あたい)” の例文
幸三こうぞうは、自分じぶんはたらいたことが、これほどの報酬ほうしゅうあたいするとはおもわれなかったので、すまぬがしてることをためらっていますと
新しい町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
(女子に向かい)明日の贈物かずけものの貴女のお顔を皆の者にお見せ下されて、贈物がどのように美しく気高くあたいあるかをお知らせなされませ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
友人はこれを聞き、カッとしてわが胸中にきいずる同情の海に比ぶれば二千、三千の金はその一てきにだもあたいせずと絶叫ぜっきょうしたと聞いた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今日における我々日本の青年の思索しさく的生活の半面——閑却かんきゃくされている半面を比較的明瞭めいりょうに指摘した点において、注意にあたいするものであった。
いや、公平な判定さ。個人としては誠実で申分ありませんが、一般とすると未だ封建思想が抜け切っていませんから、むし憐憫れんびんあたいしますよ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかもそれが妻を売るあたいだという。もってのほかと言うべきところへ、あまつさえそのお艶もすでに家を出ているではないか。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けれどもそれはまったく、作者に未知みちえざる驚異きょういあたいする世界自身じしん発展はってんであって、けっして畸形きけいねあげられた煤色すすいろのユートピアではない。
それはこんなさびしい田舎暮いなかぐらしのような高価な犠牲ぎせいはらうだけのあたいは十分にあると言っていいほどな、人知れぬ悦楽えつらくのように思われてくるのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
瀕死ひんしのハルクは、ただ一人、とうとうこの倉庫のおくに、とじこめられてしまった。まったく同情にあたいすることだった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ほ。この忠顕ただあきの世話を、お辺は、さまで心にめいじていてくれたか。いや珍重ちんちょうあたいする。近ごろは信義もすたれ、軽佻けいちょうな奴らばかりが多い中でよ」
特に結句の、「月照りにけり」は、ただ一つ万葉にあって、それが家持の句だということもまた注目にあたいするのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
あなたが、憎むにもあたいしない、哀れまれるべきなだけの男だとわかったのです。私は、二度とあなたという存在に、わずらわされることもないでしょう。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
彼の超然とした態度はたとい外観だけにもせよ、敬服にあたいすべきだと私は考えました。彼と私を頭の中で並べてみると、彼の方がはるかに立派に見えました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここに二十余年を送りきたった重太郎自身に取っては、人間の身分や階級などは、何のあたいも無いものであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ゆるしたまえ妾をお忘れ下されたし君にはあたいなき妾に御心ひろくもたれよ再び妾を見んことを求めたまいそ
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
江戸演劇は既に通俗なる平民芸術にはあらで貴重なる骨董こっとうとなりし事あたかも丹絵売たんえうりが一枚幾文いくもんにて街頭にひさぎたる浮世絵の今や数百金にあたいすると異なる事なし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
コスのアスクレーピオス医聖のびょうに掲ぐるための作で、百タレンツ今の約二十万円をあたいした。アペルレースの人となり至って温良故、アレキサンダー王の殊寵を得た。
実に旧約聖書はその歴史部を終えて教訓部に入るや、劈頭第一に異邦の地名を掲げ、異邦人ヨブの実験を語らんとするのである。これ真に今人こんじんの驚異にあたいすることである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
いずれにしてもこの方は前述の百分の二粍などというあたいよりも、ずっと大きくなりそうである。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
きもは皮ハギのそれに似てそれよりもおいしく、腹の卵粒も珍賞にあたいしたのであった。
淡紫裳 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
なお子細しさいに注意すると、花の形でもがくでも、注意にあたいせぬものはほとんどない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「奥羽行脚」から引続いて、幻住庵時代の芭蕉は最も研究にあたいするものがある。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
さはれ左千夫の実験談は参考の材料として聞き置くべきあたいあり。(四月十四日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ボートルレ君の話は十分聞くだけのあたいがあります。ボートルレ君の鋭い頭を持っていることはなかなかの評判で、英国の名探偵エルロック・ショルムス氏の対手あいてとさえいわれているのですよ。
「やはり、うなどんぐらいの壮行会にはあたいするかね。はっはっはっ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「市場では錦葵きんきあたいがひどくやすい、これこそめっけものだよ」
酒友 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これに反し、張りきっておって、二十貫目かんめの力を二十貫目始終しじゅう手先きや足先きに現す者は感心はするけれども、吾人ごじんの深い尊敬にあたいしない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それこそ伊那丸いなまるさまへたいしてぬぐわれざる不忠不義ふちゅうふぎ! 腹を切っておわびしても、その大罪だいざいをつぐなうにはあたいしない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この戦慄せんりつあたいする報告書を前に、司令部の幕僚は、流石さすがに黙して、何も語らなかった。果して彼等の胸中には、勝算ある作戦計画が秘められているのであろうか。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
君のような敏感者から見たら、僕ごとき鈍物どんぶつは、あらゆる点で軽蔑けいべつあたいしているかも知れない。僕もそれは承知している、軽蔑されても仕方がないと思っている。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あ、それは、それは、じゃ、先日せんじつあたいってくださるか。」と、金持かねもちは、大喜おおよろこびでした。そして、おとこした仏像ぶつぞうしいただいて、眼鏡めがねをかけてじっとましたが
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
日々死に面する如き迫害にありて生命と勇気に充溢じゅういつしているその心理状態は、実に驚異にあたいするものではないか。これをヨブの哀哭と比して霄壌しょうじょうの差ありというべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「文学士田中謙一郎君慰労会」といったように覚えている。それくらい学問は苦しいものと思われていた。謙一郎君は町会の慰労にあたいするほど勉強した所為せいか、間もなく肺病でたおれてしまった。
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
植物でも自家受精、すなわち自家結婚だと自然種子が弱いので、そこで他家受精すなわち他家結婚して強壮きょうそうな種子を作ろうというのだ。植物でこんな工夫くふうをしているのはまことに感嘆かんたんあたいする。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
山門に限らず仏語ぶつごには漢音の用語多し。さてこの句のあたいを論ぜんに、もとより余韻ある句にあらねど一句のしまりてたるみなき処名人めいじんの作たるに相違なく、た冬至の句としては上乗の部に入るべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
驚異にはあたいしていたが、不思議と恐怖には値していなかった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頼春は、あたいをきいて、ひさの手にぜにをわたし、早々そうそうに追い立てたが、女はぬかずいたまま、縁の上の尊氏の姿へ
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は従来地方に行き、よく教師の悪口を忌憚きたんなくいた。また教師の中には悪口にあたいするものも数多あまたある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼は今更ながら彼の級友が、彼の侮蔑ぶべつあたいする以上のある動機から、貴重な時間を惜しまずに、相国寺へ行ったのではなかろうかと考え出して、自分の軽薄を深く恥じた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ああ、金博士は、驚異きょういあたいする人物だ。一体あの人は、中国人かね、それとも日本人かね」
さだめし高価こうかのものであろうとおもいながらいてみますと、はたして相当そうとうあたいでした。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この両節の如きは、古代博物学の資料としてあたいあるものである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
……そのような下郎の暴言、いや一徹など、ご失笑にもあたいせぬかとぞんじますが、しかしいつかしんをなしてくる一般の誤解ほど恐ろしきはございませぬ。
汽車中では報知にあたいするような事が別に起りませんでした。先方へ着いても、風呂へ入ったり、飯を食ったり、茶を飲んだりする間は、これといって目に着く点もなかったのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしがそのやまへ、ともだちにもけずに、らんをさがしにいったのは、すぐのちのことです。じつをいえば、矛盾むじゅんじますが、はなにあこがれるよりは、一万円まんえんあたいするらんをさがすためだったのです。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからのちの、アンの働きぶりは、驚嘆きょうたんあたいするものがあった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのあたいとして、彼は、御所の一財務官に過ぎない勤めと、十年一日のような平々凡々を、ひとり愛していた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、あの仏像ぶつぞうがいいものであって、あたいたかれたら、どんなにしあわせだろう。おれは、たくさんの田地でんちうし、また、諸国しょこく見物けんぶつにもかけるし、りっぱな着物きものつくることができるだろう。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そうしてそれが君の軽蔑けいべつあたいする所以ゆえんなんだ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
げて、自分一存の計らいを取りおきましたことは罪万死にあたいいたしまする。法はみだすべからずです。今日参上いたしましたのも、まったくは唯、そのご処分を
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)