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香
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にお
ふりがな文庫
“
香
(
にお
)” の例文
さて妻が子に食を与え隣家へ
舂
(
うす
)
つきに往くとて、子を伴れ行くを忘れた。子の口が
酥酪
(
そらく
)
で
香
(
にお
)
うを
嗅
(
か
)
ぎ付けて、毒蛇来り殺しに掛かる。
十二支考:09 犬に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
『女だってそのくらいな楽しみがなけりゃ仕様がない』そう云って、
舶来
(
はくらい
)
のいい
香
(
にお
)
いのする煙草を買って来ては彼女に吸わせました。
途上
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
花柳界の女性に食傷している彼は、こうしてすれすれに坐っていると、京子の処女らしい
香
(
にお
)
いと魅力とで、なやましくなってしまう。
第二の接吻
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
……私は念のために立ち上って、入口の
扉
(
ドア
)
の横から自分の角帽を取って来て、その内側の
香
(
にお
)
いと、絵巻物の香気とを嗅ぎ較べて見た。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「見て下さい、これ今お友達から送って下すったの。余りいい
香
(
にお
)
いで嬉しくなったから一寸あなたにも香わせて上げようと思って」
沈丁花
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
▼ もっと見る
それで、
俺
(
わし
)
は
考
(
かんが
)
えたすえに、いい
香
(
にお
)
いを
与
(
あた
)
えたのだ。それからは、みんなの
目
(
め
)
にとまるようになった。
人間
(
にんげん
)
はおまえさんたちを
愛
(
あい
)
した。
すみれとうぐいすの話
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
長さも
左
(
さ
)
のみならざる
棟
(
むね
)
に、一重の梅や八重桜、桃はまだしも、菊の花、
薄荷
(
はっか
)
の花の
眼
(
め
)
も及ばぬまで
濃
(
こまか
)
きを浮き彫にして
香
(
にお
)
う
計
(
ばか
)
り
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
そして女世帯らしい細やかさと
香
(
にお
)
いとが、家じゅうに満ちていて、どこからどこまで乱雑で薄汚ない彼の家とは
雲泥
(
うんでい
)
の
相違
(
そうい
)
だった。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
原始林の
香
(
にお
)
いがプンプンする、真夜中の火山口から永遠の氷霧にまき込まれて、アビズマルな心象がしきりに諸々の星座を物色している。
惰眠洞妄語
(新字新仮名)
/
辻潤
(著)
この橋の両側だけに人間の
香
(
にお
)
いがするが、そこから六百山の麓に沿うて二十余町の道の両側にはさまざまな喬木が林立している
雨の上高地
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
いったい日本人は花の
香
(
にお
)
いに
冷淡
(
れいたん
)
で、あまり興味を
惹
(
ひ
)
かないようだが、西洋人と中国人とはこれに反して非常に
花香
(
かこう
)
を
尊重
(
そんちょう
)
する。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
振
(
ふ
)
り
顧
(
かえ
)
ってみて、何か、
薫
(
かお
)
り
木
(
ぎ
)
のような
香
(
にお
)
わしさが、その老梅のものではなく、自分のうしろに立っている
巫女
(
みこ
)
の
直美
(
なおみ
)
であることを知った。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そこから発散する油の
香
(
にお
)
いも私には楽しかった。次郎は私のそばにいて、しばらくほかの事を忘れたように、じっと自分の
画
(
え
)
に見入っていた。
分配
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
この、表面白っぽく間の抜けた底に、どこか田舎者めいた強情な狡猾さがぷうんと
香
(
にお
)
って、決してこれだけが全部でないことを
暗示
(
ヒント
)
していた。
踊る地平線:08 しっぷ・あほうい!
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
中には、まだほんのり娘のほとぼりが残って、若い女だけが持つ、不思議な分泌物の
香
(
にお
)
いが、八五郎をくらくらさせます。
銭形平次捕物控:015 怪伝白い鼠
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
と声を呑んだのでありましたが、今、さきに行くお豊の馬上の姿を見ると、そこに
縹渺
(
ひょうびょう
)
として、また人の
香
(
にお
)
いのときめくを感ずるのであります。
大菩薩峠:04 三輪の神杉の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それを
二個
(
ふたつ
)
ばかり買って帰って参りまして何心なく現任大臣に見せますと、
此品
(
これ
)
は
香
(
にお
)
いもよし、非常に立派だから私にこれを分けてくれまいか。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
彼の眼は、ピカピカ光るメスを手にした鴨下ドクトルを見つけた。「何事?」と詰問しようと思ったとき、彼の鼻孔には麻酔薬の高い匂いが
香
(
にお
)
った。
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「追って僕が誠意を
披瀝
(
ひれき
)
するから、少しは
香
(
にお
)
わせてもいゝよ。僕だけの考えとしてね。親父には差当り絶対秘密だ」
田園情調あり
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
箱屋が来て、薄べりに、紅裏
香
(
にお
)
う、衣紋を揃えて、長襦袢で立った、お千世のうしろへ、と構えた時が、
摺半鐘
(
すりばん
)
で。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
村田——有名な化粧品問屋——の裏を歩くと、
鬢附
(
びんつ
)
け油を
練
(
ね
)
る
香
(
にお
)
いで臭く、そこにいる
蝸牛
(
まいまいつぶろ
)
もくさいと言った。
旧聞日本橋:02 町の構成
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
人間が長きにわたって思いをこめた風景には
香
(
にお
)
いがあるのだろう。塔と伽藍からたち昇る千二百年の幽気が、この辺りのすべてに漂っているように思えた。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
麻は何百年もヨオロツパ中で栽培された。麻は一年生の、丈夫な、嫌な
香
(
にお
)
ひのする、緑色の陰気な小さな花を
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
貨車が
轟々
(
ごうごう
)
と音をたててわたしを通りすぎ、わたしがロング・ウォーフからレーク・チャムプレーまでの道のりにわたってその
香
(
にお
)
いをまきちらす貨物を嗅ぐとき
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
畳を
蹴
(
け
)
って突っ立った神保造酒、
流石
(
さすが
)
は剣士、何時の間にか大刀を右手に部屋を走り出る、とプウーン! と鼻をつく線香のにおいが、どこからか
香
(
にお
)
って来ている。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
ヨーロッパ中で最も有力な智能の一つをかくしていることを
香
(
にお
)
わすような何ものもなかったのだ。
青玉の十字架
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
要するに、にんじんの好みは
一風
(
いっぷう
)
変わっている。しかも、彼自身、
麝香
(
じゃこう
)
の
香
(
にお
)
いはしないのである。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
そのむかしは御用木として
日本堤
(
にほんづつみ
)
に多く
栽
(
う
)
えられて、
山谷
(
さんや
)
がよいの若い男を
忌
(
いや
)
がらせたという
漆
(
うるし
)
の木の
香
(
にお
)
いがここにも微かに残って、そこらには漆のまばらな森があった。
箕輪心中
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
汚れたパフのついた和製のコンパクトが一つ、
香
(
にお
)
いは中々いい。練紅、櫛、散薬のようなもの。
泣虫小僧
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
橄欖
(
かんらん
)
という
果
(
こ
)
の実、木の皮をしぼって作ったという、
香
(
にお
)
いのよい、味のいい、すばらしい油——富みたるものは、それを
皮膚
(
はだ
)
のくすりとして塗りもすれば、料理にも使って
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
そしてその娘の
香
(
にお
)
いがまだ残っていた美しい自動車に乗ってきたのだと愉快そうに言った。
ルウベンスの偽画
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
一軒のお長屋の土塀を越して、
白木蓮
(
しろもくれん
)
の花が空に向かって、
馨
(
かん
)
ばしい
香
(
にお
)
いを吐いている。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
その上の麓の
彩雲閣
(
さいうんかく
)
(名鉄経営)の
楼上
(
ろうじょう
)
で、隆太郎のいわゆる「
香
(
にお
)
いのする
魚
(
うお
)
」を冷たいビールの乾杯で、初めて
爽快
(
そうかい
)
に風味して、ややしばらく
飽満
(
ほうまん
)
した、その
後
(
ご
)
のことであった。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
代々木の停留場に上る階段のところで、それでも追い越して、
衣
(
きぬ
)
ずれの音、
白粉
(
おしろい
)
の
香
(
にお
)
いに胸を
躍
(
おど
)
らしたが、今度は振り返りもせず、大足に、しかも駆けるようにして、階段を上った。
少女病
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
しかつめらしく恋の密輸入物をトランクにしまうと一寝入りするつもりで車窓からボスニヤ平原に咲く
砂糖黍
(
さとうきび
)
の花の
香
(
にお
)
いを嗅いでいるうちに、すっかり追想的になってしまったのだ。
孟買挿話
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
凄じい誰かの咳、猛烈な
紙埃
(
かみぼこり
)
、白粉の鬱陶しい
香
(
にお
)
いと捌口のない炭酸
瓦斯
(
ガス
)
の
匍匐
(
ほふく
)
罠を跳び越える女
(新字新仮名)
/
矢田津世子
(著)
さて、父にせかれて仕立下ろしのフランネルの衣物に着換えた私は、これも今日はじめて見る
香
(
にお
)
い高い新しい麦わら帽子をかぶって、赤色のネクタイを結んだ父と連れだって家を出た。
父を失う話
(新字新仮名)
/
渡辺温
(著)
二つの眼を四つに映し、顔の代りに煎餅みたいなものを見せてくれる鏡、それから最後に、聖像の後ろへ束にして差しこんである
香
(
にお
)
い草と
撫子
(
なでしこ
)
だが、こいつはすっかり
干乾
(
ひから
)
びているので
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
野良犬
(
のらいぬ
)
や拾い屋(バタ屋)が
芥箱
(
ごみばこ
)
をあさっているほかに人通りもなく、静まりかえった中にただ魚の
生臭
(
なまぐさ
)
い
臭気
(
しゅうき
)
が
漂
(
ただよ
)
うている黒門市場の中を通り、路地へはいるとプンプン良い
香
(
にお
)
いがした。
夫婦善哉
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
東京に
居
(
お
)
った時でも蕎麦屋の前を通って薬味の
香
(
にお
)
いをかぐと、どうしても
暖簾
(
のれん
)
がくぐりたくなった。今日までは数学と骨董で蕎麦を忘れていたが、こうして看板を見ると素通りが出来なくなる。
坊っちゃん
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
所々
(
ところどころ
)
に
美
(
うつく
)
しい
色彩
(
いろどり
)
の
貝殻
(
かいがら
)
や
香
(
にお
)
いの
強
(
つよ
)
い
海藻
(
かいそう
)
やらが
散
(
ちら
)
ばっているのです。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
方々でいろいろな音楽も
奏
(
そう
)
されました。晴れた空には月が澄みきっていました。
燈火
(
あかり
)
は一切ともすことが許されませんでした。お城全体が、月の光りと音楽と踊りといい
香
(
にお
)
いとで
湧
(
わ
)
き返るようでした。
お月様の唄
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
良人
(
おっと
)
沼南と同伴でない時はイツデモ
小間使
(
こまづかい
)
をお
伴
(
とも
)
につれていたが、その頃流行した
前髪
(
まえがみ
)
を切って
前額
(
ひたい
)
に
垂
(
た
)
らした
束髪
(
そくはつ
)
で、
嬌態
(
しな
)
を作って桃色の小さいハンケチを
揮
(
ふ
)
り揮り香水の
香
(
にお
)
いを
四辺
(
あたり
)
に
薫
(
くん
)
じていた。
三十年前の島田沼南
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
突然、なまめかしい
脂粉
(
しふん
)
の
香
(
にお
)
いが玄石の鼻をうった。
二人の盲人
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
物の枯れてゆく
香
(
にお
)
いが空気の底に
澱
(
よど
)
んで、立木の高みまではい上がっている「つたうるし」の紅葉が黒々と見えるほどに光が薄れていた。
親子
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
「ここから、あちらに
見
(
み
)
える
丘
(
おか
)
を
越
(
こ
)
してゆくと、いま、りんごの
花盛
(
はなざか
)
りです。それは、いい
香
(
にお
)
いがしています。」といいました。
北海の波にさらわれた蛾
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
では、ふくよかな女らしさに欠けているかというと、包まれている中に、
薄月夜
(
うすづきよ
)
の野の花みたいに
香
(
にお
)
うものがある。ほんのりと、楚々とある。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
けれども、無茶先生や豚吉やヒョロ子は鼻の穴に綿をつめておりますから、香水の
香
(
にお
)
いもわからなければ
嚔
(
くしゃみ
)
も出しません。
豚吉とヒョロ子
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
三鳥山人
(著)
下りてみると、
日向
(
ひなた
)
の自動車のなかで運転手がぐっすり居眠りしていた。とうとうこっそり
呑
(
や
)
ったとみえて、車内にぷうんと
香
(
にお
)
いが漂っている。
踊る地平線:04 虹を渡る日
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
バナナを食うときはだれでもまずその
外皮
(
がいひ
)
を
剥
(
は
)
ぎ取り、その内部の肉、それはクリーム色をした
香
(
にお
)
いのよい肉、を
食
(
しょく
)
する。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
“香”の解説
香(こう、en: incense)とは、本来、伽羅、沈香、白檀などの天然香木の香りをさす。そこから線香、焼香、抹香、塗香等の香り、またこれらの総称として用いられる。お香、御香ともいう。
(出典:Wikipedia)
香
常用漢字
小4
部首:⾹
9画
“香”を含む語句
香花
香物
名香
香気
薫香
香油
香料
麝香
芳香
香水
茴香
鬱金香
香炉
沈香
涙香
香煎
香箱
香染
香具
香山
...