明日あす)” の例文
もう明日あすの朝の準備したくをしてしまって、ぜんさきの二合をめるようにして飲んでいた主翁ていしゅは、さかずきを持ったなりに土間の方へ目をやった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
明日あすの晩はもうお前の声も聞かれない、世の中つて厭やな物だねと歎息たんそくするに、それはお前の心がらだとて不満らしう吉三の言ひぬ。
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
身を暖めるたしになるものなら、わっとばかり飛びついて、明日あすのことなどは考えもせずに、すっかり荒してしまったわけなのです。
出陣の始めの日とか凱旋がいせんのよろこびの日とか、そうでなくても明日あすは決戦という前の晩とかには、たいていの場合この食べ物が出た。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして先ずこれで美紅は死んだ。あとは明日あすのお眼見得の式で濃紅姫に勝ちさえすれば、妾は間違いなく女王になれると思いました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
(また、明日あすにも)という不安と虚無観が消え去らないと見えて、往来の市人まちびとの顔には、どれもこれも、落着かない色が見えていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さあ、愈々いよ/\出世の手蔓てづるが出来かかつたぞ。明日あすは一つあの殿様のお顔を、舶来はくらい石鹸しやぼんのやうにつるつるに剃り上げて呉れるんだな。」
「おいM、明日あすはしっかりやってくれ、日本人の名声をあげるには絶好ぜっこうの機会だ、どうか祖国のために万丈ばんじょう気炎きえんをはいてくれ!」
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
というと、「そのことなら本人はもう先刻承知のことだ。善は急げだ、髪も結っていることだし、早速それでは明日あす俺がれて行こう」
彼女の語るところによると、轡川というその男は彼女——明日あす子という——の夫と同郷の者、当時大阪の私立大学の学生だったという。
ひとりすまう (新字新仮名) / 織田作之助(著)
まあ、そのご馳走ちそうるだけでもたのしみになります。明日あす晩方ばんがたくらくならないうちに、わたしが、いいところへご案内あんないしますよ。
からすとうさぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
よるはひとしほ波の音までが聞えるゆゑ、明日あすの日和なぞ気にかかつて、月の光が白い障子に射すまでは、雨戸も閉めねば、寝ねもせず。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そういう私たちの家では、明日あすの米もないような日がこれまでなかったというまでで、そう余裕のある生活を送って来たわけではない。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私の気持は、段々とわびしくなっていった。まだ明日あすという日もあるものをと、自分をしかってもみた。しかし侘しさは消えなかった。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三年まえの九月、兄が地方の高等学校へ、明日あす立とうと云う前日だった。洋一は兄と買物をしに、わざわざ銀座ぎんざまで出かけて行った。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おれはまる三日苦しみ通しだものを。明日あすは四日目、それから五日目、六日目……死神は何処にる? 来てくれ! 早く引取ってくれ!
(叫ぶ)勇士たち、行け! 明日あすこそわしはお前等を従えて行こう——わしと、「必勝者かつひと」コナイルと、愛蘭アイルランド一の勇士クウフリンとで!
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
人間は老少不定ろうしょうふじょうためし明日あすにも知れんが人の身の上、殿様のお顔もこれが見納みおさめになるかと、今日こんにちは御暇乞にまかり出ましてござります
大神おおかみは、「それでは、明日あすお供をして海ばたへ来るがよい。名を取りかえてくださったお礼を上げようから」とおっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
主人しゆじん挨拶あいさつかく明日あすのことにするからといつただけだといふ返辭へんじである。勘次かんじはげつそりとしてうちかへると蒲團ふとんかぶつてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
仲仕——権三といわれていた——は、特別の賃銀を支払われると言う約束で、明日あすのお屠蘇とその余分の一杯をあてにしてやって来たのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
自分は明日あすにも番町へ行って、母からでもそっと彼ら二人の近況を聞かなければならないと思った。けれどもあによめはすでに明言した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明日あす領事の奥村氏が我等を招かんと云ひ給ひしが、曲げてその仲間に加はり給へ。今日けふ逢ひしに君のうへをいとよく知り給へば。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「それはあるわよ……。屹度きつとあるわよ。でなくつちや生きてゐられないもの……。私と同じね……。それで、明日あす貴方行くの?」
アンナ、パブロオナ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「都にもお館はあるが、今は、みぞろが池のそばに住んでいられるのじゃ。お前が、都見物に行きたいのなら、明日あすにも連れて行こうぞ。」
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこで何と滝沢氏、明日あすは是非とも年始がてら初湯を試みにお出かけ下され。しかとお約束致しやした。しからばこれにて、ハイハイご免。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
榮子が明日あすから居る処をみじめな田舎とばかり想像されて、ねんねこの掛襟かけえりを掛けながら泣いて居たのも鏡子だつたのである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
飛鳥川あすかがは明日あすをも俟たで、絶ゆるもなく移り變る世の淵瀬ふちせに、百千代もゝちよを貫きて變らぬものあらば、そは人の情にこそあんなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
乳母 またしてもお干渉せっかひやしゃります、さゝ、お就褥やすみなされませ。誓文せいもん明日あす病人びゃうにんにならしゃりませうぞえ、此夜こよひやしゃらぬと。
おお千三か、おまえのかたきは討ってやったぞ、いいか明日あすから商売に出るときにはな、鉄砲となぎなたとわきざしとまさかりと七つ道具を
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「おたがひに、明日あす生命いのちもしれない、はかないものなんだ。なんでも出來できるうちにはうがいいし、また、やらせることだ」と。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
会読かいどくは一六とか三八とか大抵たいてい日がきまって居て、いよ/\明日あすが会読だと云うその晩は、如何いか懶惰らいだ生でも大抵寝ることはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「そういう料簡りょうけんではお相手が勤まらん。明日あすとはいわぬ、今日唯今ただいま、帰りなさい。さあ。帰りなさい。自分の家へ帰りなさい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
明日あす訪ねてくれい? さうはかん、僕もこれでなかなか用が有るのぢやから。ああ、貴方も浮世うきよ可厭いやか、僕も御同様じや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「では、明日あすまでに支度をするやうに、ハナァに仰しやつて下さいまし。それからこれが教室のかぎ。私の家のは朝、お渡しいたしませう。」
ああ、この先の、生のない、声のない、落莫らくばくたる世間……いや、今日はまだそんな事は考えられない……だが明日あすは、明日はそうなるだろう。
明日あす明後日あさつて明々後日やのあさつて」と女は指を折つて、「明々後日やのあさつて決定きまつたの。然しね、私は今になつて又氣が迷つて來たのよ」
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
すると、有難いことには、私は明日あすの朝までには、多分アイス・クリームで作った人魚のようにコチコチに固まっているのに違いありません。
明日あす大楠山おおくすやま巻狩まきがりじゃ』などと布達おふれると、乗馬じょうば手入ていれ、兵糧へいろう準備したく狩子かりこ勢揃せいぞろい、まるで戦争いくさのような大騒おおさわぎでございました。
知りたかつたら、明日あすの晩でも、麻布市兵衞町の私の家へ來て下さい、今晩はお通夜で、明日はおとむらひ、——明日の晩は家へ歸つて居りますから
相手に愛せられまた相手を愛してるらしい女の心の中に生ずる、一徹な怨恨を、だれが説明し得よう! 今日きょう明日あすとの間にすべては一変する。
裡家風情うらやふぜいの例として、其日に得たる銭をもて明日あすの米を買ふ事なれば、米一粒の尊さは余人のく知るところにあらず。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
今日きょうは、兇悪な殺人者のいのちを取るかと思うと、明日あすは、百姓のせがれから六ペンスを奪ったけちな小盗のいのちを取ったりした。
「じゃあ、どうすればいいのです。……そんなに僕がお邪魔になるのだったら、出て行けばいいのでしょう。エエ、明日あすからでも出て行きますよ」
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この大漁獲だいりようがあつたので、明日あすからは餓死うゑじに心配しんぱいはないとおもふと、人間にんげん正直せうじきなもので、そのゆめはいとやすく、あさ寢醒ねざめ何時いつになくむねおだやかであつた。
しかし、明日あすにも下水人夫がその泥濘孔を掃除に来れば、殺された男を見つけ出すかも知れません。殺した方ではそんなことをいやがったのです。
原子爆弾だか水素爆弾だか、悪魔の発明にかかるものが、人類虐殺のために、明日あすの日にも落ちて来ないかと、漠然ながら今気遣っているのである。
ペンクラブと芸術院 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
私だけは明日あすから食うことすらできないのだと思うと、私はもうこの世の中に生活してゆく資格のない人間であるかのように考えられてくるのです。
悪魔の聖壇 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
明日あすからは何を食べて、どこにるのだろうと思いながら、早くみんなの顔が見たさにいっしょうけんめいに走った。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さて、わたしもくつろがう、明日あす明後日あさつて、早速大磯に移ることにして、それからみんなで真黒に丈夫になる競争をしよう。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)