きび)” の例文
ひえとかきびとかいうものはこの辺ではほとんど作らない、赤豌豆あかえんどうは昔は盛んに作ったものだが害虫がおびただしく発生するというので
その中に胡麻ごまきびあわや竹やいろいろあったが、豆はどうであったか、もう一度よく読み直してみなければ見落したかもしれない。
ピタゴラスと豆 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今一つ出雲に行わるる譚とてきびの色赤き訳を説きたるは、天保元年喜多村信節きたむらのぶよ撰『嬉遊笑覧』九に載せた瓜姫うりひめはなしの異態と見える。
畑にはもう刈残された玉蜀黍とうもろこしきびに、ざわざわした秋風が渡って、さえずりかわしてゆく渡鳥の群が、晴きった空を遠く飛んで行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
高冷地だから米は作れないが、土を運びこむことができれば、あわ、もろこし、蕎麦そばきびなどは作れる、麦も作れるかもしれない。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
曠野こうやきびの中から、夕立雲のように湧いて出た関羽、張飛の両軍が、敵の主勢力を、完全にふくろづつみにして、みなごろしにかかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斗満で食った土のものゝ内、甘藍、枝豆えだまめ玉蜀黍とうもろこし、馬鈴薯、南瓜とうなす蕎麦そば大根だいこきびもち、何れも中々味が好い。唯真桑瓜まくわうりは甘味が足らぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
尤も前にも云つたやうに、「負郭ふくわくの田三百畝、半はきびう」と云ふので、いんの為に家産がわづらはされるやうなおそれは、万々ない。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こま/\した幾つかの小さな畑に区劃くくわくされ、豆やら大根やらきびやらうりやら——様々なものがごつちやに、ふうざまもなく無闇むやみに仕付けられた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
二年ばかり前まできびの葉の流れていた下田端へでたが、泥濘ぬかった水溜りに敷き込んだ炭俵すみだわらの上を踏むと、ずぶりと足の甲へまで泥水が浸った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いつもは歩けないきびの畑の中でも、すすきで一杯だった野原の上でも、すきな方へどこまででも行けるのです。平らなことはまるで一枚の板です。
雪渡り (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
お作はその音を聞くと何んだか体がすっきりしたように思って、傍の笊にあったきびの餅を二つばかり持って出て往った。
妖怪記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
○背の高いきび。陸稲、いも、甘藷だが灰色がかって白いまずそうなの、ナス、大根、ギョク(トーモロコシの一種)、軒下に下ってる玉もろこし。
川のむこうにはきびの畑が広くつづいて、その畑と岸とのあいだの広い往来を大津牛が柴車をひいてのろのろと通った。時どきにもずも啼いて通った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのわきには焦茶こげちゃ色のあわ畑とみずみずしいきび畑がみえ、湖辺の稲田は煙るように光り、北の岡の雑木の緑に朱を織りまぜたうるしまでが手にとるようにみえる。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
お幸は思はず独言ひとりごとをしました。其処には轡虫くつわむしが沢山いて居ました。前側は黒く続いた中村家の納屋で、あの向うが屋根より高く穂を上げたきびはたになつて居ます。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
朝の風が、きび畑をひたす出水のうえを渡り、湿原で鳴く、印度さいの声を手近のように送ってきます。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
セーゴのはセーゴ大匙二杯を水へつけて牛乳一合砂糖二杯で煮て白身を二つ今のようにいれます。そのほか米の粉でもきびの粉でもタピオカでもアラローツでも何でも出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
秋日和の三時ごろ、人の影より、きびの影、一つ赤蜻蛉あかとんぼの飛ぶ向うのあぜを、威勢のい声。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此際は蕨のみならず、よもぎも多く採りたり。其時すぐに用うる時は、きびと共に蓬を以て草餅としてしょくする時は、めずらしあじわいあるをいずれも喜んで喰するによりて、大に経済上に於て益あり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
下野しもつけ小中こなかという村では、きびを栽培することをいましめておりますが、これも鎮守の人丸ひとまる大明神が、まだ人間であった時に、戦をして傷を負い、逃げて来てこの村の黍畠の中に隠れ
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
山鳩やまばとには麻の実があり、ひわにはきびがあり、金雀かなりやには蘩蔞はこべがあり、駒鳥こまどりには虫があり、はちには花があり、はえには滴虫があり、蝋嘴しめには蠅があった。彼らは互いに多少相み合っていた。
こう口では云いながら、ひえだのあわだのきびだのを、東巖子は平気で食うのであった。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老人は黙って一仕事してから道に出て来、子路を伴って己が家に導いた。既に日が暮れかかっていたのである。老人は雞をつぶしきびかしいで、もてなし、二人の子にも子路を引合せた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
キューバでは、猫が砂糖きびの畑をさまよい歩くことを防ぐ為に、耳を切断する。熱帯地方で突然降る雨は、それが耳に入れば入る程、猫を煩わすが、猫は特に水が耳に入ることを嫌う。
松、杉、ひのきかし、檞、柳、けやき、桜、桃、梨、だいだいにれ躑躅つつじ蜜柑みかんというようなものは皆同一種類で、米、麦、豆、あわひえきび蕎麦そば玉蜀黍とうもろこしというような物もまた同じ種類であります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
浮かぶや否や、帳面の第三頁へ熊岳城ゆうがくじょうにてと前書まえがきをして、きびとお河原かわら風呂ふろわたひとしたためて、ほっと一息吐いた。そうして御神さんの御礼も何も受ける暇のないほど急いでトロに乗った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茎の青い在来種より、茎の紫色をした台湾きびのほうが水気も多く甘かった。
甘い野辺 (新字新仮名) / 浜本浩(著)
路がようやなるくなると、対岸は馬鹿〻〻しく高い巌壁がんぺきになっているその下を川が流れて、こちらは山が自然に開けて、少しばかり山畠やまばたけが段〻を成して見え、あわきびが穂を垂れているかとおもえば
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして、四五年の後から年賦で返済する条件で、少しばかりの米と味噌と塩とが地主から貸し付けられるだけで、その他の物はすべて自給自足だった。彼等は最初に蕎麦そばきびなどを作った。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
稻荷いなりさまは五穀ごこくかみまつつたものですとか。五穀ごこくとはなんなんでせう。こめに、むぎに、あはに、きびに、それからまめです。あは粟餅あはもちあはきびはお前達まへたちのお馴染なじみ桃太郎もゝたらうこしにさげて黍團子きびだんごきびです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
寂しさやきびは黍としさらさらと葉ずれのひびき立てにけり夏
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さくのそばのきびの葉つぱに
晩夏 (新字旧仮名) / 木下夕爾(著)
はたはたときびの葉鳴れる
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
また「麦秋」という訳名であるが、旱魃で水をほしがっているあの画面の植物は自分にはどうもきび唐黍とうきびかとしか思われなかった。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その間、日吉は無聊ぶりょうな顔して、ふところからきびくきみたいな物を出してはポリポリかじっていた。その茎の汁は青臭いなかに甘い味があった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
樺林かばばやしひらいて、また一軒、熊笹と玉蜀黍とうもろこしからいた小舎こやがある。あたりにはかばったり焼いたりして、きびなど作ってある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
白骨の温泉では、いたずら者の北原賢次が、例の炉辺閑談ろへんかんだんの間で、炉中に木の根を焚いてきびを煮ながら、一方ではしきりに小鳥いじりをしている。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
野にはもう北国の荒い野分のわきが吹きはじまって、きびの道つづきや、里芋の畑の間を人足どもの慌しい歩調がつづいた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
文鳥は気でも違ったように、小さいつばさをばたばたやる。その拍子ひょうしにまた餌壺えつぼきびも、鳥籠の外に散乱する。が、男は面白そうに、ただ敏子を眺めていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一方には大豆、きびなどが収穫されつつあった。畑の中に長々と両足を投げ出して一休みしている人々もあった。太い煙管きせるですぱすぱけむりをふいている人などもあった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
とおくれ毛を風に吹かせて、女房も悚然ぞっとする。やっこの顔色、赤蜻蛉あかとんぼきびの穂も夕づく日。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まわりの手入れの行届いた畑には、薯、菜、大根、きび、陸稲なんかが育ってる。
飛行機の下の村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こんな面白おもしろい日が、またとあるでしょうか。いつもは歩けないきびの畑の中でも、すすきで一杯いっぱいだった野原の上でも、すきな方へどこまででも行けるのです。平らなことはまるで一枚の板です。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこで車は錦葵の種を売って十倍の利益を得、金もだんだんにできて、肥えた田を二百畝も作るようになった。それから多く麦をえると麦が多くれ、多くきびを植えると黍が多く穫れた。
酒友 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
きび 一三・六〇 一〇・三七 三・六〇 六九・七二 〇・九一 一・八〇
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
木賃宿のようなきたない旅籠屋はたごやや茅葺き屋根の下に小さい床几を出している氷屋などがならんでいる、さびしい停車場前を横に切れて、きび畑のつづいている長い田圃たんぼみちを駈けぬけて行きました。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
朝鮮きびだ。唐黍だ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
道ばたにはところどころに赤く立ち枯れになったきびの畑が、暗い森を背景にして、さまざまの手ごろな小品を見せていた。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
粟が……ひえが……きびが……挽いた蕎麦粉そばこが……饂飩粉うどんこが……まだ大分あるが、まあざっと一年の仕事が斯様こんなもんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)