商人あきうど)” の例文
そのなかには恥を忍んで、のぼり下だりの旅人や、出船入船の商人あきうどを相手に、色をあきなうもあると聞く。妹ももしや其のような…。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その證拠には、この間都から参詣に来た商人あきうどが、うっとりと麿の顔を眺めて、女子おなごのように愛らしい稚児だと独り語を云うたぞや。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
流石に商人あきうどは目が敏捷はやかつた。絵は売る為めに註文したので、画家ゑかきに会つた為に売値を崩すやうな事があつても詰らなかつた。
衣服いふく調度類ちょうどるいでございますか——鎌倉かまくらにもそうした品物しなものさば商人あきうどみせがあるにはありましたが、さきほどももうしたとおり、べつ人目ひとめくように
牛肉や舌を買ってもその通り商人あきうどに親切気のある者が滅多めったにありませんから一々よく検査しないと高い代価を払って悪い品物ばかり押付けられます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
旦那だんな、」と亭主はそこへ顔を出して、「この辺をよく通る旅の商人あきうど塩烏賊しおいかをかついで来て、吾家うちへもすこし置いて行った。あれはどうだなし。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
城下の者にて幸助を引取り、ゆくゆくは商人あきうどに仕立てやらんといいいでしがありしも、可愛かあいき妻には死別れ、さらに独子と離るるは忍びがたしとて辞しぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やがて、その商人あきうどは、やう/\のことでもと天竺てんじくにあつたのをもとめたといふ手紙てがみへて、皮衣かはごろもらしいものをおくり、まへあづかつた代金だいきん不足ふそく請求せいきゆうしてました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
頼まれたのは、蒲生家がもうけの浪人で今は商人あきうどとなった、七日町の植木才蔵うえきさいぞうという人であった。快く引請ひきうけた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
だから柘榴口ざくろぐちの内外は、すべてがまるで戦場のやうに騒々しい。そこへ暖簾のれんをくぐつて、商人あきうどが来る。物貰ひが来る。客の出入りは勿論あつた。その混雑の中に——
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その間にはぱたぱたいふ、太鼓の類の音もする。もう商人あきうども職人も、仕事がすこしも手につかない。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
もと相応なる商人あきうどにて、維新の頃までは、広き江戸の町にても、何町の何屋と少しは人にも知られたるほどの身代にて出入屋敷も数多く有せしかど、維新の瓦解に俄の狼狽
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
なん商人あきうど女房にようばうみせからくるま乘出のりだすは榮耀えいえう沙汰さた御座ござります、其處そこらのかどからいほどに直切ねぎつてつてまゐりましよ、これでも勘定かんぢやうつてますに、と可愛かあいらしいこゑにてわらへば
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
商人あきうどで此のせつは立派に暮して居るけれど、若いうち一時ひとしきり困つたことがあつて、瀬戸せとのしけものを背負しょつて、方々国々を売つて歩行あるいて、此の野に行暮ゆきくれて、其の時くさ茫々ぼうぼうとした中に
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このり開きたる引き窓より光を取れる室にて、定まりたるわざなき若人わこうど、多くもあらぬ金を人にしておのれは遊び暮らす老人、取引所の業のひまをぬすみて足を休むる商人あきうどなどとひじを並べ
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
総じてへやの一体の装飾かざりが、く野暮な商人あきうどらしい好みで、その火鉢の前にはいつもでつぷりと肥つた、大きい頭の、痘痕面あばたづらの、大縞おほしま褞袍どてらを着た五十ばかりの中老漢ちゆうおやぢ趺坐あぐらをかいて坐つて居るので
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
殺したるはまこと大罪だいざいなり因て始終は其身かたなくずに懸らん貴殿おまへ堅氣かたぎ商人あきうどなられし上は此後必ず惡事を給ふことなかれと云ながら金を受取歸りしが是を無心の始めとして其後度々來りては無心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ひとりあやつる商人あきうどのほそい指さき、舌のさき
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
これを飽きずに堪えねば、職人も商人あきうども世は渡られぬ。まして三浦介殿が家来の衆と顔馴染みになったは仕合わせじゃ。坂東の衆は気前がよい。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だから柘榴口ざくろぐち内外うちそとは、すべてがまるで戦場のように騒々しい。そこへ暖簾のれんをくぐって、商人あきうどが来る。物貰ものもらいが来る。客の出入りはもちろんあった。その混雑の中に——
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さればこそひとたびたるはおどろかれふたゝたるはかしらやましく駿河臺するがだい杏雲堂きやううんだう其頃そのころ腦病患者なうびやうくわんじやおほかりしことひとつに此娘このむすめ原因もととは商人あきうどのする掛直かけねなるべけれどかく其美そのびあらそはれず
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたくしはこれをするに当って、当時の社会が今とことなることの甚だしきを感ずる。奉公人が臣僕の関係になっていたことは勿論もちろんであるが、出入でいりの職人商人あきうどもまた情誼じょうぎすこぶる厚かった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
高浜虚子氏が以前なんかの用事で大阪に遊びに来た事があつた。その頃船場せんば辺の商人あきうど坊子連ぼんちれんで、新しい俳句に夢中になつてる連中は、ぞろぞろ一かたまりになつて高浜氏をその旅宿やどやに訪問した。
思ふ人には見棄てられ、商人あきうどの手にやはぢかれて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
呼出さねば分らずとて江戸おもてへ差出しに相成たり時に石川安五郎廿七歳江尻宿えじりじゆく商人あきうど巴屋儀ともゑやぎ左衞門三十一歳同人妻粂二十五小松屋小兵衞并彌勒みろく町々役人江尻宿々役人差添さしそへ江戸町奉行大岡越前守殿へ差送られしかば駿府すんぷ町奉行桑山殿くはやまどのよりの調書しらべがき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
紅蓮尼は西行さいぎょう法師が「桜は浪に埋もれて」と歌に詠んだ出羽国象潟でわのくにきさがたの町に生まれた、商人あきうどの娘であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
亀沢町の邸には庭があり池があって、そこに稲荷いなり和合神わごうじんとのほこらがあった。稲荷は亀沢稲荷といって、初午はつうまの日には参詣人さんけいにんが多く、縁日商人あきうどが二十あまり浮舗やたいみせを門前に出すことになっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
木原こばらみち、薄ら花踏む里乙女、六部、商人あきうど
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
船がかりする商人あきうどうづの寶を奪りはすれ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
よび我等が名代に萬八へ行き仲間の者にも知己ちかづきに成るべしと云ふに千太郎はかしこまり候とやがて支度に掛りしに持參の衣類は商人あきうどには立派過ると養父の差※さしづいつもの松坂縞まつざかじまの布子に御納戸木綿おなんどもめん羽織はおり何所どこから見ても大家の養子とは受取兼る樣子なり其時養父五兵衞は千太郎に云ひける樣今日の馳走ちそうは總て割合わりあひ勘定かんぢやうなれば遠慮ゑんりよには
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
秋の露の寒い夕暮れに、陸奥へくだる都の優しい商人あきうどが、ここの軒にたたずんで草鞋わらじの緒を結び直した時、若い尼は甘い酒のほかに何物をも与えたくはなかったであろうか。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このり開きたる引窻より光を取れる室にて、定りたるわざなき若人わかうど、多くもあらぬ金を人に借して己れは遊び暮す老人、取引所の業の隙をぬすみて足を休むる商人あきうどなどとひぢを並べ、冷なる石卓いしづくゑの上にて
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
赤ら顔してたび語る商人あきうどふたり。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
京むすめ、難波商人あきうど
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
四十前後の旅びとはひたいを皺めて怖ろしそうに語った。それを黙って聴いている若い旅びとは千枝太郎であった。それを語っている旅びとは陸奥みちのくから戻って来た金売かねうりの商人あきうどであった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
商人あきうどは亡き人の名を
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
この上は広い都に住むほどの者、商人あきうどでも職人でも百姓でも身分はかまわぬ。よき歌を作ってたてまつるものには莫大の御褒美を下さるると、御歌所おうたどころの大納言のもとから御沙汰があったそうな。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)