小遣こづか)” の例文
病気は腎臓じんぞうに神経痛で、気象のはっきりした銀子が気に入り、肩や腰をさすらせたりして、小遣こづかいをくれたり、菓子を食べさせたりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つまらない、せばいいのにと思った。気の毒だと思った。それでも清は可愛がる。折々は自分の小遣こづかいで金鍔きんつば紅梅焼こうばいやきを買ってくれる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「参拾円近くあるじゃないか、俺の旅費や小遣こづかいは五円もあればいいし、家賃は拾円もやっとけば、残金で細々食えないかい?」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ふくみ二下り讀では莞爾々々にこ/\彷彿さもうれなる面持おももちの樣子をとくと見留て長庵は心に點頭うなづきつゝやがて返書を請取千太郎よりも小遣こづかひとて金百ぴき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婿一人の小遣こづかい銭にできやしまいし、おつねさんに百俵付けをくくりつけたって、からだ一つのおとよさんと比べて、とても天秤てんびんにはならないや。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
正月の藪入りの時にも、お此さんから別にいくらか小遣こづかいをやったようでした。それからこの二月の初め頃でございました。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その長男たる貴様が小遣こづかいがないなんて云ったって、誰が、ほんとにするものか。なくても、貴様の顔さえ借りれば、どこでも、酒ぐらいは出す
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで、今の小遣こづかいを貰い、帰りには、それで夜鷹よたかそばを食ったなどと……随分おかしな話しですが、それも習慣です。
彼はとにかく粟野さんの前に彼自身の威厳をまっとうした。五百部の印税も月給日までの小遣こづかいに当てるのには十分である。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
子細はないから今度帰国を許すという意味をしたためてあり、ついては追放の節に小遣こづかいとして金壱分をあてがってあるが、万一途中で路銀に不足したら
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おや? あれは、誰だったかな? 田辺さんだ、間違い無し。四十歳、女もしかし、四十になると、……いつもお小遣こづかせんを持っているから、たのもしい。
渡り鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして、おかあさんから、小遣こづかいをいただくと、そのなかにいれておきましたが、じきに、つかってしまうので、その財布さいふなかは、いつもからっぽでありました。
一銭銅貨 (新字新仮名) / 小川未明(著)
月々の小遣こづかいの中から伯父おじなるパトリック・マンディがいくらかずつ保留してベシイの名で積み立てておいた百三十八ポンドというものが自由になるだけで
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
だいそだつることもなるまじ、美尾みをわたし一人娘ひとりむすめ、やるからにはわたしおはりももらひたく、贅澤ぜいたくふのではけれど、お寺參てらまいりの小遣こづかぐらゐしてももらはう
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それで、そのあひだの小劍には、小説は、文字どほり、餘技であり、小遣こづかりであつたかもしれない。
「鱧の皮 他五篇」解説 (旧字旧仮名) / 宇野浩二(著)
あたしだってもうそうなったら余計なお小遣こづかいをねだったり、着物を拵えたりしやしないんだから。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
童子の母さまは、一生けん命はたって、塾料じゅくりょう小遣こづかいやらをこしらえておおくりなさいました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
実際は、わずかばかりの月給なぞほとんど私自身のお小遣こづかいになってしまうのだが、と云ってW実業学校を出た私を、それ以上の学校へ上げてくれる程、私の家はゆたかではなかったのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
兄や姉のところをズーッと廻ると、あっちでもこっちでも「梅ちゃん」「梅ちゃん」とチヤホヤされ、「ほら、お小遣こづかいヨ」と貰う金も、十七八の少女には余りに多すぎるかさでした。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
紅葉先生こうえふせんせい辭句じく修正しうせいしたものは、おそらく文壇ぶんだんおいわたし一人ひとりであらう。そのかはりるほどにしかられた。——なに五錢ごせんぐらゐ、自分じぶん小遣こづかひがあつたらうと、串戲じようだんをおつしやい。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
火種を切らさぬことと、時々かきまわしてやることが大切で、そのため今日は一歩も外へ出ず、だからいつもはきまって使うはずの日に一円の小遣こづかいに少しも手をつけていなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
半日に一枚の浴衣ゆかたを縫いあげるのはさして苦でもなかったらしいが、創作の気分のみなぎってくるおりでも、米の代、小遣こづかい銭のために齷齪あくせくと針をはこばなくてはならなかったことを想像すると
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
きみの一日の小遣こづかいは青木の一ヵ月働いた分よりも多い、そんなにぜいたくしてもきみやぼくはありがたいと思わない、あんなに貧乏しても青木は伯父さんをありがたいと思っている、なあ手塚
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
映画館なぞというものが、こんな十八、九の子供の小遣こづかいぐらいで易々とでき上ることであったろうか。どんな小さな映画館でも、すくなくとも何万という金がなければできることではないではないか。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ここにこうして、百姓家の一間を借りて、小遣こづかい取りの病人も来るのだから、おとなしく、異人墓の文字でも写して勉強しておりゃいいことさ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せいする事出來ずかへつて取持しは人外といひつべし是より家内の男女なんによ色欲しきよくふけりおつねは何時も本夫をつとしやう三郎には少しの小遣こづかひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
付添として来た婆やは会計を預っていたので、おげんが毎日いくらかずつの小遣こづかいを婆やにねだりねだりした。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「毎日行きたくっても、そうはお小遣こづかいがつづかないでしょう。だから私、やっと一週に一ぺんずつ行って見たんです。」——これはいいが、そのあとが振っている。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もどれば太郎たらうはゝはれて何時いつ/\までも原田はらだ奧樣おくさま御兩親ごりようしん奏任そうにんむこがある自慢じまんさせ、わたしさへ節儉つめればときたまはおくちもの小遣こづかひもさしあげられるに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
せめて小遣こづかひ取りに草鞋わらじでもへといふのに、それもしねえで毎日毎晩ごろ/\してゐやあがる。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ず此の中から湯銭の少しも引き去れば、後の残分は大抵小遣こづかいになったので、五円の金を貰うと、直ぐその残分けを中村是公氏の分と合せて置いて、一所いっしょに出歩いては
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庸三は苦しい時の小遣こづかかせぎだという気もしながら、彼女の生活報告には興味があった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分たちが三杯のものを二杯にして、一杯ひかえたとしても、弟子一人位の食べることは出来る。しかし、暑さ寒さの衣物きものとか、小遣こづかいとかというものを給するわけには行かない。
だが手塚とても無尽蔵ではない、かれも次第に小遣こづかい銭に困りだした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
姉娘がお小遣こづかをねだったり、癇持かんもちの六歳の弟息子むすこが泣きわめいたり、何ということだ、彼にはその下にまだ三歳の小せがれさえあって、それが古女房の背中で鼻をならしたり、そこへ持って来て
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
持ちあわせの小遣こづかいもなし、厳格で、質素な家庭に育ったので、酒は、からいものとしか、味を知らなかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手渡しにして今夜にも必ず御出の有やうに其言傳そのことづて斯々かう/\幾干いくら小遣こづかにぎらせれば事になれたる吉六ゆゑ委細承知と請込うけこみつゝ三河町へといそゆき湯屋ゆやの二階で容子ようす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
戻れば太郎の母と言はれて何時々々いついつまでも原田の奥様、御両親に奏任のむこがある身と自慢させ、わたしさへ身を節倹つめれば時たまはお口に合ふ物お小遣こづかひも差あげられるに
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いや、実は小遣こづかいは、——小遣いはないのに違いないんですが、——東京へ行けばどうかなりますし、——第一もう東京へはかないことにしているんですから。……」
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
福井楼が出していたある出先の女将おかみに言い含められ、春よしのお神から聞いて、若林のあることも薄々承知の上で出され、すでに三四回も座敷を勤めていたが、そのたびに多分の小遣こづかいももら
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
毎日人のご馳走になってすましているわけにゆかない、文子は母に貰った小遣こづかい銭を残らずだした、二、三日すぎてかの女は貯金箱に手をつけた、それからつぎに本を買うつもりで母をだました。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
だが、やかましやの親方おやかた卜斎ぼくさい、つねに小言こごと拳骨げんこつをくださることはやぶさかでないが、なかなか蛾次郎の慾をまんぞくさせる小遣こづかいなどをくれるはずがない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭痛を押へて思案に暮れるもあり、ああ今日は盆の十六日だ、お焔魔様ゑんまさまへのお参りに連れ立つて通る子供達の奇麗な着物きて小遣こづかひもらつて嬉しさうな顔してゆくは
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小遣こづかいもつかえば映画も見て、わがままなその日が送れるので、うかうかと昼の時間を暮らすこともあり、あまり収入のよくない朋輩に、大束に小遣いをやってみたり、少し気分がわるいと見ると
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ありがと。じつはお小遣こづかいも欲しかったんだ。饅頭も貰って帰るよ。おふくろに喰べさせたいから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭痛づゝうをさへて思案しあんれるもあり、あゝ今日けふぼんの十六日だ、お焔魔樣ゑんまさまへのおまいりにつてとほ子供達こどもたち奇麗きれい着物きものきて小遣こづかひもらつてうれしさうなかほしてゆくは
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
右衛門七にねだって、買っておもらいなさい。……あいつはね、私どもへ、身寄りなので、手伝い半分、時々、ああして来ていますが、田舎のうちがよいので、小遣こづかいには不自由を
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小太郎山こたろうざんで、すてきな手柄てがらを立てたんで。はい、それから大久保家おおくぼけ知遇ちぐうました。元木もときがよければ末木うらきまで、おかげさまで蛾次郎も、近ごろ、ぼつぼつお小遣こづかいをいただきます
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持ちあわせの小遣こづかいも尽きて、もう一晩の旅籠銭はたごせんさえなくなったため、まだヨロつく足をこらえ、時々、渋るように痛む腹をおさえて、青い顔をしながら宿を出た姿は、笑止でもあるが
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまけにおやじは、近ごろ、おれが水独楽みずごまをまわして小遣こづかい取りをしていることを、うすうす感づいているんだから、こんな夜更よふけに帰ろうものなら、それこそ、飛んでにいる夏の虫だ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)