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暗
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やみ
ふりがな文庫
“
暗
(
やみ
)” の例文
死の織手が織り出したのはひそやかな火焔の心を持つ美しい「
暗
(
やみ
)
」であった——そのとき私は十二人のなかの別の二人の声をきいた。
最後の晩餐
(新字新仮名)
/
フィオナ・マクラウド
(著)
と両手に襟を押開けて、
仰様
(
のけざま
)
に
咽喉仏
(
のどぼとけ
)
を示したるを、謙三郎はまたたきもせで、ややしばらく
瞶
(
みつ
)
めたるが、銃剣
一閃
(
いっせん
)
し、
暗
(
やみ
)
を切って
琵琶伝
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
電車が二つばかり
轟々
(
ごうごう
)
と音を立てて私の
背後
(
うしろ
)
の線路を横切った。ユーカリの枯葉が一二枚、
暗
(
やみ
)
の空から舞い落ちて微かな音を立てた。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
晴れ曇る、
雨夜
(
あまよ
)
の、深い
暗
(
やみ
)
の底にまたたく星影——そんなふうに、彼女の眼はなんにも、口でいわないうちに何か語りかけている。
江木欣々女史
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
トタンに、照空隊はスーッと消えて、あたりは真の
暗
(
やみ
)
にかえる。だが眼の底には、さっきの太い光の柱が焼けついていて消えない。
空襲下の日本
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
▼ もっと見る
不取敢その
心
(
しん
)
を捻上げると、パツと火光が発して、
暗
(
やみ
)
に慣れた眼の眩しさ。天井の低い、薄汚い室の中の
乱雑
(
だらしなさ
)
が一時に目に見える。
病院の窓
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
ぢゃによって、お
恕
(
ゆる
)
しなされ、
斯
(
か
)
う
速
(
はや
)
う
靡
(
なび
)
いたをば
浮氣
(
うはき
)
ゆゑと
思
(
おも
)
うて
下
(
くだ
)
さるな、
夜
(
よる
)
の
暗
(
やみ
)
に
油斷
(
ゆだん
)
して、つい
下心
(
したごゝろ
)
を
知
(
し
)
られたゝめぢゃ。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
しかし、耳のせいか、べつな者を呼ぶのであったか、程なくその声もかき消えて、足元の
暗
(
やみ
)
に遠い渓流の音を知るのみであります。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
たくみな陰をえらんだ縫い方は、人であるよりも、なにか、
暗
(
やみ
)
のくずれが
澱
(
よど
)
んでながれているように、
紛
(
まぎ
)
れやすいものであった。
野に臥す者
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
松村は、丁度
暗
(
やみ
)
の中で物を探る様な、一種異様の手附で——それを見て、私は益々気の毒になった——長い間かかって風呂敷包を解いた。
二銭銅貨
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
女子 銀の竪琴の音は、
暗
(
やみ
)
の中を荒れ狂っている、赤い焔のように鳴っている。……暗の中の血薔薇のように。(オーケストラの音
止
(
や
)
む)
レモンの花の咲く丘へ
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
水道の敷設がえでもあるのか深く掘り返した黒土が道幅の半分にもりあげられて、
暗
(
やみ
)
を照らしたカンテラの油煙が臭い
嗅
(
にお
)
いを
漲
(
みなぎ
)
らしている。
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
暮れなやむ夏の夕暮のまだほの明るい
暗
(
やみ
)
を、煌々たる
頭光
(
ヘッドライト
)
で、照し分けながら、一台の自動車が、烈しい勢で駈け込んで来た。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
風のない夜で涼みかたがた見物に来る町の人びとで城跡は
賑
(
にぎ
)
わっていた。
暗
(
やみ
)
のなかから
白粉
(
おしろい
)
を厚く塗った町の娘達がはしゃいだ眼を光らせた。
城のある町にて
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
姉弟は、さっきと同じ灯の下ではあるが、
暗
(
やみ
)
と光とが一層濃さを増したように感じられる夜の小部屋の雰囲気の中に、暫く黙ってかけていた。
雑沓
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
やがて、赤い灯の唯一つ薄暗く
煤
(
すゝ
)
けて点いてゐる小舟は、音もなく黒い水の上を滑つて、映る両岸の灯の影を乱しつゝ、
暗
(
やみ
)
の中に漕ぎ去つた。
鱧の皮
(新字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
町の灯は、
暗
(
やみ
)
の中をまるで海の底のお宮のけしきのようにともり、子供らの歌う声や口笛、きれぎれの
叫
(
さけ
)
び声もかすかに聞えて来るのでした。
銀河鉄道の夜
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
笑い動揺めく声が波の様に聞えて居る大広間へ這入ろうとすると、此の時満堂の電燈が一時に消えて全く
暗
(
やみ
)
の世界となった
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
暗
(
やみ
)
に乗じて山里を逃亡いたしました、その晩あたりは何も知らないお幸が私の来るのを待ち
焦
(
こが
)
れていたのに違いありません。
女難
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
暗
(
やみ
)
に見えなかったが、二人は外は
飛沫
(
ひまつ
)
にかかってぬれ、内は汗でぬれ、かわいたところは、その衣類にも皮膚にもなかった。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
死んだ亭主の
胤
(
たね
)
を
暗
(
やみ
)
から暗へやるのも情けないし、済まない済まないと思いながら、時さんにばかり苦労をかけています。
沓掛時次郎 三幕十場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
口
(
くち
)
でそういわれても、
勝手
(
かって
)
を
知
(
し
)
らない
暗
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
では、
手探
(
てさぐ
)
りも
容易
(
ようい
)
でなく、
松
(
まつ
)
五
郎
(
ろう
)
は
破
(
やぶ
)
れ
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うえ
)
を、
小気味悪
(
こきみわる
)
く
這
(
は
)
い
廻
(
まわ
)
った。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
万坊ヶ原の一本松は、暁の
暗
(
やみ
)
に隠れた、那須野ヶ原あたりの開墾地にありそうな、
板葺小舎
(
いたぶきごや
)
から、かんがりと
燈
(
ひ
)
がさす。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
レイモンド嬢がボートルレと見間違えた男のことも、四枚の名画のその後の行方も、同じく
暗
(
やみ
)
に包まれたままであった。
奇巌城:アルセーヌ・ルパン
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
おお、そうだ! 泰軒先生におすがりして! と、黒い河水にのまれた三つの小石、
暗
(
やみ
)
にも白い手が袖口にひらめいて。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
まるで不意に部屋の
暗
(
やみ
)
の中に
毮
(
も
)
ぎ取られたように、急に見えなくなってしまったんです。けれど私はまだ五分間ばかりそこにじっと立っていました。
黄色な顔
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
けれども東屋氏は答えようともしないで、しきりに
暗
(
やみ
)
の空をふり仰いでいたが、やがて突飛もないことを
訊
(
き
)
きだした。
灯台鬼
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
人に歌を読みかけられて返歌をせぬのは
七生
(
しちしょう
)
暗
(
やみ
)
に生れるなどという
諺
(
ことわざ
)
のある日本の人、まして匡衡だって中古三十六歌仙の中に入っている男だから
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
そうして、ほどなく急いで梯子をおりて来る足音が、あわただしく、重苦しい
暗
(
やみ
)
をかき乱した。——ただ事ではない。
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
二人は犬ころのやうに
取組合
(
とりくみあ
)
つたまゝ、廊下を転げまはつたが、気の早い三井氏は、二つ三つ久世氏の頭を
撲
(
なぐ
)
つて、その儘
暗
(
やみ
)
の中に消えてしまつた。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
そして、
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うえ
)
に
落
(
お
)
とすと、また
暗
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで、どこへともなく
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
って、
姿
(
すがた
)
をくらましたのであります。
薬売り
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
一たい彼は賑やかな事が好きで、下らぬことに手出しをしたがる
質
(
たち
)
だから、すぐに
暗
(
やみ
)
の中を探って
行
(
ゆ
)
くと、前の方にいささか足音がするようであった。
阿Q正伝
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
ある夜、氏は
暗
(
やみ
)
のなかを歩いてゐた。氏のずつと前方には氏と同じいやうに灯なしで歩いてゆく一人の人がゐた。
再びこの人を見よ:――故梶井基次郎氏
(新字旧仮名)
/
菱山修三
(著)
其処へ持って来て、権四郎爺の相談は、彼の明日を
暗
(
やみ
)
にしようとするようなもので、成立する筈は無いのだった。
黒い地帯
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
二人の犠牲者の身体は、
暗
(
やみ
)
の中にくねくねとのたうち、もつれ合い、重なり合っていたがやがてしんと静まった。
二人の盲人
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
思へば/\
髮
(
はつ
)
冠
(
かむり
)
を
突
(
つ
)
き候。太守樣にも至極御氣張り被
レ
遊候御樣子も被
レ
伺申候。又此上御
煩
(
わづらひ
)
重
(
おもり
)
候ては、誠に
暗
(
やみ
)
の世の中に罷成儀と、只身の置處を不
レ
知候。
遺牘
(旧字旧仮名)
/
西郷隆盛
(著)
事務室の
暗
(
やみ
)
の主は、どんな人であるか分からないのである。声の色で判断すると、若い人のようでもあり、黒い手の色から考えると、年配者でもあるらしい。
酒徒漂泊
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
かやがばたばた七輪を
煽
(
あお
)
ぎながら、眠らすな、眠らすな、と叫ぶ。八重は
暗
(
やみ
)
の中を
跣足
(
はだし
)
で医者にかけだした。
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
会場のイルミネーションはすっかり消えてしまって、無気味な広告塔から、
蒼
(
あお
)
い火が
暗
(
やみ
)
に流れていたりした。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
竈の
蓋
(
ふた
)
をくぐって、この塊りがぱちぱちと鳴るときに、三介の半面がぱっと明るくなる。同時に三介の
後
(
うし
)
ろにある
煉瓦
(
れんが
)
の壁が
暗
(
やみ
)
を通して燃えるごとく光った。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
素人衆……エー旦那方が我れ面白の人困らせ……斯ういうことを申しますと
暗
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
がおっかないんでげす。
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
が、一瞬間の後には、
暗
(
やみ
)
がその低い山をすっかり満たしてしまった。そしてすべての影は消えてしまった。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
私はくら
暗
(
やみ
)
の谷へ突落されたやうに暖かい日の影といふを見た事が御座りませぬ、はじめの中は何か
串談
(
じようだん
)
に
態
(
わざ
)
とらしく
邪慳
(
じやけん
)
に遊ばすのと思ふてをりましたけれど
十三夜
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
サラッ、サラサラと風なきに散る木の葉の音が、満山の寂寞を破って、思わず耳を
欹
(
そばだ
)
てながら
暗
(
やみ
)
を透して其方を覗き込ませる。実に静かな夜だ、沈黙そのものだ。
奥秩父の山旅日記
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
さうしてつかまう/\とする
要求
(
えうきう
)
が
烈
(
はげ
)
しくなればなるほど強くなつて來るのは、それに
對
(
たい
)
する
失望
(
しつばう
)
の心でした。私達は
暗
(
やみ
)
の中に
手探
(
てさぐ
)
りで何かを探し
廻
(
まは
)
つてゐました。
冬を迎へようとして
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
盗賊改めのお役向に限ったものなのです、ですから、世間の人が、無提灯で
暗
(
やみ
)
の中をうろうろ致していれば、盗賊と間違えられてもやむを得ないものでござります。
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
この房は外の光線が通らないで
真暗
(
まっくら
)
がり真の闇という形ち、その
暗
(
やみ
)
からの小さな房の真中に、青い青い火がちょろちょろちょろと燃えたり、消えたり息をついている。
怪談
(新字新仮名)
/
平山蘆江
(著)
如何
(
いか
)
なる星の下に生れけむ、われは世にも心よわき者なるかな。
暗
(
やみ
)
にこがるるわが胸は、風にも雨にも心して、
果敢
(
はか
)
なき思をこらすなり。花や採るべく、月や望むべし。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
と、突然、妾の番犬が、妾が
戦慄
(
せんりつ
)
するような
呻
(
うな
)
り声を出して、外部の
暗
(
やみ
)
に向って吠出したのです。
バルザックの寝巻姿
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
斯
(
こ
)
う云いながら、巡査は無闇に松明を
振廻
(
ふりまわ
)
すと、火の光は
偶中
(
まぐれあた
)
りに岩蔭へ落ちて、
燦
(
さん
)
たる
金色
(
こんじき
)
の星の如きものが
暗
(
やみ
)
に
浮
(
うか
)
んだ。が、あれと云う間に又
朦朧
(
もうろう
)
と消えて
了
(
しま
)
った。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
暗
常用漢字
小3
部首:⽇
13画
“暗”を含む語句
薄暗
暗誦
幽暗
暗黒
暗示
暗夜
暗中
暗闇
暗礁
後暗
真暗
仄暗
微暗
暗号
暗殺
小暗
夕暗
宵暗
暗討
暗々
...