)” の例文
その黒いだちのなかに、ところどころ白いまだらが落ちて、その一つ一つがよく見ると、まるで姉さまの姿のやうに思はれました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
いま、ツイそこでおじぎをしていたかと思うまに、もう燕作のすがたは、松のがくれに小さくなって、琵琶湖びわこのほうへスタコラと歩いていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、竦然として、物もいはずにその場を逃げ出したのであるが、を一寸のあひだグルグルまはつただけで直ぐにつかまへられてしまつた。
海棠の家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼はこけの中に腰をおろして、海がひとすじ、越しに見えるような向きに、樹に凭りかかった。時折、風が波の轟きを彼の所まで運んで来た。
やがて、自分のを並べ果てて、対手あいての陣も敷き終る折から、異香ほのぼのとして天上の梅一輪、遠くここに薫るかと、はるかの間をれ来る気勢けはい
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巴里パリの夜景 巴里の市街は夜の景色も清らかに、かげの深いところにも電灯が明るくともっている。市中の人々の動きにも春があらわれ、月に酒を
西航日録 (新字新仮名) / 井上円了(著)
噴泉のくように、突如としてかられ始めた朗々たるピアノの音が信一郎の心をしっかとつかんだのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
相いだいてかげにふたりいるとき、わたしはこのまま死んでもくいはしないと、女にも申し、また自分の心でも思っておりました。女でございますか。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
池は椎のだちに包まれているが、樹の下径は薄暗く、いつも湿っていて、トヨの蹄の音は土のなかに吸いとられてしまう。辺りには物音ひとつしなかった。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
彼はそれらの姿がじらうようにかげに身をかくすのを目にし、その肌のぬくもりを身に感ずるのだった。そしてこの悩ましさは切ないほどに募って行った。……
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
がくれに見え隠れするさえ、現実のものとするにはあまりにうっとりとしていた。蛙の声はやわらかに流れ、ひとり特殊な音調に鳴く独奏の声もあった。……
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
この山全体がある伯爵の別荘地で、時には浴衣ゆかたの色がから見えたり、女の声ががけの上で響いたりします。その崖のいただきには高い松が空を突くようにそびえています。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玉をつらぬるの下に花降り敷かむ時に逢はむを待ちおはす由承はりし頃は、寂然じやくねん俊成としなりなどとも御志の有り難さを申し交して如何ばかりか欣ばしく存じまゐらせしに
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
見れば先へ行く二人連も同じように道をよける。汽車の走過はしりすぎる響がして、蒼茫そうぼうたる霧の中から堀向ほりむこうの人家の屋根についている広告の電燈がから見えるようになった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
薄い陰影で刷られたあらはで無いあかりが繁つたアカシヤの蔭にでも居る様な幽静いうせいの感を与へた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
がくれの池にさざ波が立って、二階に見える真鍮しんちゅうのベッドの端が夕陽にきらめくまで——。
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
高朗の気ほねとほり清幽の情肉に浸むあしたの趣こそ比ぶるに物なけれ、今しもあふいで彼の天成の大画たいぐわ双眸さふぼうを放ち、して此の自然の妙詩に隻耳せきじを傾け、をくぐり芝生を辿たど
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
垣根ともだちともつかぬ若葉の樹の隙から、庵室めいた荒れた建物が見え、墓地らしい処も有るので、覗き込んで見ると其の小家の中には、鈍い金色を放つ仏像の見えることもある。
寺町 (新字新仮名) / 岩本素白(著)
秋山あきやましたがくりみづわれこそさめ御思みおもひよりは 〔巻二・九二〕 鏡王女
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
唐、天竺は愚か、羅馬ろおま以譜利亜いげりやにも見られぬ図ぢや。桜に善う似たうるはしい花のの間に、はれ白象が並んでおぢやるわ。若い女子等が青い瓶から甘露かんろんでおぢやるわ。赤い坊様ぼんさまぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
わがはしたなにおもふらむ廚辺くりやべ桜花はなのもとにあちらむきてり
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
第三十二章 宝探し——の声
の間よも い行きまもらひ三四
ヒマラヤの岩間いはま羊腸折つづらをり
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
はえかげをはなれゆきて
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ひとついばむと
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
した馬を曳く子は
公孫樹 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
林檎畑のの下に
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
林檎畠のした
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
おもはずなやつてあふげば、虚空こくうくものかゝれるばかり、參差しんしたる々々/\かぜさへわたまつこずゑに、組連くみつらねたるおしろかべこけいし一個々々ひとつ/\
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると、草庵に近い松林の小径こみちで、ひとりの被衣かずきの女に行き会った。ちらと、にそれを見たとたんに、綽空は、どきっと、妙なものに胸をつかれた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日比谷ひびや公園のの間に、薄紫のアークとうが、ほのめき始めた頃から幾台も幾台もの自動車が、北から南から、西から東から、軽快な車台で夕暮の空気を切りながら
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ふたり相いだいてかげをさまよいましたときに、むかしこうしてるときこのまま死のうとかまわぬと考えたことをおもい起こし、それではいまはどうかとひそかに自問してみますと
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
向うの高い所にかすかな灯火ともしびが一つ眼に入りました。昼間見ると、その見当けんとうに赤い色の建物が間隠まがくれに眺められますから、この灯火もおおかたその赤い洋館のぬしけているのでしょう。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その外国人は、盛装をしてゐるためかえつて変に貧しさが目につくやうな人たちでした。千恵は暫く物珍らしさうにかげに立つて眺めてゐましたが、古島さんの姿はたうとう見かけませんでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
青森の林檎の箱ゆつやつやと取りでてつきず桜花はなのもと
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
より燈影ほかげの漏るゝ見ゆ、伯母はねずあるなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なからよりのもと暗く。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
から行き見守つて
林檎畑のした
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さて住吉の朝ぼらけ、白妙しろたえの松のの間を、静々ともうで進む、路のもすそを、皐月御殿さつきごてんいちの式殿にはじめて解いて、市の姫は十二人。袴を十二長く引く。……
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しばらくは何も見えなかったが、そのうちにを洩れる青い星の光に、二つの人間の体が、露にぬれたまま大地に横たわっているのが、薄っすらと分った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋山ノしたガクリ、逝ク水ノ吾レコソ益サメ、御念みおもヒヨリハ。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
この朝の桜花はなのもと小心の与作よさくものつと歩み出でたり
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そのかげ、夢は花さく
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
念仏の声はしきりと吉水のからもれてきて耳には入っていながら、心までは沁みなかったかと思う。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
したがけに、山鳥やまどりいた蜃氣樓しんきろうごと白壁造しらかべづくり屋根やねいしさへ群青ぐんじやういは斷片かけららす。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
われはまたの小鳥
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
きて差覗さしのぞけば、しおれてに立ちて、こうべをさげ、肩を垂れ、襟深くおとがいうずめて力なげに彳みたまう。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云ったのみで、腕をんで、に遠く見える本丸の狭間はざまを睨みつめている者もある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)