惹起ひきおこ)” の例文
博士の場合も、これらの面白からぬ関係がつのり募って、あの惨事を惹起ひきおこしたのだろう。という推論は、まず条理整然としているからね。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
之によつて非常に甘美なる感情を惹起ひきおこされるのであつて、其の感情の衝動された結果として生ずる影響は、決して些細なものでは無い。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
よいに乗じて種々いろいろ捫着もんちゃく惹起ひきおこしているうちに、折悪おりあしくも其処そこへ冬子が来合わせたので、更にこんな面倒な事件を演出しいだす事となってしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで、お家の體面論を眞つ向に、お菊の茶屋へ案内して、この事件を惹起ひきおこした、柴田、吉住の兩名へ、詰問したのでした。
最初は唐辛のはじなめても辛いといった人が後には一本食べても平気になります。そうなると身体に毒で強壮な人でも種々の弊害を惹起ひきおこします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けた玉菜たまなや、ランプのいぶりや、南京蟲なんきんむしや、アンモニヤのにほひこんじて、はひつたはじめの一分時ぷんじは、動物園どうぶつゑんにでもつたかのやうな感覺かんかく惹起ひきおこすので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ハムムラビ法典の発見後、比較法学上種々の新問題を惹起ひきおこしたが、その中で最も重要なものは、ハムムラビ法典とモーゼの法律との関係である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
それにあるこーる、えーてるとうごと一時いちじひろがるものがちかくにあるとき、すぐ大事だいじ惹起ひきおこすにいたることがおほい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
漁期中にストライキの如き不祥事を惹起ひきおこさせ、製品高に多大の影響を与えたという理由のもとに、会社があの忠実な犬を「無慈悲」に涙銭一文くれず
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
然うさ、すべて人間といふものは然うしたものさ。ンのちいツぽけな理由からして素敵と大きな事件を惹起ひきおこすね。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかしこのことは外国貿易に何らの混乱をも惹起ひきおこさず、いかなる一貨物の製造を阻害することもないであろう。
即ちこれが経済上に現れれば、資本的勢力が貧しき下層民、おもに小作人、労働者というが如き者の生活を圧迫する事と為って、由々しき社会問題を惹起ひきおこす。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
先生の演説は直接には聞かなかったが、それがヤカマしい問題を惹起ひきおこしたことを、後で私は理学士から聞いた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
王さまの信仰者と名乗つたリツプが一声は、尚囲繞いて居た撰挙人の群に、はげしい混雑を惹起ひきおこしました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
とまれ、安宅先生の辞職という事件を惹起ひきおこしてわたくしにこうも気をませる男は、憎むべき男である。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
聞えんふりも出来ぬから、渋々って取次に出て、倒さになる。私のお辞儀は家内の物議を惹起ひきおこして度々やかましく言われているけれど、面倒臭いから、構わず倒さになる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
けれども、この水の色は、山よりも川よりも湖よりも、また更に云はれぬ優しい空想を惹起ひきおこす。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
先日のラウペパ王訪問は、果然、大騒を惹起ひきおこす。新しい布告が出る。何人も領事の許可なくして、又、許されたる通訳者なしには、王と会見すべからず、と。聖なる傀儡かいらい
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
父は二宮流にのみやりゅうに与えんと欲し、子は米国風べいこくふうに富まんことを欲した。そのため関家のあらそいは、北海道中の評判となり、色々の風説をすら惹起ひきおこした。翁は其為に心身の精力を消磨しょうました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自分がたつた十五円なのに、長野の服装の自分より立派なのは、若しや俺より高く雇つたのぢやないかと云ふ疑ひを惹起ひきおこしたが、それは翌日になつて十三円だと知れて安堵した。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
離婚沙汰を惹起ひきおこすような結婚を致す訳もなく、社交や処世において不都合を仕出かす訳もなく、夫に対しては貞淑な妻、子に対しては賢明な母と成り得るに違いありません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
門口に群れている藤兵衛の乾児こぶん——捕吏たちの間から湧き起こり、つづいて蜘蛛くもの子を散らすように、四方へ逃げ出したという意外な出来事が、惹起ひきおこされたではありませんか。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ああ事業よ事業よ幾干いくばくの偽善と卑劣手段と嫉妬とあらそいとは汝の名により惹起ひきおこされしや。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
其土地の塩となるべし、其世の光となるべし、大学に所謂一家仁、一国興仁、もの是也、西郷南洲氏は、是を以て百二都城の健児を結び、維新の盛事を成せり、十年の争乱を惹起ひきおこせり
「今一寸の間にお母さんのことを二度まで婆と言って問題を惹起ひきおこしたところだよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
したがつてそら日光につくわうまねくやうにをんなこゝろうながすべきむら青年せいねんとのあひだにはおつぎはなん關係くわんけいつながれなかつた。おつぎが十七といふ年齡としいていづれも今更いまさらのやうに注意ちうい惹起ひきおこしたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この寒空さむぞらに外へ出してよく病気に成らない物だと思ふが、東京の様に乾風からかぜが吹かないせいもあらう。又巴里パリイの様に日当りの悪い構造の建築では室内に子供を置く事がかへつて病気を惹起ひきおこし易からう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もってその騒擾そうじょうのいかにはなはだしかりしかを知りうると同時に、平生冷静沈着なる英人がかほどまでの騒動を惹起ひきおこせしことは、その激昂げきこうの度のいかにはなはだしかりしをも知るに足ると思う。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ところが彼は問題を惹起ひきおこさずにいられないことになったというのは、幾度いくたびもマリ子に、痔の清掃せいそうを命じているうちに、いままでのあらゆる彼の暴令に、唯の一度もいやな顔を見せたことのない彼女が
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その日も養父は、使い道の分明はっきりしないような金のことについて、昼頃からおとらとの間に紛紜いざこざ惹起ひきおこしていた。長いあいだ不問に附して来た、青柳への貸のことが、ふとその時彼の口から言出された。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
偏頭痛さへ惹起ひきおこし、まなこどろんとさせるにぞ
一つのほんの一寸した誤解に始まって、殺人罪の発覚という戦慄すべき結果を惹起ひきおこすまで、彼奴はだまって見ていたのです。
そこで、お家の体面論を真っ向に、お菊の茶屋へ案内して、この事件を惹起ひきおこした、柴田、吉住の両名へ、詰問したのでした。
けた玉菜たまなや、ランプのいぶりや、南京虫なんきんむしや、アンモニヤのにおいこんじて、はいったはじめの一分時ぷんじは、動物園どうぶつえんにでもったかのような感覚かんかく惹起ひきおこすので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
特に青年期に於ける疾病は、甚だしく其の人をして蹉躓懊惱悲哀を惹起ひきおこさしむる傾がある。病者が是の如くなるに至るは、一毫も無理とすべき所は無い。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
... 身体からだの弱い人はよく旅へ出て病気を惹起ひきおこします。全く旅先では衛生法を厳守する事が出来ないからですね」中川
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
害を加えた物に対してこころよくない感情を惹起ひきおこすのは人の情であって、殊に未開人民は復讐の情がさかんであるから、木石をむちうって僅に余憤を洩す類のことはすくなくない。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
さういふ海底かいてい地形變動ちけいへんどうすぐ海水面かいすいめん變動へんどう惹起ひきおこすから、そこに長波長ちようはちよう津浪つなみ出來できるわけである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ここに於て我輩不肖なりといえども、老いたりといえども、どうかこの人の心に心理的変化を惹起ひきおこしたいと考えた。これはもとより困難な事業である。大胆な事業である。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
寺本の馬は、新宿で電車に驚いて、盲目の按摩あんまを二人き倒し、大分の面倒を惹起ひきおこした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
貨物によって現わされる労賃の市場率の下落を惹起ひきおこさないであろう、もっとも貨幣労賃は、耕作の進行につれて必要貨物の価格が騰貴しなければならぬから、騰貴しなければならないが
今日となツては、父子爵は最早もはや猶豫ゆうよして居られぬと謂ツて、猛烈もうれついきほひで最後の決心けつしんうながしてゐる。で是等の事情がごツちやになツて、彼の頭にひツかゝり、からまツてはげしい腦神經衰弱なうしんけいすゐじやく惹起ひきおこした。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
忠一は元気のい男で、酔って随分騒いだ。市郎も温順おとなしくしては居なかった。けれども、二人ながらただ酔って騒いで帰っただけのことで、別に後日ごにちの面倒を惹起ひきおこすような種はかなかったのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昔女優サラ・ベルナアルが奮然辞職した以来の大悶着を惹起ひきおこして居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
時には一寸面白い事件を惹起ひきおこしなぞして、その当座は十分慰めにもなったのですけれど、真似事はどこまでも真似事で
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もしもこの婚礼をこばむなら大原君の父親を離縁するといい出した騒ぎだ。大原君も自分一人のために一家の大騒動を惹起ひきおこしては済まんから遂に婚礼の事を承諾した。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
むかしひと地震ぢしんかへし、あるひもどしをおそれたものである。此言葉このことば俗語ぞくごであるため誤解ごかい惹起ひきおこし、いまひとはこれを餘震よしんめてゐるが、それはまつたあやまりである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
自分の粗忽そこつからこの騒動を惹起ひきおこしたと思込んでいる半之丞は、心の底からそう言うのでした。
それから如何どうかというに、多少内乱を惹起ひきおこしたが、ついに西南戦争に於て終りを告げた。
そこで先生のかなしい最期前後の出来事は、如何様どのような微細な事までも、世界中の新聞雑誌に掲載されて、色々の評判を惹起ひきおこしました。私は漏らさず其記事を見ました。無論誤報ごほう曲説きょくせつも多かったでしょう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)