ねんご)” の例文
和尚も巡礼の身上みのうえで聊かでも銭を出して、仏の回向えこうをして呉れと云うのは感心な志と思いましたから、ねんごろに仏様へ回向を致します。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
親族、朋友等もまた涙ながらに花嫁の前にひざまずき、その手をとってねんごろに同じような事を戒めるがごとく勧めるがごとくにいうのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
後日再び奥州から大軍の将として上洛する途上この宿に立寄りねんごろに母の霊を祭る、という物語を絵巻物十二巻に仕立てたものである。
山中常盤双紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お上で色々とお調べの末、色恋の果の出来事と申す事になり、後家が生前ねんごろにして居たらしい男をお捜しになった事がございました。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
ひろ子の歩きつきに、何となしおとなしいようなねんごろなような様子があるのは、下駄がわれかかっているからばかりではなかった。
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
僧はねんごろに道を教ふれば、横笛に嬉しく思ひ、禮もいそ/\別れ行く後影うしろかげ、鄙には見なれぬ緋の袴に、夜目にも輝く五柳の一重ひとへ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
余は白い寝床ベッドの上に寝ては、自分と病院ときたるべき春とをかくのごとくいっしょに結びつける運命の酔興すいきょうさ加減をねんごろに商量しょうりょうした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
喚出よびいだし三四度御自分樣じぶんさま引合ひきあひたる家も有り殊に御自分の云はるゝには小夜衣は我がめひなれば行末ゆくすゑ共にねんごろに私にたのむと小夜衣が文を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こんな次第で、二人はそれからねんごろに交際するようになったのである。ある日、小みどりは仙公を、訪ねてきて改めてまじめな顔になり
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
それはねんごろというよりもしちくどいほど長かった。監督はまた半時間ぐらい、黙ったまま父の言いつけを聞かねばならなかった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
俺も最初はじめはわからなかつたが、後でわかつたよ。あの番頭は後家のお富とねんごろになつて、鳴海屋の乘つ取りを目論んだのさ。お富は後家を
よこすぞ。日野朝臣からねんごろなお旨もあること。そち夫婦の身は、散所屋敷に引き取って、不自由なきよう、取りたてて得させる
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらく里虹のみが知る双生児の表象シンボルであろうし、さらに、実の妹とも知らずお袖とねんごろにした、骨肉相姦インセストの意味も必ずやあるに相違ない。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
其の時ちやうど父はお宮の用事で四五日泊りがけによそへ行つてゐたが、母は忽ち其の見も知りもしなかつた修驗者とねんごろになつて
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
雪之丞は、青ざめて、美しい前歯に、紅い唇を、噛みしめながら、ねんごろな師匠の言葉に、素直に肯首うなずいているのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
到頭清正公が姿を現しまして、『五郎、気の毒じゃが前世の因果と諦めて呉れ。後はねんごろにとむろうてつかわすぞ』と申しました。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それによると司馬談は己のまたちがたきを知るや遷を呼びその手をって、ねんごろに修史しゅうしの必要を説き、おのれ太史たいしとなりながらこのことに着手せず
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
葉石氏はしょうが出阪の理由を知らず、婦女の身として一時の感情に一身を誤り給うなと、ねんごろなる教訓をれ給いき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ってねんごろに尋ねて見たならば、稲積をシラと呼んでいた痕跡はなお存するかもしれぬが、少なくとも現在はまだ手がかりが得られておらぬのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かつて一条公爵家の御養子として、しばらく同家に生活していられました。それは、元来一条家よりのねんごろなお望みがありまして、御結縁ごけちえんになったのでした。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
という言葉が如何にも真実に後生を恐れる殊勝者と見えたので、法然はねんごろに念仏往生、本願正意ほんがんしょういの安心を授けた処二つなき専修の行者になってしまった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は、その部分をねんごろに捜したけれども、別にこれという手がかりを発見することが出来なかった。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
同じ人間に生れて同じく定命つきて永劫の眠りについても、或者は堂々と墻壁しょうへきを巡らした石畳の墓地に見上げるような墓石を立てゝ、子孫の人達にねんごろに祭られている。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
笛吹くあるじのねんごろさはあったが生絹はそれをしりぞけたことも、一度や二度ではなかった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
浅草の伝法院でんぽういんへ度々融通したのが縁となって、その頃の伝法院の住職唯我教信とねんごろにした。
別紙を持参して諸事の指揮をその人にうけよとねんごろに予が空想に走する事を誡められたり。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
きっと、これはははいかりであろうとおもいましたから、子供こどもは、ねんごろに母親ははおや霊魂たましいとむらって、ぼうさんをび、むら人々ひとびとび、真心まごころをこめて母親ははおや法事ほうじいとなんだのでありました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女は恋人の来訪を、今か今かと待っていた。この前会ったとき、彼は今までになくもっともねんごろだった。彼がすぐに駆けつけて来て、心痛を共にしてくれるに違いなかった。
ついぞ叱言をいったことのない父と母とがねんごろに説諭せつゆしたのでさすがの春琴も返す言葉がなく道理に服したていであったがそれも表面だけのことで実際は余り利き目がなかった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「己は元来物覚えの悪い性分だから、昨日百磅預けたというのは、あるいは思い違いかも知れない。とにかく今度こそはこの百磅を確かに預って置いて下され」とねんごろに頼む。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
そこでは、儀式と起居と団欒との多彩な生活環境のうちで、われわれの、真に「生きる」道と目標とが教へられ、両親の膝の下で、ねんごろに、また厳しく、「しつけ」が施されます。
藤十郎は、生れながらの色好みじゃが、まだ人の女房とねんごろした覚えはござらぬわ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
教ゆる者の説明如何いかねんごろなるも学ぶ者が熱心に練習せざれば料理の道をきわがたし。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これもとより誠意に出づる所にして、我国の利をはかるにはあらず。それ、平和を行うはねんごろによしみを通ずるに在り。ねんごろによしみを通ずるは交易にり。こいねがわくは叡智を以て熟計し給わん事を。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
小野田が出したねんごろな手紙にいざなわれて、田舎で毎日野良仕事にくたびれている彼の父親が、見物にやって来たり、お島から書送った同じ誘引状に接して、彼女が山で懇意になった人々が
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
きらきらと光って見える、俯向うつむちに歩むその姿は、また哀れが深くあった、私はねんごろに娘をへやに招じて、来訪の用向ようむきを訊ねると、娘は両手を畳につきながらに、物静かにいうには
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
かねて申合せしごとく、尾越おごしどの旗挙はたあげの儀はかたく心得申しそうろう、援軍ならびに武具の類、当月下旬までに送り届け申すべく候、そのほか密計の条々じょうじょう相違あるまじく、ねんごろに存じ候、小田原おだわら
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
水門のところで櫂を手に入れて、予らは共に彼の住家へと進んだが、その間に、彼は速やかに落着きを回復し、きわめてねんごろな言葉で予らの以前のちょっとした交誼について語ったりした。
親爺はいともねんごろに尋ねた。「お前はまだほかに何か言うことがあるかね」
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「たとえ、どんな目におうと、うそくのはよくない」と、ねんごろに
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
男はひなにゐる間も、二三度京の妻のもとへ、ねんごろな消息をことづけてやつた。が、使が帰らなかつたり、幸ひ帰つて来たと思へば、姫君の屋形がわからなかつたり、一度も返事は手に入らなかつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はからずも癩瘡らいそうを病んで膿血うみち五臓にあふれ、門徒の附合もかなはず、真葛まくずはらで乞食をして年を経たところを、南蛮宗ウルガン和尚の手に救はれ、ねんごろな投薬加療その験あつてたちまち五体は清浄となる。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
先方ではう云う事は思いも寄らぬ事だとう察して、ねんごろに数えてれるのであろうが、此方こっちは日本に居る中に数年すねんあいだそんな事ばかり穿鑿せんさくして居たのであるから、ソレは少しも驚くに足らない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
最初その森田とねんごろになつたのはお信さんではなくて、実は養母に当るお雪さんであつたのだといふこと、お雪さんはその秘密が発覚しさうになつたので、それとなくお信さんを身代りに押しつけて
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
もうこれまでどおりねんごろにすることは出来なくなった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう云いながらねんごろな風で執っている朝子の丸々とした手の甲を軽くたたいた。「ありがとうございます」朝子はつい泣けそうになった。
おもかげ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかし幸いに、費褘ひいがなお滞在している。孔明は、われ亡き後は彼にしょくするもの多きを思った。一日、その費褘を招いてねんごろにたのんだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世間のうわさが私の耳にも入ります。人もあろうに、小博奕こばくち渡世とせいにしている、安やくざとねんごろになっては、娘の一生も台なしでございましょう。
そもじの母のドラは、ベーリングの従妹いとことか言うたが、ステツレルにとつぐまえ、ベーリングとねんごろにしおったのであろう。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
えゝ、米倉屋孫右衞門の家では、二月の十日が娘の三十五日で谷中静雲寺せいうんじおいて、水死致した娘の事で有りますから、猶更ねんごろに法事供養を致しました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)