後手うしろで)” の例文
怪塔王は、帯革でもって後手うしろでにしばられてしまいました。怪塔王は、すっかり元気がなくなって砂上にすわりこんでしまいました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
グレイス・プウルは繩を一本彼に渡し、彼は彼女を後手うしろでに縛り上げた。まだ手にあつた外の繩で彼は彼女を椅子いすに縛りつけてしまつた。
かくてもいまいかりは解けず、お村の後手うしろでくゝりたる縄のはし承塵なげしくぐらせ、天井より釣下つりさげて、一太刀斬附きりつくれば、お村ははツと我に返りて
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
両腕は背にまわされ、多分しめていた兵児帯で後手うしろで緊縛きんばくされているのだろう、その端がいんこう部に二まわりばかり堅くくくられている。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
一日か二日後手うしろでに縛って、邸内の人の立集う所にさらして置き、十分諸人に顔を見知らせた上で、『門前払い』即ち追払ってしまう例である。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
或者は裾踏み乱したるまま後手うしろでつきて起直おきなおり、重箱じゅうばこの菓子取らんとする赤児あかごのさまをながめ、或者はひと片隅かたすみの壁によりかかりて三味線をけり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お綱は突然激怒して禅僧を組敷き、後手うしろでにいましめた。本堂へひきずりこみ、これを柱にくくりつけて、着物をビリビリひき裂いて裸にしてしまった。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
『なんだってこんなにのべつ騒いでやがるんだろう!』こういう考えがちらと彼の頭をかすめた。彼はまたもや後手うしろでにドアをしめて、じっと待っていた。
身体をさがし終わると、人々はジャヴェルを引き起こし、両腕を後手うしろでに縛り上げ、昔その居酒屋の屋号の由来となったへやの中央の名高い柱に結えつけた。
老人は、秣槽まぐさおけを飼料台の上にのせ、馬が喰べはじめるのを、後手うしろでをしながら、ひととき、うっとりとながめる。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
七分通り燃え盡した蝋燭の火に今や睫毛まつげが焦げそうになって居ても、婆羅門ばらもん行者ぎょうじゃの如く胡坐あぐらをかいて拳を後手うしろでに括られたまゝ、大人おとなしく端然と控えて居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は、その嬉しさに駆られて、寝ている女たちの顔を見まわすべく、一本足で立ち上りかけたが、思いがけなくフラフラとなって、絨毯の上に後手うしろでを突いた。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
煙管きせるくわえて、後手うしろで組んで、起きぬけに田の水を見るたつじいさんの眼に、露だらけの早稲わせが一夜に一寸も伸びて見える。昨日花を見た茄子なすが、明日はもうもげる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから彼女かのぢよ毎晩まいばん惡夢あくむた。片山かたやま後手うしろでしばげられてうへからるされてゐる、拷問がうもんゆめである。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
すると、ドヤドヤと足音がして、二人の屈強な青年に、両方から抱えられるようにして、後手うしろでに縛られた小柄な真黒な人の姿が、部屋の中によろめき込んで来た。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おれは余りのいじらしさに、慰めてやりたいと思うたから、そっと後手うしろでき起そうとした。するとあの女はどうしたと思う? いきなりおれをはり倒したのじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
赤い長襦袢ながじゅばんが一枚、後手うしろでに縛りあげたまま、脛もあらわにほうりだされた様子は、眼に沁むような妖しい美しさ。余吾之介も暫くは手を下しかねて、茫然と見入るばかりです。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
結んだ縄もしやらほどけ、いがんだ己がすぐな子を、持つたは何の因果ぞと、思つては泣き、締めては泣き、後手うしろでにしたその時やあ、どうしてもう、いかな鬼でも蛇心でも
私同然の道を歩まずにはいられなかったであろうということを——妻を裸体はだかに引きいて、後手うしろでくくり付けてみたり、これを床の上に引き摺り倒して、全身に擦過傷を負わせたり
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
もう往来で凧を揚げるなと断られたから、乃公達は教会の後手うしろで空地あきちへ行った。暫時しばらくは工合が善かったが、しまいには乃公の凧が木にからまってしまった。いくら引張って見ても取れ様としない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
中央ちうあうけやきはしらの下から、髪の毛のいゝ、くつきりと色の白い、面長おもながな兄の、大きなひとみきんが二つはいつた眼が光つた。あきらにいさんは裸体はだか縮緬ちりめん腰巻こしまき一つの儘後手うしろでしばられて坐つて居る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
で、この考え方からして、最も妥当な順序を立てて見ると、先ず最初被害者は、鋭利な刃物で心臓を一突きに刺されて絶命する。次に後手うしろでに縛り挙げられ、おもしを着けられて海中へ投げ込まれる。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
後手うしろでにして、両手でつかんでいるカンカン帽が、カラカラと鳴っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ておぢいさんはそのまゝ田舎にもどつて、次の年今度は祇園祭ぎをんまつりを見物に又京都へ出てまゐりました。おぢいさんはあひ変らずその拾つた冠をかぶり、後手うしろでをしてあつちこつちを見物してあるきました。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
なおも敦圉いきりたっているゲンを離すと、ともかく後手うしろでに縛り上げて
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
母親は後手うしろでに縛られていた、敦夫は手早く縄を切って抱起し
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
後手うしろでに人かちわたる春の水
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
白魚しらうをのやうなくろ点々ぽち/\ひとえた……くちからは不躾ぶしつけながら、らるゝとほいましめの後手うしろでなれば、ゆびさへ随意まゝにはうごかされず……あゝ、くるしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
門人種員はいよいよ種彦の様子を見に行こうと立上り大分山の痛んでいるらしい帯の結目むすびめ後手うしろでに引締めながらすだれおろした二階の欄干らんかんから先ず外を眺めた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
否、血みどろになってうごめいて居たのでした。胸から上は素裸にされて、其の上を腰ひもか何かで後手うしろでにぐるぐる巻にされ、その端が咽喉のどにまきつけてありました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
次ぎに第三の黒ん坊の両手を、後手うしろでに組ませて、又同じような気合いをかけると、その手はさながら鎖で縛られた如く、どんなに振っても暴れてもほどく事が出来ない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ともの上り口はどうだろうと、艫ノ間へ駆けて行くと、乗組の百人、一人残らず後手うしろでに括られてころがっている。李旦はと見ると、十字架の前にひざまずいて一心に祈祷きとうをしていた。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その時に副院長が後手うしろでドアのノッブをねじった音がした。そうしていて落ち付いた声で
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
後手うしろでにドアをしめると、非常にとりすました表情で、しかし同時に、彼女が男性に対する時はいつもするくせの、一種のこび眉間びかんに置き忘れてあったけれど、しとやかに腰をかがめた。
いよいよ客がもう四階へ上り始めた時、その時初めて、彼はふいにぶるぶるっと全身を震わし、つるりとすばしっこく控室の部屋へすべりこみ、やっと後手うしろでにドアをしめることができた。
しかし乞食は驚きもせず後手うしろでに障子をしめてから、おもむろに顔の手拭をとつた。顔はひげに埋まつた上、膏薬も二三個所貼つてあつた。しかしあかにはまみれてゐても、眼鼻立ちはむしろ尋常だつた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
眉は吊りあがり、瞳には、怒りと、憎しみと、復讐のいろとが、燐光のように燃えている。後手うしろでに隠している刀は見えなかったけれども、大きく波打っている肩と胸とに、不気味な殺気があった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
枕に後向うしろむきに横はりし音羽屋おとわやの姿は実に何ともいへたものにはあらず小春が手を取りよろよろと駆け出で花道はなみちいつもの処にて本釣ほんつりを打ち込み後手うしろで角帯かくおび引締めむこう
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かれは片肌脱ぎたるまま、縄もて後手うしろでいましめられつ。かどに出でし時、いま一にんの警官うしろより出でて、毛布けっともてその肌おおいたり。続きて染の顔見ゆ。あとなるは伯母上なりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
極度にタタキ付けられた選手のように、スッカリ混乱してしまったまま……両脚を投げ出して、後手うしろでを突いたまま……腹立たしい菊の花の芳香においを、いつまでもいつまでも呼吸していた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
妹が何かを後手うしろでに隠しながら、ソロリソロリと親父の背後へ迫って行く光景や
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ぴたりと後手うしろでにその後を閉めたあとを、もの言わぬ応答うけこたえにちょっと振返って見て、そのまま片手に茶道具を盆ごと据えて立直って、すらりと蹴出けだしのくれないに、明石の裾をいた姿は
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこには、現代ばなれのした、ひどく古めかしい装飾の、立派な日本座敷があって、その床の間の柱に、夫婦と覚しき男女が、後手うしろでに縛りつけられていた。女の方は猿轡さるぐつわまではめられている。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ドア把手ノッブ後手うしろでに掴んでヤッと身体からだの重量を支えた。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
頭を後手うしろでに抱えて両足を投出した。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「……姫松ひめまつどのはエ」と、大宅太郎光国おおやのたろうみつくにの恋女房が、滝夜叉姫たきやしゃひめ山寨さんさいに捕えられて、小賊しょうぞくどもの手に松葉燻まつばいぶしとなるところ——樹の枝へ釣上げられ、後手うしろでひじそらに、反返そりかえる髪をさかさに落して
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一柳斎は後手うしろでいて伸び伸びと大笑した。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)