冷酒ひやざけ)” の例文
その淋しさを消すために、冷酒ひやざけあおるようなこともあり、ついには毎夜、冷酒を煽らなければ寝つかれないようになってしまいました。
さればこそ、嬢さんと聞くとひとしく、朝から台所で冷酒ひやざけのぐいあおり、魚屋と茶碗を合わせた、その挙動ふるまい魔のごときが、立処たちどころに影を潜めた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
併し、嘉三郎は、そのまま何も言わずに、残っている冷酒ひやざけを一息にあおると、せわしく勘定をして、梅雨ばいうの暗い往来へ出て行った。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一匹の小蝦が咽喉のどを通らないのを無理に冷酒ひやざけで流し込んで『これが土産だ』と云ってその時の僕の全財産、二十銭を置いて来た
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おもてはなやかに、うらの貧しいこんな文明人はついそこいらの牛店にもすわり込んで、肉鍋と冷酒ひやざけとを前に、気焔きえんをあげているという時だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蘿月は稽古のすむまで縁近えんぢかくに坐って、扇子せんすをぱちくりさせながら、まだ冷酒ひやざけのすっかりめきらぬ処から、時々は我知らず口の中で稽古の男と一しょにうたったが
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼等の楽しみは、なにより、「角打かくうち」だ。ますかどから、キュウッと、冷酒ひやざけ一息ひといきに飲むことである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
秋子は見届けしからば御免と山水やまみずと申す長者のもとへ一応の照会もなく引き取られしより俊雄は瓦斯がすを離れた風船乗り天を仰いで吹っかける冷酒ひやざけ五臓六腑へ浸み渡りたり
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「俺は酒じゃ、冷酒ひやざけじゃ。こいつをキューッとあおらんことには、腹の虫めがおさまらぬげに」
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時柴野は隊から帰って来た身体を大きくして、長火鉢ながひばち猫板ねこいたの上にある洋盃コップから冷酒ひやざけをぐいぐい飲んだ。御縫さんは白い肌をあらわに、鏡台の前でびんでつけていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
式が終って冷酒ひやざけとスルメが出て、百人に近い列席者は故人の追懐談に移ったので、山田はやっと伊沢とことばを交える機会を得たが、それでも最初にった時のような打ちとけた
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二人は冷酒ひやざけの盃をわしてから、今日までの勘定をすませた後、勢いよく旅籠はたごかどを出た。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白鹿はくしか」と銘のある大樽の呑口から茶漬茶碗に一杯注いだ冷酒ひやざけをグツとあふることもある。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その剰銭つりせんで、どこかで冷酒ひやざけの盗み飲みをした宅助は、やっと虫が納まって、ふらつくのを、無理に口を結んで帰ってきたが、周馬や一角や孫兵衛は、まだ湯どうふ屋の見晴らしに
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くひ勘定をするをりから表の方より雲助ども五六人どや/\と這入はひり來りもう仕舞れしかモシ面倒めんだうながら一ぱい飮ませて下せいと云つゝはちにありし鹽漬しほづけ唐辛子たうがらしさかなに何れも五郎八茶碗ぢやわんにて冷酒ひやざけ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
男に逢ふ前は、かならずかうした玄人つぽい地味なつくりかたをして、鏡の前で、冷酒ひやざけを五勺ほどきゆうとあふる。そのあとは歯みがきで歯を磨き、酒臭い息を殺しておく事もぬかりはない。
晩菊 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
むら酒屋さかや店前みせさきまでくると、馬方うまかたうまをとめました。いつものやうに、そしてにこにことそこにはいり、どつかりとこしをろして冷酒ひやざけおほきなこつぷ甘味うまさうにかたむけはじめました。一ぱいぱいまた一ぱい
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
どこかやんばらなようなところのある内儀さんは、継子ままこがいなくなってからは、時々劇しくお爺さんに喰ってかかった。喧嘩けんかをすると、じきに菰冠こもかぶりの呑み口を抜いて、コップで冷酒ひやざけをもあおった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
蘿月らげつ稽古けいこのすむまで縁近えんぢかくに坐つて、扇子せんすをぱちくりさせながら、まだ冷酒ひやざけのすつかりめきらぬところから、時々は我知われしらず口の中で稽古けいこの男と一しよにうたつたが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
どれも皆——ろくなものではありませんが、私のかいたのが入っていたのを、後姿と一所に、半ば起きに、そっと見た時、なぜか、冷酒ひやざけが氷になって、目から、しかも
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冷酒ひやざけの勢いに乗じて別荘に押しかけた時分には、若旦那夫婦と女中二人を乗せたモーターボートが、大凪おおなぎの沖合はるかに、音も聞こえない処にすべっていたのであった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
男にう前は、かならずこうした玄人くろうとっぽい地味なつくりかたをして、鏡の前で、冷酒ひやざけを五しゃくほどきゅうとあおる。そのあとは歯みがきで歯をみがき、酒臭い息を殺しておく事もぬかりはない。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
血の匂いをいだ後の酒は、一種の湿気しっけばらい、自分も冷酒ひやざけさかずきを取って
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地主は煙管きせるを炬燵板の間に差込み、冷酒ひやざけめ舐め隠居の顔を眺めて
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たゞ無々ない/\とばかり云ひをつておのれ今にあやまるか辛目からきめ見せて呉んと云ながら一升ます波々なみ/\と一ぱいつぎ酒代さかだい幾干いくらでも勘定するぞよく見てをれと冷酒ひやざけますすみより一いきにのみほしもうぱいといひつゝ又々呑口のみくち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
確か三人づれで、若いしゅが見えました。やっぱり酒を御持参で。大分お支度があったと見えて、するめの足をかじりながら、冷酒ひやざけを茶碗であおるようなんじゃありません。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湯呑茶碗を一つずつ持って、人々は、歯にむような冷酒ひやざけに喉を鳴らした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
休茶屋やすみぢやゝ女房にようぼふちの厚い底のあがつたコツプについで出す冷酒ひやざけを、蘿月らげつはぐいと飲干のみほしてのまゝ竹屋たけや渡船わたしぶねに乗つた。丁度ちやうどかは中程なかほどへ来たころから舟のゆれるにつれて冷酒ひやざけがおひ/\にきいて来る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
冷酒れいしゆ茘枝れいし間違まちがへたんですが……そんならはじめから冷酒ひやざけなら冷酒ひやざけつてくれればいのにと家内中うちぢうものみなつてる。またその女中ぢよちうが「けいらん五、」と或時あるときつた。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
休茶屋の女房にょうぼふちの厚い底の上ったコップについで出す冷酒ひやざけを、蘿月はぐいと飲干のみほしてそのまま竹屋たけや渡船わたしぶねに乗った。丁度河の中ほどへ来た頃から舟のゆれるにつれて冷酒がおいおいにきいて来る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
次郎左衛門が、それへ冷酒ひやざけ朱杯さかずきを運んできたので
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つたとふ——眞個ほんたうらん、いや、うそでない。これわたしうちて(久保勘くぼかん)とめた印半纏しるしばんてんで、脚絆きやはんかたあしをげながら、冷酒ひやざけのいきづきで御當人ごたうにん直話ぢきわなのである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どうだね、殊に親も兄弟も叔父叔母もない。ただ手足と、顔と、綾羅錦繍りょうらきんしゅうと、三味線と冷酒ひやざけと踊とのみあって存する、あわれな孤児みなしごをどうするんです、ねえ君、そこは男子おとこの意地だ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……肉は取って、村一同冷酒ひやざけを飲んでくらえば、一天たちまち墨を流して、三日の雨が降灌ふりそそぐ。田もはた蘇生よみがえるとあるわい。昔から一度もそのしるしのない事はない。お百合、それだけの事じゃ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実家さとの父が酒飲みですから、ほどのいいかんがついているのに、暑さに咽喉のどの乾いた処、息つぎとはいっても、生意気な、冷酒ひやざけを茶碗であおって、たちまちふらふらものになって、あてられ気味
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「生意気な事を言やがる。」お婆さんの御新姐ごしんぞが持って来た冷酒ひやざけ
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冷酒ひやざけことですよ。」
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)