瑪瑙めのう)” の例文
その下に設けられた壁龕や青銅造りの開き窓の下にえられた瑪瑙めのうの植木鉢、そして同じく青銅製の女神や半人半獣の牧羊神の像等々。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ちらほらここからも小さく見えますね、あの岸の松も、白いみのかついで、渡っておいでの欄干は、それこそ青くこおって瑪瑙めのうのようです。
十人は翡翠ひすいはすの花を、十人は瑪瑙めのうの牡丹の花を、いずれも髪に飾りながら、笛や琴をふし面白く奏しているという景色なのです。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
うさぎのおっかさんまでがいて、前かけで涙をそっとぬぐいながら、あの美しい玉のはいった瑪瑙めのうはこ戸棚とだなから取り出しました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
燧石ひうちいし黒曜石こくようせきや、安山岩あんざんがんるいつくつたものがおほいのでありますが、ときには水晶すいしよう瑪瑙めのうのような綺麗きれいいしつくつたものもあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
(おまえ達には、わからぬか。あの童子の眸は、褐色かっしょくをおびて、に向うと、さながら瑪瑙めのうのように光る。なんで、凡人の子であろうぞ)
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの涙を宿した、黒瑪瑙めのうのような美しいは、鳴海司郎の記憶に、消すことも忘れることも出来ないほど、念入に焼き付けられてしまいました。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
楽屋の窓から沿岸に打寄せる瑪瑙めのうの切断層のような波に、地中海の死んだ魚の腹が夕暮の太陽に赤く光るのが見えました。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
金銀、硨磲しゃこ瑪瑙めのう琉璃るり閻浮檀金えんぶだごん、の属を挙げて、ことごとく退屈のひとみを見張らして、疲れたる頭を我破がばね起させるために光るのである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この家は古くから瑪瑙めのう石や瑠璃るり琥珀こはくなどを玉に磨いたり、細工物にこしらえたりして京へ売り出すのを業としていた。
朱や白や代赭たいしゃや紫黒の、さまざまな熔岩流の層が、瑪瑙めのうのような美しい縞目を見せ、その底を重油の流れのような黒い河が、のたりと動いている。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その剛壮な腹の頂点では、コルシカ産の瑪瑙めのうボタン巴里パリーの半景をゆがませながら、かすかにきさきの指紋のために曇っていた。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
水晶のように蒼白しろかった顔が、今はあたかも瑪瑙めのうのように美しい桃色に一変したが、同時に姿勢もチャンと締まり、よろめいていた足もきっと据わった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ガラスでさえも、支那人の手に成った乾隆グラスと云うものは、ガラスと云うよりもぎょく瑪瑙めのうに近いではないか。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
水いろのうすい単衣の上から、ほそい彼女の頸が、小さい頭をささえて、それがまるで瑪瑙めのうのように透いて見えた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
異様に白く、或は金焔色に鱗片がきらめき、厚手に装飾的な感じがひろ子に支那の瑪瑙めのうぎょくの造花を連想させた。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
瑪瑙めのうの万年筆で小切手を落書のやうに書いた。アンナのほかのことには心をかれなかつたが小切手を書く速さに心を惹かれた。結婚期限は五年ではいかゞ。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
何事の起ったのかと種彦はふと心付けばわがたたずむ地の上は一面に踏砕ふみくだかれた水晶瑪瑙めのう琥珀こはく鶏血けいけつ孔雀石くじゃくせき珊瑚さんご鼈甲べっこうぎやまんびいどろなぞの破片かけらうずつくされている。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
半分ほどあらわに出したなめらかな光沢のある二つの肩には、瑪瑙めのうと大きい真珠の首飾りが首すじの色と同じ美しさで光っていて、それが胸の方に垂れていました。
乾葡萄ほしぶどう、乾桃、乾棗ほしなつめ及び薬種その他宝石類では金剛石こんごうせき瑠璃るり𤥭琥しゃこ瑪瑙めのう琥珀こはく類であるが、なかんずくその大部分を占めて居るものは珊瑚珠さんごじゅというもとどりを飾る宝石である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
提灯の灯影が雪をとほして、瑪瑙めのうのやうに美しく、ぽう、ぽう、とかすんで見えた。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
小川の向こう側には、瑪瑙めのう色に縁取った美しい眼の牝牛めうしが、うっとりと夢みていた。
そこは寂として骨董品の展覧会のように、東洋の陶器類、支那、ジャバ、及び日本の能狂言の面、瑪瑙めのう翡翠ひすいでこしらえた花生の鉢、其の他さまざまの道具が所狭きまでに置並べてある。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
みるみるうちに数人の人夫が財宝を庭に出しはじめた。金銀銭紙幣数百万、真珠瑪瑙めのうの類数百斛ひゃくこくまくすだれ、榻類これまた数千事。そしてこども襁褓おむつや女のくつなどは庭や階段にちらばって見えた。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
空に躍れる如し、何等のミレージ、何等のミラクル、今朝はやや晴れ、白峰満山の白雪、朝日に映じて瑪瑙めのうに金を含む、群山黙として黒く下に参す、富士も大なる白色魔の如く、鈍き空に懸れり
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
上りがまちへ腰を下ろしながら見ると、上り際の縁板の上へ出して、畳から高さ一尺ほどの紫檀したんの台が置いてあって、玳瑁たいまいの櫛や翡翠ひすい象牙ぞうげ水晶すいしょう瑪瑙めのうをはじめ、金銀の細工物など、値の張った流行はやりの品が
宛然さながら金銀、水晶、瑪瑙めのうくだいたようであった。太吉は踏切番の小舎こやの前まで来ると、この汽車道にいて行けば早く高田へ着くと考えた。小舎は野中にあった。四辺あたりの林や、森は静かに眠っていた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
水を入れたガラスばこがいくつも並んでいる。底に少しばかり砂を入れていろいろが植えてある。よく見ると小さな魚がその藻草の林間を逍遥しょうようしている。瑪瑙めのうで作ったような三分ぐらいの魚もある。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その造型の瑪瑙めのう質に
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
しかも笑みをたたえた太子の頬は、相変らず蒼鳶色あおとびいろに、今それは衣服の黄色を受けて幾分紅を差して震い付かんばかりの美しい瑪瑙めのう色であった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
出雲いづもくにあたりから碧玉へきぎよくといふ青黒あをぐろいしもちひられ、さらにのちになると、あか瑪瑙めのう普通ふつう使つかはれるようになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そしてたいせつに紅雀べにすずめのむな毛につつんで、今までうさぎの遠めがねを入れておいた瑪瑙めのうはこにしまってお母さんにあずけました。そして外に出ました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
博士 若様はこの冊子と同じものを、瑪瑙めのうに青貝の蒔絵まきえの書棚、五百たな、御所有でいらせられまする次第であります。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は藤色の衣をまとい、首からは翡翠ひすい勾玉まがたまをかけ垂し、その頭には瑪瑙めのうをつらねた玉鬘たまかずらをかけて、両肱りょうひじには磨かれたたかくちばしで造られた一対のくしろを付けていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
眼を閉じ口を閉じた女の顔が、血紅色けっこうしょくの龕燈の光に、瑪瑙めのうのような色艶を帯びて、悲しそうに浮かび出た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
瑪瑙めのうとか、紅玉とか水晶とか、玉髄とかいって貴顕富家に珍蔵される石もある、また姿の珍しさ色の微妙さを愛されて、庭を飾ったり置物にされたりする石もある
石ころ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
旅商人たびあきゅうどに負えるつつみの中には赤きリボンのあるか、白き下着のあるか、珊瑚さんご瑪瑙めのう、水晶、真珠のあるか、包める中を照らさねば、中にあるものは鏡には写らず。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
瑪瑙めのうや猫眼石に敷きつめられた川原には、白銀のあしが生え茂って、岩に踊った水が、五色のしぶきをあげるとき、それ等の葦は、まあ何という響を立てることでしょう。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と、二つの国の言葉で云いながら、彼女はうすい瑪瑙めのう色にかがやくグラスへ唇をつける。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
蜀江織しょっこうおりの薄むらさきの鸞帯らんたい——つまり大事な物入れとして肌身につけておく腹おび——に、かんざしにでもなりそうな翡翠玉ひすいだま瑪瑙めのうの付いたくくひもが、たらりと、それにかかっている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半ばあらはした肩の滑な光沢つやのある皮膚の上には、瑪瑙めのうの光がゆらめき、大きな黄味のある真珠を綴つた紐は——其色の美しさは殆ど彼女の頸に匹敵する——彼女の胸の上にたれてゐる。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
神山はにやにや笑いながら、時計のひもをぶら下げた瑪瑙めのう印形いんぎょうをいじっていた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
芝居裏の二枚看板、ちゃちなぽん引にうっかりつれこまれようとして、あわてて羽織芸妓げいぎの裾のもとをかいくぐって、食傷路地に出てくると、鶴源の板前が瑪瑙めのう色に塗った魚類の食楽地獄だ。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
椅子いすを差置かれた池のみぎわ四阿あずまやは、瑪瑙めのうの柱、水晶のひさしであろう、ひたと席に着く、四辺あたりは昼よりもあかるかった。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
穹窿アーチ形の天井から下っている純白しゃのように薄い垂れ幕……ふうわりと眼も醒めんばかりの羽根蒲団クッションが掛けられて、瑪瑙めのう勾欄こうらん……きらびやかな寝台の飾り!
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その時森の中からまっ青な顔の大きな木霊が赤い瑪瑙めのうのような眼玉をきょろきょろさせてだんだんこっちへやって参りました。若い木魂こだまげて逃げて逃げました。
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
富士が瑪瑙めのう色に輝いて来た。物の蔭が紫になり、森や林の落とす影が見る間にズンズン延びて行く。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すみれほどな小さい人が、黄金こがねつち瑪瑙めのう碁石ごいしでもつづけ様にたたいているような気がする。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の頭髪には、山鳥の保呂羽ほろばを雪のように降り積もらせたかんむりの上から、韓土かんど瑪瑙めのう翡翠ひすいを連ねた玉鬘たまかずらが懸かっていた。侍女の一人は白色の絹布を卑弥呼の肩に着せかけていった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
天にある力と地にこもる力が互にひき合って発したその唯一閃の大稲妻は、その白い城の一つの薔薇窓から直線に走り入って、薄桃色の瑪瑙めのうでしきつめた一つの内室の床を搏ちました。