後家ごけ)” の例文
おかみさんのカラスは、後家ごけさんになってね、黒い毛糸の切れっぱしを足につけて歩いてるよ。とんでもなくなげき悲しんでるよ。
家の中には紛失物は無いらしく、天井裏からボロきれに包んで、少しばかり纒まつた金の出て來たのも、後家ごけらしいたしなみでした。
耄碌もうろくしたと自分ではいいながら、若い時に亭主ていしゅに死に別れて立派に後家ごけを通して後ろ指一本さされなかった昔気質むかしかたぎのしっかり者だけに
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
だまし討になし其金をうばとりそれ而已成のみならず文妹富をあざむきて遊女に賣渡し同人の身の代金三十兩をかすとり其後十兵衞後家ごけやすを己れが惡事露顯ろけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「わかる、わかる、おばばの気持はよくわかる。さすがは、新免宗貫しんめんむねつら家中かちゅうで重きをなした本位田家の後家ごけ殿だけのものはある」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余程教育ある婦人でも後家ごけて通すというような美しい意気をもって世を過すという婦女子はチベットにはほとんどないです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「わたくしは一番いちばん半兵衛はんべえ後家ごけ、しのと申すものでございます。実はわたくしのせがれ新之丞しんのじょうと申すものが大病なのでございますが……」
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
後家ごけ孀婦そうふの淋しき人々にも、勿論もちろんこの時には仕事があったが、それは一年の永い日数に比べると、幾らでもなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
得念は木挽町こびきちょうに住居致候商家の後家ごけと、年来道ならぬちぎりを結び、人のうわさにも上り候ため度々たびたび師匠よりも意見を加へられ候由。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「その庄司のお嬢様を清姫という——一説にはお嬢様ではない、まだ水々しい若い綺麗きれい後家ごけさんであったとも申します」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何々屋なになにや後家ごけさんが、おびってやったとか。酒問屋さけとんやむすめが、舞台ぶたいしたかんざししさに、おやかねを十りょうしたとか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
又はその当時の話題になっていたこの『美人後家ごけ殺しの迷宮事件』の真相を、古い色情関係と睨んでいた新聞記者が、そんなネタを探し出した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
精米所では、東京風のひんのいいかみさんが、家に引込ひっこみきりで、浜屋の後家ごけに産れた主人の男の子と、自分に産れた二人の女の子供の世話をしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それを聞いて、与兵衛らはひどく驚いたらしく、いまは後家ごけとなった女房のお才をはじめ、親類一同を奥の間へ呼びあつめて、俄かに評議を開いた。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と云ふのは、この頃、大黒座で打つてゐる役者一座の一人が、さうたび/\、後家ごけさんや娘に買はれに來るのだと思はれては、迷惑だからであつた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
けれども、後家ごけさんはこのみにくいなまけもののほうの子をずっとかわいがっていました。だって、この子はじぶんのほんとうのむすめなんですからね。
このまま、婚家へ止めて置いて一生後家ごけ暮らしをさせるのは不憫である。一旦、里方へ帰し、そして改めてどこかへ嫁に行けるようにしてやらずばなるまい。
盗難 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
やっぱり近所に住んでいたが、みんな後家ごけさん——後家さんはおっかさん一人で、あとは老嬢おうるどみすだったのかも知れないが、女ばかり四人よったりしてキチンと住んでいた。
裸体祭の風流男みやびおとを百年の仇と思いつめるような、なさけ知らずの乙女でも、櫛を折り、鏡を砕き、赤き色のあらゆる衣を引き裂いて、操を立てた若い後家ごけでも
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
軍人は軍人で、ことに下士以下は人の娘は勿論もちろん後家ごけは勿論、あるいは人の妻をすら翫弄がんろうして、それが当然の権利であり、国民の義務であるとまで済ましていたらしい。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
姉さんが一人、お悦といって後家ごけを通した人(後に私の養母である)、この人が台所をやるという風で、姉弟きょうだい三人水入らずで平和にむつまじくやっていたのであります。
そうして今の水々しさも若々しさも、実は彼女に数年の間後家ごけと同じ生活をさせた必然の結果であることを思うと、哀れと云うよりは不思議な寒気を覚えるのであった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ひと不幸ふこううまれながらに後家ごけさまのおやちて、すがる乳房ちぶさあまへながらもちヽといふ味夢あぢゆめにもしらず、ものごヽろるにつけておやといへば二人ふたりある他人ひとのさまのうらやましさに
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ありがとうござります、主人喜兵衛はじめ、後家ごけ弓とも、よろしく申しました。承わりますれば、御内室お岩さまが、お産がありましたとやら、お麁末そまつでござりますが」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まいへもうしろへも廻る重宝ちょうほうな屏風で、反古張ほごばり行灯あんどんそば火鉢ひばちを置き、土の五徳ごとくふた後家ごけになってつまみの取れている土瓶どびんをかけ、番茶だか湯だかぐら/\煮立って居りまして
母の知合いの後家ごけさんの家に下宿しているというので、私も無論その男を見て知ってはいる。
アーサの母親はイギリス人であった、名前をミリガン夫人ふじんと言った。後家ごけさんで、アーサは一人っ子であった。少なくとも生きているただ一人の子どもだと考えられていた。
金五郎 後家ごけを立ててる女のところへ、俺が婿にはいろうというのに不思議はねえ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
だケエに十年も後家ごけ立デデせ、ホガガらワラシもらわらの上ララそだデデ見デも、羸弱キヤなくてアンツクタラ病氣ネトヅガれデ死なれデ見れば、派立ハダヂ目腐めくさ阿母アバだケヤエに八十歳ハチヂウ身空みそらコイデ
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「あのお富さんもお気の毒ですよ。早くおよめに来て、早く世の中を済ましてしまったなんて、そう言っていましたよ。あの人も、もう後家ごけさんですからねえ——あの女ざかりで。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの百合香なあ、あいつ、三年ほど前に、亭主に先だたれて、後家ごけ暮しをしとったが、今度、願ってもないええところから、貰い手がついた。再縁にしちゃあ、拝みたいほどの人よ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
はすっぱな下町娘や色気たっぷりの後家ごけなどが、ゆきずりに投げてゆくこうしたみだらがましい言葉、それにさえ慣れて、はじめのような憤りや自嘲を感じなくなった栄三郎であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「取扱い所勤務中遠山藤とおやまふじと申す後家ごけへ通じ合いそうろうが事の起り。——何だ下らない」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
写真屋も商売となると技術よりは客扱いが肝腎だから、女の方がかえって愛嬌あいきょうがあって客受けがイイという話、ここの写真屋の女主人おんなあるじというは後家ごけさんだそうだが相応に儲かるというはなし
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大いに同情してその女に夫ばかりか掠奪物一切を還しやったとあれば、他の捕虜どもは皆去勢されたので「高縄の花屋へ来るも来るも後家ごけ」、「痛むべし四十余人の後家が出来」とある。
文吾の家は後家ごけと子供とだけだから、村の寄り合ひの正座も奪はれてしまつたのであるが、源右衞門も家柄だけでは正座へなほることが出來ないで、成り上りが幅を利かしてゐる不平を
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
後家ごけを立て通すが女性をんな義務つとめだと言はしやる、当分は其気で居たものの、まア、長二や、勿体もつたいないが、おやうらんで泣いたものよ——お前は今年幾歳いくつだ、三十を一つも出たばかりでないか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
姉崎の後家ごけさんは、誰か、秘密な客を、待ち受けて、いたんじゃあるまいか。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これが別れ別れて両方後家ごけになっていたのだナ、しめた、これを買って、深草のを買って、両方合わせれば三十両、と早くも腹の中でえみを含んで、価を問うと片方の割合には高いことをいって
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その従姉といふ人は後家ごけさんで、あの有名なN会堂のすぐがけ下に住んでゐました。その教会の古くからの信者で、それが縁で構内に宿をもらつて、司教館の家政婦のやうな役目をしてゐたのです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「これは後家ごけ家屋というのです。直ぐ越さなければいけません。」
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
坊主ぼうずの二十を後家ごけごろしというが知っちょるか」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
あの後家ごけのあなたに、強情におもいを掛けて、とうとう
後家ごけである母はむすこだけをたよりにしていた。
ジェミイの冐険 (新字新仮名) / 片山広子(著)
水のやあるじかしこき後家ごけの君
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
武士ものゝふのけんくゎに後家ごけ二人ふたり出来でき
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
後家ごけがうつえんきぬたれて過ぐ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
後家ごけと、按摩あんまさんと
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
讀了よみをはり藤八サア是でも汝等うぬらは爭ふかと云れて九郎兵衞は今更面目なさに娘お里を引据此猥婬者めと人前つくら打擲ちやうちやく後家ごけのお深も猶惣内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「眼の色變へて乘出すのは穩やかぢや無いぜ、お前に藥草の葉つぱをくれるんだから、いづれ場末の生藥屋きぐすりや後家ごけか何か」