出立しゅったつ)” の例文
「それなら善は急げというから、明日あしたにも出立しゅったつしよう。」と、言いました。そしてその晩は、みんなで色々出立の用意をいたしました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先生はこの驚嘆の念より出立しゅったつして、好奇心に移り、それからまた研究心に落ち付いて、この大部たいぶの著作を公けにするに至ったらしい。
相「此の相川は年老いたれども、其の事は命に掛けて飯島様の御家おいえの立つように計らいます、そこでお前は何日いつ敵討に出立しゅったつなさるえ」
そして、呉服店ごふくみせのおかみさんが、しんせつに、まっていったらというのをきかずに、停車場ていしゃばかえして、出立しゅったつしたのでした。
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「こよいお出立しゅったつの用意をあそばして、半兵衛様のお墓のある山の上までお越しあれ——との仰せでした。……ええ、すぐにです」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は長崎を出立しゅったつして中津に帰る所存つもり諫早いさはやまで参りました処が、その途中で不図ふと江戸にきたくなりましたから、是れから江戸に参ります。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところがその翌日彼らは巡礼者の事ですから出立しゅったつするという訳、私も同じく出立しなければならん。彼らはなかなか出立するのに暇が掛る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
危篤きとくという電報で、取るものも取り敢えず出立しゅったつした、そんなわけでおわかれもせずに来たがゆるしてくれという手紙であった。
食器だな。薬品の戸棚。部屋の中央にテーブル。旅行カバンが一つ、帽子のボール箱が幾つか。出立しゅったつの用意が見てとられる。
訣別けつべつの宴につらなった良致氏は、黙々として静かにホークを取っただけで、食後の話もなく、翌日、出立しゅったつのおりもプラットホームに石の如く立って
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
宮内は高野山こうやさんへ、探偵として入り込む内命をうけて喜んで出立しゅったつした。紀州きしゅうの霊場には、鎌倉を去った堀主水が、身の危険を感じて登山しているのであった。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
その時の私には、時ならぬ出立しゅったつ客など怪しんでいる余裕はなく、ただもうワクワクとして、その廊下をどちらへ行っていいのかさえ、分らない始末でした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いつぞや大菩薩峠の上で生胴いきどうためしてその切味きれあじに覚えのある武蔵太郎安国のきたえた業物わざものを横たえて、門弟下男ら都合つごう三人を引きつれて、いざ出立しゅったつ間際まぎわ
なおまた当五月出立しゅったつの節、心事一々申上げ置き候に付き、今更何も思い残す事御座無く候。このたび漢文にて相したため候諸友に語る書も、御転覧遊ばさるべく候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ただ余の出立しゅったつの朝、君は篋底きょうていを探りて一束の草稿を持ち来りて、亡児の終焉記しゅうえんきなればとて余に示された、かつ今度出版すべき文学史をば亡児の記念としたいとのこと
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
しかしてかれ自ら敗れ、ついに遠く欧州に走らばやと思い定めき。最初父はこれを許さざりしも急にかれの願いを入れて一日も早く出立しゅったつせよと命ずるごとくに促しぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
留守居の者が私の出立しゅったつの模様やそれから日頃の有様などをくわしく話して聞かせると、その男までつい貰い泣きをし、「ともかくもその事を殿に早くお知らせ申しましょう」
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
まず第一に十里ぐらいはなんだとあざけりを心にもよおす。この種類の人も僕が出立しゅったつするときに、今日は十里の散歩をしようと、心に定めたことを度外視してわが輩の遠足をはかる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
曩日さきに東京を出立しゅったつするの時、やはり、磯山の依頼により、火薬を運搬するの約ありて、長崎まで至るの都合なりしが、その義務終りなば、帰京して、第二の策、即ち内地にて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ロレ さ、はやきゃれ。さらばぢゃ。貴下こなた幸運かううんたゞこのひとつにかゝる、夜番よばんかれぬうちに出立しゅったつするか、さなくば夜明よあくるころ姿すがたやつしてこのまちとほざかるか、ふたつにひとつぢゃ。
浅草あさくさの或る寺の住持じゅうじまだ坊主にならぬ壮年の頃あやまつ事あって生家を追われ、下総しもうさ東金とうかねに親類が有るので、当分厄介になる心算つもり出立しゅったつした途中、船橋ふなばしと云う所である妓楼ぎろうあが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
たしかに御持ちでしょうね。善は急げだ。急げばそれだけこの恐るべき事件の底も早くたたいて見られると云うものです。もしわしがあなたであったらすぐさま出立しゅったつ致しますがね
珠運が一身二一添作にいちてんさくの五も六もなく出立しゅったつが徳と極るであろうが、人情の秤目はかりめかけては、魂の分銅ふんどう次第、三五さんごが十八にもなりて揚屋酒あげやざけ一猪口ひとちょく弗箱ドルばこより重く、色には目なし無二無三むざん
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
出立しゅったつの際も已に天気つづきだったので、眼前の景色をそのまま取入れたものであろうが、同時に旅立つ人に対し、この日和の更に続けかしとねがう意が含まれているような気もする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「道があけた! 先生すぐお出立しゅったつのお支度なさいまし! ——小次も早く支度しろ」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「それでは、あとで話をゆっくり聞くとして、これからすぐ伊豆山の相州屋へ電話をかけて、川上糸子がいるかどうか、もし出立しゅったつしたとすると、いつ相州屋を出たか聞いてくれたまえ」
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
翌十日は朝出立しゅったつした、馬を五頭、一頭は荷物を積んで、案内者の、チャアルス・グーチという男が、裸馬に乗り、アルペン杖を横たえながら、片手で荷馬車をいて先登に立って行く。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
彼はその唐突とうとつ出立しゅったつにびっくりして、どう言っていいかもわからなかった。彼女がそんな決心をした動機を知ろうと試みた。彼女は一時のがれの返辞をした。彼は落ち着く先を尋ねた。
そのご出立しゅったつのときにも、どちらの道を選べばよいかとおうらなわせになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
この夜二人はただうれしくて面白くて、将来の話などしないで寝てしまった。翌朝お千代が来た時までに、とにかく省作がまず一人で東京へ出ることとこの月半つきなか出立しゅったつするという事だけきめた。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
此条このじょう王鬼に届出とどけいでずして我儘わがまま出立しゅったつせば
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
またその方から出立しゅったつする事が多いかも知れませんから、その方に興味のないかたには御気の毒ですが、まあ仕方がない、御聴きを願います。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虎之助とらのすけのかわいがっておる井上大九郎いのうえだいくろう、この三名をつかわそう。日もはやせっぱくしておることゆえ、すぐ出立しゅったつさせるがよい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出立しゅったつの朝になっても、青年の姿は見えなかった。美奈子は、母が青年を連れて行くことを中止したのではないかとさえ思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ちょうど私が出立しゅったつの際、甚だ親しい信者であるからわざわざ尋ねて行ったところが何故か同氏は非常にうれえて居られた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
たった一人の伯父さん、年が年だから死水しにみずを取るがいと、三藏は気の付く人だから、多分の手当をくれましたから、いとまを告げ出立しゅったつを致しまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
出立しゅったつのときわかれを惜しみ無事を祈ってれる者は母と姉とばかり、知人朋友、見送みおくり扨置さておき見向く者もなし、逃げるようにして船に乗りましたが、兄の死後
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なかでも、いちばんこころをひかれたのは、もう、七、八ねんまえになるが、五、六にんれの旅芸人たびげいにんが、あるいそいでここのみなとから、ふねって出立しゅったつしたときのことであります。
海と少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いよいよ出立しゅったつの日妾に向かい、内地にては常に郷里のために目的をさまたげられ、万事に失敗して御身おんみにまで非常の心痛をかけたりしが、今回のこうによりて、いささかそをつぐない得べし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
番頭のいう所によりますと、彼らは何の前ぶれもなしに、突然出立しゅったつの用意をして下りて来て、帳場で宿泊料の支払いを済せると、あわてて、自動車も呼ばずに出て行ったというのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かまわずおけば当世時花はやらぬ恋の病になるは必定、如何どうにかして助けてやりたいが、ハテ難物じゃ、それともいっそ経帷子きょうかたびら吾家わがや出立しゅったつするようにならぬ内追払おっぱらおうか、さりとては忍び難し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いよいよ泡鳴が大阪へ出立しゅったつする二日前の、三月廿六日の日記には
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしわれわれの方では sex の問題とか naturalism とか世間に知れわたった法則等から出立しゅったつするものは
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
入間いるま川から女影おなかげの原付近で、とかく物騒なうわさが絶えないというので、夜旅をかけて武蔵野を横ぎる場合は、立場問屋たてばといや出立しゅったつの時刻をさだめ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明治三十年六月二十六日に出立しゅったつして明治三十三年七月四日にこの国境に着いたのであるから自分の予期の違わざりし嬉しさに堪えられなかったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その時の始末でも幕府の模様がく分る。此方こっち出立しゅったつする時から、先方の談判には八十万ドルラル渡したとう請取がなければならぬと云うことは能くわかって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
出立しゅったつの朝だった。自分が捨てゝ置かれると云うことが分ると、勝彦は狂人のようにあばれ出した。毎年一度か二度は、発作的に狂人のようになってしまう彼だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それから白山通はくさんどおりへ出まして、駕籠かごを雇い板橋いたばしへ一泊して、翌日出立しゅったつを致そうと思いますと、秋雨あきさめ大降おおぶりに降り出してまいって、出立をいたす事が出来ませんから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先ずその地を志しひそかに出立しゅったつの用意をなすほどに、自由党解党の議起り、板垣伯いたがきはくを始めとして、当時名を得たる人々ども、いずれも下阪げはんし、土倉庄三郎氏もまた大阪に出でしとの事に
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
わたしは二、三にちまえに、ずっとみなみみやこから出立しゅったつしました。去年きょねんふゆはにぎやかなみやこおくりました。もうなつになって、きたうみこいしくなったのでかえるところですよ。」と、かもめはこたえました。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)