)
もゆかぬ。御後室と丹波と、予とのあいだに、いかなる
縺
(
もつ
)
れが深まりつつあるか、よくは知らぬのであろう」
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
一方の『正雪の絵馬』の一件はとかくに
縺
(
もつ
)
れて埒が明かない。半七も少しくじりじりしていると、日が暮れてから松吉が来た。
半七捕物帳:64 廻り灯籠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
その上を、ダンスの人影が玄妙に
歪
(
ゆが
)
んで、一組ずつはっきり映ったり、グロテスクに
縺
(
もつ
)
れたりして眼まぐるしく滑って行った。
踊る地平線:11 白い謝肉祭
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
この事ありて後、再び雄々しき羽をうるため、彼まづ杖をもて二匹の
縺
(
もつ
)
れあへる蛇をふたゝび打たざるをえざりき 四三—四五
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
乃至
(
ないし
)
は
眞夜中
(
まよなか
)
に
馬
(
うま
)
の
鬣
(
たてがみ
)
を
紛糾
(
こぐらか
)
らせ、
又
(
また
)
は
懶惰女
(
ぶしゃうをんな
)
の
頭髮
(
かみのけ
)
を
滅茶滅茶
(
めちゃめちゃ
)
に
縺
(
もつ
)
れさせて、
解
(
と
)
けたら
不幸
(
ふかう
)
の
前兆
(
ぜんてう
)
ぢゃ、なぞと
氣
(
き
)
を
揉
(
も
)
まするもマブが
惡戲
(
いたづら
)
。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
先方の馬から引き離そうとして馬車を後へ戻しにかかったが、どっこいそうは行かないで——いよいよ
縺
(
もつ
)
れるばかりだった。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
快活な聲が
縺
(
もつ
)
れ
合
(
あ
)
つてゐるのを聞きとることが出來るか出來ぬ中に(その間にアデェルの聲を聞きわけたやうに思ふ)、
扉
(
ドア
)
は
閉
(
しま
)
つてしまつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
即ち面白い
縺
(
もつ
)
れ合った事を真先に書き出して置いて、乱れた
環
(
たまき
)
の糸口を探るように、其の原因に遡って書くと云うことが出来なかったのでした。
探偵物語の処女作
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
いよいよ
縺
(
もつ
)
れ糸のように乱れてくる帆村の
足許
(
あしもと
)
に、事件解決の鍵かと思われる物が転がっていた。それは一個の
釦
(
ボタン
)
だった。
爬虫館事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
穴蔵から冬の明るみの中へ出て来た、腕をまくって、髪を
縺
(
もつ
)
らし、蒼白な顔をした男たちは、立去って再び降りて行った。
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
その
後
(
うし
)
ろでは、
透
(
すか
)
し紙をあてた地図のように、ちょっとした雰囲気の変化で、
小静脈
(
しょうじょうみゃく
)
がみるみるうちに
縺
(
もつ
)
れ合うのである。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
舌を
縺
(
もつ
)
らせて言ったが、その舌の縺れに腹を立てたのか、私の返事を待たず、ええ面倒臭い、言っちまえといった調子で
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
出たぞ、と絲をおろすころには、出るは/\、のろり/\と大きな
七五三繩
(
しめなわ
)
の繩片のやうな奴が
縒
(
よ
)
れつ
縺
(
もつ
)
れつ岩から岩の蔭を傳うて泳ぎ𢌞ります。
樹木とその葉:33 海辺八月
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
その碑の面を、
縒
(
よ
)
れたり
縺
(
もつ
)
れたりしながら、蒼白い、漠とした物が立ち昇って行った。娘が供えた線香の煙りであった。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そうして
言
(
い
)
い
訣
(
わけ
)
のように弱々しい微笑をして見せながら、ふいと思い出したように、いくぶん
痩
(
や
)
せの目立つ手で、すこし
縺
(
もつ
)
れた髪を直しはじめた。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
口辺を
蔽
(
おお
)
うて居る頭巾の
布
(
きれ
)
が、息の為めに熱く
湿
(
うるお
)
って、歩くたびに長い縮緬の腰巻の
裾
(
すそ
)
は、じゃれるように脚へ
縺
(
もつ
)
れる。
秘密
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
バスの
音
(
おん
)
とソプラノの音とが、着かず離れずに
縺
(
もつ
)
れ合つて、高くなつたり低くなりして漂ふ間を、福富の肉声が、浮いたり沈んだりして泳いでゐる。
葉書
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「どうしたの」と、おしげは、むすぼれて
縺
(
もつ
)
れてゐたものが解けかかつたやうにほつとした表情で、彼の側に寄つた。
一の酉
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
とても
積
(
つも
)
らば
五尺
(
ごしやく
)
六尺
(
ろくしやく
)
雨戸
(
あまど
)
明
(
あ
)
けられぬ
程
(
ほど
)
に
降
(
ふ
)
らして
常闇
(
とこやみ
)
の
長夜
(
ちやうや
)
の
宴
(
えん
)
、
張
(
は
)
りて
見
(
み
)
たしと
縺
(
もつ
)
れ
舌
(
じた
)
に
譫言
(
たはごと
)
の
給
(
たま
)
ふちろ/\
目
(
め
)
にも
六花
(
りくくわ
)
の
眺望
(
ながめ
)
に
別
(
べつ
)
は
無
(
な
)
けれど
別れ霜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
そしてその窪みから一
呎
(
フィート
)
程のところに、海の底が岩になっていて、深緑色の海草、
長海松
(
ながみる
)
の先端が三四本
縺
(
もつ
)
れたようにちょろちょろと這い出ていた。
死の快走船
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
蝋燭の
焔
(
ほのほ
)
と炭火の熱と
多人数
(
たにんず
)
の
熱蒸
(
いきれ
)
と混じたる一種の
温気
(
うんき
)
は
殆
(
ほとん
)
ど凝りて動かざる一間の内を、
莨
(
たばこ
)
の
煙
(
けふり
)
と
燈火
(
ともしび
)
の油煙とは
更
(
たがひ
)
に
縺
(
もつ
)
れて渦巻きつつ立迷へり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
その少女にとって、まるで人間一個の生存は恐怖の連続と
苦悶
(
くもん
)
の持続に
他
(
ほか
)
ならなかった。すべてが奇異に
縺
(
もつ
)
れ、すべてが極限まで彼女を追詰めてくる。
火の唇
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
縺
(
もつ
)
れた糸のように入り乱れているので、どの尾根がどの山に続くものか、遠方からは到底識別することが出来ない。
望岳都東京
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
折角
(
せつかく
)
釣れ盛つて来たら三人の小船頭が綸を
縺
(
もつ
)
らかした責任の
塗
(
なす
)
り合ひを始め、『お前がねや』『わしがねや』と語尾にねやねやとつけ乍ら喧嘩を始めた。
坊つちやん「遺蹟めぐり」
(新字旧仮名)
/
岡本一平
(著)
この
縺
(
もつ
)
れは後年まで続き、ついに四代家綱、五代綱吉などの霊を上野寛永寺へ持ってゆく
成行
(
なりゆき
)
となったのである。
増上寺物語
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
縺
(
もつ
)
らす苦い珈琲の風味は決して
自己
(
われ
)
を忘れたロマンチツクな空の幻でも単純な甘いセンチメントの歎きでもない。
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
大杉の生涯は革命家の
生血
(
なまち
)
の
滴
(
した
)
たる戦闘であったが、同時に二人の女に
縺
(
もつ
)
れ合う恋の
三
(
み
)
つ
巴
(
どもえ
)
の一代記でもあった。
最後の大杉
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
山の小道を子供を連れたお上さんやお婆さんが、点々と上って来る。八月の海は銀の粉を吹いて光っているし、
縺
(
もつ
)
れた樹の色は、爽かな匂いをしていた。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
こうして
縺
(
もつ
)
れ合っているところへ、立聞きのお幸が注進したので、奥二階から駈け着けて来た医師の奥野俊良。
備前天一坊
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
長い棒を突いて、胸にきらきらと光る鏡をかけて、頭髪は黒く
蓬
(
よもぎ
)
のように
縺
(
もつ
)
れて、何か腰の
周囲
(
まわり
)
にじゃらんじゃらんと
曲玉
(
まがたま
)
のようなものが幾つも吊下っていた。
北の冬
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
日本ではこれに感情をただちに入れるから、ことが
縺
(
もつ
)
れてくる。ゆえに前に述べた約束の時期に、品物ができなければ、感情に
訴
(
うった
)
えて申し訳をすることを計る。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
正勝はうるさくぐるぐると
縺
(
もつ
)
れる
精悍
(
せいかん
)
な新馬を縺れないように
捌
(
さば
)
きさばき、草原の斜面を下りていった。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
家から下地のあるところへ、また二本ほど飮んだので、道臣はだいぶ醉つて、舌が少し
縺
(
もつ
)
れかゝつた。
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
縺
漢検1級
部首:⽷
17画
“縺”を含む語句
縺毛
相縺